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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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視える者と魅せる者

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

リビングへと不意に放たれた凄まじい魔力の圧。


それに当てられてしまい、その場で気を失ってしまった紗奈を、ノア子たち少女たちが大慌てで介抱する。


「お前だなんて……私は本当にお可哀想でしょう、サク。別れ際に、あんなに愛らしく『姉ちゃん』と呼んでくれたじゃない」


「なら、姉ちゃんと呼んでやるから、今すぐその魔力を極限まで抑えろ!!」


「あ、失礼しました。この部屋には、貴方たち厄災級の個体しか居ないものだとばかり思っていたから」


クレアはそう言って、すんなりとその身に纏う神聖なオーラを霧散させると、紗奈を介抱している少女たちの元へとトコトコと歩み寄った。


そして、何らかのスキルを優しく指先から注ぎ込むと、すぐに紗奈がパチパチと瞬きをして目を覚ました。


「えっ……私、一体何が起き……って、天、天使様!?」


「おはよう、ニンゲンのお嬢さん。わたしはクレア。これからどうぞ、よろしくお願いしますわね」


「……とりあえず、みんな。椅子に戻ってくれ。クレアは大丈夫だ。俺たちを傷つける意思は一切ないから」


俺がそう宥めると、配下たちは未だに警戒の色を瞳に残しつつも、ゆっくりと元の椅子へと戻っていった。


「で、姉ちゃん。一体、何をしにこんなところまでわざわざ来たんだよ」


「「「……姉ちゃん?」」」


ノア子、ゴウキ、そして紗奈の声が見事にハモった。


あ、そっか。


まだその辺りの詳しい説明をしていなかったな。


俺はひとまずクレアを空いているダイニングチェアに座らせると、池袋の最深部で彼女と交わした対話の内容を、かいつまんでみんなへと話して聞かせた。


彼女たちの基準としての魔力の高さから、襲撃者が厄災級の存在であること自体は最初から理解していたようだったが、まさか本物の厄災が、こうして我が家のリビングの食卓に平然と座っているという事実には、流石に驚きを隠せない様子だった。


「なるほどな、大将。じゃあアレか? そこの姉ちゃん……と言うのは、同じルミナスドラゴンの因子を持っている、いわば姉弟のような関係だからってことなんだな?」


「そういうこと。モンスターの血の繋がりで分かりやすく言えば、元からあるパスの繋がりよりもっと薄い関係だけど、感覚としてはグレイス、シュナ、レイの少女たちの関係と同じようなものだと思えばいいよ」


説明を聞き終えると、理解の早いグレイスが、居住まいを正してクレアへと丁寧に向き直った。


「サク様のお姉様……クレア様ですね。お見知り置きを」


「あらあら、グレイスちゃん。かしこまって可愛いこと。……そうなのよ、私がサクのお姉ちゃん。これからは『クレアお姉ちゃん』と呼んでちょうだいね」


クレアは、どこまでも慈悲深い聖母のような笑顔で少女たちを見つめているが、俺の目には、どう見てもただの駄目な天使……駄天使による悪質な精神洗脳にしか見えなかった。


けれど効果は抜群だったようで、少女たちは一瞬でその美貌に魅了され、「クレアお姉様……」と小さく呟き、その言葉自体に「はぁぁん……」と頬を上気させてうっとりとしてしまっている。


「だから! 何をしに来たんだって聞いてるんだよ。池袋で別れたばかりだろうが」


「ほら、わたしの愛しい弟が、別れ際に『またな、姉ちゃん』ってとっても優しく呼んでくれたじゃない? だから嬉しくなって、つい貰ったサインを媒介にして飛んできちゃったのですよ!」


「『つい』で世界のトップクラスの厄災が一般住宅に不法侵入してくるんじゃねえよ!!」


俺が頭を抱えてツッコミを入れていると、隣に座っていた紗奈が、おずおずと控えめに手を挙げた。


「あの……クレアお姉様。もしよろしければ、お姉様もご一緒に、私たちの夕飯を食べていかれませんか……?」


「いいって、紗奈! そんな気を遣わなくていいから、早く帰れよ、この姉ちゃんは!!」


「あぁ……もう、サクったら。そんな反抗期の弟みたいなツンツンしたことを言わないでください。……お言葉に甘えて、喜んでいただいていきますわね」


クレアのその一言を合図に、おもてなしをすべく、紗奈と少女たちがテキパキとお皿やカトラリーを追加するために動き出した。


食卓を眺めながら、クレアはフッとその青い瞳を細める。


「それにしても……この家の中に、厄災級の魔力を持つ個体が2体も平然と同居しているなんてね。……あぁ、そういえば池袋には、あの冥王もいましたわね」


「おい、大将の姉御。ちなみに、あんたのその優秀な目から見て、俺はどう視えているんだ?」


ゴウキが、自身の自慢の胸筋を叩きながらクレアへと尋ねた。


「阿修羅……やはり貴方も、神族の域に達しているのね。サクから分け与えられた因子の影響が、異常なほどに強く出ているわ。……嫌だわ、これでは私単体の出力でも、正面からでは絶対に勝てないじゃない」


クレアからその強さを保証され、どうだと言わんばかりにこれ以上ないドヤ顔を決めて鼻を鳴らすゴウキ。


「それから、そちらのブラッド・アークのお嬢さんは……あら、凄く優秀ね。それに、魂の蘇生魔法なんて、世界中を探してもわたしクラスの権能じゃないとまともに扱えない物だと思っていたけれど、貴女もすでに使えるのね」


ノア子の能力まで一瞬で見抜いた彼女に、俺は思わず顔を顰めた。


なんだよ……。


俺たちのステータスや手の内が全部最初から視えてるのかよ


「ええ、視えてますわよ? このクレアに視えない物など何ひとつありませんから」


「人の心を勝手にアナライズして視るなって!」


「仕方のないことですわ。サク、わたしが貴方のことを『お姉ちゃん』と呼べと言っている本当の理由は、ただ同じドラゴンに喰われた因子だけの問題だとお思い?」


「……え? わからん。それ以外に何か理由があるのか?」


元ニンゲンのモンスターという共通点、いや、それはさっきの因子の話に関係しているはずだ。


けれど、種族としては、俺は悪魔から派生した幻惑神で、クレアは純然たる天使だ。


根本的な属性すら違う。


「わからん!」


「ふふ、教えてほしい? ねえ、どうなのかしら?」


「いや、別にどっちでもいいよ……」


俺が投げやりに答えると、正面から紗奈が身を乗り出してきた。


「私はとっても気になります! ぜひ教えてください、お姉様!」


「いいですわよ、ニンゲンのお嬢さん。教えて差し上げますわ。……わたしはクレア・レミエル。雷を司る者であり、慈悲を与える者、そして何よりも『幻視』を支配する者ですわ」


「幻視……?」


紗奈がその聞き慣れない言葉を繰り返す。


あぁ……。


その一言で、俺の頭の中のパズルがカチリと音を立てて繋がった。


「神のご意思を眷伝える役目。夢や幻すらも、全てを正確に視る力ですわ。ねえ、サク?」


「……じゃあ、幻を支配して創り出す『幻惑神』である俺は、姉ちゃんの能力の対になるってことか」


「さぁ? でもね、神のお言葉を伝える役目のわたしでは、神そのものの不可侵の力を持つ貴方の領域には、どうしても敵わないでしょう。……だから、わたしは貴方にだけは絶対に勝てないのですよ、愛しい弟」


クレアはそう言って、どこか誇らしげにクスリと笑った。


なるほど。


視る者と、魅せる者ね。


「まあ、今さら戦う気なんて無いし、やめておくわ。ここで厄災級が全力でぶつかり合ったら、それこそ地上の世界が物理的に壊れるからな。……姉ちゃんとは、大人しく仲良くしておくのが1番だ」


「そういうことですわ。物分かりが良くて素敵な弟ね」


クレアは満足そうに微笑むと、綺麗に並べられた山盛りのハンバーグの皿を見つめた。


「さあ、みなさん。せっかくの美味しいお料理が冷めてしまいますわ。手を合わせて、いただきましょう」


「……。お前が我が家の食事の場を仕切るなっての……」


俺は深いため息を吐きながらも、どこか憎めない大天使の姉を迎え入れ、賑やかな神々の夕食の時間をスタートさせるのだった。

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