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姉のこと

小学校の頃。下校間際に予報外れの雨。

傘などある筈も無く、ずぶ濡れ覚悟で校門を飛び出した私。

目の前には姉が傘を差し立っていた。

「期末試験で早上がりだったのよ」笑う顔に大粒の汗。

どこまで行っても姉は姉なのか。(秋ヶ瀬もみじ)

「ねえ、もみじ。これ要る?」差し出された透明な瓶。

「香水なんだけど、私もう要らないのよね。」

「これ結構高いやつでしょ。」

本当に貰っていいの?

いいのよ。もう私には要らないから。


-----------------------------------------

5分前のこと。

引っ越して以来初めて実家に帰る。

玄関を開けると、段ボールに詰められた雑貨類が目に入る。

先週の平日、必要なものはないかと両親から聞かれていた。どうやら買いそろえてくれていたらしい。ありがたい話だ。夕食もリクエストを聞いてくれるみたいだし。感謝感謝。


荷物を置くためがらんどうになった自室へ階段を上る。


すると姉の部屋から物音がして、覗きに行く。ドアが開いたままだ。

「何してんのさ。」

「見りゃわかるでしょ。片づけてんの。」

こちらには一瞥もくれず、少しばかりぶっきらぼうな返答。


部屋をぐるりと見まわす。とても片づけの最中とは思えないほど整頓された部屋。

「いや、見ても分からんが、あー……」違和感に気づく。

机の上に雑然と置かれたアクセサリーやキーホルダーに化粧品。姉は几帳面だから机に物を放っておいたりはしない。つまりこれらは片づけの対象なのだろう。


「これ、捨てんの。」

「そ、捨てんの。」


こんなにたくさん?それに化粧品の類はまだ使いかけだ。


「そうだ」ねえ、もみじ。


「これ要る?」差し出されたのは透明な瓶。

「香水なんだけど、私もう要らないのよね。」

「これ結構高いやつでしょ。」

本当に貰っていいの?

いいのよ。もう私には、要らないから……


「もしかして……別れたの。」

「そ」


一言だけの返事。全ての感情が圧縮されたような_____


机に並べられた処分対象に合点がいく。

全部恋人との思い出なのか。そうか……


ならば、「これも捨てた方が良いんじゃないの。」

香水を摘まみ上げ目元でぷらぷらと振ってみせる。


「そう思ったのだけど。」もみじ、香水持ってなかったでしょ。

「それはそうだけど……」

それに、

「ねえ、覚えてる?ずっと前にもみじが『いい匂いだね』って言ったの。それ、この香水。」

ふっと微笑んで少し柔らかな声。


手首出して。

え?

いいから。

冷たいミストが肌にしみこむ。


立ち上る香りが記憶を呼び覚ました。姉妹で外出した時のこと。隣に並んだ姉から香る優しいそれ。

あまり姉妹でべたべたする方ではなかったし、お互い好き勝手に生きていたから一緒に出掛けることも滅多になかったな。


「そんなことも、あったね。」


「だから、あげるわ。」

憑き物が取れたように柔和な表情の姉がそこにいた。


「お言葉に甘えて。」

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