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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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冒険者登録

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

俺たちは公園から、あえて電車という手段を選んで、ここ池袋の街まで足を運んでいた。


空を飛んだり、『影移動』を使って一瞬で辿り着くこともできたけれど、せっかく仲間たち全員で行動しているのだから、それでは味気ないと思ったんだ。


ニンゲン社会の活気を肌で感じること、そしてそれが、これから控えている少女たちのCM撮影における、表現の糧になればという願いもあった。


デバイスの『DPay』を使って、改札をスムーズに通過できたところは良かったけれど、実際に移動を始めてみると、予想もしなかった問題が次々と浮上してきた。


まずは、公園から駅までの道のり。


ダンジョンの中には存在しない、人工的で背の高いビル群や、色鮮やかな看板を掲げた店舗の数々。


配下たちは見るものすべてに興味津々で、「あれは何だ?」「これは何のための店だ?」とその都度足を止めてしまう。


「いいから早く行くぞ」なんて、目を輝かせている彼らには言えなかった。


俺は1つ1つの問いに対して丁寧に説明を加え、「そのうち慣れたら、自分たちだけで外に出てもいいんだから、今のうちにしっかりとおぼえるんだぞ」と教え諭した。


もちろん、少女たちを子供だけで外に出すつもりはない。


危なっかしいし、何よりこの浮世離れした美貌だ。


誘拐されたり、悪い虫がついたりするかもしれないという不安がある。


もっとも、誘拐に関しては、犯人のほうが返り討ちに遭って命の危険に晒されるのではないかという逆の心配があるし、悪い虫については、親として、俺自身の理性がどうなってしまうか分からない。


それだけは許すつもりはなかった。


話が逸れてしまったけれど、問題はそれだけではなかったんだ。


絹川総理との会見は、いまや世界的なビッグニュースとして報じられ、さらにクマガイフーズの広告もネット上で凄まじい勢いでバズっている。


つまり、世間のニンゲンたちは、既に俺たちの顔を完全に把握しているということだ。


俺たちが街を歩けば、当然のようにニンゲンたちは敏感に反応する。


遠巻きに眺めているだけならまだしも、興奮を抑えきれずに近寄ってきて話しかけてくる者や、「サクラーです!応援してます!」と熱烈にアピールしてくるファンに対しては、無碍に扱うこともできない。


そうして1人1人に対応していれば、当然ながら歩みはさらに遅くなる。


そして、最大の難関は駅だった。


ニンゲンたちが溢れかえるように利用する最寄り駅。


配下たちは、その想像を絶するニンゲンの数に、呆然と口を開けていた。


「……主の言っていたことは理解していたつもりだが、ここまでとはな」


グリムが、圧倒された様子でポツリと零す。


そして、その過密な駅を利用するとなれば、当然ながら俺たちの周りには瞬く間に人だかりが出来てしまった。


見かねた駅の職員さんが助け船を出してくれるまで、俺たちは身動きすら取れずに立ち往生していたんだ。


電車の中も、さぞかし大変なことになるだろうと覚悟していたけれど、そこはやはり礼儀正しい日本人だった。


「降ります」と声をかければ、モーセの十戒のようにスッと道を開けてくれた。


池袋駅で降りてからは、あらかじめ対応してくれた職員さんから連絡がいっていたのか、ホームでは池袋駅の職員さんたちが数名で待ち構えてくれており、改札を抜けるまで手厚くガードしてくれた。


これだけ多くのニンゲンに迷惑をかけてしまったことを深く反省し、次からは空を飛んで移動するか、あるいはタクシーを利用することを心に決めた。


ゴウキ以外は全員空を飛べるのだから、そのほうが合理的だ。


俺がその提案を口にすると、ゴウキが意外そうな顔をして俺を見た。


「大将、何を言ってるんだ。俺だって、走るほうが速いっていうだけで、普通に飛べるぞ?」


「……飛べるのかよ! 見たことないから知らなかったよ! そういうことはもっと早く言えよ!」


俺のツッコミに、ゴウキはガハハと豪快に笑っていた。





豊島支所――入口。


「本当に急だったからびっくりしちゃった。朔、みんな、改めて本当におめでとう!」


俺は冒険者登録をするにあたって、探索管理課に勤めている綾香に、あらかじめ連絡を入れていたんだ。


「なかなかゆっくり会う時間が取れなくて、報告も細切れになっちゃってごめんな。地上で暮らすことになったら、やっぱり現金も必要になるだろ? 師匠に相談したら、冒険者としても稼ぐのが1番確実だって話になったんだ」


「直継さん……会長。それなら、ドロップ品をオークションにかけるっていう手もあったのに」


「ああ、その手もあったか!」


「でもさ、俺は特例で梅田ダンジョンには入ったけど、基本的には池袋ダンジョンにしか行けないわけだろ? 他の場所へ行くにしても、冒険者として登録しておいたほうが、世間的にも角が立たないと思ったんだ」


これだけ特例づくしの扱いを受けていると、どこから批判的な意見が出てくるか分からない。


それならば、正式に冒険者として登録し、協会の規約に則って潜り、正式な手続きで売却をするほうが、透明性があって良いと判断した。


それに、これまで俺のために動いてくれていた紗奈の負担も減らせるはずだ。


もちろん、これからの稼ぎからは、今まで手数料として抜いてもらっていた金額をしっかりと補填して、彼女にお給料として渡すつもりだ。


甘すぎると言われても、これだけは譲るつもりはない。


グリムたちも、その考えには快く納得してくれている。


そして、この場には綾香の他にも、2人のニンゲンの姿があった。


1人は、過去に綾香と一緒に池袋ダンジョンを訪れたことのある、唐沢という男性職員だ。


飄々としているけれどどこか鋭い洞察力を持っていて、最終的には俺たちに理解を示してくれた人物だ。


そしてもう1人。


「探索管理課の課長を務めております、関口と申します」


綾香の上司にあたる人物のようだ。


「いつも綾香が大変お世話になっております。何かご迷惑をおかけしてはいませんか?」


「いえいえ、水瀬は非常に優秀な職員ですよ。我々も日々助けられています」


関口課長は、穏やかな笑顔でそう答えてくれた。


世間話もそこそこに、俺たちは支所内の一室へと案内され、冒険者登録の申し込み手続きと、冒険者としての注意事項や簡単な講義を受けることになった。


担当は、もちろん綾香だ。


「みんな、綾香のことは今後、『綾香先生』と呼ぶように。先生というのは、俺にとっての師匠のようなものであり、大切な物事を教えてくれる立派な人のことだ」


「ちょっと、やめてよ恥ずかしい! ……まあ、規則だから形式上は受けてもらうけど、朔たちに今さら講義なんて必要ないでしょ……」


綾香の照れくさそうな反応に、後ろで見守っていた唐沢さんと関口課長がクスクスと笑い声を上げていた。


程なくして手続きはすべて滞りなく完了し、俺たちの手元には、出来立ての真新しい冒険者証明書が発行された。


「そうだ、綾香。実は相談というか、お願いがあったんだ」


俺は、少女たちがこれから豊かな表情や、感情の表現の仕方を学びたいと思っていることを伝えた。


例えば、美味しいものを食べた時の幸福感や、可愛いものを見た時のときめき、何かを伝えたい時の切実な想いなど。


CM出演の依頼があったことについては、熊谷さんとの守備義務があると考えて、説明しなかった。


これは綾香を信用していないわけではなく、ビジネスパートナーとしての信頼を損ないたくなかったからだ。


「表情の勉強か……。それなら、原宿に行ってみるのが1番いいんじゃないかな? 女の子が好きなものなら、あそこに行けば全部揃ってるし。……あ、でも、あそこに行ったら大騒ぎになっちゃうかな……」


「そうなんだよ、それが1番の問題なんだ」


俺たちが悩んでいると、隣で聞いていたノア子が不思議そうに尋ねてきた。


「……サク、ハラジュクって、何?」


「美味しいお菓子や、可愛い雑貨がいっぱいある、ニンゲンの女の子に1番人気の街だよ」


その説明が、いけなかった。


少女たちの瞳が瞬時にキラキラと輝き出し、「行きたい!」という合唱が始まったんだ。


「でも、あそこはニンゲンがそれこそ文字通り、うじゃうじゃといる場所なんだ。俺たちが行ったら、それこそ収拾がつかないことになるよ」


そう諭しても、「大丈夫だよ」「何かあったら、空を飛んで回避すればいいでしょ」と、彼女たちの好奇心は止まらない。


「……水瀬、今日の残りの業務はどれくらい残っている?」


「ええと、何とも言えませんが、急いで片付ければ16時までには終わります」


関口課長が、手元の資料を確認しながら綾香に尋ねる。


「よし。ならば、今日はもう1つ業務を追加しよう。冒険者対応の一環として、サクさんたちに同行し、現地の案内を行うように」


「えっ!? ……あ、はい! 分かりました!」


「いいんですか? わざわざ申し訳ありません……」


関口課長の計らいで、綾香をガイドとして同行させてもらえることになった。


本当にありがたい。


「……それで、言いにくいことではあるのですが」


そう言いながら、関口課長はどこからか色紙とペンを取り出してきた。


「……実は、娘たちがサクさんの大ファンでして。もしよろしければ、サインをいただけないでしょうか……」


はにかみながら差し出された色紙を、俺は「もちろんです!」と快く引き受けた。


娘さんの名前を伺い、『満月みつきちゃん、名月なつきちゃんへ 優しい魔王 サク』としたためて手渡した。


もちろん、巷で「下手くそ」と好評(?)のインプのイラストも添えるのを忘れなかった。


「ありがとうございます!」と、関口課長は喜んでくれた。


聞けば、娘さんたちはノア子や三少女たちとちょうど同じくらいの年頃らしい。


「それがあれば、いつか直接会うこともできますね。俺たちの自宅にも、ぜひ遊びに来てください。お時間の合う時に、ノア子たちと会ってあげてほしいんです」


俺の提案に、関口課長は驚きに目を見開いた。


ノア子たちは、これからニンゲン社会の中に混ざって生きていくことになる。


今のうちから、同年代の様々なニンゲンと交流を持つことは、彼女たちの成長にとって必ずプラスになると思ったんだ。


関口課長は「それは願ってもないことです! 娘たちが喜びすぎて倒れてしまわないか心配ですが……ぜひお願いします!」と力強く答えてくれた。


俺と関口課長は、その場で連絡先を交換した。


「綾香。余計な仕事を増やしてしまって申し訳ないけれど、よろしく頼むよ。とりあえず、16時にはここに迎えに来るから」


綾香は「これくらい、朔のためなら大したことじゃないよ。その代わり、今度どこか素敵な場所に連れて行ってね」と、最高の笑顔で言ってくれた。


俺たちはそこで一旦別れ、もう1つの当面の目標である、みんなの服を買うための買い物へと向かった。


ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

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