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雨降る夜に

愛とか友情というものが、本当のことのように感じられる日を待っている。

それをとらまえて口に含んだなら、ラムネのように瀟洒な香りがするに違いない。


食品ではない?ええ、知ってるわ。(柳瀬四季)

「持ってきたよ!」

「おー、さんきゅ。お湯沸かしといた!」


梅雨の足音ほど近い、ある平日。

実家から蕎麦を送ってきたので、夕食に食べようということになった。


「へぎ……そば?」パッケージの見慣れぬ文字に首をひねる柳瀬。

「それはね……」聞きかじりの半端な知識を披露してみせる。新潟名産で、ふのりが混ぜ込まれており食感が良いのだ。


「ほえ~なんだかすごいねえ、おいしそう。蕎麦なんて学食のやたらぼそぼそしたやつしか食べてないし。」

「あれはあれで安くていいんだけどね。」


「実家から送ってきたってことは、家ではよく食べていたの?」

「うん、そうそう。蕎麦と言えばこれだったかな。おばあちゃんの家が新潟だからかも。」


さっと茹でたら、いざ実食。


「ん!もみじちゃん!これおいしいよ!」

「ほんと?よかったあ。」口に出た以上の安堵を覚える。


彼女は食べることが好きだ。毎回大盛を注文するし。常に何かしら口にしている。

だから彼女なりに食へのこだわりがあるはずで、私から食事を提案することがためらわれる部分も少なからずあった。


が、どうやら杞憂だったらしい。

「なんか言った?」

「ううん、何でも。喜んでくれてよかったなって。」


1束1人前のところ、彼女の食欲を見越して3束持ってきたのは正解だった。

器にふたり分まとめて盛りつけた蕎麦の山はあっという間に嵩を失い、1口2口を残すのみ。


終わりの見えた器を見てふと思う。

近ごろ、毎日のように互いの家に通って夕食を共にしている。その方が食費が浮くというのはきっと言い訳。1人で夕食を摂るのが寂しいのだ、お互い。


……お互いだといいな。


ご飯を食べたら片づけをして、ちょっとお話して解散。それがいつもの流れ。

楽しい時間なのはほんとうで、それでも蕎麦の嵩が減るごとに切なさがこみあげてくる。まるでお別れまでのカウントダウン。あと30分もすれば私は302号室のドアからひとりの自室に帰るだろう。


明日もまた会えるのに。

押し黙ってしまった私。喉がつっかえる。


「どした?体調悪い?」心配する声。


温い溜息をついて口を開く。

「あのね、最近一緒に夕飯を食べるでしょう。」

うん。

「でもね、でも、」

「楽しければ楽しい分、お別れして部屋に戻るのが嫌になるの。」

……そっか。


変だね。わたし。


つけっぱなしのテレビから芸人の笑い声。1Kの居室にむなしく響き渡るのは何故。


----------------------------------


「コンビニ行こ。」

「そんでお菓子とか買ってさ。」


______うちに泊まりなよ。


思いがけぬ申し出。彼女を見上げる。

どんな間抜け顔をしていただろう。

「ありゃ、そこまでではなかったか……?」

「ううん、そんなことない。ありがとう。」


目頭が熱い。涙は流すまい。


「目、真っ赤。」

「ね、もみじ。泣いた方がすっきりするよ。」

どこまでも優しいね、四季。


「何故、そんなに優しいの……?」

静かに背中をさする体温、それが答えだと、そう信じていたい。


ぽつり、ぽつり、雨が降りだしてきた。

1か月近く続いた晴天、その間に溜め込まれた水分は遂に自重に耐え切れなくなる。


梅雨はもう目の前だ。

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