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騎士に一歩


 それから一同は朝食を摂り、徹夜気味で眠い人は仮眠を取った。

 ピエールは仲間の騎士を連れて来る事になり、ブリューハントと外へ出て行った。

 そして、黒いローブの騎士を三人連れて戻ると、客人として朝食のもてなしを受けた。ブルグントの騎士達は、あまりいい食事をしてなかったのか、その食べっぷりは良く、盛大に食べた。

 その後、ブリューハントの先導で、ブルグントの騎士達が城の中庭を見て回った。それは、しばしの仮眠を取っていたルーディックとエリーザベトをそこで待つためでもあった。

 アルノルトは窓からそれを見て、階下へ降りて中庭に出て行った。

 ブリューハントがそれを見付けて手を上げた。


「やあ恩人が来た。仮眠はいいのかい?」

「僕は薬のせいで早くに眠ってたんです。ブリューハントさんこそ寝てないでしょう」

「儂はこっちの方が重要だ。それに年寄りはどうせすぐ起きる」


 ピエールが駆け寄って来て、アルノルトを仲間達に紹介した。


「こちらは城主との間を取り持ってくれた大恩人、アルノルト君だ」

「ウーリのアルノルトです」


 一番長身で細身な騎士が真っ直ぐにアルノルトを見て言った。


「あの時の楯の少年か……」

「あなたがあの時の?」


 帽子を取ると少し巻き毛の金髪のオーギュストは、胸に手を置いて言った。


「怪我をさせてしまったこと、何卒ご容赦を」


 それはアルノルトが見た中で、最も騎士らしい人の姿だったかも知れない。精強な体からは大きな威圧感が、精悍な眼差しからはそれに勝る温情が溢れている。そんな人と戦い、そして今は自分に頭を下げている、それに心が動かない筈が無かった。騎士とはこういうものなのかと、アルノルトは改めて感じつつ言葉を探した。


「いえ、これは戦った勲章のようなものですから」


 その言葉はオーギュストへの最大の許しだった。二人は熱いものを心で交わし合った。


「君には敬意を表したい。あの戦いで、君がその気なら一度は命を取られたと言っていい。私は一つ、命を助けられたことになる」


 アルノルトは小さく首を振った。


「あなたも本気では無かった。それは判りましたよ」

「そうか。だが、それを見破られた時点で私の負けだった」


 ピエールが驚いた。


「黒騎士のオーギュストが負けた?」


 その事に驚いたのは、他の仲間達もそうだった。

 アルノルトが石造りの城壁の途中からが木造になっている部分を見上げて言った。


「こういう木の場所が危険なんですよね?」

「その通りだ。城の内側はまだいいが、外側に木造があれば、格好の場所だ」


 そこへ、エリーザベトとルーディックもやって来た。

 ブリューハントは二人を紹介して言った。


「こちらが城主、ルーディク・フォン・ホーンベルク=ラッペルスヴィル、そして、エリーザベト夫人です」

「エリーザベトです。イサベラ公女殿下は私共にとって大切な賓客です。ブルグントの方々を歓迎致します。これよりはしばし顧問として、今後の城の防衛のため、どうぞご指南をお願い致します」


 エリーザベトが深く礼を取ったので、ルーディックも続いた。


「城主のルーディックです。どうぞご指南願います。あなたとは一度剣で相見えましたね」

「あの時の果敢なる少年が城主とは! 実に見事な剣さばきだった」

「軽くあしらわれていましたけどね。今は味方でとても心強いです」

「知らぬとは言えその節は失礼を。オーギュスト・ド・ナバラです」


 二人はそう言って握手を交わした。続いてエリーザベトとも握手をする。

 アルノルトがおもむろに言った。


「ひとつ教えて欲しい事があるんです」


 ピエールが言った。


「攻城に一番詳しいのはオーギュストです。何でも聞いて下さい」

「うむ。何でも答えよう」

「ロープを付けて撃つクロスボウの事です。どうやって狙い通り飛ばすんですか?」


 オーギュストは腰にぶら下げたクロスボウを取って言った。


「ああ、これか。クロスボウは城への侵入には時に使われる。ロープが重い分、弓は強力でなければならない」

「矢にはどうやって結ぶんです?」

「それには結び方がある。こういう感じで羽根にもなるように……」


 そう言って矢とロープを実際に結び出したので、ブリューハントはやきもきして言った。


「今回はそのクロスボウで、この堅城で名を馳せる城へ容易く侵入されてしまいました! それを防ぐ方法をお聞きしたいのです!」

「それならば、対策として大きくは三つ。実演で壁を撃っても?」


 そう言うオーギュストにエリーザベトは頷いた。


「人に危険でなければ」

「では、あちらの城壁へ」


 オーギュストは城壁上の木で出来た箇所をクロスボウで撃った。ロープの付いた矢が、建物の柱に深々と刺さった。


「こうした木の建物が上にあると、このクロスボウにとっては格好の場所となる。これだけ刺されば大人二人くらいはぶら下がれる。訓練した者であれば、ロープを登るくらいは容易い事だ」


 騎士の一人はそのロープを登って見せた。ロープを足に絡ませて、するするとかなり素早く登って行く。


「こう?」


 と、アルノルトはその下からその登り方を真似て登ってみた。何とか登れる事が判ったが、手の力は相当に必要だった。


「降ります」


 と、先行する男が降りて来たので、アルノルトのこめかみに足がぶつかった。


「ぐぅ」と首を曲げたまま、二人はロープを滑り降りて来た。

 ルーディックは火が着いたように笑った。


「アハハハ。アルノルトは楽しいなあ」


 ブリューハントはしかし、厳めしい顔のままだ。


「では、上の木造部分を無くす方がいいと……」

「それが一つめの方法だ。しかし、こういう事も出来る」


 オーギュストはロープの付いていない矢を番え、そして放った。それは城壁の低い所の石と石の間に突き刺さった。

 騎士の一人が矢に手を掛けてぶら下がった。


「これは! 石造りでも駄目という事では無いですか!」

「弾かれて刺さらない事もあるが、何度もやれば刺さる。固い物の方が人数が支えられる」

「もはや防げないという事でしょうかな?」

「防ぐ方法はある。一つは土壁だ。土で塗り固めると刺さってもすぐ崩れてぶら下がる事が出来ない。日干し煉瓦やタイルを貼り付けても似た状況になる。矢にぶら下がるとその煉瓦だけが崩れる構造にすれば良いのだ」

「ほう。それは良いことを!」

「もう一つは窓だ。窓がしっかり閉じられていると、容易に中へは入れない。その証拠に今回は開いた窓には入れたが、本城側は窓がしっかり閉められていて、思うようには入れなかった。ガラスを割る事も出来るが、忽ち見つかってしまうだろう」

「なるほど、それは有効だったようですな」

「アフラのお陰か……」と、アルノルトが呟くとルーディックが言った。


「彼女が誰かぶら下がっている所を早いうちに見付けたから、それは対策出来たんだね」

「ピエールが見つかったのが早過ぎたようだ。しかし、強兵を揃えて来た時は、ガラスくらいは割って入って来る。さらに確実にするならば、全ての窓に格子を付けるともう入れない」

「全面格子窓……それは少々物々しくなりますな」


 ブリューハントが振り返ると、エリーザベトが言った。


「景観上あまり……やりたくありませんね。せっかく景色のいい所ですし」

「いい風景が格子で邪魔されるのは嫌だよね」

「近くに敵がいれば風景などとは言ってられなくなる事だろう。さらにもう一つは、窓の上下に返し針を付けるという方法だ。ロープで移動してくれば刺さる位置に針を並べれば、ほぼ入れない」

「それなら出来そうですな」

「針に少し装飾を加えたいですね」

「それはいいアイデアだね」


 ラッペルスヴィルの一同はそれで合意が取れたようだった。

 さっきから矢にロープを結んでいたアルノルトは、クロスボウを指差して言った。


「これ、少し撃たせて貰ってもいいですか?」

「クロスボウを? いいが、撃てるのか?」

「ええ。これなら使った事あります」


 クロスボウを借りたアルノルトは、目一杯力んで弓を引き、ロープが付いた矢を番えた。

 オーギュストがロープを整えつつ教えてくれた。


「ロープは足の前に絡まないように解いて出しておいて、弓の前方から垂らすんだ。弓や体に引っ掛けないようにな。ロープの重みの分は長さによるが、倍は遠くへ飛ばすイメージで撃つ」

「わかりました」


 そう言ってクロスボウをしっかりと構え、アルノルトは矢を撃った。音を立てて矢は飛んだ。


「やっるう!」


 矢は城壁の窓の少し左の壁に刺さった。


「いい狙いだ」


 アルノルトはクロスボウをオーギュストに返し、壁へと走って行った。そしてそこに垂れたロープを強く引っ張ってしっかり刺さったかを確認すると、そこに飛び付いた。さっきの要領でロープを登って行き、息を切らせつつ窓の高さに達し、窓に足を掛けた。しかし、ロープから手を離せず、なかなか窓には取り付けない。


「危ないよアルノルト。無理しないで」


 ルーディックが下からそう言うので、アルノルトは途中で諦めた。


「窓の横のこの辺りにも返し針がある方がいいですね」


 アルノルトは下へそう叫んだ。

 エリーザベトが手を振って答えた。


「よくわかりました。実演ありがとう」


 アルノルトが降りる前にそこからの眺めを見ていると、向かいの窓から悲鳴が上がった。


「キャア!」


 声のする方を見ると、その窓には着替え中のイサベラが椅子に隠れるのが見えた。その声を聞いたユッテとアフラが部屋へ入って来て、その様子を見て窓へと駆けて来た。


「コラーッ! 見ちゃダメー!」

「兄さん、不審者の真似? でもすごーい」

「そうよね、よく見れば! スゴーイ!」


 そんな窓辺で騒ぐ声を避けるように、アルノルトは慌てて下に滑り降りた。慌て過ぎて手が熱くなり、擦り剥いてしまった。


「イッテ」

「大丈夫かい? アルノルト? 何を見たんだい?」

「着替え中とは……」

「まさか、姫の?」


 アルノルトが見回すと、ブルグントの護衛達の顔色が険しく変わっていた。王女を覗いたら普通に死刑だと言われた以前の事を思い出した。


「とても言えない……」

「そのようだ……」


 それから一行は裏口の焼けた扉へ行き、ブルグントの客人は弁償を申し出たが、エリーザベトはこれも授業料だと強く主張し、結局不問になった。

 一行は裏口から城外へ出、城の周囲を歩いて廻り、オーギュストに城壁各所の詳細なアドバイスを貰った。


 アルノルトは場外へ出るあたりで一行から離れ、自室へと戻った。

 エルハルトがアルノルトを見付けると、声を掛けた。


「何処へ行ってたアルノルト」

「ちょっとブルグントの騎士さんに教えて貰ってた」

「そうか。もうすぐ帰るから荷物を纏めておけ」

「うん。判った」

「どこかでクヌフウタさんを見なかったか?」

「ああ、何でも隣の修道院を見に行っているそうだよ」

「それはしばらくかかりそうだな。まだ出発時間を話してないんだ」

「イサベラ姫はブルグントの護衛団と帰るだろうから、クヌフウタさんもそっちに乗るかも知れないね」

「ペルシタさんも合わせたら三人もいるし、そんなには乗れないかもな」

「でも、僕らの馬車に乗ると、エンゲルベルクまでは行かないよ?」

「まあ、一度お前達を家に降ろしてから行ってもいいさ」

「それだと馬足も遅くなるし、早く出ないと日が暮れるかもね。エンゲルベルクに着いても戻る頃はもう真っ暗だよ」

「そうだな。送るならエンゲルベルクに泊まりが必要……か。話し合う必要があるな」

「アフラを迎えに行くついでに、イサベラお嬢さんと話して来よう。ちょっと謝る事もあるし……」

「そうか。じゃあオレは馬車の用意をしてよう。しかしアルノルトも貴族に交友が広くなったものだ。確実にお前は跡継ぎに向いてるよ」

「跡継ぎなんていいよ。色んな人に言われて、騎士になりたいと思い始めているんだ」

「そうか。オレもまあラザロ騎士団には入っておくつもりだが」

「じゃあ一緒に入ろうよ」

「跡継ぎは誰がするんだ?」

「マリウスがいるさ」

「ボク? 若過ぎるよ」


 部屋の隅で着替えていたマリウスは、思わず椅子に転んだ。


「フッ。若いと言うより幼いと言うべきだな」

「ボクはもう幼児じゃないよ?」

「ハハッ。まあすぐに大きくなるさ、マリウスも」


 アルノルトとエルハルトは笑ったが、マリウスは嬉しいような、困惑に塗れたような、複雑な顔をしていた。



 アルノルトはユッテの部屋の扉をノックした。後ろにはマリウスもいる。

 ドアを開けたのはセシリアだ。


「おはようございます、セシリアさん。こっちは弟です」

「おはようございます。アルノルトさん。ご活躍だったそうですね。侵入者を見付けて全て解決されたとか?」

「え? いえ、たまたま見付けたら、知っていた人だっただけです」

「他の人には出来なかった事です。レオナルドやマルクがお陰で眠れると感謝していましたよ」

「いやあ、皆さんが落ち着いて眠れて何よりです」

「あと、覗きと誤解されるような事は、もうしないように。これからは特に、身の危険になりますから」

「スイマセン。もうご存知で……。彼女にも謝っておこうかと。それと、僕らはもうすぐ出発します。アフラを迎えに来たんですが、入ってもいいですか?」

「あ、はい。どうぞ。こちらです」


 アルノルトはアフラの部屋へ通された。しかしアフラは部屋に不在で、そこで待つ事しばし、すぐにセシリアがアフラを連れてやって来た。もちろん、ユッテとイサベラも連れて。

 イサベラは修道女の格好に着替えていたが、気まずくて正視出来なかった。


「アフラ、そろそろ帰るぞ」

「兄さん? イサベラさんに言うことあるんじゃない?」


 アルノルトは先程の騎士の姿を胸に抱くように、跪いて言った。


「偶然とは言え、ご容赦を……」


 イサベラは驚いた。この少しの間で、アルノルトは仕草にも騎士の精神を宿していた。


「騎士に一歩、近付いたようね」

「僕はここへ来て初めて、騎士になりたいと、そう思う」


 ユッテが目を丸くした。


「急に騎士らしくなったわ」

「兄さん、立派になって……」


 アフラは何故か涙ぐんだ。


「どうか国の護衛の方々には言わないよう……また問題になるといけないから」


 跪いたままそう言うアルノルトに、イサベラは笑った。


「偶然ですから言いません。ちょっとビックリしただけです」


 アルノルトは溜め息混じりに言った。


「良かったー。また重罪にされそうで冷や汗が出たよ」


 イサベラは首を大きく振った。


「功しの人を罪になんてしません」


 ユッテが首を傾げつつ言った。


「アルノルトは何故かいつも功罪が同居してるわね」

「罪の方はもう全部偶然だったじゃないか。無かったことにして、忘れてくれる?」

「無かった事に? 忘れる? それは出来ないわ。ねえ」

「ええ」


 イサベラも笑ってユッテに同意した。


「そんなあ」


 アルノルトは残念がったが、ユッテが言葉を続けた。


「みんな楽しい思い出よ。忘れられないわ」

「私も忘れないわ。ずっと」


 ユッテとイサベラは見つめ合って手に手を取り、名残り惜しそうにしている。


「そういうこと……」


 アルノルトは立ち上がって手を小さく広げた。

 アフラも二人の手を両手で包み、「私も忘れません」と言い、三人で見つめ合った。


「いい場面だ」と、アルノルトが見ていると、ユッテが言った。


「アルノルトも入って」

「ここに手を置いて」


 アルノルトもユッテとイサベラに促され、手を重ねた。


「アルノルトも色々ありがとう」

「アルノルトさん、想い出をありがとう」


 アルノルトは「少し大袈裟だなあ」と笑ったが、この時は知らなかった。彼女達の子供時代は、もうすぐ終わろうとしている事を。

 ユッテは涙を滲ませつつ言った。


「この二週間、とても楽しかったわ。また戻りたいくらい。でも、もう戻れないのね……」


 アフラも半ベソの声で言った。


「私もです。イサベラさんもご一緒出来ると良かったですね」

「今はこうして一緒よ?」

「最後に合流出来て良かったわ」


 そこへハルトマンとルードルフもやって来た。


「何してるの?」


 駆け寄ったハルトマンが聞くと、ユッテが言った。


「お別れをしてるのよ。お二人も手を置いて」

「では」と、ルードルフとハルトマンが手を置いて輪になった。いつの間にかマリウスも手を上げてそこに加わった。

 ユッテが言った。


「みんなしばらく会えないけど、元気でね。弟さんもハルトマンも来てくれてありがとう。親戚だしルードルフはまあ会うわね。アルノルトも結局、ここまでお付き合いしてくれて。短い間だけど、色々あったわね」

「色々有り過ぎて傷だらけだよ」

「アルノルトさんがいて下さって、本当に助かりました」

「アルノルトはもう私達のヒーローね」

「兄さんはヒーロー!」

「な、無しにしてくれ。普通でいいんだ」


 ハルトマンが「かっこいいなヒーロー」と頷いた。

 ルードルフが言った。


「僕にとってもヒーローだよ。何せ王子に裁判で勝ったんだから」

「いやあ、それはユッテのお陰もあったね。その節はありがとう」

「あれも一大イベントだったわね。いい想い出になったわ」

「私の護衛を守って弁護してくれてありがとう。本当は嬉しかったの。おかげで大事な人を罰せずに済みました。この場をお借りして、お礼を言います」


 イサベラは深く礼を取るように、膝を低くした。

 ユッテが言った。


「アルノルト、一国の王女がこうしてるのよ。騎士らしく返しなさい」


 アルノルトは組んでいた手を離し、さらに低く腰を折り、大仰に言った。


「ははあ。光栄です」


 ルードルフが失笑気味に笑うと、イサベラは吹き出して笑った。

 ユッテは手を離して言った。


「何それ、ちょっと変」


 それを期に皆笑いつつ組んでいた手を離して解散して行った。

 最後まで手が残ったハルトマンとマリウスは何故か互いにハイタッチを始めた。


「どこか変だったかなあ……」


 何が悪いのか判らず、戸惑うアルノルトにユッテは言った。


「解散しちゃうほどには変ね」

「もおー」


 皆、一様に呆れ顔をして笑っていた。

 気を取り直してからアルノルトはイサベラに聞いた。


「ところで、イサベラ姫の帰りは、護衛騎士の馬車で?」

「ええ。そう言われてます。最近は姫と呼んでくれるの?」

「周りがこうだと、お嬢さんもどうかと思って」

「お嬢さんでもしっくり来てたのよ。この頃は」

「じゃあこういう場ではお嬢さんで?」

「ええ」

「じゃあお嬢さん、エンゲルベルクへ暗くなる前に着くなら、そろそろ出発する時間なんだ。是非ご一緒にと思うんだけど、如何かな?」

「もちろん、同道させていただきますわ」

「それは護衛騎士さんに聞かなくて大丈夫かな? 指南が長引いてるようなんだ。それに、クヌフウタさん達もその馬車に? 僕らはウーリまでだから」

「いけない! 聞いておきます。クヌフウタさん達にも言わなきゃ。エルハルトさんの馬車に乗ると思ってたので」

「ウーリに寄るならそれでもいいんだ。エルハルト兄さんが、向こうで泊まれるならエンゲルベルクまで送って行けるってさ」

「良かった。でも、エンゲルベルク修道院にはベッドはあっても、布団や毛布が足りてないの」

「布団ならまあ馬車にいっぱいあるな」

「それなら宿泊は問題無いと思うわ」

「良かった。じゃあ、その段取りで決まりかな」

「決まりじゃない。私も行きたい……」


 そう言ったのは、アフラだった。


「行くって、エンゲルベルクへ?」

「うん。イサベラさんは、お手紙で呼び出されて、エンゲルベルクへ戻ってから本国へすぐ帰ってしまうの。だからすぐ行かなきゃダメなの」

「ダメなのって言っても、またお父さんに怒られるぞ」

「書き置きだけで出て来ちゃったから、どっちにしても怒られるの。マリウスも連れて来ちゃったし……今なら一つ増えてもおまけみたいなものよ」

「無茶の破れかぶれじゃないか……知らないぞ。兄さんが行くから僕はいいけど」

「いいの?」

「まあ後は兄さん次第だな。上手く頼め」

「うん……」

「私も……行きたい……」


 心苦しそうにそう言ったのはユッテだった。


「駄目ですよ、ユッテ様。お約束の日はもう今日ですから。私達も急いで帰り支度をしませんと」


 と、セシリアがピシャリと言った。


「う……アフラはいいわね、理解あるお兄様で」

「では、まずはお着替えを」


 有無を言わさないセシリアの言葉で、ユッテは奥の部屋へと連れて行かれた。

 イサベラは思い出したように言った。


「じゃあ私、クヌフウタさんを呼んで来ます」

「一緒に行くよ。用意はもういいのかい?」

「ええ。荷物もあまり無くて」

「アフラは?」

「私もあまり無くて」

「元の部屋にもまだ結構あったぞ? 何かいっぱい貰ったみたいだな」

「そうだった……」

「僕はおもちゃの剣貰った!」


 アフラとマリウスは荷物を纏めに部屋へ行き、アルノルトとイサベラはそれに付き添った後、修道院へ一緒に向かった。

 


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