パーティー開始
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
ノア子ら少女たちが、嬉しそうに大きな皿をリビングのテーブルへと運んできた。
そこには香ばしい狐色に揚がった山盛りの唐揚げと、みずみずしい色とりどりの野菜が盛られたサラダが並んでいる。
そして最後に、人数分の炊きたてのお米と温かい味噌汁が丁寧に用意され、「ご飯ですよ」と少女たちが声を合わせて言った。
その微笑ましい光景に胸を温められながら、俺は自分の椅子へと腰を下ろした。
「まずは紗奈、みんな。こんなに美味しそうな料理をたくさん作ってくれてありがとう。新居に招いておきながら、準備を全部させてしまってごめんね」
「ううん、私が好きでやりたくてやったことだから、それは全然いいの。気にしないで」
紗奈は微笑んだ。
「ありがとう。……よし、ここが俺たち『フロントライン』の新たな本拠となった。もちろん紗奈も大切な仲間だから、これからはいつでも好きに使ってほしいと思う。みんなも、それで異論はないよね?」
俺が周囲を見渡すと、配下たちは一斉にうんうんと力強く頷いた。
「みんな、本当にありがとう。私やグレイたちは、みんなみたいな戦いはできないけれど……出来ることを精一杯やっていくから、これからもよろしくね」
「ありがとう! じゃあ、せっかく作ってくれた料理が冷めてしまわないうちに、美味しくいただきますか! いくよ、せーの」
「「「いただきます!」」」
心地良い唱和と共に、俺たちは一斉に食事を楽しみ始めた。
揚げたての唐揚げは外がサクサクで中は驚くほどジューシーであり、噛み締めるたびに溢れる旨味が炊きたての白米に最高に良く合った。
サラダのドレッシングも紗奈の手作りらしく、爽やかな酸味が口の中をさっぱりと引き締めてくれる。
そして、何よりも感動したのは味噌汁だった。
豆腐とわかめという、これぞ日本の味噌汁という王道の具材なのだが、身体の芯まで染み渡って、思わず「あぁ……」と深く声が漏れてしまうほどに美味かった。
あまりの美味さに箸が進む中、俺はふと思いついて「ちょっと待っててね」と声をかけ、席を立ってベランダへと出た。
そのまま夜の帳へと躍り出ると、目的のあるお店に向かって一気に飛び立つ。
眼下に広がる新宿のきらきらとした美しい街並みを楽しむこともなく、四谷方面へと向かって夜空をまっすぐ最短距離で突き進んだ。
そして、あっという間に辿り着いたのは、評判の有名なスイーツショップだった。
自動ドアをくぐって店内に入ると、ショーケースの中にはシンプルな定番のものから、旬のフルーツがふんだんにあしらわれた豪華なものまで、数多くの種類のケーキが綺麗に並べられていた。
俺は迷う時間すらもったいないと考え、「すみません、ここにあるケーキを全種類1個ずつください」と注文した。
店員さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにテキパキとした見事な手際で箱へと詰め、対応してくれた。
受け取った大量のスイーツを、素早く『シャドウインベントリ』の闇へと格納していると、店の奥から1人の男性の職人が顔を出した。
「……あの、失礼ですが、サクさんですよね? いつも配信を観て、応援させていただいています!」
声をかけてくれた彼に俺は感謝を伝えつつ、差し出された紙に快くサインを書いた。
いつも通りの『優しい魔王 サク』という文字と、お決まりの不格好なインプのイラストだ。
「ここにこのサインを置いておいていただければ、俺はいつでもこの影を媒介にして、このサインの前に一瞬で来ることができるんですよ」
「ええっ、それは凄い……! 家宝にして、いつでもお待ちしております!」
「一応これでも神様なもんでね! では、また買いに来ますね!」
俺は微笑むと、店内から外へと足を踏み出し、再び夜空へと飛び立って新宿の自宅へと舞い戻った。
ベランダから何食わぬ顔で室内に入ると、リビングの椅子に座っていた紗奈から「もう、どこに行ってたの?」と不思議そうに聞かれたが、俺は人差し指を口元に当てて秘密にしておいた。
やがて、テーブルの上に山盛りにあった唐揚げや料理が、綺麗さっぱりとなくなった。
「みんな、お腹いっぱいになったかな?」
俺が尋ねると、少女たちやグリムはそれぞれお腹を優しく擦りながら、満足そうに満腹だと口にしている。
ゴウキだけはまだまだ余裕で行けるといった様子だったが、ニンゲンもモンスターも、満腹の時のジェスチャーは共通してこれなのだなと可笑しくなり、俺は小さく笑った。
「じゃあ、これはもうお腹に入らないかな?」
俺はわざと意地悪気味に呟きながら、テーブルの空いたスペースに、シャドウインベントリから取り出したスイーツの箱をドン、と出現させた。
それを見た瞬間、紗奈もノア子も少女たちも、一斉に「わぁっ!」と瞳を綺麗に輝かせた。
甘いものは別腹だよね、と笑い合いながら、空になった皿を少女たちと一緒に手早くキッチンへと下げ、代わりに新しい取り皿を用意してテーブルへと並べ直していく。
「さあ、いろんな種類があるから、好きなものを自由に食べてね」
俺のその言葉を合図に、みんなが「どれにしよう」と真剣な表情でケーキを選び出し、リビングが一気に華やいだ。
グリムとゴウキは、女性陣が選び終わって余ったやつをいただく方針にするらしく、「自分たちも好きなのを最初に選べばいいじゃん」と声をかけると、「いやいや、紗奈や少女たちのあの嬉しそうな顔を見ていたら、我らが選ぶわけにはいかないではないか」と男同士で顔を見合わせて笑っていた。
ここで、俺は思いついて紗奈に声をかけた。
「そうだ、紗奈。せっかくだからグレイたちも出してあげなよ」
「あ、そうだね! そういえば、私の新しい仲間をまだみんなに紹介していなかったよね!」
紗奈は思い出したように声を上げると、指輪から3体のテイムモンスターをリビングへと召喚した。
光と共に現れたグレイとリリは、きょろきょろと辺りを見回し、ここはどこだ?と不思議そうな表情を浮かべている。
そして、その2体の隣に、今回新しく仲間になったと思われる、大きめな1匹の美しい黒猫の姿があった。
「この子はね、ケットシーのメロって言うんだ! とっても賢くて良い子だから、みんな仲良くしてあげてね」
紗奈が紹介すると、黒猫のメロは人間のように綺麗な二足歩行で、トコトコとこちらに向かって歩いてきた。
「メロっていうのか。俺はサクだよ、よろしくね」
俺がしゃがんで目線を合わせ、メロの頭を優しく撫でてあげると、メロは気持ち良さそうに喉を鳴らし、目を細めて俺の手のひらに頭を擦りつけてきた。
そしてグレイたちには、インベントリから取り出した上質な魔石を山盛りにして床に用意してあげると、3体のモンスターたちは本当に美味しそうにそれを齧り始めた。
ケーキの品定めが終わり、なぜか食べるのをじっと待っている面々に向けて、俺は不思議に思って声をかけた。
「ほら、グレイたちもご飯を食べていることだし、みんなも早くそのスイーツを食べようよ」
すると、隣に座っていたノア子がジト目を向けてきた。
「……サク。まだ、大事な『いただきます』をしていないでしょ?」
「あ……そっか、忘れてたよ」
俺は苦笑いしながら改めて椅子に深く座り直し、全員で呼吸を合わせて「いただきます」と言って、賑やかな別腹の時間をスタートさせた。
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