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目覚め


 夜の闇に全てが寝静まり、山の端が僅かに薄青く明け始めた頃だった。戸口を叩く音がシュッペル家に響いた。

 一階で寝ていたマリウスはその音に目を覚ました。隣で寝ているはずの母がいないのは、きっと今もアフラの看病をしているのだろう。父はいびきをかいて寝入っている。こんな時間のお客なんて来たことが無く、何かの間違いのようにも思えた。

 マリウスはもう一度眠ろうと目を閉じた。しかし、しばらくするともう一度音がした。マリウスは眠い目を擦りながら玄関のドアへと向かった。


「だあれ?」


 しかしドアの向こうでは声がしなかった。

 マリウスがドアを開けるとそこには自分と同じくらいの男の子が激しく息を乱して立っていた。


「ここはシュッペルさんのお家ですか?」


「そうだよ。ぼくん家さ」


 男の子はとたんに顔を耀かせて言った。


「じゃあアルノルトの家だね?」


「うん。お兄ちゃんもだけど、どっちかって言うとずっといるぼくの家だね」


 男の子は懐から小さな小瓶を取り出した。


「薬を持ってきたんだ。アフラにこの薬を飲ませてあげて」


「お薬? よく効くの?」


「うん。多分。今ならまだ大丈夫」


 ジェミは力強く頷いた。

 あとから起き出してやって来たカリーナが言った。


「こんな朝早くからどなた?」


 マリウスは少し考えてみてから少年に聞いた。


「きみ、どなた?」


「僕はジェミ」


「僕はマリウス。よろしくね」


 と、マリウスは満面の笑みで振り向いて、少し怪訝そうにしているカリーナを見たマリウスはもう少し聞いてみた。


「どこから来たの?」


「あの山の向こうさ。君たちが眠りの森と呼んでいるところだよ。ずっと走ってきたからもう疲れたよ」とジェミはその場に座り込んだ。

 カリーナは口に手を当てて「まさか! あなたがヴィルの……」と言ってから言葉に詰まる。

 ジェミは少し誇らしい顔をして「そうだよ」と頷いた。

 マリウスは「あの山から走ってきたの?」と信じられない面持ちだ。


「そうさ、大急ぎで届けたんだ。お母さんや叔母さんや山の人達はこの薬の材料のためにもっと山を越えて方々を走ったんだよ。さあ、早くこの薬をアフラに飲ませてあげて」


 差し出したジェミの手からカリーナは薬を受け取った。


「こんなに早く届けてくれて、ありがとう! まだあと一日二日かかると思っていたのに……ありがとうね」


 ジェミは照れたように言った。


「僕は薬を持って山を少し下ってきただけさ。お礼は薬を作ってくれた眠りの森のみんなに言っておくれよ。それよりアフラの様子は大丈夫なのかい?」


「お姉ちゃんは、ずっと寝てる。最近はなかなか目が覚めないんだ」


「それは大変だ! 眠りっぱなしになると薬も効かなくなるってお母さんが言ってた」


「大変!」


 カリーナは薬を胸に抱き、階段を駆け上がった。

 マリウスとジェミもそれを追って後に続いた。

 部屋へ入るなりアフラを抱え起こしたカリーナは、薬の瓶を開けてスプーンでアフラの口に含ませた。アフラの口から赤黒い薬が少し溢れた。


「飲んで!」


 アフラはその声に応えるように、薬を飲み込んだ。


「どれくらい飲ませればいいの?」


 後から入ってきたジェミは頭を掻いて答えた。


「スプーン一杯でいいんだよ」


 その話し声を聞いてエルハルトと、続いてアルノルトがやって来た。


「どうしたんだんだい。大きな声上げて」


「ジェミ! ジェミじゃないか」


「やあ。アルノルト」


「よく来たね。もしかして、もう薬が?」


 ジェミは旧友に会うようにはにかんで笑った。


「うん。持って来たよ」


「ほんとかい? どこ?」


 カリーナが顔を上げて言った。


「薬は今飲ませたところよ。スプーン一杯でいいらしいのだけど、沢山飲ませちゃったわ」


 アルノルトとエルハルトは驚喜の声を上げて互いの手を取った。


「やった! やったやった!」


「驚いたな。五日はかかるって言ってたのに」


「お母さんは山里に着いてすぐ材料集めを山の人達で手分けしたんだ。帰り道もお母さん、お父さんとイェルクが山道をリレーして走ったのさ。眠りの森の人が総出だったんだよ」


「ジェミも走ってくれたんだ」


「僕は森の家からね」


「あの森の広場の家から!」


 アルノルトはジェミの手を握って言った。


「ありがとう。本当にありがとう」


 その手にエルハルトも手を被せた。


「ありがとう。これでアフラは治る。本当に嬉しい」


「僕もね。こんなに人のために頑張ったこと無かったよ。それが出来て嬉しいんだよ。アルノルトもアフラも、もう友達だから」


「友達……従兄弟って友達になれるのかな?」


「もちろん。従兄弟だって友達になれる人となれない人がいる」


「そうか。そうだね」


「それにアフラとは、もう一度会ったら友達になるって約束をした。それが本当になるには早く目を開けてくれるといいな」


「じゃあ、アフラが目を覚ますまでここで待っているといいよ」


「うん。そうする。薬の効き具合を皆に教えてあげないといけないしね」


 カリーナが言った。


「じゃあジェミにも朝ご飯を用意しないとね。でもジェミの話を聞いているとアルノルトよりしっかりしてるみたい。年はマリウスくらいなのに」


 アルノルトは頭を掻いて言った。


「ジェミは凄いんだよ。この年で山道では僕より足が早いんだ」


「そうなの!」


 朝ご飯が出来るのを待ちながら、一同はしばらくアフラの様子を見守った。マリウスはいつもしていたようにアフラの氷嚢を取り替えた。


「お姉ちゃん、息が楽になってきたみたい」


 アフラの寝息は次第に安らかになり、顔色も良くなったようだった。

 ジェミはその顔を覗き込んで言った。


「薬が効いてきたみたいだ」


「本当だ! やったあ!」


 マリウスは喜びの声を上げた。


「よかった!」と取り囲んで見守る家族達にも安堵の声が広がった。

 その声でブルクハルトも起き出してきた。


「どうかしたのか?」


「お父さん! 薬が届いたんだ。飲んだとたんにもう顔色が良くなってきた!」


 ブルクハルトはジェミを見つけて言った。


「君は、ヴィルの?」


「僕はジェミ。ヴィルヘルムは父です」


「そうか! ヴィルの子か! ありがとう! ありがとう!」


 ブルクハルトはジェミの頭を何度も撫でて髪をくしゃくしゃにし、ジェミに少し嫌な顔をされた。

 そして一緒にブルクハルトもアフラの顔を覗き込んだ。するとすっかり顔色が戻り、熱も下がって来ている。


「熱が引いた。これは奇跡か。ああ神様!」と胸に十字を切った。家族一同はそれに習って十字を切って祈りを捧げた。

 ジェミだけはその所作に首を傾げていた。


 薄曇りの空から少し遅い太陽が顔を出し、部屋の窓に柔和な光が指して来た頃、アフラはその目をゆっくりと開いた。その長い眠りからの目覚めを、カリーナは努めて平静に迎えた。


「アフラ。アフラ。おはよう」


 目に涙を溜めて、そう呼びかけると、アフラは答えた。


「おはよう。お母さん。どうして泣いてるの?」


 その声はまるで寝坊した朝のような、いつものお寝坊声だった。


「どうしてみんな私の部屋に集まってるの?」


 部屋の奥にはエルハルトとアルノルト、そしてマリウスが見えた。


「眠り姫がようやく起きたか」


「こんなに早く薬が効くなんて!」


「おはよう。お姉ちゃんおはよう」


 兄弟達は肩を叩いて笑った。カリーナは微笑みながら涙を拭って言った。


「お前は丸三日も寝ていたのよ」


「うそぉ!」


 アルノルトはさもしょうがないといった風に言った。


「しょうがない奴だなあアフラは。何度呼んでも起きないんだもんな」


「だって。寝てる間は何にも覚えてないんだもの」


 そう言っているとアフラのお腹が鳴った。


「そう言えば……お腹がペコペコォ〜」


 マリウスが泣きながら言った。


「お姉ちゃんが……お腹ぺこぺこって言ったよー。全然食べてくれなかったのに……」


 アルノルトが言った。


「マリウスがすり下ろし林檎を食べさせてくれてたんだ。ここ一週間ちゃんと食べてなかったからな」


「そんなに!」


 エルハルトが大きな手を広げて言った。


「良かった。食欲が出てくれば一安心だな」


 カリーナは立ち上がってアフラに言った。


「何か食べたいものはある? 何でも作ってあげる」


「じゃあ……タルト!」


 カリーナは残念そうに言った。


「まあ。贅沢な子。今はタルトを作る材料も無いから、カボチャのスープで我慢してくれる?」


「うん」


 カリーナはその声に頷いて台所へ出て行った。その後、アルノルトが思い出したように言った。


「あ。そう言えばタルトあるよ」


「ホントー?」


 アルノルトはバスケットの中からタルトの小さな欠片を出した。


「三日前にアフラ、一口食べたろ。その余りだけど」


 エルハルトはそれを見咎めて言う。


「それ古いだろ。今お腹壊すとまずいから止めておけ」


「えーっ。せっかくタルト食べられると思ったのに……せめて匂いだけでも」


 と、アフラが言うのでアルノルトがタルトを鼻の近くに持って行く。必死にその匂いを嗅ぐアフラだったが、いきなり小さくそれを囓った。


「こ、こら。お腹壊しても知らないぞ」


「ちょこっと味見。やっぱり美味しい」


「まあ元気になったと言う事だな」


 そう言って兄弟は笑った。

 マリウスが林檎を持ってやってきた。


「じゃあハイ。お姉ちゃん。これ僕が剥いたんだよ」と、渡す林檎は少し古びて黄色味が差している。


「マリウスが? ありがと……」


 マリウスはアフラに林檎を渡してニッコリと満面の笑みだ。

 その圧力に断れなかったアフラはそれを一口食べた。

 久しぶりに食べたせいか、なかなか呑み込むことが出来なかった。


「おいしい」


「おいしい? 良かった」


「マリウス。どうせなら新しいのをあげろよ。古いのはみんなで食べてしまってさ」


 そう言ったエルハルトのその背にはジェミが顔を覗かせていた。


「ジェミ?」


 ジェミは小さくはにかんで笑った。


「やあ」


「どうしてここに? ジェミもお見舞いに来てくれたの?」


 アルノルトが言った。


「ジェミは山向こうから薬を持ってきてくれたんだ。アフラが治ったのはジェミと、そのご家族のお陰なんだよ。アフラはお礼を言わないとね」


「ありがとう。ジェミ……」


「よかった。無事に治って何よりだよ」


 アフラは記憶を辿るように言った。


「私ね……夢を見たの。夢でジェミと会ったの。あの森のお家にあったお花畑でね、ジェミと遊んだの。だから会うのもこれで三回目だから、もうお友達?」


「そうだね。もう友達だよ。元気になったらまた家に来たらいいよ」


「うん。ありがとう」


「熱はもう無い?」


「どうだろう」


 ジェミはアフラの額と自分の額に手を当てて言った。


「ほんの少し熱いだけだ。もう大丈夫そうだね」


「うん」


「でもまだ完全に治るには半月はかかるって言ってたから、しばらくは静かに休んでて。いいね」


「うん。ジェミってお医者さんみたい」


「お母さんが山のお医者さんみたいな人だからね」


「へえ。私のお婆ちゃんみたい」


 アフラとジェミが笑うと、周囲にいた家族もそれに釣られて笑っていた。


「じゃあ僕はもう行くよ」


「まだゆっくりして行くといいのに」


「お父さんが待ってるんだ。行かなきゃ」


 そう言うジェミの足はもう入り口を向いていた。


「また来てくれる?」


「うん。もういつでも来れる。また来るよ」


 入り口ですれ違ったカリーナもジェミを引き止めた。


「あら、朝ご飯くらい食べて行くといいのに」


「薬が効いたこと、早くみんなに伝えたいんだ。お父さんがきっと待ってる」


「そう……じゃあ、皆さんチーズはお好き?」


「うん」


「じゃあ、お礼に持って行って。少し重いかしら……」


 カリーナは階下へ行って棚からチーズの丸く大きな塊を取り出した。ジェミの手には一抱えするほど大きい。それでも満面の笑みでジェミは笑って言った。


「うわー。いいの? ありがとう」


「でも持って帰れるかしら」


「これくらい大丈夫さ」


 後から付いてきたアルノルトが言った。


「こんな大きいのを持って帰るの? 背負い袋をあげるよ」


 アルノルトは大きな背負い袋を持って来て、チーズの塊を入れた。カリーナはその袋に大きなパンも幾つか入れた。


「これは朝ご飯にしてね」


「チーズもパンもみんな大好きだから喜ぶよ。とくにお父さんがね」


「そう。ヴィルにももう一つ入れておくわ」


 アルノルトは袋をジェミが背負えるように紐を短くして結わえ付けて言った。


「エドフィーユさんにも薬をありがとうって伝えておいて」


「うん。それじゃあ僕帰るよ」


「荷馬車で送るよ」


「いいよ。僕ら山の民は馬車なんて使わないんだ。自分の足が一番だから」


「そう。アフラが元気になったら、きっとまた会いに行くよ」


「うん。待ってるよ」


 ジェミは自分の体ほどもあるチーズの塊を背負って、森に帰って行った。

 アフラの病気はそれから見る見る良くなっていった。仕事から帰ってきたブルクハルトはすっかり元気になっているアフラを見て驚喜し、抱き付いて来た。が、すぐにアフラに押しはがされた。

 久々にベッドから起き出した時は足元もふらついていたが、しばらくすると歩みもしっかりしたものになった。熱も引くにつれ食欲も旺盛になって行った。普段よりも沢山食べるようになって、看病にやって来たサビーネを驚かした。



 数日後、突然見知らぬ医者が訪ねて来た。カリーナはまたイサベラの関係の人だろうと思い、アフラを診て貰った。ブルクハルトもそれに付き添った。

 医者はアフラを診察して言った。


「重病と言われてせっかく来たのにこれはどうしたことか。熱も無し、意識もはっきりしてる。どこも異常は無いようだ」


 カリーナは嬉しそうな声を上げた。


「ああ先生。それは嬉しいこと!」


「本当に重病だったのかな」


「つい一昨日までは高熱が出ていたのですが、山の薬ですっかり治ってしまったのです」


「熱くらいならば何もあの方が関わることはあるまい……」


「それが眠り病とも言われている風土病で、眠りっぱなしになったり、引き付けを起こしたりしたのです。病の後遺症はありませんでしょうか?」


「風土病か。私の故郷にも似たような病気がある。熱が引いたなら峠は越えたと見ていいだろう。今は体が弱っているが、まあしっかり栄養を付ければじきに回復するだろう」


 アフラの顔にも生気が返っていた。


「ホント? もう外で遊んでもいい?」


「ああ。それはいいとも。外で遊べるくらいになればかえって健康にいい。あとはよく食べて、よく歩くことだ」


「やったーぁ!」


 カリーナもこれには涙ぐんで喜んだ。


「本当に良かったこと……」


 ブルクハルトは涙するカリーナの肩を抱いた。


「良かった……良かった……」


 溢れ来る涙を娘には見せないようブルクハルトは上を向いていた。

 しかし医者は困った顔をしている。


「元気になって何より……しかし……良くないこともある。せっかく遠くから来たというのに、健康な人を診てもお代は頂けない。これは困った」


「ではせめてお車代を……」


「いやいやそれには及ばん。後で私の名に傷が付いては適わぬからな」


「もしや名高いお医者様なのでは」


「そうさのう。ここらでは無名だが、オーストリーでは多少は名が通ってるだろうな」


「オーストリー! まさかそんな遠くからなんて……」


 カリーナは尋常でないこの措置を取った人に恐れを抱いた。


「しかし、眠り病がこうも劇的に治るとは。後学のために聞きたいのだが、どうやって治したのかな」


 医者は病気の経緯や特徴、薬の作り方までを聞いてきたが、カリーナも多くは知らないのでほんの少ししか答えられなかった。山からの薬を貰った場所が言えなかったのは言うまでもないが、医者はしつこく聞いてきたので、ただヴァリス人の病だからヴァリス人の薬を貰ってきたのだと説明をした。



 アルプの山道を下ってきたアルノルトは、眼下の牧場に少女を見つけた。遠目にそれがアフラであることがアルノルトには判った。


「アフラ!」


 アルノルトが山道を下りて行くと、果たしてふらついた足取りでアフラが山道を登ってやって来る。


「無理をしちゃあ駄目じゃないか」


「エヘへ。もう体が鈍っちゃって」


「こんなに歩いて大丈夫なのか?」


「お医者さんがもう熱もすっかり無いし、治すにはよく食べて、よく歩くことだって。今日はアル兄は羊と山へは行かなかったの?」


「行ったさ。行ったけどこいつがまた山を駆け下りて迷子になるところだったんだ」と、指差した先にいたのは子羊のミルヒだった。


「ミルヒ!」


 ミルヒは答えるように啼いた。


「こいつったら帰り道だけはしっかり判るみたいだ。前も一人で家に帰ろうとしたのかも知れない」


「ちょっと見ない内に大っきくなったわねミルヒ」


 アフラは子羊のミルヒの両頬を揺らして首に抱きついた。それを嫌がったミルヒは首を振って後ろへ下がり、アフラはそれに引き摺られて足がよろけて、簡単に倒れてしまった。


「痛あい」


「ハハハ。子羊に負けるんじゃあ手伝いも出来ないな。まあ羊飼いにはなれないな」


「いいもん。私お姫様になるんだもん」


「あーあー。そりゃあ大層な野望だなあ」


「あーあ。イサベラさんみたいな素敵なお姫様になりたいな」


「あっ。そういえば思い出した。そのイサベラお嬢さんから伝言があるよ」


「イサベラさんから?」


「一度馬車で来た時に、元気になったら手紙を書いてくれってさ。貰ったフルーツバスケットの中に住所の書いたメッセージが入っているよ。まだ残っているはずだ」


「ホント? 書く書く! 絶対書く」


「それから……」


「それから?」


 アルノルトは言葉に迷った。


「イサベラお嬢さんはきっともう……来ない」


「ええ! どうして?」


「村が……いや、父さんが貴族だと聞いて反対してるんだ。なんでもイサベラさんは王家一族で村の敵なんだそうだ」


「そんなー」


 アフラは今にも泣きそうな顔になっていた。


「どうすればいいの? 約束したのに……」


「でもまあ、手紙を書くのは自由さ。かなり心配してたから早く元気だって書いてやるといい」


「うん。そうする。お兄ちゃんは優しいね」


 アフラはそう笑ったが、イサベラにもう来ないでくれと言ったアルノルトにはその言葉が少し苦かった。アフラはそんな兄を気にもしない風に今来た道を戻って行った。それにミルヒがついて行く。アフラは足音に振り返ってそれに気付いた。


「あっミルヒーッ。付いて来ちゃダメー」


 アフラはミルヒを振り払おうと右へ左へと走ったが、ミルヒはステップするような仕草をして付いてくる。振り返るとさらにステップをしてじゃれついてきた。


「アル兄、ついて来ちゃうー」


 アルノルトが後方から言った。


「羊とダンスするくらいならもう元気そうだ」


「ダンスじゃなぁいー」


「アフラ。ミルヒはさっきから戻りたくてしょうがないみたいだから、家まで連れて行って羊小屋に入れておいてくれ。また道を戻られると事だ」


「うん。判った。じゃあしょうがない。おいでミルヒ」


 ミルヒはアフラの後へ来て小さく啼いた。アフラは羊を連れて緑の野を下って行く。

 アルノルトは山へと踵を返しながらも、小高い丘から長くそれを見守っていた。



眠り姫が目覚めました。病も良くなったようでめでたしめでたし。

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