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不老不死たちの過去  作者: San


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13/15

不老不死たちの過去 13

映画館の中は暗かった。


スクリーンには、古い雨が降っていた。


何千年も前の雨だった。


今では存在しない街の上に、細い雨が落ちている。


石造りの建物。


低い屋根。


まだ車も走っていない道。


濡れた石畳の上を、人々が傘を差して歩いていた。


その中に、彼女がいた。


今の彼女と同じ顔だった。


不老不死なのだから、顔が変わることはない。


けれど、髪は長かった。


今は肩のあたりで切っている髪が、その頃は背中まで伸びている。


服も違う。


歩き方も違う。


そして何より、表情が違った。


昔の彼女は、雨を見ただけで嫌そうな顔をしていた。


「また雨」


小さく呟いて、屋根の下に入る。


現在の彼女は、その様子を黙って見ていた。


今の自分なら、雨が降っていても外へ出る。


傘を持たずに歩くこともある。


濡れた道を見るのも嫌いではない。


雨の音も好きだった。


だから、昔の自分がこんなに雨を嫌っていたことが少しおかしかった。


スクリーンの中で、昔の彼女は窓の外を見ている。


雨はまだ降っている。


「止まないかな」


そう言って、窓を閉めた。


それだけだった。


映画は次の場面へ移った。


別の日。


また雨だった。


昔の彼女は食事をしている。


外から雨の音が聞こえている。


隣に座っていた男が、


「雨、嫌いなの?」


と聞いた。


「嫌い」


「どうして?」


昔の彼女は少し考えた。


「濡れるから」


「それだけ?」


「それだけ」


男は笑った。


「単純だね」


「単純でいいでしょ」


そう言って、彼女は食事を続けた。


現在の彼女は、映画館の椅子に座ったまま、その会話を聞いていた。


自分のことなのに、少し他人の会話を聞いているようだった。


濡れるから。


それだけ。


今の彼女なら、雨に濡れることをそれほど気にしない。


いつから変わったのか。


考えてみても、思い出せなかった。


映画はさらに進んだ。


雨の日の記憶がいくつも続いた。


雨が降っているから外出しない。


雨だから予定を変える。


雨が嫌だから窓を閉める。


雨が降ると、昔の彼女はいつも少し機嫌が悪くなった。


ある日など、傘を忘れてずぶ濡れになり、帰ってきた途端に服を脱ぎ捨てて、


「最悪」


と言っていた。


現在の彼女は、思わず少し笑った。


「そんなに嫌だったんだ」


誰もいない映画館で、声が小さく響いた。


スクリーンの中の昔の自分は、当然こちらを見ない。


その頃の彼女には、今の自分が存在することさえ知らない。


やがて映画は、ある雨の日へ移った。


今までとは少し違う雨だった。


強い雨だった。


道路に水が溜まり、屋根を叩く音が大きい。


昔の彼女は、傘を持って歩いていた。


いつものように、雨を嫌そうに見ながら。


けれど、その日は途中で足を止めた。


誰かを待っているようだった。


彼女は時計を見る。


雨を見る。


また時計を見る。


それから、屋根の下で立ったまま待った。


十数分。


さらに時間が過ぎる。


誰も来ない。


昔の彼女は、一度だけ雨の向こうを見た。


その顔は、いつもの雨嫌いの顔とは違っていた。


少しだけ寂しそうだった。


現在の彼女は、スクリーンを見つめた。


何を待っているのか。


映画の中では説明されない。


ただ、昔の彼女はそこに立っていた。


雨が降り続いている。


やがて彼女は傘を閉じた。


そして雨の中へ出ていった。


傘を差さずに歩く。


服が濡れていく。


髪も濡れる。


昔なら、あれほど嫌がっていたはずなのに。


それでも彼女は歩いていた。


少し歩いたところで、道の端にあるベンチに座る。


雨は止まない。


彼女は何もせず、ただ前を見ている。


しばらくして、誰かが隣に座った。


顔は映らなかった。


声だけが聞こえた。


「待った?」


昔の彼女は、その人を見る。


そして、


「少し」


と答えた。


それから二人は、雨の中で話をした。


何を話したのか。


映画の音声はところどころ途切れていた。


現在の彼女にも、もう聞き取れない。


ただ、ときどき昔の自分が笑っている。


それだけは分かった。


雨が降っているのに。


あれほど雨を嫌っていたはずなのに。


その日の記憶は、そこで終わった。


次の場面になった。


何年か後だった。


昔の彼女が一人で歩いている。


雨だった。


彼女は傘を差していない。


雨粒が髪に落ちている。


頬を濡らしている。


それでも、嫌そうな顔はしていない。


むしろ少しだけ笑っていた。


現在の彼女は、その姿を見ていた。


そして、ようやく気づいた。


自分が雨を好きになったのは、もっとずっと後のことだと思っていた。


けれど、違ったのかもしれない。


あの日からだったのかもしれない。


そう考えたところで、映画は終わった。


スクリーンが暗くなる。


映画館の中に、元の静けさが戻ってくる。


彼女はしばらく席を立たなかった。


昔の自分が、雨の中で誰かを待っていた。


その相手が誰だったのか。


その後どうなったのか。


思い出せない。


もしかすると、その人のことはすでに何千年も前に忘れているのかもしれない。


それでも、雨だけは残った。


理由を忘れても。


人を忘れても。


街を忘れても。


雨の日に少しだけ足を止める癖だけが、どこかに残っていた。


彼女は立ち上がった。


映画館の出口を出る。


外は雨だった。


現代の街を雨が濡らしている。


傘を開く人。


走って駅へ向かう人。


店の軒下で雨宿りする人。


彼女は少しだけ立ち止まった。


傘を持っていた。


けれど、開かなかった。


そのまま雨の中へ歩き出す。


髪が濡れる。


服にも雨が落ちる。


昔の自分なら、きっと嫌がった。


彼女は空を見上げた。


何千年も前と同じように、雨が降っている。


けれど、同じ雨なのかどうかは分からない。


彼女はそのまま歩いた。


なぜ雨が好きになったのか。


もう、思い出せなくてもよかった。

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