訴訟相手と代理人
アルノルトは暗くなった道を歩いてリンデンホーフの丘に上り、そこから初老の男が差していた屋根の方向へと階段を降りて行く。
階段を降りた先は坂道が入り組んでいて、細く背の高い家が幾つも立ち並んでいたので方向を見失ってしまった。
道を行けども小さな建物が多く、公館らしいものは無い。
「あれ、意外と遠いのかな」
坂を下り切ったその道の突き当たりには少し大きな構えの建物があった。
よく見れば、その家の裏に尖り屋根の建物があり、その家は小さな庭で繋がっている。どうやら二棟とも同じ敷地にあるらしい。
既にその家はドアも雨戸もしっかりと閉じてあり、暗くひっそりしている。
アルノルトが庭のアーチから中を覗いていると、そこに家士風の若い青年と、男の子が出て来た。
「迷子?」
男の子はそう言って首を傾げた。
青年はその建物に続くドアに鍵を掛けているようだ。
アルノルトは訊いてみた。
「ここから尖り屋根の家に行けるのかい?」
「行けるよ。この真裏だもの。お客さん?」
「そうなんだ。ここを通ってもいいかい?」
アルノルトがアーチを入って行こうとすると、青年が歩み出て来て言った。
「向こうは今閉めたからもう誰もいないんだ。何か用事なら家の方のドアをノックして」
玄関を指してそう言われて、アルノルトはその家の玄関に回り、ドアを叩いてみた。
ドアを開けて顔を覗かせたのは、さっき隣にいた夫人だった。
「どなたですか? あら、あなたは昼間の?」
「はい。良かった。ウーリのアルノルトと言います」
「もう公務の時間は終わりなのよ」
「そうなんですか!」
「でもウーリの人ならいいわ。あなた! お客様!」
昼間の執政官は部屋の奥から顔を出して言った。
「やあ、ウーリの少年か。来ると思ってたぞ」
そう言って男は応接室の椅子を勧めた。
男はヤコプ・ミュルナーといった。ミュルナー家はチューリヒでは山に城を持つ有数の名家だ。
「それで、用件とは?」
「はい。例の賠償事故の件です。王子に突き倒されて壺を割った自由民って、実は僕の事だったんです。それで、銀貨十枚もの弁償を強いられている所でして……」
「やけに具体的だと思ったら、自分の事だったか。始めからそう言えばいいのだ」
「はあ、初めて会った人だとそこまでは言えず……」
「それで、どうしたいのだ」
「取り戻したいのです。全額を」
「全額って、銀貨十枚か」
「実際の被害額では六枚です。残り四枚は王女が立て替えて出してくれました。後で王子には自分で請求するそうですが、どうせなら連名で一緒に十枚取り返してこちらから返す方がいいです」
ミュルナーは驚いて言った。
「王女とお知り合いなのか」
「ええ。今日一緒にいましたよ。隣に」
「あの騒いどった娘か!」
「そうです!」
アルノルトは得意げに笑った。
ミュルナーは目を白黒していた。
「これは思いのほか凄い案件だ!」
「自分で言うのも何ですが、凄い事に巻き込まれて困ってます」
「王族は誰よりも品行方正が求められる。恐らく訴えられればすぐ償還するだろう。王女が連名となればまた強い。しかし、権力に屈しない申し立ての代理人が必要だな」
「いい人はいますか?」
ミュルナーは少し考えて、思い付いたように言った。
「丁度いいのがいる。腕も度胸もピカイチだ。訴えてみるか?」
「はい! 紹介して下さい!」
「紹介状を書こう」
ヤコプ・ミュルナーはアルノルトに紹介状を書いてくれた。
宛名にはリューティケル・マンネッセとある。マンネッセ家もチューリヒでは要職を占めるような名家だった。
すると、休憩から五つ目の鐘が鳴った。もう時間が無くなっていた。
「せっかく紹介状を書いて頂いたのですが、そろそろ仕事に戻らなければいけません……」
「そうか。もしかして壺の代金のために?」
「そうなんです。全財産を弁償に回して帰れなくなったので、そのホテルで働いているんです」
「それは難儀なことだ。しかし、代理人にもお金がかかるぞ」
「幾ら程……」
「まあ親御さんがしっかりしているし、成功報酬にもなるだろう。地図を付けるから明日にでも行って聞いてみるといい」
「ありがとうございます」
アルノルトは紹介状と地図を受け取って、ミュルナーに礼を言ってその場を退室した。
帰り道、再びリンデンホーフの丘に上り、一番高い所へ上ると対岸の街の明かりが差し込んで明るくなる。
手に持った地図の示す家は川の対岸にあり、そこから目で見て場所の見当を付けた。
その対岸へアルノルトは地図を手に叫んだ。
「ヨーシ!」
「兄さん?」
かなり下の方で声がした。丘の下を歩く人影がある。暗いが顔はようやく見えた。
「アフラ? どうしてここに」
「やっぱり兄さんね」
丘を上る道のあたりに街灯があり、少し明るい所にあるベンチに座ってアルノルトはアフラを待った。
「よく判ったな。執政官殿からはこの紹介状を貰って来た」
アフラが丘に上って来ると、アルノルトはそう言って紹介状を渡した。
「勝手に行くなんて非道いわ。私も被害者なのに!」
「そうだったな」
「誰への紹介状?」
「代理人だ。明日は朝が空いたから、行って事件の申し立てをしてくる」
「取り返せそう?」
「腕がピカイチだそうだ。多分いけるんじゃないかって」
「良かった。私も行こうかな」
「なら朝一緒に出ようか?」
「今日はエーテンバッハ教会に戻って泊まるの。外泊を知らせてなかったから。その帰り道なの」
「じゃあ会ったのは偶然か?」
「そうね。道に迷ったの。すごい偶然」
「頼むからここで夜道を迷わないでくれ。危ないから」
アルノルトは冷や汗をかきながら、丘を抜けるまでアフラを案内して歩いた。
「エーテンバッハはそこの通りを真っ直ぐ下って行けばすぐだ。もう見えるな」
「意外と近道かも」
丘を出るともうエーテンバッハ教会の塔が見えている。坂を除けば案外いい近道かもしれない。
「明日の朝はこの丘の上で待ちあわせようか」
「うん」
二人はそこで別れ、アフラはリンデンホーフ通りと呼ばれる道を下って行った。
アルノルトはそれをしばらく見守っていたが、時間が無いことに気が付いて、慌てて逆側へ丘を駆け下りて行った。
町ではあまり見かけないその足の速さに、すれ違う人々は驚いて目を見張った。
ホテルへ帰ったアルノルトは、厨房に山のように溜まった皿を洗い、ある程度片付いた所で終了の声が掛かった。
コック長は「ありがとよ」と言って送り出してくれる。
そして、アルノルトはユッテの部屋へ戻った。
部屋前のベルを鳴らすと、年長のロザーナがドアを開けてくれた。
「ありがとう、おばさん」
「こらあ! おばさんとか言うんじゃ無い」
ロザーナはふくよかな体型で三十過ぎに見える。アルノルトにとってはどう見てもおばさんだが、意外に肌に皺は少なく、結婚指輪はまだ付けていなかった。これは失敗したようだ。
「お嬢さん?」
「うん。それならよろしい」
「お嬢さん? 遅くなってすいませんでした」
アルノルトがなんとか宥めて自室へ入って行くと、そこでは護衛騎士二人がいて、何か熱心に話をしており、入って行っても一瞥しただけで、構わず話を続けていた。ベッドの下になっていたスツールが一つ抜かれ、それをソファーの向かいに置いて騎士が座っていた。
アルノルトは仕方無くベッドの椅子をさらに抜いてそこに座り、置いていた鞄を開けてポケットの中の紹介状を入れ、父への手紙を書き出した。
「ボーイさん、ワインをくれ」
騎士二人はアルノルトにワインを注文して来た。そう言えばアルノルトの服はボーイ服のままだった。
アルノルトは仕方無く部屋を出てロザーナやセシリアを探した。しかし、広間を探してもいないようだ。取り敢えずアルノルトは広間でボーイ服を脱いで、下着となる長い貫頭衣状のコットだけの姿になった。
すぐそこのドアでロザーナの声がしたので、ノックをしてみた。
ドアが開くと、ロザーナが出て来た。
「どうしたね」
アルノルトは周りに聞こえないよう小声で言った。
「騎士さん二人が僕の部屋にいて、ワインをくれって言ってるんだ」
「ああ、あの部屋に行ったのね」
「ボーイ服着てたから頼まれちゃって」
「判ったわ。後でね。ちゃんと言っておくよ。ほらあっち行った」
すると部屋の奥の方で声がする。
「誰?」
突き当たりの部屋でカーテンを開けてユッテが顔を出した。
ユッテは慌ててカーテンを閉めて湯船に隠れた。
「キャア! 見ないで!」
アルノルトはユッテが何をしてるかも良く判らなかった。
「何してるの?」
「入浴中さ。ほら、しばらく部屋に入ってて」
渋い顔でロザーナにそう言われ、慌ててアルノルトは部屋へと逃げ帰った。
部屋へ入ると護衛騎士二人に睨まれた。
「見たな?」
「いえ、辛うじて見てません」
「王女の入浴を覗くなんて、普通に死刑だぞ」
「えっ。かち合ったくらいで死刑だなんて。殆ど胸が膨らんでもいないのに……」
「それこそ姫の秘密だ……」
「やっぱり見たな……これはやばいぞ」
アルノルトは項垂れてここに来た事を心から後悔した。
「はあ……」
とたんに護衛騎士二人は笑った。
「まあ、訴えられればだがな」
「俺達はそうならないようにここに避難してたんだ」
「例のお気に入りだったか」
「見ておいて良かった。剣を抜いた奴は飛ばされたからな」
「王女はお天気屋だ。まあ上手くやることだ」
「まあ、どうだ、馴れ初めでも話さないか」
お喋りな騎士達にいろいろ捲し立てられ、アルノルトは当惑気味だ。
「その……お天気屋っていうことには賛成です」
「お。そうか」
騎士達二人は笑った。
「ロザーナさんが、ワインは後でと言ってました」
「そうか、そうか。今は忙しいだろう」
「お前のつてで一杯頼めないものか。ここで働いてるんだろう?」
アルノルトは仕方なく再び部屋を出て、廊下を少し歩き、通りかかったホテルのボーイを捕まえて、ワインを頼んだ。
部屋に戻り、広間に入った所でユッテと出くわした。体にはタオルを巻いていて、後にはセシリアが続いて髪を拭いている。
「もう! イヤー!」
セシリアを残してユッテは部屋へ駆け込み、バタンと音を鳴らしてドアを閉めた。
「まずいとこに来ちゃった?」
「ええ……部屋へ入ってて下さい」
セシリアは冷たくそう言ってドアの前に立ち、ノックして「ユッテ様」と呼びかけた。なかなか反応が無いようだ。
アルノルトはそれを横目に部屋へ入った。
「ワインは頼んできたよ……」
アルノルトはそう言ってから椅子に座って頭を抱えた。
「もう追い出されるかも……」
「これは、やってしまったようだな」
「悪かったな。これはチップだ」
騎士はそう言って一枚のコインをくれた。
文無しだったアルノルトは、これにはとても助かった。
「ありがとう」
見慣れないコインをアルノルトは物珍しそうに見た。
ウーリでは殆ど古銭しか見ないが、まだ鋳造したてで綺麗だった。
「そんなボーイしてればチップぐらい稼いでるだろう」
「そうなんですか? 皿洗いばかりであまりやってないんです」
「もっとやらせて貰えばいい。その方が稼げるぞ」
「はい、そうします」
アルノルトはそう言いながら、半信半疑だった。
しばらくするとワインが届き、騎士二人が飲み始めると、話はさらに盛り上がった。アルノルトは隣で父への手紙を書いていたのも束の間、ワインを散々勧められた。
「お前は明日は追放か、死刑か、王女の処刑待ちだ。まあ飲んでおけ」
「じゃあいただきます」
「よし、乾杯だ!」
すぐに顔が真っ赤になったアルノルトは、仕事の疲れも手伝って眠気に耐えられなくなり、椅子が抜けて崩されたベッドに横たわり、そのまま朝を迎えた。
◇ ◇ ◇
「おっそーい」
リンデンホーフの丘にアルノルトが駈けて来たのは、約束の時間から大きく遅れていた。
アフラは三十分も前から来ていたので、都合一時間近くも待っていたようだ。手には読んでいたのであろう装丁の美しい大きな本を持っている。
今日のアフラは真新しい白のブリオ—の上から緑のシュールコーを着て、かなり都会人風に着飾っている。
「今日はまた綺麗だね」
「そんなこと言ってごまかしてーっ」
そう言いつつもその顔は少し赤くなった。
「ゴメン。ホントゴメン。昨夜はワインをかなり飲まされてね」
「ユッテさんに?」
「護衛騎士さ。僕の部屋に入り浸ってるんだ」
「それは災難ね」
「どうせ待つならホテルまで来れば良かったのに」
「本も読みたかったの。ユッテさんに捕まると、かなり時間を取られるから……」
「そうだな。今は顔も合わせにくいし……」
「何かあったの?」
「死刑か、追放か、処刑待ちだ」
「えーっ! 一体何したの?」
「ちょっと偶然入浴中の所が見えちゃって」
「ヤダーッ」
「でも殆ど顔しか見えなかったんだ。その後出たとこをまた廊下でかち合ったけど」
「追い出されても文句言えないわよ?」
「そ、そうなんだ」
「しっかり謝っておいてね」
「そうする」
地図を示す場所は道を戻って広くなった橋を渡り、その対岸すぐの所にあった。そこは市庁舎で、多くの人がその前の広場に集まって話をしていた。
市庁舎の中に入ると受付があり、そこにいる係員へアルノルトは紹介状を渡して言った。
「マンネッセさんという人に会いたいんですが」
「マンネッセさん? どっちの?」
「どっち? ここに名前が……」
「ああ、リューティケルさん? まだ会議中かも。少々長くなるので向こうでお待ち下さい」
案内された市庁舎の斜向かいにある食堂のような待ち合い所で、兄妹はしばらく待った。
その間にアルノルトはインクとペンを借り、昨日書きそびれた父への手紙を書き上げた。
しばらくすると、さっきの係員がやって来て、ある部屋へ通された。
そこには豪華な衣裳を着たハの字の髭を生やした騎士と初老の紳士が待っていた。二人の顔には見覚えがある。ラッペルスヴィル家の結婚披露パーティーで見た顔だ。
「ウーリの子かい?」
「こんにちは。僕がアルノルト・シュッペルです」
「はじめまして」
アルノルトとアフラはだんだん貴族風になってきた礼の仕草をして言った。
体格の良い髭の騎士が言った。
「私がリューティケル・マンネッセだ。こっちはここの市長だ」
「市長?」
市長と言われた老紳士が言った。
「ヘンリッヒ・マンネッセだ。リューティケルとは親戚でね。紹介状の件は読んだよ。相手が王族とあれば話を聞かせてもらわねばな」
「まあ、座ってくれ」
騎士と老紳士は書類をいろいろ持ってテーブルを囲み、二人と向き合って座った。
まずはリューティケルがいろいろ聞いてきた。
「ルードルフ王子から銀貨十枚を取り戻したいとの事だが」
「はい。壺を割ったのは王子に押されたせいですので、弁償分を返して欲しいんです」
「王女が連名だと書いてあるが?」
「ええ。弁償は僕が銀貨二枚、こちらの妹が四枚、王女が残り四枚を分担して払っているんです。ですので、三人で連名として、全額を取り戻したいと思っています」
「なるほどそう言う事か。妹さんは同意済みと」
「はい! もちろんです」
アフラは力強く頷いた。
「ならば、今日は王女はいないのか?」
「王女は……連れて来た方が良いですか?」
「連名ならば意志確認が必要だ。勝手に名前を語ったら大変だ」
アルノルトは頭を掻いていると、アフラが言った。
「私、呼んで来る」
「大丈夫か?」
「近いし、大丈夫と思う」
そう言ってアフラは部屋を出て行った。
市長が首を捻って言った。
「しかし、ミュルナーは帝国執政官だ。本来王の側に立って施政する方の人間だ。よくこんな王族への訴えを取り持ってくれたものだ」
「そうなんですか? そこで偶然会ったんです」
「これから訴える当面の相手がミュルナーになる、と言えば判るだろう?」
「それは公正というか、何というか……」
アルノルトはミュルナーの公正な処置に驚くより無い。
「まあ、あの人はコンスタンツ司教のお抱えでもあってな。となるとシュヴァーヴェン司教区全体の廷吏だ。法には公正で、市井にも理解がある人だ」
「本当にそうでした。助かりました」
リューティケルはしかし苦い顔をして、髭を擦って言った。
「しかし代理人を私に持ってくる所が何とも策士だがな。これで王族と戦う羽目になったのだから」
「ご厄介をおかけします」
市長がリューティケルに言った。
「王族をやり込められる稀な機会ではあるぞ」
「それも一興ではあるがな。だが、それなりの覚悟は見せて貰おう、代理人の費用は高いぞ」
「お幾らです?」
「成功報酬でいい。銀貨十枚返ってきたら、二枚貰おう」
「それなら大丈夫……です」
「あとは、始めに手付け金を少しは出して貰う事になっている。これは幾らでもいい」
アルノルトは持っていた昨夜のチップのコインを出した。
「これで全財産です」
「いいだろう。この仕事、請けた」
リューティケル・マンネッセはニッコリと笑った。
王族を訴える社会的なリスクに比べれば、貰える額は決して多いとは言えなかった。しかしマンネッセ、そしてミュルナーも、気安く仕事を引き受けてくれた。
アルノルトは彼らの公正な処置に尊敬の念を禁じ得なかった。
しばらくすると、アフラと一緒にユッテがやって来た。二日酔いで寝ぼけ眼の護衛二人も引き連れている。
リューティケルと市長は入り口まで迎え出て、丁重な挨拶をした。
「これはユッテ王女。お呼び立て致しまして恐縮です」
「どう言うこと? 連名で訴えるんですって?」
アルノルトが立ち上がって言った。
「訴えて王子から銀貨十枚を取り返すんだ。四枚は君の分だからね」
「少し待てば私から言ってあげるのに」
「自分達で取り返すから意味があるのさ。少し協力してくれないかい? 君の名前があるとかなり強いらしい」
アルノルトに期待を込めた目でそう言われたが、ユッテは頷けなかった。
仮にも跡取りである兄に訴訟するというのは、家族からの批判が大き過ぎた。
「協力はしたいけど、私は外して。私の分は後で自分で言うわ」
豆鉄砲を喰らったような顔で、アルノルトは一度リューティケルの方を振り返ってから、ユッテに言った。
「そうか。仕方無い。僕らで何とかするよ」
「その代わり、証言はしてあげる」
アルノルトは「十分だ」と頷いて、リューティケルに言った。
「じゃあ王女の分は外して、妹と僕の分、銀貨六枚でお願いします」
「報酬は変わらないが、それでいいか?」
「構いません」
「まず調書を作るとしましょう。ユッテ王女の証言はかなり重要になるでしょう」
リューティケルはユッテからその時の状況を聞き、その証言を基に調書を作り、訴状を書き上げて行った。
出来上がった訴状はミュルナーに渡され、それを受けてルードルフ王子に告訴状が送られる。その返答を待って参事会とミュルナーで審理に掛けられ、しばらくすれば、結審の結果が出るとの事だった。
「五日を過ぎるとウーリに帰ってしまうのですが、間に合うでしょうか」
アルノルトは手の空いていたマンネッセ市長に聞いた。
「王族が相手ならもっと気長に構えなきゃいかん。王子本人からの返答によってはかなり時間がかかるかも知れない。示談になればすぐ終わるだろうが」
「示談?」
「告訴取り下げを条件に示談金を支払うんだ」
「それが早いなら一番いいです」
「選ぶのは向こうだが、そうなる公算は大きい」
ユッテはそれを聞いて言った。
「示談にするように兄に手紙を出しておくわ」
これにはアルノルトは感謝せざるを得ない。
「ありがとう、ユッテを味方に付ければ心強いよ」
「それは光栄ね。因みに兄の連絡先は変わるわ。住所これね」
ユッテは住所を書いた紙を取り出して、二人のマンネッセに見せた。
「これはユッテ王女。ご協力非常に助かります」
市長は改めて恐懼して敬礼をし、その住所を写し取った。
「これなら一週間でお釣りが来るかも知れませんな」
市長のその言葉にアルノルトとアフラは笑顔を向け合った。




