Lose my marbles.
ポカリとアクエリで言ったら私はポカリ派。
何でかと言われても、うーん、CMが好きだからかな。
でも私運動部じゃなかったしスポドリ飲むときは専ら体調悪いときだから、ちょっと複雑かも。
(秋ヶ瀬もみじ)
「四季~いる~?もみじだよ~!」
インターホンを押しながら呼びかける。
風邪を引いた彼女がポカリを欲しいというので大学帰りに買ってきた。
ついでにゼリーなども差し入れる。長引くとつらいしね。
そのうちどたどた足音がして、「もみじ、ありがと。」パジャマ姿の彼女が姿を見せた。
「ね、上がっていい?」買ったものを渡しておしまいでもいいけれど、なんだか心配で。
「ありがとう、優しいねもみじ。」上がっていいよ。先に奥へ戻っていく彼女。
机の上に買ったものを広げた。
「これ、欲しいって言ってたでしょ。」ポカリは枕元に。
「ほかにもゼリーとか買ってきたんだけど……」今食べないよね。冷蔵庫入れておくね。
冷蔵庫への道すがら目に入ったシンクには昼食べたであろうゼリーの空容器やらコップが出したまま。
ついでに全部洗って乾かしておく。
それに気づいてベッドから焦ったような声、「ごめんねえ……」
一仕事終えベッドに目をやった。
彼女は壁の方を向いて横になっている。この体制が楽なのだろう。
「その方が楽なの?」
無言の返事。そっか。
「ね、もみじ。」壁を向いたままの呼びかけ。
「ありがとね。」
「ううん、いいの。」こんなことするの、四季だけだからね。
「私ね」
「今日ずっともみじのこと考えてたの。」
「朝連絡くれたとき、言葉に甘えて家に来てもらったらよかったなとか。」いろいろ。
「そのポカリはね、言い訳。」
____今日も会いたかっただけ。
黙ってベッドの上の背中を眺めていた。
誰に伝えるでもない。返事も相槌もないまま進んでいく言葉。いわば彼女の独白。
この場において私は秋ヶ瀬もみじでなく、いち聴衆?
彼女がその言葉を聞かせるべきは秋ヶ瀬もみじなのに、ここにそいつは居ない。
語るなら、居る時にすべきだろう。
それに、ほかならぬ私自身が、その言葉を直接受け止めたいと思っている。
私はここに座っている。でも、あなたは誰に向かって話しているの?
堪りかねて口を開く。
「ねえ、」
「来週、花火大会があるの……」
続きはそこでしましょう____
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花火大会、10年ほど前におばあちゃんちの近所で一度見たような。
大抵はニュースでダイジェスト的に放映されるそれを眺めてお終い。
今まで花火を見に行こうという気がそもそも無かったし、だいいち蒸し暑い夏に屋外の人混みに行こうなどというのが無茶苦茶な話で。やるなら秋か春にして欲しい。
不満を垂れても仕方がないが、そもそも私のような人の為のイベントでは無いと思っていた。
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大学の壁に貼り付けられた「花火大会のお知らせ」。
彼女はこういうのが好きに違いないし、でなくても私が誘えば来てくれるのではないか。
柄にもなくそう思えたのは四季との生活の賜物。
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私に背を向けてベッドで一人語りする彼女の言葉を聞いていたら、花火大会をただの遊びの約束に収めるのが惜しく思えた。
今思えばとんでもない提案をしたものだ。
彼女の言葉を先読みして勝手に突っ走り、挙句結論を先延ばしにさせる。
とんでもないを通り越して鬼か、私は。
せっかく出かかった言葉を無理やり飲み込ませて、それが彼女の中でどう振舞うか。
彼女は苦しいだろうか。
苦しいに違いないな。花火大会まで1週間、辛いに違いない。黙ったままの彼女の背中。
____そう思うと何故かぞくぞくして止まらない。
彼女が持つ私へのそれ、刺激して限界まで膨れ上がらせて、耐え切れず吐き出そうとしたのを無理やり口に押し戻したんだ。
彼女の葛藤を想像する。ああ素敵。気持ちいい。
甘い蜜があふれ出てきて止まらないような……
わたし、こんな人間だったんだ。
わたしのせいで彼女は苦しんでいる。それがたまらない。
嗜虐的な心の芽生えを感じる。否、昔から持っていたのかも。彼女と出会って発露したのかな。
だったら、四季のせいだよね。私がこうなったの。
まだ耐えられるよね、花火大会まで頑張ろうね。四季____




