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剣の先生


 そうしていると、給仕とリーゼロッテによってタルトとお茶が運ばれて来た。

 後ろからはエリーザベトも歩いて来た。


「皆さん大変おまたせ致しました。甘いものをお持ちしましたよ」

「うわーい!」


 と、同時に喜んだのは、マリウスとハルトマンで、お互いに顔を見合わせた。


「これは……何タルトですか?」


 アフラが聞くと、給仕が言った。


「赤い方は摘みたてチェリー、白の方は三種のベリーのレアチーズタルトです。お好きな方をどうぞ」

「どちらもおいひそう……」


 アフラはもうよだれが出て来て舌が回らないようだった。

 給仕は選んで貰いながらタルトを小皿に取り分け、王女から位の順に配って行った。

 リーゼロッテはローズティーを淹れてテーブルへ配って行く。


「これ美味しい!」


 ユッテが白い方のタルトを口にするやいなや、そんな声が漏れた。ユッテは食べ慣れてるので、普段そう口にすることは少ない。

 それを聞いて皆、白い方を頼み、競うようにかぶり付いた。

 アフラは一口食べて天にも昇るような心地で言った。


「何て美味しいの……」

「ん。チーズクリームがお上品で」


 イサベラもそう頷いた。

 エリーザベトもその近くへ座って言った。


「お気に召して頂いて、何よりの幸せです」


 マリウスやハルトマンは黙々と食べ、もう一つお替わりを所望した。

 エルハルトはチェリータルトを食べて、


「美味しい。さすが摘みたて」と言っている。

 クヌフウタも同じチェリータルトを食べて、


「新鮮だと美味しいですね」と頷いていた。

 アルノルトはチーズの方を一口食べて言った。


「これ、習ったのに近い」


 アフラはしかし激しく首を振る。


「あれは、こんな美味しくない……」

「チーズタルトとフルーツタルト、両方を合わせれば作れるかも。交互に頬張って食べてたから、そのミックスの味に近いんだ」

「ホント?」

「ブルーベリーとストロベリーとラズベリー? 三つのベリーのシロップ漬けがあれば出来そうだ。それにベルケルさんにいいチーズを貰えば、同じじゃないにしてもいいのが出来るんじゃないかな?」

「兄さん! それ作って!」


 アフラが目を輝かせ、力を込めて言った。


「帰ったら作ってみよう」

「うん!」


 ユッテはそれを聞いて溜息を吐くように言った。


「いいわねー。次にそれを作る時には私はいないのね。呼んで欲しいものだわ」


 アルノルトは慌てて言った。


「まだ下手っぴだし、ちょっと試すだけだ。上手く出来るかどうか判らないよ」


 そう頻繁に村に来られては、一家に災難が降りかかることだろう。

 まだ不満そうなユッテに、アフラも言った。


「始めはまだ試し試しですから、ユッテさんが次に来る時には美味しいタルトが作れるように、練習しておきます」

「そう? それは今から楽しみね」


 ひとまずそれで話は収まったので、アルノルトは肩で息を吐いてエルハルトを見た。

 エルハルトも溜息を吐くような仕草をした。

 それから一同はローズティーを飲み、華やかな香りを楽しんだ。

 ルーディックはエーバーハルトに近付いて言った。


「せっかくの機会です。エーバーハルト様にまた御指南をお願いしたいのですが」

「剣の練習か。いいだろう。ルードルフも鈍ってないか?」

「時々ルーディックと練習してました」


 貴族ご令息達はしばらくすると、鎖帷子や鎧を着込み、中庭に出た。


「アルノルトも来て!」


 鎧を着たルーディックが騒々しくアルノルトを呼びに来た。


「僕は剣なんてやったこと無いよ。危ないし」

「大丈夫だよ。模擬刀だから」


 そう言ってアルノルトが連れられて行ったので、一緒に令嬢達も見学に出た。それにエルハルトとマリウスもついて行った。

 鎖帷子を着たエーバーハルトは、練習用の鎧を着込んだルーディックと対峙して言った。


「今日は案外役に立つ少し変わった方法を教えよう。打ち込んで来るがいい」

「はい!」


 ルーディックは慣れた手付きで剣を構え、鋭く斬りかかった。

 金属音が鳴った。

 エーバーハルトはその剣を跳ね上げ、ルーディックの懐に飛び込み、剣を持つ腕を掴みつつ首筋に肘を当てた。

 勢いで倒れたルーディックにエーバーハルトは馬乗りになり、剣を首に当てた。


「ま、参りました!」


 ルーディックは剣を離して手を上げざるを得ない。

 破顔したエーバーハルトは立ち上がり、ルーディックを起こして言った。


「剣は互いに一本だが、こうして手や体を使うことで優位に立つ事が出来る。それに、鎧を着ていると剣を通さないから、こうして倒して投降を迫る方がいい」

「これは強いです。かなり本気で打ち込んで、一瞬でこれですから」

「まあさすがの太刀筋だった。ジュニア大会で優勝しただけはある。まず実際やってみるのがいいが、私だと身長が合わないようだ。アルノルト君、君がさっきの打ち込む役をするんだ」

「僕? まだ何の準備も……」

「向こうにある鎧を貸してあげる」


 ルーディックの案内で、アルノルトは練習用の鎧を借りて着込んだ。その間にルードルフとハルトマンが木剣で同じように実演をして習い始めた。

 鎧を着込むと、アルノルトはルーディックと対峙した。


「思いっきり打って来ていいよ」


 ルーディックは剣を構えた。


「じゃあ行くよ」


 アルノルトは大きく振りかぶって剣を打ち下ろす。

 ルーディックはそれを鈍い音で弾いて懐に飛び込み、肘を当てた。しかし、それより速くアルノルトは後へ跳び去り、技は不発だった。


「やるね!」

「そりゃあ、来るのが判ってたら避けられるよ」


 エーバーハルトは笑った。


「そうだ。実際に避けられる事もある。避ける間が無いようにもっと早く飛び込み、腕を取って捻るように倒すんだ。肘で押すのは最後の一押しだな。もう一回だ」


 ルーディックとアルノルトは再び剣を構えた。


「次は最初から避けないでくれよ。練習だから」

「わかった」


 アルノルトは剣を打ち込んだ。ルーディックはそれを避けつつ剣を滑らして前へ進み、アルノルトの腕を取り、肘を当てる。が、アルノルトは倒れなかった。力に合わせて重心を低くしていたのだ。


「たっ倒れない!」

「避けずに踏ん張ってみた」


 見ていた家族と令嬢達はそれを見て笑い声をあげた。

 エーバーハルトの目が光った。


「剣術には足裁きと下半身のバランスが重要なんだ。アルノルト君は何か心得があるようだ。何をしている人なのかな?」

「僕は普段、山で羊飼いをしています」

「羊飼い? 山で? それでそのバランスと下半身……では、交代してみよう。次はアルノルト君が倒す役だ」


 対峙し直して、ルーディックが剣を打とうとして、気が付いた。


「アルノルトは剣を握ったこと無いって言ってたね。受けられるかい?」

「いや、相当ダメだ。当てないくらいで頼む」

「そうか」


 ルーディックは肩を撫でるつもりで剣を放ってみた。

 瞬間にアルノルトは剣と逆側の懐にいた。剣は弾かれずにまだ宙にいる。

 そのままルーディックは抱き付かれた格好になり、タックルで飛ばされるように倒れた。

 そしてアルノルトはマウントポジションで座る。が、剣は取り落としていた。

 見学している令嬢達から拍手が湧いた。


「見事だ。その突進でいい。驚くべき足の速さと、足裁きだ」


 エーバーハルトも小さく拍手して言った。


「あれでいいのか! 一回で負けた!」


 と叫んだのはルーディックだった。


「まぐれだよ」


 アルノルトはルーディックの手を取って起こし上げた。

 エーバーハルトは言った。


「今のだと剣が無くても出来ていたな。実際にこの技は剣が折れた時に編み出したものだ。そういう時にこそ有効な技だ。しかし、相手に乗ってから剣を持つ手を放っておくと、思わぬ逆襲に遭うぞ。油断しないように」

「はい! 先生!」


 アルノルトは大きく頷いた。


「先生か。いい響きだ」

「次は僕だ」


 ルーディックはそう言って交代するが、次にやっても、さらにやってもアルノルトは倒れる事は無かった。

 隣でも小さなハルトマンはルードルフを倒すことが出来ず、まるで練習にならなかった。


「交代してみよう」


 エーバーハルトはルーディックとルードルフを組ませた。二人は互いに倒し合い、練習になりそうだった。

 そしてハルトマンの相手は同年代のマリウスがすることになった。子供用の板きれで出来た木剣を渡してエーバーハルトが言った。


「木剣の平らな方で打つこと。ここならそう痛くない。ではやってみよう」


 すぐさまマリウスがハルトマンを剣の腹で打った。それはまともに頭に当たった。


「イッタいな!」

「まずは避けなきゃ」

「判ってる!」


 もう一度やってみると、ハルトマンは避けるだけで精一杯で前に飛び込めなかった。マリウスも面白がって、何度も連続で打ち込んで来るので、後に避けるばかりでますます前に行けなくなった。

 そこへエルハルトが出て来て言った。


「先生。私にも剣の指南をお願い出来ますか? 殆ど心得が無いのですが」


 エーバーハルトは頷いた。


「いいだろう」


 エーバーハルトはエルハルトをアルノルトと組ませつつ剣を教えた。

 その指南をしつつ、子供達を見て、エーバーハルトは言った。


「これは剣の受け方から教えないといけないな。少し聞いてくれ」


 エーバーハルトは一度皆を集めた。


「エルハルト君、この辺りにゆっくり打ちかかって来て」


 エーバーハルトは打ってきたエルハルトの剣を鮮やかに受け流し、次には刀身を首へと当てた。


「剣を避ける時は基本円を描くように受け流す。円運動からすぐに次の動きへと繋げる。剣を受けた瞬間こそが最大の隙だからだ。もう一度打って来て」


 次はエルハルトの打った剣を横へ弾じいたポーズでエーバーハルトは「ストップ」と言った。


「こうして横に弾くと体がブレて、次の踏み込みが出来なくなる。弾くなら重心低く踏み込みながら剣を巻き込んで斜め前へと強く弾く。向こうの体をブレさせるくらい」


 言いながら、剣を巻き込みつつ大きく前へ弾く。エルハルトが二の足を踏んだ所にエーバーハルトは懐に入り、次の瞬間には肘が決まった。


「これはさっきアルノルト君が見せた姿勢だ。この低い姿勢で受けて足はさらに次へと出ている。剣で突く時もそうだが、ここで足裁き、下半身の安定が大事なんだ」

「判りました、先生!」

「では、エルハルト君、次の私の剣を受けられるかな?」


 エーバーハルトの真っ直ぐ突き出した剣は目にも留まらぬ速さで、エルハルトは何も出来なかった。それは頭の寸前で止まっている。


「な、何も出来ませんでした」

「真っ直ぐに来た剣は見えにくいし受けにくい。これを避けるにも足を使うんだ。ゆっくり弾いてみよう。円運動で剣をぶつけて行き、踏み込みは斜め前へ深く。前が無理なら後へ一旦逃げてもいいが、それでは勝ちは拾えない。前へ行く方が攻めの好機を生む」


 エルハルトはゆっくりと出されたエーバーハルトの剣を受け流しつつ踏み込んでみた。


「ストップ! ここだ。この場所からはさっきの肘がすぐに入るだろう」


 エルハルトはそのままの姿勢で肘を出し、前に出た。すると自然に良い場所に肘が決まり、エーバーハルトは倒れた。


「そうだ。それこそ技の完成型だ」


 そうしている間に、ハルトマンとマリウスは互いに打ち合いを始めた。本来なら交互に打ち役、受け役があるはずだが、マリウスは専ら打ち役のようだ。

 それから一通りの実践をすると練習は終了になり、皆エーバーハルトに礼をして脱衣所へ行くが、防具をしていなかったマリウスとハルトマンだけは、廊下を歩きつつ、そして部屋まで木剣で戯れるように打ち合いをしていた。


「部屋で振り回さない。危ないから!」


 アフラに注意されて、二人はようやく木剣を手放し、壁に立てかけた。

 脱衣所では、アルノルト達が鎧を脱いでいると、ルーディックは足を押さえていた。その足のふくらはぎには切り傷があった。


「怪我したのか?」

「足は防具してなかったからね。剣を落とした時に跳ねた刃が当たったんだ」

「まさかあの時? 結構血が出てるな。クヌフウタさんに診て貰おう」


 アルノルトはルーディックを肩に抱えつつ、貴賓室へと連れ帰った。

 部屋へ入って行くと、ルーディックの前にエリーザベトが駆け寄って来た。


「大変! 怪我をしたんですか?」

「落とした剣が掠っただけだよ」


 エリーザベトはしかし、ルーディックのその脚に流れる血を見ると、卒倒するように後に倒れ込んだ。

 とっさにルーディックの伸ばした手は、空を掠めた。


「エリーザベト!」

「キャー! エリーザベト様!」


 近くにいたユッテが悲鳴を上げた。

 すぐにクヌフウタがやって来て、頭を支えて小瓶を取り出し、気付け薬にペパーミントの香りを嗅がせた。


「あ、すいません。少し目眩が……」


 エリーザベトはすぐ目を開け、起き上がろうとした。


「しばらくは安静になさって下さい。長椅子の方へ」


 クヌフウタは鋭くそう言って、ペルシタと二人でエリーザベトを長椅子に寝かせ、おしぼりを顔に当てた。

 アルノルトはルーディックを近くのソファーに座らせて言った。


「ルーディックの怪我を診て貰おうと思ったら、それどころじゃなくなっちゃったね」


 ルーディックはエリーザベトの顔を覗き込み、言った。


「大丈夫? 少し頭を打ったかもしれない」


 エリーザベトは体を横たえたまま言った。


「お騒がせしてごめんなさい。私はもう大丈夫です。クヌフウタさん、先にルーディックの怪我を診て戴けますか?」

「判りました」


 クヌフウタはルーディックをソファーに腹這いに寝かせ、ふくらはぎの手当をした。

 途中で部屋へ入って来たリーゼロッテは、主二人が倒れているので驚いて駆け寄った。


「どうしました! 大丈夫ですか!」


 エリーザベトが頭のおしぼりに手を当てて言った。


「ええ、心配はいりませんよ。クヌフウタさんに診て貰ってますし」


 頷きつつもリーゼロッテはかなり狼狽している。

 クヌフウタはここでも黄色い花を磨り潰してルーディックの傷に塗った。

 そしてさらにその花の湿布を作っていると、アフラが覗きに来て言った。


「卵の膜は使わないんですか?」

「卵の膜?」


 クヌフウタは首を傾げた。


「私のお腹の怪我はお医者様が卵の膜を貼って治したんです。綺麗に治ったんですよ」

「そうなんですか。それは美容的な治療法としてありますね。ただ、貼り替えたり、頻繁に状態のケアが必要ですね」

「はい。でも、治りがとても早かったんですよ」


 ルーディックが顔を上げて言った。


「それは是非やって欲しいな」

「卵があれば私出来ますよ? しょっちゅうはがれて貼り直してましたから」


 エルハルトが横から言った。


「アフラ。クヌフウタさんが今は主治医なんだ。勝手な事を言うもんじゃない」


 クヌフウタはしかし首を振って言った。


「いえ、いいですよ。やってみましょうか? 患者さんのご希望ですし、治りが良いなら私も興味が出て参りましたし」

「じゃあ、リーゼロッテ。卵を一つお願い。割って入れる器もかな」


 ルーディックの指示でリーゼロッテが台所へ行き、卵とボウルを持って来ると、その卵はアフラに託された。

 アフラは普通にボウルに卵を割り、卵殻の欠片の一つから薄い膜を引っ張り出した。それを皆でテーブルを取り囲んで見ていた。一見まるで料理教室のようだ。


「これです。すごく薄くて殻をはがす時気を付けないとすぐ破れちゃうんです」


 と言いながら卵殻から膜を引っ張ると、それは引っ張る度ボロボロと破れた。


「あ……もう一個卵を貰えますか?」

「もうアフラー。言ってる傍からー」

「ルーディックも待ちくたびれてるよ?」

「いいよー? ただ、こうしてると眠くなって来た」


 ルーディックはソファーに腹這いのままだったので、眠そうにしていた。


「お客様の前ですから、寝てはいけませんよ。そういう私も失態でしたが……」


 エリーザベトはこの間に回復し、座った姿勢になっていた。

 リーゼロッテは卵をもう三つほど持って来た。


「今度はそっと割って……」


 アフラは卵の小さな割れ目から、膜を残して殻だけをはがしていった。

 柔らかい膜だけの卵が顔を出したが、幾度も剥がすうち、その膜に破れ目が出来てきた。


「やっぱり破れる……」


 そう言ってアフラは卵の中身をボウルに出し、出て来た分の膜を出来るだけ広く破り取った。


「少し小さいけど、これくらいあれば、傷には足りそうですね」


 そう言ってアフラはクヌフウタに膜を広げて見せ、それを渡した。


「これを貼るんですか? 洗ったりせず?」

「はい! くっつき良くなるのでこのままでいいそうです」


 クヌフウタは鋏を取り出して、その膜を細長く綺麗に切り揃えた。そして再びそれをアフラへ返した。


「これで貼ってみて下さる?」

「はい!」


 アフラはルーディックのふくらはぎにそっとそれを貼った。そして撫でて空気を抜いた。

 うつらうつらしていたルーディックは急にそれを貼られて驚いた。


「冷た! あれ? 触られても痛くない。変な感じだ」

「早く治りますように!」


 アフラは念を入れて膜をぐっと指で押し込んだ。


「ッタ!」

「これで出来上がりです」


 ルーディックは最後の一押しだけは痛かったようだ。

 クヌフウタはそれ見て言った。


「空気を抜いて、しっかり貼り付けるのね」

「はい。このまま五日は保ちます。その頃にはうすーくですけど傷は塞がって来ますよ」

「これではすぐずり落ちてしまいますから、上から当て布と包帯をしておきましょうか」


 クヌフウタはその上に布を当てて包帯を巻いた。

 椅子に座り直したルーディックは、足を何度も曲げ伸ばしして言った。


「ありがとう。不思議ともう痛くないよ」


 すかさずアフラは言った。


「五日間はじっと安静ですよ。足だけですけど」

「はい……五日間安静だね」


 アルノルトはそれを見て言う。


「アフラはクヌフウタさんの弟子みたいだな」

「クヌフウタさんの弟子に? そう見えるかしら?」


 クヌフウタは慈母のような笑顔で言った。


「今日はアフラに一つ教えて貰いましたから、アフラが先生ですよ」

「先生だなんてそんな。たまたま知ってただけですから。でも、クヌフウタさんの弟子になって随いて行ったら勉強になりそうです」

「ローマまで一緒に来ます?」

「それはさすがに……クヌフウタさんがずっといてくれたら、色々教えて貰うのに残念です」

「私がいるうちでしたら何でも聞いて下さい。教えますよ」

「私、薬草のことをもっと教えて欲しいです」

「いいですよ。とは言え今はもう手持ちが少ないのですけど。エンゲルベルクの薬草園へ来れば、たくさん教えてあげられますよ」

「一度、薬草園も見てみたいです。見に行ってもいいですか?」

「もちろんいいですよ。ローマへ発つ前ならいつでもいらっしゃい」

「はい!」


 そう聞いてイサベラが言った。


「それなら私がエンゲルベルクにいるうちにいらして。出来るだけ早く来て欲しいの」

「はい。そうします」

「すぐ来てね。帰らずに待ってるから」

「はい、必ず」


 そう言ってイサベラとアフラは約束をした。

 その時はきっとアフラを送ることになるだろうと、アルノルトは今から頭を悩ませた。



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