夢はいつか……
この日、彼女は朝からバイトだと言って出かけて行った。早番に欠員が出たのでヘルプを頼まれたそうだ。それを見送ってから、再び布団に倒れ込む。
次に目が覚めた頃には時計の針は頂上を超えていた。
起きぬけのコーヒーの為、湯を沸かす。
それを待つ間リビングの椅子に腰かけ、何をするでもなくぼうっとしている。
この頃、日々の速さに思いを馳せることが多い。
明日も明後日も彼女の横で目覚め、食事をし、大学に通い、バイトをし、帰宅し、眠りにつく。
続く、続いて行く。それを疑うことはしないし、連綿と続いてゆくこの日々に一体何の不満を抱くというのだろう。
そうは言っても、この日々もいずれ終わる。
明日や明後日のことではないけれど。1年と数か月。
長いようで、短い。
もう同じ季節を繰り返すことはない。
この暮らしが無限に続けば。そのように考えることもあるが、終わりを定義しない生活は堕落の一途をたどるようにも思える。
どこかにピリオドを打っておいて、そこへ向けて発生する不安や焦りやむなしさや切なさ、そういった感情をカンカンに高めて溢れさせた方が、真にふたりの生活において無限を得ようとするなら必要な工程ではあるまいか。
キッチンからヤカンの鳴く音がして、重い腰を上げる。
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彼女との旅は幸せを煮詰めたような、すばらしい日々だった。
彼女に振り回されたし、私も振り回した。
宿に泊まったとき、間接照明の柔らかな光のもと酒を酌み交わしたのを思い出す。
「それ気になる。飲んでいい?」
彼女の手元に手を伸ばした。
「いいよ」とは言ってくれず、無言で私の手を払いのけ一気に酒を呷った彼女。
あっけに取られていると、私の頬に触れて強引に引き寄せられる。そのまま唇が近づいて……
強引にこじ開けられた隙間から流れ込んでくる冷たい感覚、必死に受け取ろうとするも隙間からしとしと溢れて滴ってゆく。酸欠になりそうで目に涙が浮かぶ。
酒なんてとっくに嚥下してしまったというのに、冷えた酒を含み温度を下げた新鮮な感覚を交わらせて、温度が戻ってからもしばらくそうしていた。滴った雫は乾ききっている。
「ふふ。どんな味だった?」
唇の周りのお酒をなめとる様に舌を回し、ふわり蕩けたような目線。
「四季の味がした……」
酒の味なんてわかりゃしないよ。
「お酒の味の話なんだけどなあ。」
誰のせいだ、誰の。
私の手元に残された缶、それを指先でつつく彼女。
「ねえ、」
次は、もみじの味が知りたいな__
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コーヒーにミルクを入れようとして冷蔵庫を開ける。
コーラが目についた。彼女が昨晩飲んでいたっけ。
手に取り、シュっという控えめな音を鳴らし開栓する。
ひとくち含んで冷蔵庫に戻した。
得も言われぬ満足感がそこにはあった。
こんな遠回しなことをしなくても夕方になれば彼女は帰ってくるのに、私はそれをした。
コーヒーを一杯。コーラを上書きする。
彼女は夕方に帰ってくる。そうやって時間が決まっているから私はこうして変な試みをしたり、考えにふけることができる。
親のいない間に悪戯をする悪ガキは、親が夜には帰ってくると分かっているから悪戯に精を出すことができる。いつ帰るかもわからぬ親の為に悪戯を仕掛けることはできまい。それどころではないからだ。
終わりの規定は、何も悪いことだけではないと思う。
敢えて幅の制約を設けるからこそ為せることもある筈だ。




