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おでかけ

---T川駅---


「よく晴れた!」

「だねえ~」

電車に揺られ繁華街へ降り立つ。


「昨日は雨と風凄かったから今日いけないんじゃないかと思ったよ~。」

「それね、シャッターの揺れる音がうるさくてさあ。」

昨晩あれだけ大騒ぎしていた春の嵐は川の混濁に面影を残し、太平洋へと逃げた。初夏の香りを置き土産に。


4月も下旬にもなれば私たちの生活も固定されつつある。月曜から金曜までほぼ講義漬け。毎朝8時のロビー集合も、相変わらず柳瀬が先に待っている。ルーチンワークと呼んで差支え無いほどに決定されてしまった日常に変化球を投げ込むのは土日という休暇の重要な役目だろう。


「大学生ってさ、なんでか知らないけど平日昼間から遊び歩いてるイメージしてたんだよなあ。」

「それは単位取り切った3,4年の話では?」


そんなもんかねえ、まあしゃーなし。そうそう、しゃーなし。


「お腹空いたなあ。秋ヶ瀬ぇ、なんか食わん?」


腕に目をやる。時計の短針が頂上に到達するには45度ほど足りない。

「昼にはまだ早いね。」


とは言ってみたものの、柳瀬が食べたいというなら仰せのままに。


「お腹すきすぎてしんじゃ~う。」

へいへい。


「お、」半歩前を歩いていた柳瀬が足を止める。

「ちょ、ま!?」脚がもつれる。彼女の背中にダイブ。

転びそうになってとっさに彼女の背中をつかんだ。


と、そんなことには動じず。(それはそれでどうなの?)

「お、Mバーガーあるじゃん。ここでいい?」

振り向いた顔が近い。綾瀬に掴まったまま、動けなかった。


顔が近いっすよ。

もつれていた足を立て直して綾瀬から離れる。


「もー、あぶないから急に止まらないでよねーっ。」

ごめんて。「で、ここでいい?」


この女、食べることしか考えていないらしい。


「何食べるの?」

「ビッグバーガー、もちLサイズのセットで。秋ヶ瀬は?」

「うーん、フィレオ魚にしようかな。」


なんだ、あなたもしっかり食うんかい。

……そりゃせっかく来たしね。


カウンターで受け取って席に着く。「いただきまーす!」


「そういえば私、ビッグバーガー食べたこと無いんだよね。」

「え?そうなの?」すっごくおいしいのに。

「そんなに?」そりゃもうね。


「百聞は一食に如かず。ん。」食べかけのバーガーを握ったままこちらに差し出してくる。

「食べてみなされ。」


お言葉に甘えて……

差し出されたバーガーに顔を近づけてひとくち。


「んっ!これおいしいねえ。なんかソースが不思議な味でおいし……」

「でしょ!食べ応えがあって好きなんだ。」


ありがとね、じゃお礼ということで。

「柳瀬ってこういうの絶対頼まなさそうだよね。」自分のバーガーを差し出す。


いいの~?いただきまーす。

わりかし大き目のひとくちをいかれてしまった。まあ、いいか。


「魚のバーガー初めて食べた!なかなかおいしいですなあ。タルタルソースがいいアクセントだね。」


あ、わかるんだ。だよねタルタルがいい味出してるよね。


「絶対に健康に悪いって分かってるんだけどさ、つい食べちゃうんだよね。」

ポテトをつまみながら、その中毒性について語りだす。

「駅前にMバーガーあるじゃない?なまじ家から近いから夜中に食べたくなって買っちゃうんだよね。」

え~、何時くらいさ、それ?

「0時過ぎとか、かなあ。」

すごいな……

「食べたくてしょうがないんだもん。街中でも店の前通るとさ、ポテトのいい香りするじゃない?あれ嗅いじゃったらもうダメ。」


「柳瀬ちゃんは食欲に素直だねえ」ふふふ。

「……そうだね、ははは。」顔が曇る。


あれれ、なんかまずいこと言ったかな。

ああ、女の子に「食欲旺盛」なんて地雷も良い所か……。そりゃそうだ。


「あ、ごめんね?変な事言っちゃった?」

「え?ううん、何でもないよ。」大丈夫大丈夫。ふふん。


そっか、そうか。「ならいいのだけど。」

よくないよなあ……。


ポテトを平らげて席を片付ける。

都会店舗特有のやけに急な階段を降りて店外へ。


通りに出て周りを見渡す柳瀬。「ね、ル○ネ行こうよ。」

「おーし、れっつごー。」


「服でも見るの?」

「うん、夏物そろそろ見とかないとね。」


「へえ……」

「ん?どした?」

「いやあ、私ル○ネとかで服買ったことほとんど無いんだよね。」いつも○ニクロかG○でさ。

たまに背伸びしてWEGOみたいな……


「あ、そうだったんだ。じゃあさ、秋ヶ瀬の分も見ようよ。」

選んだげる。


「へー、いろんな店が入ってるんだねえ……」

フロアマップの前で感心する私にあきれた声。

「ねえ、高校の時とか友達と服見たりはしなかったの?」


うーん、「なかった!」即答。


「私の友達って服とかあんま興味なくて、だいたいそこらの量販店で済ましちゃう派だったんだよね。」

だからブランドとかあんま知らないし。


「おお、そうか……」


「でも興味が完全に無いわけじゃないよ。今日のこれだって一応手持ちでマトモっぽくなるように頑張ったの。」

グレーのだぼっとしたプルオーバーと緑のロングスカートの組み合わせ。足元は歩くことを考えてニューバ○ンス。


「確かに秋ヶ瀬って安めの服で良い感じにまとめるセンスがあるんだよな……」大学でも結構いい感じだったし。


「ブランドとか値段だけの問題じゃないんだね。秋ヶ瀬見てて分かったわ。」

「でも、いいヤツにはそれなりの良さがあるんだよ。」マップの一点を指さした。秋ヶ瀬が歩いて行く。


「ファストファッションって最大公約数的な服作りをするからさ、例えば流行ってるデザインにカラバリ出して2900円とかあるじゃん。そういうのは外さないから良いんだけど、個性にはなりにくいんだよね。」

ほら、街中で上下とも被っちゃう事故とかあるでしょ。「あ、たしかに……」。


「ファストファッション見慣れてると高く感じるし、まあ実際高いんだけどさ。全身そろえなくても1アイテムあるだけで雰囲気変わると思うよ。」


これとかどう?そういってラックから黒ジャケットを抜き取った。

鏡の前で羽織ってみる。おお、これは。


「ほら、今日のカッコに羽織ったらカッコよくまとまるんじゃない?」

かわいい系よりこっちの方が好きでしょう?たぶん。


「ご名答、これいいな。買っちゃお。」

「え、買うの?もうそろ暑くなるし自分で勧めといてあれだけど、秋までお預けになっちゃうよ?」


「いいの」


柳瀬が選んでくれたから。

「ね、柳瀬は何か買う?」

「じゃあ……」


秋ヶ瀬が選んで、と言うので店内を物色する事15分。

柳瀬は黒スキニーに白シャツというクールなスタイルだから、合わせるならやっぱり羽織ものになるか。


シャツの上に着れるものというので、ニットのカーディガンにした。

「選んでみたんだけど、私も羽織ものになっちゃった。もう暑くなるから着れないよね。」


柳瀬に着せてみると、「かわいい……」思わず声が出た。

「ほ、ほんと?」照れの混じった返事。


ね、秋ヶ瀬。

「ん?」

「買うよ。これ」でも、夏……


「秋ヶ瀬が選んでくれたから。」ね?


選んだ服を抱えてレジへ。

「あの、タグ取ってもらっていいですか。」


「へ?」謎の申し出に、柳瀬の方をみて目をぱちぱちさせる。

「今日着ようよ。」暑くなる前にさ。


「そうだね……」


タグを取ってもらい会計を済まして店を出た。


「おー、やっぱり似合うね」

「ありがと、あなたもね。」

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