重なる想い
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
食後のスイーツも美味しく食べ終わり、ノア子たちがグレイやリリ、それに新しく加わったメロと楽しそうにじゃれ合って遊んでいる。
その光景を眺めながら、俺、グリム、ゴウキ、そして紗奈の4人は座ったまま、食後のコーヒーを飲んでいた。
「……紗奈、ちょっといいかな」
俺は意を決して、用意していた1つの提案をするために紗奈へと話しかけた。
「うん? どうしたの?」
紗奈は首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべて俺を見つめてくる。
「今、紗奈には配信の手伝いとか、本当に色々なことをお願いして負担をかけているよね。その上でさらに、こんなことを言うのは本当に申し訳ないんだけど……」
前もってグリムたちと話し合いを重ね、意見はしっかりと纏まっていたはずなのに、いざ本人を目の前にするとどうしても言葉が言い淀んでしまう。
紗奈にかかる負担の大きさは十分に分かっていたし、本業であるアルバイトも、以前のニンゲン関係の問題が綺麗に解決できたことで、今は店長に頼りにされて上手くいっていることも知っていたからだ。
「なになに? 改まってそんな顔されたら、こっちまで気になるじゃん!」
笑う紗奈の瞳を見つめ、俺は覚悟を決めた。
「うん……。紗奈さ、今のバイトを辞めて、ここに住まないかな? ……フロントラインの専属マネージャーと、探索者の兼業としてさ」
俺は一気に言葉を紡いだ。
ノア子たちの今後の撮影スケジュールの管理や、配下たちがこれからニンゲン社会を学んでいくためのサポート、さらにはサナサクちゃんねるの配信の手伝いなども含めて、これからは公私ともにずっと一緒にいてほしいのだと、必死に必要性を説明した。
「……自分でも、本当にワガママなことを言っているのは分かっている。せっかく上手くいき始めたバイトを辞めろなんて、無茶な要求をしていることも。だから無理を承知で言っているから、断ってくれても全然構わない。もし今のままだとしても、俺を助けてくれたことに対するお礼のアイテムや、これまで通りの給金の条件は何も変わらないからね」
一気にまくしたてた俺の言葉を聞き終えると、紗奈は「……うーん」と人差し指を顎に当てて考え込んだ。
「じゃあ、1個1個疑問を聞いていくね。まず、お部屋だってここには限りがあるじゃない? さっき来たときに新居を案内してもらったけれど、4つの部屋はもうみんなで使っていて、いっぱいでしょ?」
その現実的な問題に対して、隣に座っていたグリムが静かに答えた。
「それに関しては、私が池袋ダンジョンの拠点へと移ることで解決する。あそこには私の配下たちも控えているからな。何か連絡事項があれば、ここまでいつでもすぐに駆けつけることができるし、システム上は何の問題もないのだよ」
グリムには事前にこの件を相談していたのだが、その際にグリムからこの提案をしてくれたのだ。
グリムはニンゲンの文化を意欲的に学び、外に出てニンゲンの環境に慣れてきているからこそ、『フロントライン』の別働隊の指揮官としても十分に活動できる。
何より、グリムは圧倒的に強い。
『冥王』の名が示す通り、その実力はほとんど神と言っても変わらない領域に達している。
そこら辺の探索者や、ダンジョン最深部のモンスターが相手であっても後れを取るはずがないし、何よりも俺はグリムを心から信頼していた。
彼なら上手くやれるし、俺の右腕であるグリムが負けるはずがないのだ。
その経緯を丁寧に説明すると、紗奈は納得したように小さく頷いた。
「なるほどね……グリムさんが。……うん、分かった。ノア子ちゃんたちのお仕事の管理とか、サクたちの地上のサポートなら、私は喜んで引き受けるよ。……でも、あとはやっぱり私のバイトの退職の問題がね……」
そう、やっぱりそこが最大のネックになるよな、と思った、その時だった。
「おいおい、紗奈殿。大将はアレだぞ? そんな仕事の理由だけで、お前をここに呼ぼうと言っているわけではないぞ?」
隣から、ゴウキが何とも余計な口出しをしてきた。
「大将は、紗奈殿のことが1番の想い人だから側に置いておきたいんだ、という本質が分からんのか? 将来的に番になるのであれば、同じ家で一緒に暮らすのは当たり前のことだろうが」
「なっ!? ……ゴウキ! お前、何を突拍子もないことを言い出すんだよ!!」
俺は一瞬で顔が沸騰するのを感じながら、慌ててゴウキの大きな口を手で塞ぎにかかった。
しかし、もう遅い。
「主よ、何をそんなに慌てているんだ? 私もゴウキと全く同じことを思っていたぞ。何を今さら隠す必要があるのだ」
今度はグリムまでが、キョトンとした無垢な表情で追い打ちをかけてくる。
俺はもう、恥ずかしさのあまりに天井を見上げるしかなかった。
「……っ。さ、サク、はどうなの……?」
上気した顔で、恐る恐る視線を向けてきた紗奈のその言葉を聞いた瞬間、俺の胸の中に強い罪悪感と、覚悟が生まれた。
こんな大切なことを、女の子側の彼女に言わせては、絶対に、絶対に駄目だ。
「……ごめん。色々と言い訳みたいな理由を並べちゃったけれど、1番の理由は……俺が、紗奈とずっと一緒にいたいんだ。色々理由はつけたけれど、全部自分の本心を隠すための言い訳みたいなもんだ。だから……俺たちと、いや、俺と一緒に、この家で暮らしてほしい」
緊張感の中で、俺は飾らない本心を真っ直ぐに伝えた。
探るように見ると、紗奈は真っ赤になって俯いてしまっている。
やっぱり、急にこんなことを言われても困るよな……今の俺は、もうニンゲンじゃないんだし。
はぁ……と、半ば諦めかけて心の溜息を吐きかけた、その刹那だった。
「……ま、前向きに、店長さんに相談してみる。……だから、ちょっとだけ待ってて」
顔を真っ赤に染めた紗奈が、蚊の鳴くような声で、けれどしっかりと答えてくれた。
「いきなり明日すぐにバイトを辞めるのは無理だと思うけれど、ノアちゃんたちの撮影の日は元々お休みを貰っているから、マネージャーとしてついていけるし。……だから、これからよろしくね」
そう言ってはにかんだ紗奈の姿に、今すぐその細い身体を抱きしめたい衝動が駆け巡ったが、俺はそれをグッと必死に堪え、彼女に向かって深く頭を下げた。
「ありがとう……! こちらこそ、これからもずっと、よろしくね!!」
具体的な同居の開始時期はこれからの相談となったが、こうして紗奈が『フロントライン』の正式なマネージャーとして、この新宿の家で共に暮らすことが確定したのだった。
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