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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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ブラッドベリールージュ

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

あの新宿の自宅での引っ越しパーティーから、早くも1ヶ月の月日が流れた。


その間に、熊谷さんから依頼されていたノア子たちと俺の新作CM撮影が行われたのだが、結果から言えば非常に上手くいった。


撮影当日、特別な専用衣装などは用意されず、深い血のようで美しいルビーのような新作グミのイメージと、ノア子たちの服が完璧に合致しているということで、彼女たちはそのままの姿で撮影に臨むことになった。


一方で、俺だけは特製のタキシードを身に纏い、ノア子たちの背後に控える執事のような立ち位置として、完全にサブの役割に徹することになった。


神たる存在をサブに回すなんて……という気持ちは微塵もなくて、俺はこのグミの考案者であり、画面上で間違いなく最高に映えるであろうノア子たちを引き立てるために全力で頑張った。


撮影は、ノア子をセンターに据えた立ち位置から始まり、その周囲を綺麗に囲むように少女たちが配置された。


カメラが回ると、彼女たちが手元にある深紅のグミを自ら口へと運んだり、あるいは少女たち同士で互いに食べさせ合ったりといった、魅了的なカットの撮影が進んでいく。


続いて画面は1人ひとりの個別カットへと移り変わった。


アップでカメラに捉えられた彼女たちの表情は、グミを口に入れた瞬間、それまでの精巧な人形のような無表情から、そのあまりの美味しさに対する満足感によって、ほんの少しだけ至福の笑顔へと変化する。


そのギャップが、言葉にできないほどの美しさを放っていた。


そして、俺の出演カットは、トレイに載せたそのグミを彼女たちの元へと恭しく運んでいき、「お嬢様方、どうぞ」と静かに傅くだけの、本当にシンプルなものだった。


仕上げに、スタジオ内に彼女たちの透き通るような声が響く。


「あなたも、もう逃げられない」


「虜になっても、責任は取らないよ?」


「だって、こんなに美味しいんだから」


少女たちのセリフも完璧に決まり、ここで全ての撮影が終了となった。


俺がこれほど前向きにサブに徹することができた理由は、もう1つある。


今回のCMで求められた表現が、満面の笑顔や明るさといったものではなく、グミの鉄分から連想される『血』というコンセプトに基づいた、どこかミステリアスで妖艶な表情だったからだ。


おかげで、いつものような無様な引きつり笑顔をカメラの前で晒さずに済んだという実利的な喜びが大きかった。


ノア子や少女も事前に様々な表情や演技の練習を重ねていたようだったが、監督曰く「いつもの自然体のままのほうが、ミステリアスで精巧な人形のようでもあり、ヴァンパイア種としての本来の妖艶さを完璧に表現できる」とのことで、結果として彼女たちは完璧に役を演じきることができた。


当の本人たちは、せっかく練習した成果を出せなくて少し残念そうにしていたけれど……。


この新作CMは、ここからさらに1ヶ月後からウェブとテレビの地上波で大々的に放送が開始されるらしく、現場で見学していた熊谷さんは「これは歴史に残る大傑作になりますよ!」と大喜びで飛び跳ねていた。


撮影終了後、ノア子たちは「……私たちの姿、どうだったかしら?」と、現場にマネージャーとしてついてきてくれた紗奈に対して少し心配そうに尋ねていた。


紗奈が「もの凄く素敵だったよ。これを見たら、世界中の誰もがノアちゃんたちの虜になっちゃうね」と太鼓判を押すと、彼女たちは心底安心したように、嬉しそうに紗奈の身体へと抱きついていた。


その様子を見ながら、俺も紗奈に向かって「俺の執事姿、大丈夫だったかな?」と尋ねてみた。


だが、紗奈は「うーん……まあ、いいんじゃないかな?」と、何故か視線を泳がせて少し困ったような曖昧な笑みを浮かべるだけだった。


その反応を見た瞬間、俺は確信した。


監督め、絶対に俺が何かやらかしたカットか、妙な引きつり顔の瞬間か何かに使うつもりだな、と。


今からでも断固として撮り直しを要求する!と叫び出したい気持ちだったが、流石に決定したことに口を挟むこともできず、俺は涙を呑んで引き下がるしかなかった。


まあ、ニンゲンである監督やスタッフ、そして熊谷さんは気を遣ってくれたんだろうしね……。





CM撮影が無事に終わった後、かねてからの予定通り、グリムの池袋ダンジョンへの引っ越しが実行された。


と言っても、グリムは元々所持している荷物が少ない上に、『シャドウインベントリ』と『影移動』のスキルを活用すれば、文字通り一発で全ての移動が完了してしまうのだ。


あっけないほどすぐに、彼の引っ越し作業は終わった。


「とりあえずこれで俺は新宿の自宅へ帰るけれど、何かトラブルや異変があれば、いつでも遠慮なく俺に念話を飛ばしてほしい。池袋の管理者にはグリムがここに常駐することを伝えておくから、ここでも外でも自由にしてくれて構わない。何かあったら、よろしく頼むよ」


「……もちろんだ、主よ。この池袋の拠点は、私が責任を持って預かった。主も地上での生活や対応で大変だろうが、共にこの新時代を歩んでいこう」


頼もしい右腕であるグリムと固い握手を交わして別れた後、俺はそのまま、このダンジョンを統括している管理者の部屋へと向かった。


久しぶりに足を踏みれた管理者の部屋は、相変わらず不必要なほどに豪華絢爛な一室という感じで、そこでこれまた相変わらず何をするでもなく、優雅にゆったりと過ごしている真っ白なのっぺらぼうの姿があった。


その緊張感の欠片もない様子を見ていると、少しだけ腹が立ってくる。


「おい。お前、ちゃんとサボらずに仕事はこなしているんだろうな?」


「おや、神様。……もちろんさ。君にこれ以上怒られたくはないからね。イレギュラーの発生もシステム上のエラーも、今は何もかも問題ないさ」


「そうか。……他の真面目な管理者たちからは、お前自身がシステム上のイレギュラーみたいなものだ、と言われていたからな。心配になって釘を刺しに来たんだよ」


「うーん……ハハハ。あの子たちがちょっと真面目に頑張りすぎているだけだよ。僕は僕なりのペースで、このダンジョンの均衡を保っているから安心してくれよ」


その気の抜けた態度そのものが、こちらとしては全く安心できないから困っているんじゃないか。


「とりあえず、今日からグリムをこのダンジョンの拠点に常駐させる。何かイレギュラーの兆候や手に負えない事態が起きそうなら、グリムのところへすぐに念話を飛ばせ。あいつに処理してもらえば、怪物相手にも負けるはずがないからな」


「へえ、彼が……。あの『冥王』なんて名前を持つ個体ね。僕なんかでは対応できないものでも、彼ならあっさりと何とかしてくれるだろうし、それは本当に安心だね。……ほら、用件が済んだのなら、君は早く外に出て地上へと戻ったほうがいいよ。可愛い配下たちが、今頃君の帰りを待っているんだろう?」


こいつ……。


俺を言葉巧みに早く帰らせて、またすぐに自分のサボり時間を満喫したいだけだろ。


「……わかっているよ。とにかく、グリムとの連携はしっかり頼んだぞ」


「はいはい、頼まれましたよぉ」


最後までどこまでも気の抜けた返事を聞き流しながら、俺は自身の影へと潜り込み、新宿の自宅へと戻っていった。



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