師匠との話し合いとパーティー準備
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
俺は池袋、梅田、札幌、そしてあと2つ。
博多と那覇のダンジョンを完全攻略した。
日本国内にある主要な5大ダンジョンを踏破して分かったのは、池袋以外の管理者は、どいつもこいつも割と真面目に職務をこなしているという印象だった。
博多の管理者は真っ白な馬の姿、那覇の管理者は真っ白で大きな亀の姿をしていた。
対話を重ねていくうちにどうしても疑問が拭えなくなり、「池袋のあいつは一体何なんだ?」とストレートに尋ねてみた。
すると、管理者たちは複雑そうな顔をしながら、苦笑いするように答えた。
「あの者は……、本来であれば極めて有能なはずなのですが、とにかく不真面目。ある意味では、システム上のイレギュラーのような存在なのです」
管理者たちですら、あいつの正確な意図までは測りかねているようだった。
梅田ダンジョンでの一件以降、国内では特に大きな問題が起きることもなく、穏やかな時間が流れていた。
俺は各地のダンジョン探索を進め、グリムたちは新居を拠点にしながらニンゲン社会へ馴染もうと努力していた。
だが、その平穏の中で、俺の頭の中に1つの重大な懸念が生まれた。
俺はその思考を整理し、師匠に直接伝えるため、冒険者協会の本部にある会長室へと足を運んでいた。
到着すると、師匠は俺が来るのを待っていたようで、すぐにソファーに座るよう顎で促した。
「師匠。……俺が実際に各地を巡って確認したことと、管理者たちの発言を擦り合わせた結果、どうしても嫌な仮説が頭から離れないんです」
俺が初めてこの世界に広がる厄災の魔力を感知した時、俺自身の反応を除いて、世界には3体のモンスターが確認できた。
そして、しばらくしてもう1体の反応が突如として増えたと思ったら、そいつがあの梅田ダンジョンに現れたフルグル・ベヒモスだった。
元々、この世界には合計で5体の厄災が存在していると定義されていたはずだ。
そして俺はそのうちの1体を既に池袋で討伐している。
つまり、討伐直後はしばらくの間、世界には3体の反応しか残っていなかったのだ。
ここで、数がどうしても合わなくなる。
そして今現在、俺の知覚には、合計で4体の厄災が明確な反応を示し続けている。
1体はロシア。
1体は英国……イングランドか。
1体はバヌアツ……バヌアツ!?どこだ……。
そして、最後のもう1体がアメリカだった。
この数の変動から、俺は1つの推理を立てた。
俺と同じように、世界のどこかで別の厄災が違う厄災を討伐し、そして空いた枠にまた新しい厄災が誕生して現れたのではないか、ということだ。
そして、もう1つ。
各地の真面目な管理者たちが言っていた、「池袋の管理者はイレギュラーみたいなものだ」という発言。
あいつの極端な怠慢のおかげで、俺というバグが間引きされることなく生き延びて、ここまで至ることができたという揺るぎない事実がある。
だとするならば、世界のどこかにある別の『怠慢な管理者』の管轄でも、俺のようなイレギュラーを生み出しやすい最悪の環境が整っていると言えるんじゃないだろうか。
現に、俺が確認したように、新しく厄災級へと進化したモンスターが新たな魔力反応を示している。
そして、それを俺のように容赦なく潰して回っている、別の強大なモンスターが世界のどこかに潜んでいるはずなのだ。
そこまで考えると、もう俺の頭の中はグチャグチャだった。
自分なりに必死に言葉をまとめ、この世界の裏側で起きているであろうシステムのエラーについて、師匠にすべてを話した。
師匠は俺の言葉をじっと静かに聞き届けた後、拳を握り締め、深く、苦々しく息を吐き出した。
「……我々人間には、ダンジョンの管理者に接触する手段もなければ、厄災を討伐する力すら持ち合わせていない。現場の冒険者を支え、スタンピードなどの有事が発生した際に必死に防衛対応をすることしかできないのが現実だ。情けない話だが、これに対抗できる新しい力を見つけ出すか……あるいは、坊主、お前のような規格外の存在に頼る以外に、この国を、世界を維持する方法がないんだ」
師匠は悔しそうに下を向くしかなかった。
それもそうだ。
普通のニンゲンに対してこれほど協力的で、世界の命運に関わるような情報を自ら持ち帰ってくるモンスターなど、どこを探しても存在するはずがないのだから。
次々と俺からもたらされる世界の真実に、目眩がするような感覚を覚えているのだろう。
「いや、師匠たちがしっかりと土台にいるからこそ、この国の経済も、国際的な立場も良く維持されているんです。土台であるあなたたちが精神的に崩れてしまわないよう、これからもよろしくお願いします。俺も、出せる力はいくらでも貸しますから」
今の俺には、それくらいの言葉をかけることしかできなかった。
この身体になり、圧倒的な力をつけて、現在『神』という名がつく種族にまで至ったからこそ、ニンゲンの絶対的な限界がハッキリと見えてしまったんだ。
ニンゲンにやれることが分かっているなら、それをしっかりと役目として全うしてもらうしかない。
理の枠から外れてしまったバグや問題を解消していくことこそが、俺の本当の役割なのだから。
「……ありがとう。頼んだぞ、神様」
「いや、その呼び方はやめてくださいよ」
俺は苦笑いしながら立ち上がり、「では、また」と言い残して、新宿の自宅へと戻るために影へと潜り込んだ。
◇
「おかえり! 会長さんとの話し合いは、ちゃんと無事に終わった?」
新宿の自宅に戻ると、待っていた紗奈が、ぱっと表情を明るくして出迎えてくれた。
そう、今日は引っ越し祝いを兼ねて、あらかじめ約束していたホームパーティーを開く日だったのだ。
本当は紗奈を新居へ迎え入れた後、そのまま一緒に過ごす予定だったのだが、師匠との話し合いが入ってしまったため、彼女の好意に甘えて「みんなで先に必要な買い出しをしておくから、安心して行ってきていいよ」と背中を押してもらっていたのだ。
俺が影から帰還した時には、すでに室内には香ばしい匂いが漂っていた。
ノア子と少女たちが、お揃いの可愛らしいエプロンを身に纏い、慣れない手つきながらも紗奈の料理の手伝いをしている最中だった。
キッチンでは、パチパチ、と油の弾ける小気味良い音が響いており、食欲をそそる揚げ物の良い匂いがリビングまで充満している。
「……一応、俺が今把握している世界の現状と、そこから導き出した考えをすべて師匠に報告してきたよ。せっかくの引っ越しパーティーの日に、急に留守にしてしまって本当にごめんね」
「いいの、いいの。気にしないで。サクが考えて動いていることが、最終的にこの国や世界を救うことになるかもしれないんだから、それは何よりも大事な仕事でしょ?」
少しも嫌な顔をせず、どこまでも優しい笑顔でそう言ってくれる紗奈の存在に、俺は安堵した。
「今日はサクの1番大好きな唐揚げをたくさん用意するから、お腹いっぱい食べてね! ノアちゃんたちも、衣をつけたりするのを本当に一生懸命頑張ってくれたんだから、褒めてあげてね」
ノア子を含めた4人の少女たちが、じっと真剣な眼差しで鍋の中の唐揚げを見つめている。
きつね色に染まっていく肉を見ながら、「いつ油から取り出したらいいんだろう」と、全員でそわそわとワクワクを隠しきれない様子でタイミングを計っている。
「みんな、紗奈のお手伝いをして偉いね。どう、初めての料理は楽しい?」
「ええ、なかなか楽しいわ。……紗奈に、これからも色々な料理を教えてもらうって、もう次の約束もしたの。ねえ?紗奈」
「うん。私が知っている家庭料理とか、今度はノアちゃんたちがレシピ本を見て『これを作ってみたい』って言ったものを、一緒に挑戦していこうって話していたんだよね」
ノア子たちは思っていた以上に紗奈に懐いているようだ。
ニンゲン社会の文化や常識を学ぶための良い勉強にもなるし、こうして自然に馴染んでいってくれるのは、主としても本当に助かる。
「サクは、リビングのソファーでゆっくり休んでいて。もうすぐですべて出来上がるから、グリムさんとゴウキさんにも、そろそろ出来そうだって伝えておいてね」
「わかった。じゃあ、キッチンは任せるね」
俺は紗奈に手を振ってキッチンを後にし、リビングのソファーへと戻った。
リビングに目をやると、そこでは非常に珍しい光景があり、ゴウキとグリムが真剣な面持ちで将棋を指し合っていた。
「なんだよ、ゴウキ。将棋を指すなんて、かなり珍しいこともあるもんだね」
俺が声をかけると、ゴウキは頭を掻きながら、パチ、と盤面に駒を置いた。
「いやあ、大将。グリムのやつが『対局の相手をしてくれ』って、隣でずっと煩かったからな。……でも、実際にこうしてやってみたら、意外と面白くてよ。こんなに良いもんなら、もっと早く教えろよ、グリム」
「お前が最初に誘った時、『俺は今、お笑いの鑑賞に忙しいからやらん』と言って、聞く耳を持たなかったのではないか」
「がはは! そんなことも言ったっけか!」
ああでもない、こうでもない、と互いに文句を言い合いながら、指先でパチパチと木の音を響かせている配下たちの姿。
俺はその微笑ましい光景を横目に、ソファーへと深く身体を沈め、料理が運ばれてくるのをゆったりとした心地良さの中で待っていた。
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