旅に出よう。それは夜逃げの如く。
夜、時計の針は21時を少し過ぎたことを示す。
マンション前の路上に止めたワンボックス。トランクへ荷物を詰め込む私達。
ハザードの点滅に照らされてその姿はさながら夜逃げ。
部屋に戻り戸締りの確認をしつつ、
「これで全部?」
最後の確認。
「大丈夫!」
よし、行こう。
いざ、旅へ____。
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1か月前のこと。
「秋になったらどこか旅行に行こうよ。」
「そうねえ、流石に夏はきちいし。」
「どこがいいかな、やっぱり国内だよね。」
「そーだねえ、せっかくだし1泊とかじゃなくてもうちょっと長く出かけたいなあ。」
大学生活も折り返しを過ぎ終焉のカウントダウンが始まるころ。時間を使うなら今しかない。
「じゃあ1週間くらい!どう!?」
なかなかロングな提案。だが、それがいい。
ンな訳で、長期の旅行のスケジュールが組まれたのである。
実家のワンボックスを借りることにして、車中泊しながら西を目指そう。
学生らしい貧乏旅行だ。
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『ルート225』- 1日目、21:25
「しゅっぱーつ!」
「ん」
青いワンボックスは夜の街へ走り出す。
静かな住宅街を抜け、国道246号。
「トラックが多いねえ。」
「道が空いてるからかな?」
「私たちと同じだね。」
夜中に出た理由。講義が終わってから朝まで眠っている時間がもったいないのもあるが、夜間の方が交通量が少なく距離を稼げると踏んでのこと。あとは深夜割か。
起伏の多いバイパスをトラックに交じりさくさく駆け抜けていく。
高架橋の途中にラブホテルの看板が見えれば左に旋回して厚木市街。
ロードサイドの灯りに照らされて直線道路を突き進む。
そのうち「沼津・伊勢原」の分岐案内。ついに沼津の文字が。
「遠い地名が見えるとさあ、なんか旅に来たなって気分になる。」
「わかるわかる。新幹線のホームの行き先案内とか。」
「それでいうと湘南新宿ラインの籠原行きってどこやねんって。」
「なんかそれ意味合い違くね……」
直進してゆく大通りから側道へ、
「こういう分岐ってさあ『See You Again』って感じよね。」
「へ?」
小休止を挟みつつ、気づけば246ともおさらば。
国1を西進し、しばらく走って富士市街で眠りについた。
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『花咲く君の滑走路』- 2日目、07:55
外の明るさで目を覚ます。
あくびと涙でぼやけた視界に映りこむ大きな影。
富士山が目の前で雄大な姿をさらしていた。
「四季!起きて!!!富士山!!!」
富士山なら大学からでも見えるけれど、間近で目に映るそれはもはや別物に見える。柄にもなく感動してしまって、ハイテンションで彼女をたたき起こす。
「わ!富士山でっか!!!」
「ふふん、すごいでしょ!」
「なぜもみじが自慢げなのさ……」
缶コーヒーを2本、のどを潤し再出発。
走り出すや否や大きな橋を渡る。窓を全開にして秋風と一体になる。髪の毛が暴れても気にならない。
「きもち~い!!!」
ふたりして朝からご機嫌。
そのうち由比海岸に。遮るものゼロのオーシャンビュー。こんどは海風!!!
朝日が海面に反射する、崖際を走るから反対側の緑との対比が美しい。
「すごいねえ、ここ。」
「ね、これで旅はまだ始まったばかりってんだから。」
「うれしいね。まだまだ楽しいんだよね。」
「うん。これから。」
口にしなかったけれど私も彼女も気づいている。
始まれば、いつか終わる。
楽しい時間だって無限じゃない。
この旅は大学生活そのものの縮図ではないのか。始まった途端、終わりまでの期間を数えだす。
大切にすべきは今か未来か。ありもしない、不確定な、計測不能で、それは海岸に打ち付ける波しぶきのように行き先不透明に……
かつて読んだ本。"いつかのために今を出し惜しむのか"、問いを思い出す。
今を愛せない者にいつかを愛することはできまい。そんな内容だったような、難解で正しく読めた自信はない。
助手席にちらと目をやる。頬杖をついて窓の外を眺めていたその表情は少しだけ憂いを帯びていて。
きっとあなたも同じことを考えている。
カーステの音量を少しだけ上げて、言葉は交わさない。口を開けば崩れてしまうことだってあるさ。




