表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

海へ

海は昼と夜で姿を一変させる。

本質的には同じものでありながら、太陽が照らすのと月が照らすのとで別物になる。

特に深い意味は無い。

結論の出ないどうしようもないことを考えるのが、私の癖。(秋ヶ瀬もみじ)

「海行こうよ、海」


え___


彼女からの提案に困惑してしまう。


「あれ、海嫌い……?」

「いや、だって、まだ5月だし……」

「???」

「水着はちょっと……」


会話が微妙にかみ合っていない。あれ?なんか勘違いした、な?


「あーーーっごめんごめん海ってそういう意味じゃなくて!」

海を見に行きたいな、ってことよ。


答え合わせがスピーディーで助かる。

「うわ、はずかしー。だよね5月だもんね、へへへ」


でもさ、夏になったら海入りたいけどな。一緒に。


「痩せるように努力します……」


別に太ってないと思うけどねえ。

「着やせするタイプなのっ」

「ほーん」

ニヤニヤ顔がこちらに寄ってくる。


「えいっ!」

「全然太ってないじゃん!」

突然抱きつかれ困惑のあまり言葉もでない。


「そんなこと……」


じゃ、決定。夏は海入る!


ええ……


---------------------


それはそれとして、まずは海を見に行こうよ。

梅雨も間近な5月中旬、海沿いの街。

ゴールデンウィークの喧騒が嘘のように静かで、一定のリズムを保って耳に届くさざなみが心地よい。


売店でアイスクリームを買い、ふたり海岸線を歩く。


「ちょっと座らない?」

浜辺に降りる階段に腰掛けて一休み。


じっと海を見つめたまま、アイスクリームだけが減ってゆく。


「ね、私たち知り合って1か月になるんだね。」

「……うん。」


「この1か月あっという間だった。」

「学校忙しかったしね。」

「ううん、」ま、それもあるけどさ。


______秋ヶ瀬と一緒に居れたからだよ。


「そっか、ありがとうね。」


そっと吹き抜ける海風が、頬の熱を冷ましてくれる。


これが夢であるならば、どうか覚めてくれるな___


---------------------


水平線の彼方、貨物船だろうか。小さな影がぽつり。

いつもそう、遠い所ばかりを眺めている。


小さい頃は、よそ見ばかりして物にぶつかった。

少し大きくなって、授業中の窓から景色を眺めていた。

更に大きくなって、将来の事ばかり考えるようになった。


目の前のことに目を向けることをしなかった。それが大事なことだと散々教えられてきたのに。


いま目を向けるべきこと、それは何だろう。答えは分かっている筈なのだけれど、直視することがためらわれる。


目を向けるべきこと。それは……

彼女の横顔が徐々に視界に映りこんでゆく。


「あやせ」

「ん、どうしたの?」

海を向いたままの彼女


「下の名前で呼んでいい?」

返事は待たない______。


「四季」


「もちろん、もみじ。」


名字で呼ぶことに少しだけ引っ掛かりを覚えていた。

問うてしまえば大したことはない話。それでも時が経つほどに慣習は固定されてゆき、破ることが困難になるわけで。いつだって今が一番早い。いつかは一生来ないから。


「ありがと、嬉しい。」

ふっと風が止んで、残るはさざなみのリズム。

"ため"を作るような静寂が一瞬訪れ……


「って、手!!!」

静寂を突き破るは四季の叫び声、視線を彼女の人差し指が示す先に。


あーーー。


---------------------


「よかったね、手洗い場あって。」

「うん、ほんと。ここが海水浴場で助かったよ。」

長いことぼうっとしているうち、すっかり溶けてしまったアイスが手を汚していた。目を向けるべきは水平線でも彼女でもなく自分の手だったらしい。なんだよそれ。


「もったいないことしちゃったな。」

「また来ればいいじゃん。」で、一緒にまたアイス食べるの。


「四季はポジティブだねえ。」

「でしょー」

ぽじてぃぶぽじてぃーぶ、変な歌を口ずさむ彼女。手を洗いながら横目でそっと眺めていた。


海風が少し強くなってきた。

防風林がざわついている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ