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ユッテの宿


 講義を終えた後、ラッペルスヴィル伯夫妻は帰り支度をした。突発スケジュールに振り回され、予定はかなりオーバーしていた。

 仕度が終わると夫妻と同行するルードルフ、ブリューハントやリーゼロッテ達は広場に停めた馬車へと向かう。

 エンゲルベルクの一行とイサベラ、そしてクヌフウタも同時に馬車へと向かった。

 すると修道院のあちこちから人が出て来た。総員で見送りをするようだ。

 老齢の修道院長が覚束ない足取りで出て来て、エリーザベトと握手をして言った。


「エリーザベト様のお陰でこのような立派な修道院が出来ました。水害に遭った時は皆生きた心地がしませんでしたが、本当に救われた想いです。一同を代表しまして御礼を申します」


 修道院長の声に頷いた修道女達は口々に「ありがとうございます」と礼を言った。


「手仕事をしてくれる皆様の努力あっての事ですわ」


 当然ながら手仕事でこの大きな修道院が建てられる程の実入りは無い。これらは彼ら修道女達の自活の為であって、新参のドミニク派教会には領地や財産も殆ど無く、建設費は寄付に頼っており、それは特にエリーザベトの寄付と有力者への働き掛けに大きく負っていた。そんな中で弟領主が亡くなり、領地継承が出来なくなって、一時はこの修道院の建設続行も危ぶまれた。エリーザベトはそれを有力者への呼びかけと、多額の借金をして乗り越えつつあるのだった。

 副院長もエリーザベトと握手をして言った。


「ご成婚と、そして何より、継承が決まりまして、おめでとう御座います。私達も心からお祝いを申し上げたいのです」


 修道女達はそれを聞いて「おめでとう御座います」と拍手をした。


「ありがとうございます。お披露目にここを使わせて戴いて、色々とお世話をお掛けしました」


「とんでもない。光栄な事です。いつでもお使い下さい」


「大事なお客様がまだしばらくいますので、よろしくお願いしますね。私の執務室を使わせてあげて下さい」


 エリーザベトは二人の少女に目を向けてそう言った。

 ユッテがスカートを広げて礼を取るので、アフラも慌ててそれに習った。


「それでは、皆さんお元気で」


 一礼をしてエリーザベトとルーディック、そしてルードルフが馬車に乗り込むと、人々は大きくその馬車を囲む。大きく手を挙げて叫ぶ者があった。


「エリーザベト様に、祝福あれ!」


「ラッペルスヴィルに祝福あれ!」


 大勢で声を揃えて、声は大きく修道院内に響いた。上の方の窓から顔を出してそう叫んで手を振っている写本職人もいる。

 その中を二台の馬車は発し、窓からエリーザベトは人々に手を振りつつ、ゆっくりと走り去って行った。もう一台にはエンゲルベルク一行とイサベラ、そしてクヌフウタが乗っていて、ユッテとアフラの方へ手を振り、馬車は走り去って行った。


「行ってしまったわね。イサベラも。クヌフウタさんも」


 手を振って馬車を見送りながら、感心したようにユッテは言った。


「エリーザベト様って素晴らしいわ。私、あんな風になりたいわ」


「ユッテさんならなれますよ、きっと」


「そうかしら。簡単にはなれないと思うわ」


「そう心に思う人でないとなれないでしょう?」


「それもそうね。じゃあ、私、なれる! そう思うわ」


「じゃあ、私も? 先生の弟子になれる!」


「それはだから、断られたでしょう?」


「そうでした」


 二人は声を上げて笑った。


「もう、アフラったら。じゃあ、私の宿に行きましょうか?」


 ユッテはそう言って、自身の乗って来た馬車へと歩いた。

 馬車には御者兼護衛のレオナルドが寝転ぶように座っていたが、ユッテが来ると途端に跳ね起きて御者台を飛び降り、馬車のドアを開けた。


「どうぞ」


「宿に戻るわ」


 ユッテはレオナルドの手を取って馬車に乗り込み、アフラもそこに続いて乗った。

 レオナルドは馬車を発し、大通りをしばらく走ってすぐに停まった。


「着いたわ」


「近いですね。歩いて来れるくらい」


「馬車で来るのは防犯の為ね。護衛の為という方がいいかも」


 大通り沿いの一番大きな建物が宿だった。広い玄関を入ると赤い絨毯の階段が正面にあり、そこからはかなり上の階まで階段を上がる。レオナルドの先導で部屋へ到着した頃には少し息が上がっていた。

 部屋の扉を潜ると玄関通路があり、さらに扉を開けると広めの通路にも見える広間があって、そこにはさらに幾つかの扉があり、迷いそうな作りだ。


「お帰りなさいませ」


 その広間にいた二人の女中が並んで挨拶をし、かなり若い女中がその中の一つのドアを開けると、ユッテとアフラはその中へ入った。扉の向こうには少し広めのベッドルームのような部屋があった。大きなベッドには天蓋が掛かっていて、カーテンは閉じてある。


「寛いでいいわ。私の部屋よ。ああ、疲れたぁ」


 ユッテはそう言って長椅子に身を預けた。そのままごろりと横倒れだ。


「今日は動き過ぎたわ。でも楽しかったぁ。どうぞ、アフラも座って」


 アフラは落ち着かないように隅の小さな椅子に座った。


「私は頭の中の方が大変です。先生のお話が頭に一杯詰まってしまって」


「兄様も無理を言うし?」


「それはそんなに苦では無かったです」


「そうなの?」


「意外と話せばすぐ判って下さるので」


「あの兄様が? あなたのそういう所は貴重ね」


「どういう所です?」


 ユッテは考えたが、いい言葉が浮かばない。


「そういう所! 足も濡れたし、お風呂に入ろうかしら」


「お風呂があるんですか?」


「そりゃあ有るわ。広いのよ。一緒に入りましょ」


 アフラは逡巡したが、その間にユッテは化粧台に置いてあるベルを鳴らした。


「お呼びでしょうか。ユッテ様」


 さっきの若い方の女中が入って来た。


「セシリア、お風呂にします」


「お湯が沸いておりませんのでお時間がかかります。お体をお拭きする分ならすぐご用意出来ますが」


「それでいいわ」


 女中は広間へ出て正面のドアを開け、ユッテを案内して行った。


「ロザーナ。お風呂のお湯を」


 セシリアは途中でもう一人の年配の女中にお湯の用意を頼んで行く。


「アフラも一緒よ」


 ユッテの声でアフラも慌ててその後を追った。

 ユッテは脱衣室を通り過ぎ、天蓋の付いた大きな木のバスタブまで入って行き、その中で靴を脱いだ。逆さまにした靴からは水が零れてくる。


「ああ、気持ち悪かったわ」


「そんなに水浸しじゃ大変でしたね」


「貴女も脱いで」


 と言ってユッテはもう片方の靴も脱ぎ、濡れたニーハイを少し下ろすと、あとは女中のセシリアが丸めながら脱がしていく。上衣であるシュールコーも捲り上げて首と手を通らせる。その手際は丁寧ながらも早い。

 そうしていると女中が沸かしたお湯の入った木桶を持って来た。そのお湯をセシリアが受け取って、バスタブで裸足になったユッテの足を洗い始めた。下に着ていた裾の長いコットはもう濡れるままに任せているようだ。そもそも地面を引き摺っていて裾は汚れている。

 その間にアフラもピンクのリボンのアンクルストラップを解いて靴を脱いだ。ユッテは足をセシリアに洗ってもらいながら言った。


「その靴いいわね。背が高く見えるし、リボンも素敵」


「ソフィアがお揃いで買ってくれたの。後で何かお返ししないと」


「私の靴と交換しない?」


「これですか? この高さが無いと、スカート引き摺っちゃうんです。ソフィアがその為に買ってくれたものだし、お譲り出来ません」


「そう。フッ。でも、私は欲しい物は何でも手に入れてしまうわよ」


 そう言ってユッテは不敵に笑っている。顎に手を当てて何か考えているが、アフラは怖くて聞けない。

 セシリアは足を洗い終えるとユッテのコットの背の詰め紐に手を掛け、手早く服を脱がしていく。気が付けばユッテは考えたままの姿勢でパンツ一枚になっていた。パンツというよりドロワーズというべきカボチャ型のそれは、三段のフリルと裾口には長いレースが付いている。

 その膨らみ少ない体型に仲間と思いつつ、アフラはその下着の豪華絢爛さに感激の声を上げざるを得ない。


「かわいい……」


「そう? ありがとう。でも座ると少しモコモコするのよね」


 そう言ってユッテはセシリアに「アフラを手伝って」と言って追い出してから、天蓋の影でそのドロワーズも脱ぎ捨てた。

 脱いだ服を全て纏めたセシリアはアフラの前に歩いて来て、表情少なく言った。


「お手伝いしましょうか?」


 ここでアフラは秘め事に思い当たった。今履いてるパンツはマリウスの猿股だ。


「いいです! 後で自分で! 先にユッテさんを」


 アフラが全力で否定すると、服を籠に置いたセシリアはユッテの体を洗いに行った。

 ユッテは天蓋の間から顔を覗かせて言った。


「アフラも来なさいよ」


「私は後でいいです」


 ユッテはセシリアに背中を拭かれつつ笑った。


「そんな、恥ずかしがらないで」


 そうしているうちに、年配の女中がさらにお湯を運んで来た。少し離れた湯沸かし場から、こうして沸かしては運んで来る方式のようだ。何故か小さな女の子が二人、後に付いて来て、スカートを掴んではおやつをせがんでいた。


「あらあらー。大変そうですね」


 アフラの言葉に、女中のロザーナはあまりいい気はしない目をする。アフラも仕事を増やしている張本人なのだから仕方が無い。


「お湯を運ぶのお手伝いましょうか?」


 そう言うとロザーナは途端に気を良くして笑顔になった。


「お客様に手伝わせるわけには行きません。お気持ちだけ頂戴致します」


 ユッテは天蓋の向こうから言った。


「浴槽をしっかり洗っておいてね。次はちゃんとお湯をいっぱい用意して、ちゃんと全身浸かるわよ」


 女中の顔は途端に曇った。とても表情が判りやすいのも少し問題だ。

 セシリアが体を拭き終わり、お湯で体を流すと、ユッテはタオルで体を覆って天蓋から出て来た。


「あれ? アンナ、アグネス。遊びに来たの? 部屋で待ってて。アフラ、まだ何も脱いでないじゃない。セシリア早く!」


 セシリアはアフラの方へ歩いて来て、スモック着の肩の紐を外した。


「わ、私一人で出来ますから。怪我もありますし」


 と、言っているうちにセシリアは両肩の紐を緩め、ストンと服を下に落とした。その下はまだシュミーズ姿だったが、その手際にアフラは呆然とするよりない。

 残るシュミーズの裾にセシリアの手が伸びて来たので、アフラは慌ててその裾を両手で掴んだ。


「わわ、私は一人でやりますから」


 と、言ってもセシリアは聞いていないのか、ユッテの言う事が全てなのか、二人で裾の引っ張り合いをする形になった。


「セシリア、アフラはお腹に怪我をしてるの。無理はしないで」


「はい」


 ユッテの声でセシリアは会釈をしつつ手を離した。

 アフラがほっとしてシュミーズの端を持つ手を緩めると、その裾をユッテが捲った。


「きゃっ」


「この下着! 見たことないわ」


「ヤーン恥ずかしい。これ弟ので……」


「男女共用かしら? スリムなのがいいわ。ここで紐が腰をキュッと締めててお洒落!」


 言いながらユッテは猿股を至近距離で見ている。前で組んだ紐を丁寧に蝶々結びして、アフラの細い腰にもフィットしていたのが良かったようだ。


「そうかしら?」


「ドロワーズはスタイルがユーモラスになってしまうもの。これだとウエストが紐で締まって自然なラインが出ていいわ」


「ユッテさんのカボチャ型もとてもかわいいです」


 ちょうどユッテのドロワーズを持って広げていたアンナとアグネスがクスクスと笑った。


「カボチャだって」


 ユッテには少しショックな言葉だったようだ。


「カボチャ……。まあその通りね。これ、どこで手に入るかしら」


「これは手作りというか母が手直ししたものなんです。でも大きな洋服屋なら同じようなものがあるんじゃないかしら?」


「セシリア。これと同じものを買って来て。無ければ特注でもいいわ」


 ユッテはそう言ってさらに盛大にアフラのシュミーズの裾を捲し上げた。セシリアは近付いて来てそれを凝視している。アフラは赤面しつつも半ば諦めつつ、思い出して言った。


「あの……出来たら私のも一緒にお願い出来ますか? お代はお支払いしますから」


「あら? アフラもお揃いがいいのかしら?」


「逗留が長いので、下着も服も足りないのです」


「いいわ。じゃあ一緒に二人分ね」


「畏まりました」


「そうよ。じゃあ服もあげるわ。サイズの合う服も付ければその靴とも交換出来るでしょう?」


「それはそうですけど……」


「判ったわ。いっそ一式全部付けちゃう。じゃあお風呂の後はアフラの着せ替え会ね」


 そう言い残し、ユッテとセシリアは女の子二人を引き連れて部屋へ戻って行った。

 一人になるとアフラは服を脱ぎ、バスタブに入った。バスタブは当時フォーレと言って大きな木の桶に白いシーツが掛けられたもので、シーツは濡れるに任せている。その大きさはとても広く、子供用のベッドくらいあろうか。寝転ぶ事も出来るし、二人で入っても余裕がある。しかし今はそこにお湯は入っておらず、しかも木桶のお湯も僅かしか残っていなかった。それでもアフラはタオルを浸して体を拭き始める。傷を濡らさないよう注意が必要だった。

 そこへロザーナがお湯を持って来てくれた。


「おや、お一人?」


「ありがとう」


 アフラはバスタブの中へ木桶を置いてくれたロザーナにお礼を言った。


「おや。お礼を言うなんてあなたくらいだわ」


「そうなんですか?」


 ロザーナは笑顔でタオルを取って、背中を拭いてくれた。


「私みたいな女中は身分が低くて相手にされないのさ」


「私も身分はぜんぜんですから」


「そうなのかい? 王女様のご友人と来たら、どこかの公女様だとばっかり」


「ウーリの管区長の娘なんです」


「そうかい。じゃあちょっとだけお嬢様だ」


「いえいえ田舎者です」


「そういう背伸びしないのが好かれたのね」


 そう言ってロザーナは背中をお湯で流した。


「てて……」


「あれ? 怪我してたのかい?」


「ちょっと浸みただけ。大丈夫です。あとは一人でします。ありがとう」


「どう致しまして」


 アフラはセシリアは苦手だったが、ロザーナとは仲良くなれそうで嬉しかった。



 一風呂を浴び終えてアフラが部屋へ戻ると、薄い部屋着を着たユッテが大量の服を長椅子に並べて待ち構えていた。その隣にはセシリアが控えている。さっきの小さな女の子二人もそこでおやつに有り付いていた。


「お待たせでした?」


「待ってたわ。この二人は親戚のアンナとアグネス。アグネスは一度会ってるんじゃないかしら。子羊の迷子の時に」


「あ! よく見れば。前に会いましたね。お久しぶり。覚えてるかな?」


 アフラがアグネスに挨拶をすると、あまり覚えて無いようで、「うん」とだけ言った。


「さあどれにする? これなんて似合うんじゃ無いかしら」


 ユッテはそう言って次々と服を見繕ってアフラに当てがって来る。赤やピンク色、どれも派手過ぎて着るのに勇気がいりそうだった。


「もう地味ーぃなものでいいんです」


「地味がいいなんて変な事言うのね」


 ユッテは集めた洋服の中でも地味な方の、袖の無い緑色のシュールコーを選んでアフラに当てがってみた。


「これはどうかしら。ちょうど地味過ぎて着れないの」


 アフラは服を当てがいつつ整えて鏡で見てみると、意外と似合いそうだ。


「ちょうどいいかも」


「着てみて。セシリア」


 ユッテに呼ばれたセシリアは、服を受け取って両手に丸め持ち、「お手を」とアフラにバンザイをさせるとスルリと被せて着せた。緑の一色のワンピース型だが、高級な生地の裾口には横一列に刺繍されたカーキ色の模様が入っていて、ノースリーブの大きな切り口からは白い袖が脇腹まで出る形になっている。鏡を見ていると一瞬で良家の婦人に変身をしたような気分だ。


「意外と似合うみたい。でもやっぱり物足りないわ。下のコットをもっと上品なのにしてみましょう」


 ユッテはそう言って白い絹の光沢のある生地で、ローマ風の趣のあるブリオ—を取り出した。

 するとセシリアはアフラから今着せた服、そして元々着ていたスモック着をサッと脱がせ、その白いブリオ—をフワッと被せた。アフラは手を上げてさえいれば速やかに着せ付けてくれる。普段からこれを繰り返していればセシリアの着替えの手際が良くなるのも当然だ。

 その上からさらに緑のシュールコーを着せると、覗く袖はドレープを持って肩で膨らんでから一度締まって、肘から先に大きく広がっているし、白いレースがたっぷりの裾はシュールコーから程良く出ていて美しいシルエットになった。

 それをアフラは鏡で見て、夢心地になった。


「なんて綺麗!」


「わあーっ」


 アンナとアグネスも感激の声を漏らした。

 しかしユッテはまだ不満そうだ。


「サイズはいいみたい。でも、どうしても胸元が地味で寂しいのよね。ここからはコーディネートの腕次第ね」


 そう言ってユッテがクローゼットを開けてさらに服を探し始めた。アンナとアグネスも一緒に探している。

 そしてユッテが出して来たのは、濃い緑に黒の交叉するラインの入ったコルセだ。


「貴女の場合、これが似合いそうかしら」


 受け取ったセシリアがそれをアフラに着せて胸元の詰め紐を引き結んでいく。それを鏡で見たアフラは思わず声が出た。


「お姫様みたい。てっ待ってって」


 セシリアが紐をグッと締めると怪我している所にコルセが当たり、思わず涙が出た。


「セシリア、怪我してるって言ったでしょう!」


「申し訳ありません」


 そう言ってセシリアは紐を緩めた。ユッテは少し困って言った。


「これじゃあ怪我に悪いかしら」


 アフラが首を振った。


「きつくしなければ。これはとっても合っていて、綺麗です」


「私のコーディネートは気に入って頂けたかしら」


「はい。とても」


「じゃあ、これ一式と靴を交換してくれる? もちろん替わりの靴も付けるわ」


「う……」


 ユッテに押し切られそうになるのを、アフラは堪えた。


「ソフィアに無断ではちょっと……」


「まだ、足りないのかしら」


 そこへアグネスが花を模したサークレットを持って来て、アフラに渡した。


「これ」


「これもこれも」


 次にはアンナがマリアベールをユッテに渡してくる。


「これも着付けてみて」


 ユッテからそれを受け取ったセシリアは、アフラの髪を少し纏めてからサークレットを頭に着け、その上からマリアベールを被せた。

 すると鏡に立ったその姿は、まるで春の乙女か女神かというようだ。


「なんて可愛い……私じゃ無いみたい」


「カワイイ!」


 二人の少女も手を打って喜んでいる。ユッテも目を輝かせて言った。


「とてもいいわ。これもあげる。新しい下着も全部付けるわ、どう?」


 アフラは鏡の中の自分に恍惚として言った。


「私、いいんですか? こんなにして頂いて」


「もちろん。私が友達としてあげたいの。これならアフラを何処へだって連れて行けるわ」


 アフラは少し涙ぐんだ。


「受け取ってくれる?」


 アフラが頷くと、ユッテはアンナとアグネスを「よくやったわ」と褒めて肩を撫でた。

 


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