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だれも、それを。

お泊りをしたとき、彼女のパジャマがかわいいなと思いました。

正確にはパジャマというか、彼女そのものですね。

美人さんなのでかわいいのは当然なんですけど、完全にリラックスした格好で。とてもよかった……

普段のおしゃれなかわいさだけでなくて、ラフな姿によって魅力は一層際立つものですね。(秋ヶ瀬もみじ)

「おはよ。」

「ん、おはよ。」


月曜の7時55分。マンションの非常階段から現れる秋ヶ瀬。


「寝ぐせついてるよ。」

しってる、どれだけやっても治んなくて。はにかむ彼女。

「そういうこともあるさね。梅雨だし。」慰めにもならない言葉がエントランスに反響する。


梅雨に割り込む晴れ間。夏に片足突っ込んだような気候と累積雨量に比例して上昇する湿度が髪の毛を暴れさせるのも無理はない。


ああ、暑い夏がやってくる。


--------------------------------------------


少し先を歩いていた私の隣に小走りで追ってきて並ぶ彼女。

ふと覚えた違和感。この香りはどこから……?


辺りを見回すが何かあるわけでなし。

と、いうことは____


でも、彼女が香水を買うようなタイプだとは思えない。

駅ビルのアパレルショップだって滅多に入らないというのに。


柔軟剤でも変えたのだろう。

うん、きっとそうだ。そうに違いない。


……でも、今週の土日は用事があると言って遊ばなかったよな。


--------------------------------------------


講義中、隣の香りが気になってとても集中できなかった。

それとなく匂ってみる。

これをずうっと繰り返して時は過ぎる。


--------------------------------------------


長い1日が終わりを迎える。

講義を終え、今日も私の家で一緒にご飯を食べることに。


「わ!カルボナーラだ!おいしそう!」

今日の夕食はカルボナーラにした。最近スパゲッティに凝っていて、練習の成果を披露しようと思ってのこと。調理を間違えると卵がダマになってぼそぼそしたり、奥が深い料理だ。


「どうよ、結構苦労したんだから。」

想像を超えるリアクションを貰って少しびっくりしていた。

おいしそう!早く食べよう!キャーキャー騒ぐ彼女。作ってよかったな。


ただ、胸中穏やかでないのも事実で……

香水の匂いが脳裏にこびりついて落ちてくれない。


「食べようか。」

机にふたり。「いただきます。」


「ん~!!!おいしいよ!!!四季は天才だ!!!」

「ん、うまい。我ながらうまく出来たなあ。」


カルボナーラはおいしくできた。彼女の反応も上々。


でも、でも。


聞きたい、あの香りの正体を聞きたい。何がどうしてああなったの?

自分で買ったの?そんなわけないよね誰からもらったの?

聞きたい聞きたい聞きたい気になる気になる気になる気になる____


半分くらい食べたところでゆっくりフォークを置く。


「ねえ」

「今日のもみじ、いい匂いした。香水?」

「あ、気づいた?そうなの、つけてみた!」


やっぱりそうだよね、柔軟剤なんかじゃないよね……

「買ったの?」

「ううん、貰ったの。」


ああ、思った通りだ。彼女が買うわけないじゃないか。


そういえばこの土日、彼女は家に居なかった。

先週は私といる時もスマホを弄っていることが多かったし、それが答え合わせか……


私は何を考えているのだろう。どこに出かけたって自由。何を貰っても自由。友達が誰と何をしていても自由ではないのか……?そもそも、友達の事は応援するのが筋ではないのか?

そもそも聞かなければよかった。なんでこんなこと聞いてしまったんだろう。彼女が自分で香水を買って付けた。そういうことにしておけばよかった。ああ、今更が過ぎる。


「土日出かけてたよね。そこで貰ったの……?」


うん、頷く彼女。心拍数が一気に跳ね上がる。どうしようどうしようどうしよう、ああ……


「そうだよ。」お姉ちゃんにね。


んん?


あれ、思っていたのと違うな。お姉ちゃん?


「あ、言ってなかったね。土日実家に帰っててね、お姉ちゃんがくれたんだ。『もう使わないから』って。」


「あ、お姉ちゃん居たんだ……」


何に対してか分からない安堵の気持ち。


「そうなの、それでね……」

姉との会話、家族そろって食事に行ったこと、彼女の口から帰省の思い出を聞かされたが、私はうわの空で。


「いい匂いだね。私、それ好きだな。」


「ありがと。嬉しいな。」

そう言うと彼女は肩をこちらに寄せて囁く。「ねえ……」


「ねえ、四季。講義中ずっと嗅いでいたね。そんなに良かった?」


耳元に熱が響く、ゼロ距離で香るあの匂い、頭がくらくらして……


ああ……


先週のこと。彼女が寂しさを吐露したとき、大事な部分が揺さぶられる感覚がして、願わくば彼女を抱きしめたいと思った。でも、できなかった。同性の友達という言い訳をつかえば容易く行えたはずなのに。


代わりにお泊りを提案した。でも、指一本触れなかった。寝息と寝顔のいとおしさがこびりついた。


そして今日。香水を貰った相手がお姉さんだと分かって、ひどく安堵した。


もみじ……匂いがもっと欲しくて必死な私を知っていて、止めもせず、1mmの反応もしなかったんだね。




ねえ、あなたはどう思っているの____

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