13 美しさっていう罪?
(前回のあらすじ)
男児3名は無事保護者の元へ帰還した。
人狼部隊の衣装について、露出が多いと物議を醸した。
人狼部隊をあたかも露出狂のように揶揄してその名誉を棄損したアルバン氏の業について、民事不介入なのでアリーシア(ガイドライン)は動かず。
フロアボスはアルバンを赦したと見せかけて、ケルベロスの研修をさせる事にした。
アルバンを意地でもぼっこぼこにしたいケルベロスはノリノリである。
3人が小さな手をつないだ瞬間、フォンテさんよりちょっと大きいぐらいの3つの頭を持つ巨犬が現れた。
「ゆけっ!」
フォンテさんの掛け声で、ケルベロスのそれぞれの頭が口から火を噴いた。
「えっ、私にもくるじゃないですか…」
「まさかバカ正直に受けるおつもりで?」
アルバンの言葉に、フォンテさんは何も言わず私の様子を楽しそうに伺っている。あっ、消して良い感じなのかな?
私は3つの火球に対し、扇を煽いだ。もちろん消える。
「おお~!」
フォンテさんの後ろの人狼の方々が感心したように声を上げる。
魔法攻撃の対策は、剣なんかで魔力の流れを断ち切るか、魔法耐性のエンチャントを付与した盾などの防具で防ぐかの2つの方法が主流なんだけど、実は発動条件に矛盾を生じさせるという方法もある。というか、慣れさえすれば最後の方法は1番応用が効くので適した方法だ。
魔生物の火球は、ブレスを断ち切る事によって生み出される。つまり大元は一緒だ。
ポットを傾けてお茶を注ぐ事とポットを水平に持ってお茶をポット内に留める事の2つの行動によってお茶を複数のカップに注ぐのと一緒。お茶はポッドの注ぎ口から出ると重力に従って漏れ出る。意図した方向に連続してお茶が出る事が前提だからこそアルバンは私にお茶をサーブする時にこぼさないわけである。
では、もし何らかの要因でお茶が意図した方向に連続して出なかったら?アルバンは上手くお茶を注げないかもしれない(アルバンの場合、うまく誤魔化しそうだけど)。
魔法攻撃の発動条件の一つに使い手のイメージがある。程度以外は使い手の意図と異なる魔法が出る事は(誰かに操られているとかよほどの特殊条件下でない限り)あり得ないのだ。だからお茶が意図した方向に出ないという現象(矛盾)が起こるだけで、魔法の場合はそれそのものが無かった事になる。
この場合では、火球が扇の風に煽られるという条件がそこに加わるだけで簡単に魔法は無効化されたというわけだ。
全ての返しを考慮して対策の条件分岐も考えた魔法攻撃を行う知能も余地も魔生物には無い。また、考え付いたとしても使える魔法が火属性に特化したケルベロスに風属性の対策なんてほぼ不可能に近い。
まずいと思ったのか、3つの頭はそれぞれバラバラに火球を乱射した。これによってせめて1発でも当てようという作戦に出たようだ。
でもハイブランドの扇は上下に振る往復のどちらでもしっかり風が起こるよう骨までが細かく造りこまれていて、さらに飾り羽もふわふわと流れて、めちゃくちゃに煽がずともいつぞやかに生み出された風を受けて時間差で消えていく。貴族すごい。
「すげぇっ!涼しい顔して優雅に扇子煽ぐだけとか、戦いの場とは思えねぇっス!」
真ん中だからルベ君だと思うんだけど、対策を考えたのか、次に攻撃をブレスに切り替えた。
これは扇だけじゃ無理だね。
スッとアルバンが私の前に出た。
「3バカまとめてどうぞ。」
煽らないの。
「出たなっ、悪者めっ!」
ダンジョンって名目上はキャストが悪役なんだろうけど…この場合は絶対にアルバンが悪役だ。
アルバンは悪役のラスボスを彷彿とさせるような笑顔を浮かべた。そこに容赦なく炎のブレスが3方向からなだれこむ。
炎がアルバンを包む。でも彼は涼しい顔のままだ。その上、私にブレスが流れないよう、上手い具合に後光(?)のように炎をまとっている。
私の傍だけ直線的に炎が切れてるけど、アングルを替えればきっと良い感じだろう。
「フォンテ、もうちょっと火力上げさせてください。この私の美しさを際立たせるような!」
「ケルベロス!後半部は気にせず、最大火力でいけ。今まででの訓練でも出した事がないぐらいの、とびっきりのやつで構わん!」
とうとうフォンテさんでさえアルバンのナルシズムをスルーした…。そうじゃなきゃ、やっていけないんだろう。
「どうなってるんスか、あれ…」
「これがケルベロスの奥義・『地獄の業火』…やべぇな。」
「何だよ、あの色…これでまだ幼体なのか?!先代の最盛期の最大火力の色だろ…」
3つの犬の頭が口をさらに大きく開けて、あり得ないぐらい毒々しい赤紫色の炎を吐く。
「あいつらもすごいけど…あれを真顔で受け止めるって…」
「傷一つ付いてないとかバケモンっスよ!」
人狼の皆さんの反応をよそに、アルバンは満足そうに自分の周辺を見回す。
「私、紫色も似合いますね。私のドレスシャツに合わせるだなんて良いセンスしてるじゃないですか。まあ、この私の美貌の素晴らしさなんて誰だって分かりますが。」
「…頭、あの化け物に対して何か今までに感じた事のないムカつきを覚えるっス。」
あっ…。
「強さは美しさであり、つまり私は強いので美しいのです、当然ですね?そして美しさは時として罪であり、悪しき存在なのです。つまり私の負う欠点つまり罪科は美そのものなのです。」
ちょっと何を言っているか分からないのだけれど。
「…アルバンの自己陶酔は聞かなかった事にしておけ。俺は怒りを通り越して呆れている。」
確かにここまでのナルシストはいないだろうね。
しばらくして、だんだんブレスの勢いがなくなってきた。
「…おやおや、魔力切れですか。」
3つの犬のどの頭も苦しそうな表情をしている。幼体の内から最大火力であれだけのブレスを維持できただけでもすごい事なのに。
「…もう良い、お前達の力は十分に見た。やめて良いぞ。よく頑張ったな。」
フォンテさんが言うと、3匹はブレスをやめた。
「アルバン、評価をしてくれるか。」
「…9歳にしては素の力もあるのでしょうが、よく鍛えられているといった所でしょう。体を壊さない程度に厳しく鍛錬させている…彼らの師と主人であるフォンテともに称えたい所です。」
「…ちゃんと褒めてくれるのか?」
「悪者なのに?」
ルベ君とケイ君が言うと、アルバンは微笑んだ。
「私の美しさに見合うブレスをくれましたからね、これはフォンテへのお返しです。」
「ありがとな。」
フォンテさんが言うと、アルバンはケルベロスに向き直って唇の両端をにぃっとつり上げた。
「さて…ケイ・ルベ・ロスの3人にもとびっきりの恩返しとして、本物というものを見せてあげましょう。サービスですよ?」
「何なのだっ?」
アルバンは左掌を上に向けて伸ばした。あっ、やらかすやつだ。
「アルバン、火力は考えましょうね?」
私が言うと、フォンテさんも何かを察したようだ。
「おいアルバン、頼むからこれ以上壊すなよ。」
「大丈夫です、放つ時は飛ばない程度に抑えます。」
「放たなくてもあなたの場合は出現するだけで吹き飛ぶんですよ!」
慌てて自分の周りにバリアを張ると、フォンテさん達は私の様子を見て少し距離を取って構えた。
「ついさっき。」
アルバンの掌の上にごうっと1メートルほどの高さの赤紫色の炎が上がる。
「そこのワンコが出した炎がこれです。」
「ワンコじゃないんだぞっ!」
「普通の人にとってはそうでしょうけど、私にとってはワンコなんですよ。ただ当たって傷つく程度のブレスが最大火力だなんて、ね?」
ロス君がアルバンのただならぬ様子に気づいたようだ。じり、と誰かしらの意思でケルベロスの巨体が後ずさりする。
「中ボスならフロアボスであるフォンテとその部下を守る盾となるべきでしょう?ほら、前に出なさい。」
「う~…」
「たとえ瞬殺されると分かっていても出てこようとする…モブのキャストですらできていた事が出来ないなんて、それでも中ボスですか?出来ないんだったらそこにいる人狼の誰かと今すぐ交代しなさい。」
アルバンがきつい口調で言う。
「おい、アルバン…それは言い過ぎだ。まだ大丈夫だからな。」
「フォンテは肝心な所が甘いですねぇ。強い相手だから、というだけの理由で庇うだなんて。仮想体だから良いでしょう?ケルベロスぐらいの強い魔物だからこそ、初陣で無残に完敗する経験が必要なのではありませんか?」
「そういう考えもあるかもしれんが…」
フォンテさんの気持ちも分かる。もし、これだけの逸材がメンタルを完全にやられてしまったら…。
アルバンの言った通り、彼はこの3人を一生懸命鍛え上げてきたんだろう。それが全てダメになってしまうと思ったら前に出せないでいるんだろう。
「かわいい子には旅をさせよ」という言葉を、一体どれだけの保護者が実践するだろうか。少なくともフォンテさんは自ら実践できない側だろう。
某19歳の件について、全て不起訴。
1.器物破損については未遂、その脅迫はまだ軽度で抑えているのでセーフ。
2.罪になるぐらいアルバンが美形かと問われると微妙なのでセーフ。
(50人以上の規模のオフィスに1人いるレベルをイメージしています)
3.自己陶酔する事自体は罪ではない。一部のキャストの戦意を削った事は営業妨害にあたるが、これはダンジョン攻略における戦略とも解釈できるので罪に問えない。




