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家族の揃った食事


 馬車でアッティングハウゼンの所へ行っていたブルクハルトは、話にそう時間も掛からず、夕食時には家に帰って来た。アッティングハウゼンにはいつもの如く任せるの一言で済まされてしまったのだ。

 家の食卓には家族が座り、今日はそこにイサベラもいる。

 ブルクハルトはここで漸くにしてイサベラに気が付いた。

 以前ならアフラの友達、シスターアニエスとして接していれば良かったが、ブルクハルトは既にイサベラがブルグント王女であることを知ってしまった。そしてアルノルトはこの王女に騎士叙任まで受けたという事実は、地方貴族の端くれに身を置く者として恐れ入るに足る出来事だった。


「こんばんは。ご挨拶が遅れまして大変失礼を……」


 イサベラも椅子から立ってスカートを広げ、挨拶を返した。


「こちらこそ、突然お邪魔を致しまして、大変失礼を致しております」

「まさか貴女のような方が我が家にいらっしゃるとは、どうご挨拶したものか……」

「どうぞ普段通りで。まだ今日のうちは一介の修道女ですから」

「今日のうち? 明日からは違うと?」

「明日は本国への帰途に就く予定だったのです。ですが痛ましい事故があり、ウーリ側へ降りて来ましたので、少し順延になりそうですね」

「そうでしたか。クヌフウタさんの事故は何とも悼まれますな」

「悼む?」


 エルハルトは父に抗議した。


「父さん? それじゃあまるで死んでるかのようだから! 洒落にならないから!」

「これは言葉のあや……失礼! 心から痛ましく思って心配しているという意味ですから」


 台所から出てきたカリーナはブルクハルトを迎えて言った。


「おかえりなさい。早く帰れて良かったわ。ちょうど夕食が出来たの。ようやく皆揃っての夕食ね」

「おお、そうだな。夕食をいただくとしよう」


 アフラがようやく帰って来て、家族が揃った夕食は何週間ぶりだろうか。カリーナはそれを一日千秋の想いで待ち待ち侘びていたのだ。

 ブルクハルトは食事前の祈りをし、皆でアーメンと言ってから食事が始まる。基本、食事中は話さないのが家訓だが、カリーナは言った。


「アフラ? スープに入れたでしょう……」

「ん! 洗って入れといたの」

「丸ごと入れる人がありますか。もう……」


 と、皿に入れたフィノッキオをカリーナはテーブルに持って来た。何か香ばしい香りが漂う。


「これは何の料理?」


 とアルノルトは鼻を動かして聞いた。

 アフラはスプーンを振り回して言った。


「クヌフウタさんに貰ったお土産よ。名付けてフィノッキオのスープ漬け」

「美味しそうな匂いだ。ナイフで切ってみようか」


 アルノルトはナイフで皿の上のフィノッキオを四つに切り分けた。


「これ以上は切れなそう」


 アフラは早速一つ取って、自分で食べてしまった。


「味見味見。ちょっと癖があるかな? でもハーブ味ね」

「おいアフラ! お土産とか言いながら、自分で食べてしまっていいのか?」

「じゃあ。お父さんと、お母さんに」


 アフラは皿を持って行き、フィノッキオを父と母に取って貰った。


「スープに浸けて食べてね。お腹にいいのよ」


 ブルクハルトは言われたとおりにしてみると、意外に美味しい。


「体に良さそうでいいんじゃないか?」

「思ったよりいいわね」とカリーナも食べながら笑っている。

 皿にはフィノッキオがもう一切れ余っている。


「もう一つはお客様のイサベラさん?」

「私はいいわ……皆さんでどうぞ」

「じゃあ、エルハルト兄さん!」

「オレもいいよ。アルノルトが食べたいんじゃないか?」

「じゃあ、アル兄!」


 と皿はアルノルトに回ってきた。


「悪いね。この匂いは美味しそうだ」

「僕も食べるー!」とマリウスは立ってせがんだ。

 ブルクハルトはこの辺りで声を上げた。


「食事中に叫んだり、立ち歩いたり、行儀が悪過ぎるぞ! 高貴なお客様の前で、恥ずかしいじゃないか!」

「だって……」

「だっては無し!」


 マリウスだけ叱られるような形になって、マリウスはこの理不尽をどうしてくれようかとテーブルを叩いた。


「コラ!」


 ブルクハルトにさらに怒られ、マリウスは泣きそうになった。

 アルノルトは上手くフィノッキオを割ってマリウスのスープに入れ、隣からはアフラも食べかけをマリウスにの皿に入れた。

 それを口にしたマリウスはしかし、「不味っ!」と言うのだった。

 ブルクハルトはイサベラに謝るように言った。


「すいませんな。こんな騒々しい食事で」


 イサベラは笑って言った。


「いいえ。皆さん楽しそうな食事で良い事ですわ。私の家族はもうバラバラになっていますから、とても羨ましいです」

「カペー家は最も大きい王家と聞きましたが、大家族ではないんですか?」

「姉はみんな早くに嫁いでいるんです。父が亡くなると、母違いの兄が跡を継ぎましたから、母と私は本城を明け渡し、親戚や姉の嫁ぎ先を転々として過ごしたんです」

「そうですか。どのような家であっても苦労はあるものですな」

「私から見れば皆さんの方が幸せそうに見えます。いつも羨ましく思うくらいです」

「まあ我が家は皆手塩にかけた、自慢の家族ですからな」

「てしおってなに?」

「何だろう?」


 マリウスもアルノルトもその意味が良く判らなかった。ブルクハルトは咳払いをして続けた。


「それはいいとして、我が息子アルノルトに騎士の叙任をいただいたそうで。誠にありがとうございます。父親として、この場をお借りして、御礼申し上げます」


 ブルクハルトは食事を置いて、その場に跪いて礼を取った。

 イサベラは恐縮して言った。


「いえいえお立ちになって下さい。私のような未熟者の叙任で心苦しいのですが……」


 カリーナはブルクハルトに言った。


「お父さん、困ってるじゃないですか。食事中ですよ」

「ああ、子供に注意出来なくなりそうだ。これは失礼。ただ不躾ながら、一つ、どうしても伺いたい事があるのです。よろしいですかな?」

「何でしょう」

「まだ騎士としての功しも無い息子を騎士に叙任したと言うことは、もしかすると、行く行くはブルグントに引き抜こうというお心づもりもあるんですかな?」


 イサベラは、その心配ももっともだと頷いた。


「ご心配には及びません。いつか私はウーリの人を誰も連れ去らないという誓いをしました。私はその誓いを守ります。アルノルトさんは、騎士の誓いとして、ウーリを護るという誓いをして下さいました。アルノルトさんにはここで、その約束を果たしていただければそれでいいのです」

「ウーリを護る? それだけでいいというのですかな? 何もブルグントには貢献が無いように見えますが」

「いいんです。私はウーリが好きですし、大事に想っております。それが私の願いなのです。それにアルノルトさんには既に大きな功しがあります。私の護衛騎士を罪から救い、ブルグントとラッペルスヴィル——延いては帝国との闘争を防いでくれたのですよ。それでどれだけの命が救われたか判りません」

「まさかそんな大それた事……」

「これはエリーザベト様も、第一級の功しであると、お認めになった事です」

「そう言えば、さっきラッペルスヴィル家からの手紙を預かって来たんだった……」


 エルハルトはそれを聞いて、目を輝かせた。


「父さん。それを今読んでくれないか。今の話が書いてあるはずだ」


 ブルクハルトは手紙を腰袋から取り出して読んだ。



 親愛なるウーリの友人、シュッペル家の皆様


 いつも若輩なる私共を支えていただき、心より感謝を致しております。

 この程、アルノルトさんには言葉では言い尽くせぬ多大なる御恩を受け、その感謝と貢献の証にと、馬一頭に加え、感謝状を奉呈させていただきたいと思います。

 城内への侵入者を発見し、共に戦い、捕らえていただいた事、

 敵として対していた侵入者を機知によって味方に導き、城の指南役に推挙して下さった事、

 ブルグントとの争いの火種を未然に防ぎ、友好を結んでいただいた事、

 これらはどれも第一級の功しであり、ラッペルスヴィル領主として誠に感謝の極みです。

 尚、侵入者を捕らえる戦闘の際にお怪我を負わせてしまった事、この場をお借りして、深くお詫び致します。

 最後に加えまして、帝国執政官ミュルナー卿とのご縁を仲立ちしていただき、最高の学びの機会をいただきました事も感謝を申し添えます。

 これからも共に同道の士として、永くご交友を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


追伸

 我らが家斎ブリューハントの危難を救って下さった事も本人に成り代わり感謝を申し上げます。

 そして結びに、アフラさんには危うき奇襲を楯で防いでいただいた事、格別なる感謝を申し上げます。


                ルーディック フォン ホーンベルク

                エリーザベト フォン ラッペルスヴィル

 


 手紙にはエルハルトの言う通り、ラッペルスヴィルでのブルグント騎士との出来事の感謝が記されており、もう一紙シンプルな文面の感謝状が同封されていた。

 ブルクハルトは手紙の前半部を読んで言った。


「絶賛の嵐じゃないか、アルノルト! こんなにも凄い事だったのか!」

「全部言ったと思ったけど?」


 アルノルトは首を傾げ、エルハルトはしきりに頷いた。


「争いを未然の内に防ぎ切ったアルノルトこそ、最高の栄誉だ。そう言ったろう?」


 ブルクハルトは感激のあまり目頭を熱くした。


「いやいや、そこまでとは聞いてない。ラッペルスヴィル家にここまで言われるなんて、これはまさしく栄誉だ!」


 イサベラはそれに付け加えた。


「私共ブルグント一同も同様、アルノルトさんに心から感謝をしております。我が騎士を救うと同時に、ラッペルスヴィルの騎士の命も救っているのです。誰かが倒れていれば引き返せなくなって、大きな戦争にもなり得たのです。騎士叙任にも相当します事、お分かりいただけましたでしょうか?」


 ブルクハルトは次には血の気が引いた。その戦争の危機はよく知っている。


「理解しました。いやはや私こそが息子のことを軽く見ていたようです」


 横からアフラが手紙を見ていて言った。


「ここ読んで! 追伸ってところ!」


 ブルクハルトは手紙を読んだ。


「ここか。『追伸、我らが家斎ブリューハントの危難を救って下さった事も本人に成り代わり感謝を申し上げます』ブリューハントさんも助けたのか?」

「その次!」

「『そして結びに、アフラさんには危うき奇襲を楯で防いでいただいた事、格別なる感謝を申し上げます』アフラも? 一体何したんだ?」

「えっへん。書いてあるとおりよ。ドア開けたら侵入者がいて、ルーディックさんに襲って来たのを楯で防いだの」


 アルノルトは大いに頷いた。


「そうだ。その時は暗くて、ルーディックに僕がランプを渡していた所だった。アフラが楯を持って飛び出さなかったらルーディックが危ない所だったんだ。まだ互いに敵だったし、その時ばかりは命の恩人と思ったことだろうね」

「ルーディック卿の命を救ったと? だとすると勲功ものだぞ」


 アフラは手紙の文字を指差して言った。『格別なる感謝を』って書いてあるでしょう?」

「最大級の感謝だな……」


 アルノルトは二人に笑顔を向けた。


「これはアフラにも何かご褒美だね。まだ何も無いもんね」

「ええ。無いわ。何かなあご褒美」


 ブルクハルトは唸るように言った。


「ううーぬ。何か、考えておく……」

「私もローマの旅? とかとか!」


 アフラは思い付きで言ってみて、一人で盛り上がった。


「駄目だ。当分遠出は許さん」

「えーっ。なら、ウーリ内だったらいい?」

「しっかり許可を得て行くならいいだろう。今回怒っているのはそれだからな」

「じゃあ、明日夏の山小屋まで行きたいの。許可下さい」

「もう国境じゃないか……」

「クヌフウタさんが心配なの。イサベラさんのお見送りもあるし……」


 エルハルトがここぞと言った。


「イサベラ姫を馬で送るのに、ちょうど馬を引く役が欲しいんだ。アルノルトには羊を追う役があるから」


 ブルクハルトは少し考えて言った。


「クヌフウタさんの怪我の世話もあることだろう。エルハルトとアルノルトもいることだ。いいだろう。ご恩を返して来なさい」

「やった! ありがとう! 一緒に行けます!」


 アフラは小躍りして喜び、食事中のイサベラにも笑いかけた。

 カリーナはこれを窘めて言った。


「食事中に騒がないの。すいませんねー。食事中なのに騒ぎっぱなしで」


 口の中に食べ物があったイサベラは苦笑いで「いえ」と言うよりなかった。

 エルハルトがブルクハルトに言った。


「夏の山小屋には食料が何も無いし、生活道具も無いんだ。クヌフウタさんの回復まで少しかかるかも知れないし、明日少し多く持って行こうと思う」


 ブルクハルトは考えを巡らせつつ言った。


「それなら少し早めに夏の移動の準備を始めたらどうだ。道具だけでも運んでしまうといい。その頃にはエルハルトはローマへ行ってしまうんだろう?」

「そうだね。じゃあこの一週間で移動してしまうことにしよう。夏の山小屋の方が放牧も楽だし」

「あそこだと殆ど放っておいてもいいもんね」とアルノルトは相槌を打つ。

 エルハルトは続けて考えを進めた。


「今日中に持って行くものは準備しておこう。あとは出来れば医者も連れて行けるといいな。クヌフウタさん自身じゃどうしようもないだろう」

「あんな山奥じゃあ誰も行ってくれないだろうね。でも一応聖ラザロに馬で行って聞いて来ようか。治療費払ってないのもあるし」

「行くなら早く行った方がいい。もうすぐ雨だからな」


 エルハルトがそう言えば、カリーナは大いに心配になった。


「雨が降るの? お布団洗って干してるのに!」

「いいんだ。布団は雨で洗ってもらうさ。明日は晴れて一日乾燥させるから、そのままでいいよ」

「そうなのね。でもそんなに上手く行くかしら? 落ちるといいわね」

「じゃあ、僕は早速行って来るよ」


 アルノルトは母から治療費を貰い、グラウエスに乗って夜道を聖ラザロ修道院まで走った。

 聖ラザロ修道院へ入って行くと、夜のせいか人もまばらだった。


「ヨハンさんはいますか?」


 玄関先で人を捕まえて、アルノルトは聞いてみた。聞かれた団員は答えた。


「ヨハンなら病室だ。狼に噛まれたそうでね。他にも四人が入院中だ」

「あの後大変だったんですね!」


 アルノルトはヨハンのいる病室に通された。そこは一室にベッドが六つ置かれた部屋だった。部屋へ入って行くと、四人の団員と共に、ヨハンがいた。


「ヨハンさん、大丈夫ですか?」


 ヨハンはアルノルトを見てベッドから起き出して来た。首には痛々しく包帯が巻かれている。


「ああ、君かあ! どうだい犬の様子は?」

「おかげさまで大分いいようです。それより狼に噛まれたそうで」

「ああ。首をガブリさ。でかいし、鎖帷子を食い破るし、なかなか離さないし、それは恐ろしかったね」

「どうして噛まれた人が皆んなベッドにいるんです?」

「ああ、感染症のせいか、皆んな傷まわりが熱を持ってね。怖い伝染病の可能性もあるから一応隔離治療さ。君もあまり近寄らない方がいい。部屋に入らないでくれ」


 そう言うと、アルノルトは部屋の外に下がり、ヨハンはマスクをして部屋の戸口に立った。


「狼は退治出来たんですか?」

「まあ追い払っただけだな。戻って来ないとは言えない……」

「じゃあ、退治は失敗?」

「そうハッキリ言うな……」


 あの群れは手強かったと周りの団員も口々に話している。集団で連携して攻撃して来るのだそうだ。

 アルノルトは本来の用事を思い出した。


「実は、急な怪我人がいるんです。エンゲルベルクの国境地帯で小競り合いがあって、頭に石を当てられて大出血した人がいて、今は山小屋にいるんです。もう夜だから明日にでも往診を頼もうと思って来たのですが……」

「行くにも遠いし、処置が手遅れになるだけだ。こんな状態だし、却って近付かない方がいいだろう。心配ではあるが……」

「残念です……。でも、前にヨハンさんがしてくれた毛を結ぶ処置、頭だったからあれをして来たんですよ」


 ヨハンは身を乗り出して言った。


「そうか! それは上手く出来たか? それで血は止まったかい?」

「ええ。血は一応止まってました」


 ヨハンは会心の笑みを浮かべ、肩を叩こうとしたがそれはガッツポーズになった。


「良くやった! なら大丈夫そうだ。ただ毛が抜けないよう、細心の注意がいるかな。それだけで傷が開いて治りにくくなる」

「じゃあ、まだすぐは山を降りない方がいいですね?」

「ある程度傷が塞がるまでは動かない方が危険が少ない。今の時期だと凍える事はないし、物資さえあれば山小屋で療養出来るといいな」

「そうするように伝えます。ありがとう。これ治療費です」


 アルノルトはヨハンに治療費を払って宿坊を出た。そして待っていたグラウエスに乗って村への道を戻った。

 その道中に小雨が降り出した。


「本当に降ってきた。もう少しもってくれ」


 アルノルトは馬をさらに走らせ、家に急いだ。

 雨に濡れつつアルノルトが家に着くと、早速エルハルトが聞いてきた。


「どうだった?」

「今雨が降って来たよ。やっぱり当たったね」

「医者の方だ」

「ああ、ダメだった。医者の人が狼に噛まれてて、気の毒な程だったよ。山へは行けないそうだ」

「そうか。それは気の毒な事だ。仕方ない」

「でも、アドバイスを貰って来たよ。髪が抜けたら傷が開くから、傷が塞がるまでは動かさない方がいいそうだよ。山小屋で療養するのがいいって。物資があればだけど」

「そうか。明日、しばらく不自由しないくらい持って行こう」


 それから二人は持って行く物を準備した。蒲団や食器類、着替えなどがいる。カリーナは持って行く食べ物を集め、ブルクハルトは鍋や盥などの道具類を出して来た。

 エルハルトが困った顔で言った。


「少し多過ぎて持って行けないな。アルノルトの馬に乗るくらいに減らさないと」


 ブルクハルトは手を打って言う。


「マリウスの馬車を使えばいい。細い道も行けて、意外とあれは使えるぞ」


 カリーナが笑って言った。


「これはボルクさんのお陰ね」

「そうだな。明日は無理だろうが、小屋の仕上げにオイゲンも向かわせよう。急に忙しくなるな」


 アルノルトはある事を思い出して父に言った。


「父さん。聖ラザロ騎士団の人達が狼に噛まれてたんだ。医者の人も一緒に」

「狼に?」

「狼退治に失敗したらしいんだ。その上感染症に罹ってるらしくて、熱が出ているそうだよ」

「失敗したのは聞いてたが、感染症か……その狼は放っておくと危ないな……」


 ブルクハルトは腕を組んで考えた。

 エルハルトも腕を組んで言った。


「エルストフェルトと山小屋は少し近いし、羊が山に行く前に狼の心配は無いようにしておかないと危ない……一匹二匹ならともかく、群れの数がかなり多そうだった……」

「そうだな。また有志を募って狼退治をしよう。しかし、騎士団にしてその惨状だ。普通の装備だと死人が出そうだ……」


 アルノルトが言った。


「じゃあまずは、罠とか……」

「そうだな。それで行こう。大きい罠を作るなら、これもオイゲンか……」


 アルノルトは一番いい人に思い当たった。


「身近にいい人がいるじゃないか」

「誰だ?」

「ヴィルヘルムおじさんだよ」

「ヴィルか! しかしあいつは今やヴァリスの……」

「ウーリの人でしょう?」

「そうだ! その通りだ! しかし、ヴァリス人の里にいれば儂からは連絡が出来ん」

「明日時間があったら僕が知らせに行って来るよ。あの狼は山の人にとっても危険だ」

「行けるのか?」

「今はグラウエスがいるからね。山道もひとっ走りさ。本当にいい馬を貰ったよ」

「儂はいい息子を持った。一緒に行きたいくらいだ。今度一緒に行こうな」


 ブルクハルトは涙こそ出ないが泣くふりをした。



 アフラの部屋にはもう一つのベッドが作られた。それは分解して可搬できるベッドで、エルハルトとアルノルトで運び、カリーナがベッドメイクをした。


「粗末なベッドですが、いかがでしょう?」


 イサベラはその弾力を確かめた。厚い羊毛の布団はとても弾力があって柔らかい。


「十分すぎる程ですわ。ありがとうございます」


 アフラは既に寝間着に着替えていたのでイサベラに聞いた。


「イサベラさんも寝間着に着替えます? ありますよ」

「私はこのままでいいわ。修道院でもこんな修道服で寝ているし。いい服をお借りしたわ」

「修道服が寝間着でしたものね。でも修道服がどうして家にあったのかしら? ねえお母さん。どうして?」

「昔家に修道女の人がいたの。その人が残して行ったものね」

「ふうん。親戚かしら」

「アフラからは叔母になるかしら? 十何年も前に亡くなったのだけど」


 エルハルトが言った。


「もしかして、それって……」


 カリーナは頷いた。


「この服は形見ね……」


 イサベラは少し畏まって言った。


「そんな大事な物を着てしまって、よろしいんですか? 少し悪い気がします……」

「ええ。もう一つロザリオがあるのでこの服はいいんですよ。しっかり洗ってありますから、気にしないで使って下さいね」

「母さん……話がある」


 と、エルハルトはカリーナを連れて外へ出て行った。

 アフラはイサベラの修道服の裾を撫でて言った。


「叔母がいたなんて知らなかったわ。叔母さんこんばんわ」

「やだ。アフラったら」

「悪い気になってしまうかしら? ごめんなさい」

「アフラの叔母さんなら悪い気はしないわ」

「古いけど、まだ綺麗な生地だわ」

「大事な服のようだし、やっぱり寝間着に着替えましょうか。クヌフウタさんと、ペルシタさんの服も血だらけだったから、きっと替えが欲しいと思うの」

「そうですね。この修道服をあげられるといいですね」

「この服でなくとも、二人の着替えを少し譲っていただけないかしら?」

「お母さんに聞いて来る」


 アフラは外へ出て、カリーナを呼ぼうとした。そこで階下でカリーナとエルハルトが話す声が聞こえてしまった。


「じゃあ、オレのお母さんのなんだね……」

「ええ……形見はあなたにあげるわ。大事に持っていなさい」


 アフラは静かに戸を閉め、部屋に戻った。


「どうしたの?」

「ううん……何でもない……」


 アフラは明らかな作り笑いをした。そして再び大きく声を掛けながらドアを開けたのだった。



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