お仕立て バックの補修 10
「早速だけど、カイの義妹が裁縫道具を求めているから、頼みたい」
「ああ、この子?カイが一目惚れをした娘さんの妹?
純朴そうな感じねえ」
背の高い男性が、私の前に立ち腰を屈めて顔を覗き込む。顔が近すぎて、半歩私は後ろに下がった。
「故郷から姉を頼って出てきたばかりだからな。魔女が村を攻撃して被害を受けた」
「魔女、八面六臂の大活躍ねえ。こないだ王都に出てニュースになったと思ったら、今度南で出たらしいじゃない。
仕入れのルートで出られて、モスリンの流通が心配だわ」
「モスリン?」
布の名前が出て、思わず口から声が出た。
ご婦人がニヤッと笑う。
「おや、娘さんが生地そのものに興味を持つとは…最近の社交界の花達はシルクであれば織りがどんなのであれ目の色変えるけど…綿のモスリン気になるかい?
なかなか見事な品が入ったから見せてやろう。
…出しておやり」
ご婦人が声をかけると、背の高い男性が私から離れてカウンターから左に伸びる通路に入る。しばらくすると、高い位置から淡い紫の反物と一緒にカウンターに戻ってきた。
カウンターに反物が置かれ、慣れた様子で生地が広げられる。
「薄い…え、これがモスリン?」
「綿の平織りで作られたモスリンなんだけど、糸がね、すごく繊細な細さなのよ。
縒るのに湿度が必要で。だから暑くて多湿な南の川の近くでしか作れないの」
恐る恐る布に触れ、掌で掬う。手のシワまで見えてしまうほどだ。
「すごい、見事ですね」
「しかし薄すぎないか?織りがが荒いだけでは…」
隣で私の手の上の生地を見て声をかけるクルトさんの前にズイッと入るように、背の高い男性が割り込む。
「全く、これだから門外漢は嫌になるわ。そんなやつにはもったいないから見せてあげない。
あなたはさすが見る目があるわね」
「こんなに薄くて目の詰まった綿織物初めて見ました!これはショールとかにも良さそうですね。」
思わぬ逸品に私のテンションが上がってしまうー!
「そうなのよ、なかなか良いでしょ?」
意気投合し話し込むリゼと男性をおいておいて、クルトは高齢の婦人に話しかける。
「それで、針はどこで取り扱われてるんだ?」
「2階にあるよ。ニアに取り寄せさせよう」
婦人はカウンターに置かれた呼び鈴を持ち上げ、鳴らすと上の階から足音がして、少したつと走るような足音が近づいてきて、カウンター隣の階段を誰かが降りてくる足音が響いてきた。




