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招かざる客


 それからもルーディックと衛兵達は、城内で徹夜の番をするのだが、侵入者を発見する事は出来なかった。

 明け方から起き出したアルノルトは、ルーディックのいる詰め所まで行ってみた。


「ルーディック」


 見張りをしつつウトウトしていたルーディックは、弾かれたように起きて言った。


「ああ。アルノルトか」

「その後、見つかったかい?」

「いや、さっぱりだ。襲って来た奴も結局逃げられたし」


 ルーディックの細い目はいかにも眠そうだ。


「しばらくそこで寝てるといいよ。僕が見てるから」

「そう? じゃあ、お言葉に甘えて、少しの間だけ寝かせてくれ」


 ルーディックはそう言ってその場の板の間に寝転び、すぐに眠ってしまった。

 窓からは中庭の様子が見え、城壁上の建物の窓からはロープが吊り下がっている。

 周辺の窓からは衛兵の顔が時々覗く。しかし、それでは侵入者に警戒されるのも仕方が無いと言えた。

 しばらくすると、「火事だ!」と言う騒々しい声が聞こえた。

 衛兵が詰め所に駆け込んで来て、「火事です!」とルーディックに告げた。

 ルーディックは眠い目を擦りつつ、


「侵入者のしわざ?」と聞き返し、立ち上がった。


「僕はここで見てるよ」


 アルノルトはそう言って監視役を買って出た。


「助かるよ。ちょっと行ってくる」


 ルーディックが火事現場へ行ってみると、裏口のドアに火が点いて燃えていた。壁が石で類焼するものが無く、火はすぐに消し止められた。


「侵入者がドアを破ろうとしたのかな?」

「燃えていては通れませんし、この向こう側にももう一枚城壁がありますから、すぐには出られません」

「念のためこの向こう側を見てみよう」


 ルーディックと衛兵は、焼け焦げたドアをこじ開け、向こう側の門まで探索に入った。

 一方で、中庭を見ていたアルノルトは、不審な人影を見付けた。

 衣裳は衛兵のものを着ているが、中庭へ出てキョロキョロしている。そして、ロープを登り始めた。

 アルノルトは武器庫から槍を取り、中庭へと足音を忍ばせて歩いて行った。

 不審者はロープをかなり上った所でアルノルトに気が付いた。

 アルノルトは槍を構え、「武器を捨てろ」と言った。

 不審者はしかし、槍が届かない所へ逃げようと、さらに素早く上に登る。

 アルノルトは仕方無く、槍で足を少し刺した。

 不審者はさらに火が点いたように必死に上に登り、槍が届かない高さになった。


「上に行ったよー!」


 そう声を掛けたが、上にはさっきの火事騒ぎで人がいないようだ。


「しょうがないな」


 アルノルトは武器を剣に持ち替え、塔の階段を全力で駆け上り、城壁の上に出た。

 城壁の窓から顔を出すと、そこにまだ男はぶら下がっていた。

 そこから見上げるその顔は、どこか見覚えのある気がした。


「武器を捨てて降参して。でないとロープを切るよ」


 アルノルトは剣を振り上げてみせた。


「判った! 降参する! だが、両手が塞がっている。まず登ってからにしてくれ」

「あれ? あなたは…‥…‥」

「おや? 君か!」


 それは、以前イサベラが連れ去られた時に一緒に追い掛けた騎士、ピエールだった。

 アルノルトはピエールが上がるのを待ち、窓際から手を貸した。

 ピエールがそこへ降り立つと、「甘いぞ少年」と言って剣に手を掛けた。

 アルノルトは剣を構えるが、あまり剣には心得が無い。戦えば不利な状況だった。


「確か、ピエールさん? まさかイサベラお嬢さんを探しているとか?」


 ピエールは剣から手を離し、両手を広げて言った。


「おお。そうだ。どこにいるかご存知か?」

「知ってるけど、侵入者で城内は大騒ぎだ。おいそれと言えないな。僕も肩にこんな怪我させられたしね」

「ここにいた男は見つかったようだな」

「昨夜とっくに逃げたよ。その窓からね」

「そうか。ではもう逃げるルートも無いようだ」

「大人しく降参するんだね」

「降参するにあたって、一つだけ条件がある。この手紙をイサベラ姫に渡して欲しい。急ぎの手紙なんだ。しかも密書だ」


 アルノルトは手紙を受け取って言った。


「手紙? 届けるくらいはいいよ。それを届けに来てこんな事を?」

「まあ、それもある」

「人騒がせだなあ。普通にルーディックに言えば良かったのに」

「ルーディック?」

「あの時もう一人一緒にいた友人が城主なんだ」

「そうなのか? てっきりまた、王家の手の者に連れ去られて、ここに軟禁状態にされたのかと思っていた」

「まさか、それで連れ戻しにこの城に? こんな命掛けで?」

「ああ。これも騎士の務めだ。あの時のように後悔をしたくないからな」

「見上げた騎士ですね、あなたは」


 アルノルトは笑顔になって剣を収めた。


「話の判る男のようで良かった」

「イサベラお嬢さんなら今日にも帰る所でしたよ? でもなあ、みんな徹夜の警戒で、かなり頭に来てますよ。見つかったら酷い事になるでしょうね」

「既に君に見つかって、一度は観念したわけだが?」

「僕はここでは客です。まだ城の人には見つかってない。何とか僕の客として、城主を説得してみましょうか?」

「それは何という僥倖、君に見つかって良かった」


 ピエールは胸に手を当てて笑顔になった。

 そう言ってると、ルーディックが衛兵を連れて駆け上がって来た。


「アルノルト! また捕まえてくれたか!」

「いや。懐かしい知り合いだ。紹介するよ。前にイサベラ姫を一緒に追い掛けたピエールさんだ」

「ピエール・ド・シャンブリーです。その節はどうも」

「あの時の馬車を走らせてくれた方……いやいや、怪しいな。見張りの厳しい中でどうやって此処にいるのでしょうか?」


 ルーディックは不敵に笑った。

 アルノルトはさらに不敵な笑みを返した。


「イサベラお嬢さんへこの手紙を届けてくれた。僕への臨時の客という事にしてくれないかな?」

「姫に? まさかブルグントの方?」


 ピエールは胸に手を当てて言った。


「はい。ブルグントの母君より姫の警護を仰せつかっております」


 アルノルトは追補した。


「本人からは遠ざけられて、遠くから隠れての警護みたいだけどね」

「なっ。何故それを……」


 ルーディックは警戒を解いて言った。


「そうでしたか! そういう方なら我が同士です」


 ピエールは跪いて言った。


「イサベラ姫をここまで追って、お連れしに参りました。城主があなたとは知らず、押し入る結果となり、大変失礼を致しました」

「そうでしたか。姫にお会いになりますか?」

「お目通りをお許し戴けるのでしたら……」

「まだ朝も早いので、お目覚めを待って聞いてみる事にしましょう」

「じゃあそれまでは僕の部屋へ案内しよう」


 アルノルトはピエールを始めにいた部屋へ案内して、少しの休憩を取りつつ話をした。


「この手紙の用向きは、やっぱりイサベラお嬢さんの結婚の事ですか?」

「おそらくは。場所を知られてしまい、再び軟禁される事を怖れた事もある」

「結婚の相手はどういう人なんです? 彼女、泣いていましたよ?」

「……それは、国際問題に関わるので言えない」

「そうですか。逃げた男の方はまた押し入ったりしないですか?」

「来るかもしれない」

「腕が達者な人のようですから、放っておくと危険ですね。一度戦って、この怪我をしたんです。ルーディックも戦いましたから、傷つけられていたのが彼だったらこうしていられなかった事でしょう」

「奴と戦ったのか。よく無事だったものだ」

「そんなに危険な人なんですか?」

「彼は恐れなき勇士だ。任務遂行のためならどんな犠牲も厭わない。任務終了を知らせたい」

「始末に負えないほど危ないですね。すぐ知らせたいですね」

「奴の性格なら、火事に乗じてもう侵入して、屋根にでも登っているかもしれない。窓を借りましょう」


 ピエールは窓から体を乗り出して、屋根へ大声で叫んだ。


「オーギュスト! 任務完了! オーギュスト! これから交渉する! あとは任せろ!」


 すると、少し離れた所に屋根からロープが垂れ、そこを黒いローブの男が二人急降下して行った。

 ピエールとそのオーギュストと呼ばれた男は目で頷き合う。


「任せたぞ」

「絶対殺すなよ」


 男達は着地すると、駆け寄った衛兵を蹴り倒し、ロープを持って自身を振り子のようにして城門を飛び越えて行った。


「すごい! でも気の毒に……」


 アルノルトもそれを窓から乗り出して見ていて、嘆声を漏らした。

 ルーディックはその後、警戒態勢を解除し、衛兵達はようやくそれぞれの寝床へと帰って行った。もちろんルーディック自身も自室へ帰って眠った。

 そこへエルハルトとマリウスが部屋へ帰って来た。エルハルトはアルノルトを見て、見たことも無いくらいの笑顔を見せた。


「アルノルト! またお前が侵入者を見付けたって?」

「ああ。まあ……そうなんだ」

「なんだその気のない返事は。村の栄誉じゃないか! 良くやった!」


 エルハルトはアルノルトの背を叩いた。


「はは。人前でそういうのは……」

「この人は?」

「ピエールさんだ。ブルグントの騎士で、前にお嬢さんを一緒に追い掛けた人」


 マリウスはピエールに見覚えがあった。


「あ。おじさん捕まえてくれたおじさん」

「ん? 知ってるのか?」

「あの牛の犯人を捕まえてくれたんだ。木の棒を振り回して危なかったのを助けてくれた」

「ああ、あの時の!」


 エルハルトはピエールの手を取って言った。


「マリウスの恩人でしたか! 罪人を捕らえてくれた功労者でもある。深く感謝します!」


 ピエールは小さく頷きつつ言った。


「そこにいれば、当然のことをしたまでさ」


 アルノルトは苦笑いだった。


「危うく恩人を切り落とす所だった。少し刺しちゃったし……ごめんなさい」

「コラ。恩人に何をしてるんだ」


 ピエールは両手を振って言った。


「いやいや、見付けたのがアルノルト君だったからそれで助かったと言える。大いに助けて貰ったよ」


 エルハルトはそれで事態を察した。


「じゃあこの人が?」

「そう。侵入者」

「大丈夫なのか……」

「もう危なくないよ。もちろんルーディックと話は着いてる。僕のお客という事になってるんだ」

「決して危害は加えません。招かざる客で申し訳ありませんな」


 エルハルトはピエールをしばし見据えて言った。


「弟に感謝して下さいよ。こんな特別な配慮はアルノルトにしか出来ないでしょう。ましてやアルノルトは手術する程の怪我もした」

「仲間がひどい怪我をさせてしまったようだ。誠に痛み入る」


 ピエールは膝を折り曲げて、深く礼を取り、謝意を示した。


 しばらくすると、部屋へブリューハントが迎えに来て厳しい顔で言った。


「イサベラ姫がお会いになるそうです」


 ピエールが笑顔で立ち上がって言った。


「ありがたき幸せ」


 ブリューハントは厳めしい顔を小さく振って言った。


「しかしながら、随分ご立腹でしたぞ。厳しいお言葉は御覚悟下さい」

「誠に痛み入るばかりです」


 アルノルトも立ち上がって言った。


「僕もこの手紙を渡しに行こう」

「それは拙者が……」

「万一だけど、そのまま牢に捕まったりしたら、渡せなくなるでしょう」

「確かに……」

「一緒に行きましょう」


 ブリューハントの案内でピエールとアルノルトはエリーザベトの部屋へ入った。そこには少し迷惑顔をしたイサベラの他にはエリーザベト、ルーディック、ユッテ、そしてアフラが居た。


「ご機嫌麗しゅう、イサベラ姫」


 ピエールはイサベラの前へ出て跪いた。

 イサベラは、怒りに声が震えるような様子で言った。


「皆さん徹夜の警戒で寝不足です。どんなにご迷惑をお掛けしたか、ご存知? 私の大事な友人を死の危険に晒したんですよ! 申し訳無くて、穴があったら入りたい気持ちです!」


 ピエールは首を竦め、アルノルトを振り返り言った。


「アルノルト殿とルーディック卿には、心より謝罪を致しました」


 アルノルトもそれに頷いた。が、イサベラは早口で捲し立てた。


「彼には剣を突き付けたそうですし、ルーディック卿も危険に晒しています! それだけではありません! アルノルトさんの怪我は手術が必要な程でしたし、ここにいるアフラはその時の医療上の事故ですが、薬で死にかけたのですよ!」

「まさか、そのような事になろうとは……」


 ユッテが欠伸をしつつ言った。


「私も手当てに付き添って不足」


 イサベラはユッテに頷いて言った。


「ユッテ王女にも脅威を及ぼしました。元を質せば、全てあなたのせいですよ! まずは皆さんに謝罪をして下さい!」

「皆様。多大なるご迷惑をお掛けしました。深く陳謝を申し上げます」


 ピエールは深く跪いた。

 エリーザベトがそら寒くなるほどの微笑で言った。


「裏口で火事がありましたが、あれはあなたが?」

「あと三人程仲間が居りまして、その一人が……」

「良かった事。あなたでしたら帰れなくなる所でしたよ?」


 ピエールは無関係とは言えず、思わず怖気が走った。

 イサベラが腰を低くして言った。


「私からも謝罪致します、エリーザベト様。かかった費用は全て私の方で弁償致します」

「いいんですよ。やった当人にきっちり責任を取って貰えましたら」


 ピエールは平身低頭で言った。


「共に行動した者としまして、いかなる責めも逃れられるものではありません。全ての罪は私が受け、弁償は私がしたいと思います」

「ならば先ずは裁判となりますが、宜しい?」

「裁判……本当に帰れなくなるようですな」


 アルノルトが庇うように前に立って言った。


「裁判という事なら公正さが必要ですし、少し弁護をさせて下さい。この人はまず、命の恩人です。一度は祭りの火が倒れた時に助けてくれた。それに、イサベラお嬢さんが連れ去られた時には、一緒に追ってくれたんです。その時はルーディックも一緒だったね」


 エリーザベトがルーディックを見ると、「そうなんだ」と頷いた。

 イサベラも「確かにそうでした」と頷いている。

 アルノルトは続けた。


「それに、国境の牛殺しの犯人を追い詰めて、弟とイサベラ姫が襲われた時にも取り押さえ、捕まえてくれた。これは僕らウーリにとっても大恩人です」


 エリーザベトは驚くように言った。


「まあ、その時の? そうでしたか。それは私供の立場としましても同じですわね」

「そして今回は、緊急の手紙を届けに来たそうですが、イサベラ姫が王家の手の者に連れ去られ、ここに軟禁されたと勘違いしたそうです。そして、彼女を助けるために、この堅城に決死の潜入を試みた。そうですね?」

「はい……勘違いではございましたが……」

「この行為は騎士として、思わず賞賛してしまう。騎士道に適っているのです」


 エリーザベトは感極まって言った。


「なんて素晴らしい方! 正しく騎士の鑑ですわ!」


 エリーザベトは笑顔で称賛を述べた。これは心からのものだった。

 ルーディックがその変わりように驚き、拍手して言った。


「同じ行いでも、弁護で全く変わってしまった! 驚くべき弁護だよ、アルノルト」

「いえいえ、これはピエールさんの真実あってこそ。真実に少し手を添えさせてもらっただけ、とミュルナーさんなら言う所かな」


 エリーザベトは小さく拍手した。


「エクセレント! それこそ最高の弁護ですわ。あなたのお陰で優れた功労の騎士を見誤らずに済みました。また助けられましたね」


 笑って返したアルノルトは、懐から手紙を出しつつ言った。


「彼から預かっていた手紙はここに。緊急の手紙だそうだよ」


 そう言ってアルノルトはイサベラに手紙を渡した。それを受け取ったイサベラはしかし、葛藤する表情で言った。


「ありがとう。でも、アルノルトさんにはこんな怪我をさせてしまいました。皆さんに危険とご迷惑をお掛けした事には変わりありません。私としましては、二度とこのような事が無いよう、厳重に処分をしなければなりません」


 そんなイサベラに、エリーザベトは優しく首を振って言った。


「宜しいのですよ。良い騎士をお持ちではないですか。単身飛び込んで来てくれる方なんてそうはいません。こちらは賠償も何も全て許しますから、お許しになっては?」

「そうですよ。怪我をしたアルノルトが率先して許している事ですしね」


 ルーディックがそう言うと、アルノルトも「もちろんもういいんだ」と頷いた。


「傷はルーディックの剣だったし」と付け足して笑えば、ルーディックは謝る仕草をしている。


「エリーザベト様とアルノルトが許すなら、もう無罪よ。あとアフラは?」とユッテが言った。

 アフラを見れば、もちろん許すと言うように頷いている。


「ありがとう。皆様がそう仰るのでしたら……」


 イサベラは低く礼を取り、そう言った。

 ピエールも皆に向き直り、さらに低く礼を取った。


「心よりお詫び申し上げます」

「そう来なくちゃ」とアルノルトは笑った。


「良かったこと。これで丸く収まりましたね」


 エリーザベトが小さく拍手をすれば、皆、笑顔をイサベラに向けている。

 ただ、ブリューハントは厳めしい顔をさらに難しい顔にしていた。


「だが、あやつは逃がせない。ただ逃がしては、堅城の信頼がもうズタズタです……」


 アルノルトはそれを振り返り言った。


「クロスボウの達人はさっきまで屋根の上にいたんです。もうピエールさんに追い返してもらいましたが」

「な、なんと……」

「それに、今もまだ誤解したままで、敵に回せば危険なんです。いっそ逆に一度城へ招いて、城の弱い所を指南して貰うのはどうですか? ご馳走もして、味方に付けた方が得策です」

「そうか! その手があった!」

「それはいいアイデアだ。是非ご指南願いたいね」


 ルーディックはそう頷くと、エリーザベトを振り返った。


「ご指南戴けるのでしたらむしろ顧問料をお支払いしますわ。皆さんを食客として歓迎致します。そうお伝え下さいますかしら?」


 エリーザベトにそう問われたピエールは、胸に手を当て、涙すら浮かべた。


「まことに……まことにこの無骨者の我らに、身に余るご配慮……有難うございます。取り分けては、アルノルト君にも感謝を述べたい」

「僕?」

「最高の弁護者、そしてなにより我らが騎士道の、真の理解者です」


 ピエールが涙を滲ませて頷くと、イサベラも礼を取って言った。


「本当に。アルノルトさんがいて下さらなかったらどうなっていた事か。本当にありがとう」


 ルーディックが考えつつ言った。


「このまま小競り合いが続いてたら……ブルグント公国との戦争に火が点いてたかも……未然に防げたのはアルノルトのお陰だ」

「私達は逆を向いていました。全てアルノルトさんが導いてくれた答えでしたね。これは第一級の功しです」と、エリーザベトが続けて相槌を打つ。

 イサベラは続けて同意する。


「本当に。アルノルトさんはいつも私の思惑なんて跳び超えて、それでいて最善の結果へと導いてくれます」

「アルノルトは私達の国が戦争になるのを止めてくれたのね! またキスしてあげなきゃ」とユッテ、

「兄さんはもうヒーローね」とアフラ、

 ブリューハントは「見上げたもんだ」と皆アルノルトを褒め称えた。

 褒められ慣れていないアルノルトは、照れ顔を手で隠して言った。


「穴があったら入りたい……」


 ルーディックはアルノルトの背を叩いた。


「それはこういう時の言葉じゃないよ。むしろ誇っていいんだ。胸を張って、アルノルト」


 ルーディックにそう言われてアルノルトが懸命に胸を張ると、ユッテが跳んで来て、腕に抱き付き、頬にキスをした。

 アルノルトは寝ぼけたような顔で頬を手で擦った。

 ルーディックは言った。


「これはいい勲章ですね。ロイヤルキッスの栄誉に預かれるなんて」

「いや、気分は散々な目にあってると言う方だ」

「まあ! また失礼を言うのね!」


 ユッテはアルノルトの怪我した肩を叩いて去って行った。


「イッテ! また! ほら、ね?」

「プッハッハ。自業自得だよ。アルノルトといると楽しいね」


 ルーディックが笑うと釣られて皆も笑った。



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