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山小屋の再会


 登り始めた朝日を浴びて、エルハルトとアルノルトは今日は大人数を引き連れていた。そこに一緒に歩くのは、オイゲーンとモーリッツ、そしてブルクハルトも加わっていた。

 周囲を囲むように羊の群れも連れている。今日も高地のアルプで放牧をするつもりだ。

 オイゲーンは木の板と道具を小さな荷馬車に積み、ポニーに牽かせている。

 山小屋の前あたりは斜面がきついので、ポニーの力では石に躓く度登れなくなり、オイゲーンとモーリッツ、そしてブルクハルトで後から馬車を押して進んだ。

 そのために足が遅れて、アルノルトとエルハルトはかなり先行し、先に山小屋へと辿り着く事になった。


「おはようー!」


 アルノルトが山小屋に駆け込んで言うと、そこにいた人々は壁に凭れてぐったりとしていた。

 ジェミなどはまだ寝息を立てて眠っている。


「やあ、アルノルト。来たか」


 ジェミがまだ寝ていたので、ヴィルヘルムが静かに言った。


「どう? 産まれた?」


 アルノルトが寝そべっているマッシュの方へ行ってみると、そこには子犬が六匹も産まれていて、数匹は母犬のおっぱいを飲んでいた。

 半数くらいの子犬はまだ目も開いておらず、眠っているようだ。


「六匹もいる……」


「ああ、最後の方の子は少し難産でな。皆あまり眠れなかった。クヌフウタさんがいてくれて良かったよ」


 クヌフウタは欠伸混じりに言った。


「おはようございます。お役に立てて何よりですわ」


 エルハルトも入って来て言った。


「おはようございます。まだ眠たそうですね。朝ご飯でも如何です?」


 ヴィルヘルムが目を丸くして言った。


「あるのか?」


「母さんに沢山もらって持って来てますよ」


 そう言ってエルハルトは袋からソーセージやパンを山盛り取り出し、テーブルに置いた。


「ジェミも犬も寝てる。外へ行こうか。そっちを持って」


 そう言うヴィルヘルムとエルハルトはテーブルを持って山小屋の外へ出た。そしてテーブルを平らな地面を選んで置く。アルノルトは丸太の椅子を一つ抱えて持った。それは意外と重かった。


「重っ」


 椅子を一つ置くと、アルノルトはさらにもうお一往復する。

 クヌフウタとお連れの修道女もかなり重そうに丸太を抱えて来た。

 そしてそれを置いてテーブルを囲むと、草原の食卓が出来上がった。

 そこはウーリ一円と向こうに連なる山まで見えて眺望が最高だ。


「これはいいな」


「いい景色ですね」


 そう言いながら皆で朝食を食べ始めた。

 そこへ急な坂を登って来たオイゲーンとモーリッツが板と道具を抱えてやって来た。


「壊れてるのはどこだ?」


 アルノルトが指を差して言った。


「屋根と向こうの窓だよ。まずは窓を見てよ。子供が寝てるから静かにね」


 そこへ遅れて登って来たブルクハルトが叫ぶように言った。


「ヴィルヘルムか!」


 ブルクハルトはヴィルヘルムに駆け寄った。

 ヴィルヘルムも立ち上がると、二人は抱き合った。


「やあ兄貴!」


「ヴィル! すっかり髭面だな。見違えたぞ!」


「兄貴も老けたな。苦労してるのか」


「ばかやろ……ようやく会えたな!」


 ブルクハルトは再び抱き合い、そのまま泣いてしまった。

 十二年振りの兄弟の再会だった。


「ヴィルヘルムなのか!」


 オイゲーンも目を丸くして驚いている。


「オイゲーンさんも! お久しぶりで!」


「おお、驚いたわい。行方知れずのヴィルヘルムだ! わはー!」


 オイゲーンは持っていた道具をその場に放り出して、ブルクハルトの上からヴィルヘルムに抱き付いた。

 クヌフウタ達は間近で突然起こった出来事に、呆然としている。


「ご婦人達が食事中だ。少し場所をずれよう」


 ヴィルヘルムは押されるように後退し、三人は抱き合いつつ、坂を下った。


「探したんだぞヴィル!」


 ブルクハルトはそう言って体を揺すった。すると足がもつれて三人とも倒れ、草地の急な坂を転がった。


「うわーっ」


 草の上を三人はばらけてゴロゴロと転がり、なかなか止まらない。そして、やがて大の字になって止まった。エルハルトとアルノルトは慌てて坂を走ったが、父の声が聞こえてきたので邪魔しない事にした。


「生きてるか?」


「こんなので死ねるか」


「ハッ」


「ハハハハ」


「わーはっはっは」


 三人は大きく笑った。

 十二年分の空白を埋めるくらいに、ただただ笑った。


「帰ってくるのか」


 地面に寝転がったままブルクハルトは言った。

 ヴィルヘルムも寝転んだまま言った。


「いや。森の生活も悪くない。お尋ね者のオレがいたらアーマン殿には迷惑がかかるだろうしな」


「そんなのもう時効だ。誰も知らん」


「修道会が最大権力の世の中で、オレは修道士や修道騎士団に何度も矢を向けた。顔も知られている」


「大丈夫だ。俺が手出しさせない」


「そう言うだろうと思った。結果、アーマンは解任、一家路頭に迷わせるやもだ」


「ううむ。意外と考えていたな」


「ただ堂々としてればアーマンになれた兄貴とは違うさ」


 オイゲーンが起き上がって来て両手を出して言った。


「積もる話はあるが、まあ、お二人さん。まずは起き上がってくれよ。息子達が見てる」


 ブルクハルトとヴィルヘルムはその手を取って起き上がった。


「オイゲーンさんはあまり雰囲気が変わってないな」


「どうせ元から老けてたさ」


「違いない!」


 そう言いつつ三人は並んで坂を登った。

 転がってあちこち打っていたので、ブルクハルトは少し足を引き摺っており、かつ頭から血が流れていた。

 ヴィルヘルムをそれを見て、自分の服の裾を破って頭に当てがった。

 クヌフウタもそうしてやって来る姿を見て、「大丈夫ですか?」とブルクハルトに駆け寄った。

 そして道端に貼りつくように群生していたピンクのヒメフウロを幾つか取って、手の平で花を潰し、それを束ねて頭の傷に塗った。


「それは……?」


「ルプレへトスクラウト。止血にいいんですよ」


 小屋をなおす仕事があったのだが、当然のように忘れ去られ、クヌフウタと修道女を含む大人たち五人は、山小屋に入ってブルクハルトの手当をした。

 クヌフウタの手厚い手当を受けつつ、三人は積もる話に興じた。

 それに起こされたジェミは眠そうに外に出て来た。


「おはよう……」


「こっちに食事があるよ」


「うん……」


 アルノルトはジェミをテーブルに案内した。

 ジェミは言葉少なくパンを取ってかじった。

 モーリッツがやって来て、エルハルトに言った。


「さっきの人誰?」


 エルハルトは答えに困って目を山や小屋へと移しながら言った。


「んー古い、知り合い? みたいだね」


「ウチの父さんが仕事道具放り出すなんて初めて見たぞ。おかげで仕事が上がったりだ」


 そう言いつつモーリッツは散らばった道具を拾い上げた。


「まあ、山を登って来たばっかりだろう。美味い水でも飲まないか? 裏手に水汲み場がある」


 エルハルトはそう言ってモーリッツを水場へと案内した。

 エルハルトは一カップの水を持ってやって来て、テーブルに置いた。あいにくカップは二つしかないので、それはジェミが飲んだ。

 もう一つのカップを持つモーリッツもテーブル付近で水を飲みつつ、父たちの話が落ち着くのを待った。 

 しばらくしてアルノルトとエルハルトが小屋に入ってみると、ブルクハルトは頭と足に毛布が厚く巻かれていた。


「お父さん大丈夫? 大怪我?」


 アルノルトが聞くと、ブルクハルトは言った。


「大丈夫だ。頭は血がよく出てな。ぐねった足は固定して少し様子を見るらしい」


「これは大怪我だねえ」


 オイゲーンはそう言いつつも何故か笑みが絶えない。

 クヌフウタが苦笑いで言った。


「包帯が無かったので、毛布を一つ切りました。大袈裟過ぎましたかしら?」


 エルハルトが礼をしつつ言った。


「いえ、こんな山でも手当して貰えて本当にありがたいです」


「手当て出来て良かったです。では、そろそろ私たちは修道院へ帰ります。美味しい朝食をありがとうございました」


 立ち上がるクヌフウタにブルクハルトもその場でお礼を言った、


「こちらこそ、手厚い介抱をありがとうございました」


 クヌフウタはマッシュの所へ行き、撫でながら言った。


「あなたも元気でね。いい子たちが産まれて良かったわね」


 マッシュは尻尾を大いに振って鼻を鳴らした。


「クンフータさんのおかげだって言ってるよ」


 近くにいたジェミが言うと後を継いでヴィルヘルムが礼を言った。


「クヌフウタさん、本当に診てくれてありがとう」


 クヌフウタは笑顔で言った。


「いえ、私は本当に見ていただけです。逆子でなかなか出ない時に少しだけ手伝ったくらいで、後はマッシュが自分でやってしまいました。生来産み方を知っているみたいで、それにはとても感動しましたわ。では皆さん、お元気で」


 そう言ってクヌフウタはジェミとヴィルヘルムと握手をした。

 アルノルトとブルクハルトとも握手をすると、そこへエルハルトもやって来て握手をした。


「お元気で。夏はこの辺にいますから、いつでも寄って下さい」


「また、薬草を取りに来るかと思います。その時は是非。ではお元気で。お大事に」


 そう言ってクヌフウタと修道女は山道を登って行った。

 エルハルトはそれを戸口で見送ってから、父を振り返った。


「父さんそれじゃあしっかり歩けないね。今日は仕事しないで小屋にいていいよ」


 ブルクハルトは慌てて手を開閉しつつ言った。


「大したこと無い。手があれば少しは手伝えるだろう」


 オイゲーンが首を振った。


「いや、エルハルトの言う通りだ。これで屋根に登ったらかえって危ない」


 ヴィルヘルムも言った。


「兄貴の代わりに俺が手伝おう。帰る時までに治すつもりで今日は歩くな。羊でも眺めてるがいい」


「父さんが羊の番してくれるなら、オレも手伝えるよ」


 エルハルトがそう言うと、もう決まったも同然だった。


「面目無い」


 そう言うブルクハルトを野外のテーブル席に置いて、オイゲーン、モーリッツ、そしてヴィルヘルムとエルハルトは窓の修理を始めた。壊れた木の板を剥ぎ取り、持って来た木材から同じ大きさにノコギリで切り出す。そして新たに打ち付けて行く。四人もいればその作業はすぐに終わってしまった。

 窓の修理が済むと、ジェミと遊んでいたアルノルトが呼ばれた。一緒に屋根に登り、壊れた屋根の点検が始まった。


「この辺りから木が曲がって、向こうの先は折れてるんだ」


「これは思ったより大修理だ。屋根材を一旦剥がして梁から直さないとな」


 そうして屋根の大修理が始まった。オイゲーンが屋根の木材を剥がし、モーリッツ、エルハルトが運び、屋根の下では梯子に乗って、ヴィルヘルムとアルノルトがリレーで受け取った。

 そしてその木材を、さらにブルクハルトが受け取った。 


「父さん寝てなくていいの?」


「人を重病人みたいに言うな。これくらは大丈夫だ」


 ブルクハルトは受け取った木材を一箇所に纏めて積んで行く。これはまた後で屋根に乗せて使わなければならない。

 屋根を剥がすのが一段落すると、オイゲーンは言った。


「しばらく屋根は危ないから登るな。俺だけでなおす」


 モーリッツも手伝うと言ったが、梁だけになった屋根はとても危ないので、俺がやるとオイゲーンは言い張った。モーリッツは天井の空いた屋根裏にいて、そこから手伝う事になった。

 自由放免となったアルノルトは、羊の番もそこそこに、再びジェミを探した。

 草原の真ん中で、一人ジェミは蹲っている。何をしているかと思えば、切って余った木片を立てて、クロスボウでそれを狙っている。羊がいる所でそれは少し危ない遊びだった。これは注意しなければならない。


「何をしてるんだ?」


 アルノルトがそう言うと、弓が飛び、木片に命中して弾け飛んだ。


「やるう」


 思わずアルノルトは拍手をした。

 ジェミははにかんで言った。


「まだ近いからね。本当はもっと離れないと獲物はすぐ逃げちゃうんだ」


「にしてもいい腕だ。熊が来ても撃てそうだ。僕でも出来るかな?」


「やってみる?」


 そう言ってジェミはアルノルトにクロスボウを差し出す。


「いいの?」


「間違って羊を撃たないようにね」


「言うねえ。それ、僕の言おうとしたセリフだよ? 少し羊から離れよう」


 アルノルトは場所を選び、後ろが崖気味で壁になっている場所に移動した。

 ジェミは回収してきた木片を岩へ置いて、背を向けて二十歩ほど歩き、クロスボウに両足を掛けて顔を赤くするくらい踏ん張って弦を掛けた。


「そんなに力がいるんだ」


「これは改良した強力なクロスボウなんだ。アームブルストって呼んでる。アルノルトじゃあ引けないかも」


 そう言ってジェミはクロスボウをアルノルトに渡した。

 アルノルトはそれを構えてみた。


「結構重いね」


「持つ時は必ずこの辺ね。弦の通るところに指を置いたら怪我するから気をつけてね。ここの溝に弓矢を番えて、あとは凹みのところでよく狙ってトリガーを引けばシュートだ」


 ジェミの声に従って、アルノルトは的の木片を狙いながらトリガーを引いた。矢を番えてないので空撃ちだ。アルノルトは空想の矢を飛ばした気になって的を覗いてから、ジェミに首を傾げた。ジェミも苦笑いして首を傾げた。


「トリガー引いちゃったね。じゃあ始めからやってみて」


 アルノルトはクロスボウの弦を引くが、ロックの位置までなかなか上げられない。両足を掛けて顔を文字通り真っ赤にして全力を込めてようやく弦が引き金に引っ掛かった。


「掛かったあ!」


 それだけでアルノルトは大汗が出て来た。


「出来たね。大人でも出来ない人いるよ」


「ジェミは出来るのに?」


「両足踏ん張って一気に背中で全力出せば出来るよ。大人は手でやろうとするからダメなんだ」


 そう言ってジェミは一本の矢を渡した。


「矢は今この一本しか無いんだ。よく狙ってね」


「うん」


 その矢は普通の矢より太くて短い。

 アルノルトは矢を溝に番え、遠くに見える木片に狙いを定めた。

 大きくなった心臓の動悸が手の震えになった。それをこらえつつトリガーを絞った。

 風切り音と共に弓は木片の上を超えて、後ろの草の斜面に突き刺さった。


「上手い!」


「え? 外れちゃったよ?」


「外れだけど、かなり近かった。初めてだともっと変なとこに飛ぶよ。矢を取りに行こう」


 ジェミは走って行って弓を探すが、なかなか見つからなかった。


「どこだろう? 草で判らないよ」 


「待って」


 アルノルトは撃った方向に戻り、クロスボウを狙うように構えてみた。


「そこの小さい黄色の花の下辺りに無い?」


「この花? あった! かなり埋まってる!」


 ジェミは矢を掘り出して矢を取り出した。そしてそれをアルノルトに見せながら歩いて来た。


「あったよ。でもそこから見えるなんて、アルノルトはかなり目がいいね」


「いつも遠くを見てるといいらしいよ」


「父さんも目がいいんだ。今は二十歩だけど、百歩離れても真ん中に当てちゃうよ」


「神業じゃないか! なんてすごい腕だ!」


 アルノルトの驚きように、ジェミは自分のことでも無いのに自慢気に笑った。


「父さんは山の大会で毎年優勝の名人だからね」


「山でそんな大会があるんだ」


「うん。でも、同じくらい目がいいアルノルトは、同じくらいになれるかもしれないよ」


「僕が?」


「うん。たっぷり練習すればね。じゃあもう十回程やってみよう」


 そう言ってジェミは矢をアルノルトに渡した。



 オイゲーンが屋根の梁の修理を終えると、一旦お昼休憩を取った。

 エルハルトが小屋前の高台からアルノルトを探すと、かなり羊から離れたところでジェミと遊んでいる。


「しょうがないな」


 エルハルトはそこへ歩いて行き、近付いた所で、アルノルトがクロスボウで木片を射抜く瞬間を見た。


「やっと当たった!」


「当たったよー。アルノルトは覚えが早いよ」


 エルハルトは一応拍手をしつつ歩いて行き、言った。


「何してるのかな? 羊とは反対側にいるようだが?」


「あ、うん、これは熊が出た時のためにね。ジェミにクロスボウ習ってたんだ」


「熊は手負いの方が暴れるぞ。一発で仕留めるくらいでないとな」


 ジェミが頷いた。


「うん。お父さんもそう言ってたね。急所一発で倒しちゃったけど」


「倒したのか!」


 それにはエルハルトも驚いた。この辺りでは熊が出たらもう物を捨てて風下に逃げるより手が無かった。


「うん。でもその一発を外したら危ないんだって。次番える間にやられちゃう」


「それはしかし凄い……」


 アルノルトはクロスボウを撫でながら言った。


「かっこいいなあ。ウチでもこれ買って貰おうよ。兄さんも練習しておくといいよ」


「追々な。それより父さんが羊番してくれてるからって放っておくな。逃げても追いかけられないんだから」


「ベルがいれば大丈夫だよ」


「まあ、父さんの声の届く所にいてやれって事だ。それに、お昼ご飯にしようってさ」


「待ってました!」


 小屋の前のテーブルは大人達でもう埋まっていたので、エルハルトとアルノルト、ジェミ達は小屋の中でマッシュと子犬の様子を見ながら昼食にありついた。

 昼食と言っても朝とメニューは殆ど同じ、パンにソーセージを挟んだホットドック風サンドイッチだ。

 ジェミがマッシュに少し食べ物を分けてあげると喜んで食べたので、アルノルトとエルハルトも少し食べさせてあげた。

 アルノルトは食べ終わると、クロスボウを持って父の所へ行った。


「お父さん。うちもこれ買って。熊退治用に」


「クロスボウか。扱えるようになるまで少しかかるぞ」


「今さっきジェミに教わって練習した。扱えるよ」


 そう言ってアルノルトは素早く弓弦を引いて掛けた。そして構えて空撃ちし、得意顔を向けた。

 ヴィルヘルムがそれを見て言った。


「おお、その弓が引けるなら大したものだ。それなら俺の置いて行きものがあるぞ。サビーネ母さんがまだしまってあるはずだ」


「貰っていいの?」


「ああ。少し錆びてるかも知れないが、よく磨いて手入れすれば使えるだろう」


「ありがとう! やった!」


 クロスボウを高く掲げ、ジェミと腕を当て合って喜ぶアルノルトに、ブルクハルトが不安げに言った。


「間違って羊を撃つなよ」


「それ、ジェミにも言われた……」


「ハハハ。ジェミも言うもんだ」


 お昼ご飯が済むと、再び屋根の修理が始まった。今度は小屋の中の屋根裏から梯子を掛けて屋根材をリレーして運んで行った。この方が比較的安全に受け渡しが出来る。結局モーリッツも手伝って屋根のかなり危ない場所に上っていて、継ぎ接ぎした梁に跨って屋根材を打ち付けていた。

 梯子に登って板を渡しながらエルハルトが言った。


「怖くないかそこ?」


「ヘッ。歩くだけで怖えよ」


「モーリッツが乗って大丈夫なら、雪にも壊れなそうだ」


「ハッ。雪より俺は重いってか」


「そうは言ってないよ?」


「そんな高いところで口動かすな。手を動かせ」


 オイゲーンはそれをすかさず注意した。

 そう言っているうちに屋根は見る見る塞がって行き、修理は日が傾かないうちに完了した。

 オイゲーンが屋根から降りてくると、皆で拍手をし、テーブルのところに集まって美味しい水で乾杯をした。とは言えコップが二つしか無いのでまわし飲みだ。ブルクハルトは足を投げ出して座ったままの格好で言った。


「いやあありがとう。オイゲーンさん」


 オイゲーンは小屋を見上げつつ言った。


「細かいところの手入れは幾つか残したが、とりあえず完成だ。しばらくは大丈夫だろう。何かあったらまた呼んでくれ」


「モーリッツもよく頑張ってくれた!」


「いや……ちょっとだけです」


 モーリッツはブルクハルトには弱いのか、いつに無く照れていた。

 エルハルトはそんなモーリッツに言った。


「ちょっとって言うのは俺みたいなちょこっと手伝いを言うんだ」


「ああ、エルハルトはちょっとだったな」


 モーリッツがエルハルトの肩に手を当てて言うと、ヴィルヘルムが言った。


「俺もそのちょこっとだったかな」


「この際ちょっとでもちょこっとでもいい。みんな、儂が動けない分もありがとう。工賃を奮発しておいた」


 そう言ってブルクハルトは全員に銅貨を配った。


「おお! さすがブルクハルトだ!」


 ほぼクロスボウで遊んでいたアルノルトとジェミはそれには与れず、「いいなー」と遠くから見ていた。

 そしてオイゲーンとモーリッツは帰る準備をした。

 それはブルクハルトもだが、少し足がまだ痛そうに立ち上がった。ヴィルヘルムはその体を支えつつ言った。


「帰り道大丈夫かい? 兄貴」


「ああ、歩くくらいは大丈夫だ」


「歩くだけじゃなく、結構な山道だ」


「そうか……いざとなれば馬車に乗せて貰うさ」


「馬車も通らない場所だらけだろう。他人に迷惑はかけられない。俺もこのまま一緒に帰ろう」


「犬はどうするんだ」


「また明日来ればいいさ」


 アルノルトは指笛を吹いて羊を纏めに入った。

 ベルが勢い良く坂を駆け下りて行くのに合わせて、自分も反対側から駆け下りて羊を追った。

 そうして犬と人の連携で、かなり効率良く羊を集められた。

 そして一同は山を降りた。

 ブルクハルトはヴィルヘルムとエルハルトの肩を借りながら急勾配の坂を降り、道が良くなると荷馬車の後ろに腰掛けて、皆の世話になりつつ帰り道を辿ったのだった。



兄弟の再会が叶いました。ブルクハルトは怪我をしても夢のように嬉しいことでしょうね。

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