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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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授与式と記者会見 2

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

総理官邸――記者会見室。


フラッシュの嵐は止むことなく、記者たちからの質問は依然として続いていた。


池袋ダンジョンのモンスターの生態、ダンジョン内の未知の生態、そして俺たちが行っている配信活動の意図について。


俺はその一つひとつの問いに対して、言葉を選びながら丁寧に答えていった。


時折、隣に座る絹川総理や、後ろでどっしりと構える師匠に話を振ることで、俺たちが決して独善的な存在ではなく、この国と強固な協力体制にあるという友好的な姿勢を強調し続けた。


そんな和やかな空気の中に、一石を投じるような質問が飛び出した。


「……現在、一部の諸外国からは、このサクさんを特別重要協力者として認定する制度に関して、否定的な声明が出されています。日本が強力な個体を独占しようとしているのではないか、あるいは、我が国でスタンピードなどの有事が発生した際、サクさんは助けに来てくれないのではないか、という懸念の声が上がっていますが、これについては何かご意見はありますでしょうか」


その言葉が出た瞬間、絹川総理の鋭い目が僅かに開かれた。


他国の声明……。


さすがに大阪の対応からここまで、情報の波に揉まれていた俺はそのニュースまでは把握していなかった。


どう答えるべきか、俺は一瞬だけ思考を巡らせる。


「……そうなんですか。まあ、世界中のすべての人々が、今のこの状況を諸手を挙げて喜んでくれるわけではない、というのは重々承知していますから」


俺が慎重に言葉を選んでいると、記者はさらに踏み込んできた。


「日本だけがその恩恵に預かるのではないか、という不安に対する具体的な回答をいただけますか?」


俺は困ったように「ええ……」と漏らし、隣の総理を仰ぎ見た。


そんな俺の戸惑いを楽しむかのように、絹川総理はニヤリと笑みを浮かべ、顎で「言ってやれ」と示してきた。


まるでお前の好きなように答えていい、と背中を押されているようだった。


「うーん……そうですねえ。正直なところ、俺がこうしてニンゲン側に立っているのは、師匠である鷹栖会長と、絹川総理を個人的に深く信頼しているから、という形なんですよね。……いきなり縁もゆかりもない国に行って、善意で助けたつもりでも、後からあれこれ文句を言われないとは限りませんからね。……今後のことについては、ゆっくりと考えておきます。難しい国際情勢なんて、俺にはよくわかりませんから! ……まあ、せっかく助けたのに文句を言われるようなことがあれば、その時は……ねえ?」


最後の一言に、俺は神としての力を僅かに混ぜて微笑んで見せた。


「……あ、ありがとうございます……っ」


記者はそれ以上何も言えず、顔を引き攣らせて着席した。


絹川総理は俺の横で「ガハハ!」と豪快に笑っている。


全く、何を言わせたいんだか。


その後、質問の矛先は後ろに控えるグリムたちへと移り、各自が地上で何をしたいかという、少し柔らかな話題になった。


グリムは背筋を伸ばし、「日本の文化を学びたい。特に将棋を極めてみたいし、歴史ある城を自分の足で観に行きたい」と、落ち着いた声で答えていた。


ゴウキは拳を握り締め、「お笑いを本場で観に行きたい! できれば俺も舞台に立って、漫才というやつに挑戦してみたいんだ!」と、場にそぐわないほど熱い野望を語り、会場を微妙な空気に包んでいた。


そしてノア子は、俺の背中を見つめながら「……私は、特にないわ。あ、美味しい物は食べたい」と、言った。


その後もいくつかの質問が続いたが、大きな混乱もなく、歴史的な記者会見は無事に幕を閉じた。





会見終了後、俺は師匠に連れられて、ダンジョン外の新居……通称『別荘』へと向かった。


場所は新宿区。


冒険者協会の本部からも近く、新宿ダンジョンへのアクセスも良好な、防衛省などの重要施設が立ち並ぶエリアからも割と近い場所だった。


有事の際に政府や協会と迅速に連係することを考えれば、これ以上の立地はないだろう。


案内されたのは、とある高級マンションの最上階だった。


重厚な扉を開け、部屋に足を踏み入れる。


まず目に飛び込んできたのは、驚くほど広い玄関だった。


そこから続く長い通路には、個室が4つ。


「……広いな」


一部屋あたりの広さは、管理者に作らせたダンジョンの個人部屋に比べれば多少コンパクトだが、ニンゲンの住宅基準で考えれば、間違いなく豪邸の部類に入るだろう。


何より驚いたのは、最初から完璧な家具が揃えられていたことだ。


どの部屋にも立派なベッドが置かれ、ノア子以外の俺を含む3体は身長が2メートル近くあることを考慮して、ゆったりと体を横たえることができる特大サイズが用意されていた。


最新のテレビ、棚、エアコン。


生活に必要なものはすべて完備されている。


リビングに向かうと、そこには巨大なテレビモニターと、大人数でもゆったりと座れる上質なソファーがあった。


10名近くで囲めるであろう重厚なテーブル。


そして、その片隅に、ボコボコと4つ置かれている見覚えのある『ビーズソファー』。


「……なんだこれ。……これも、用意してくれたんですか?」


リビングのあまりの広さと、充実した設備。


ここまでの物件、いち体家賃はいくらするのだろうか。


さらに、寝室の奥には住居としても使えそうなほど広いウォークインクローゼットや、洗練された化粧台まで付いている。


唯一の難点は、風呂のサイズだった。


さすがにダンジョンのあの特大風呂とは違い、3人で入ればぎゅうぎゅうになってしまうだろう。


「……師匠。俺たち専用に、これほど立派な家具まで揃えてくれるなんて……。国って、本当に凄い力を持っているんですね」


グリムの部屋には、彼が欲しがっていた高級な将棋盤まで用意されていたらしく、グリムが小躍りしながら報告に来ていた。


そんな俺たちの浮かれた様子を、師匠は背後から黙って見つめていたが、ぼそりとひとこと、言葉を漏らした。


「……私が用意した」


「……へっ?」


「……私の、ポケットマネーで全部買い揃えたんだよ! 不服か!」


「……っ、うえぇぇん……、師匠……っ!」


「お前がこの身体で戻ってきたとき、ちゃんとしたお祝いもしてやれなかったからな。……今の私にできるのは、これくらいのことだ。……少しばかりかもしれんが、すまないな」


師匠のぶっきらぼうな、けれど熱い愛情がこもった言葉に、俺は涙を堪えることができなかった。


俺はすぐにグリムたちを呼び、これらすべてが師匠からの贈り物であることを伝えた。


仲間たちは全員で師匠に向かって深く頭を下げ、言葉にならない感謝を示した。


ここまで想いを込めて用意してくれたのなら、ここを使わないなんて選択肢はない。


よし、予定変更だ。


今日から、ここを俺たちの『自宅』とする。


そして、ダンジョンのあの部屋を『別荘』と呼ぶことにしよう。


師匠の愛情がたっぷり詰まったこの部屋を、大事に使い込んでいかなければならない。





さて、引っ越しの実感が湧いてきたところで、一つ現実的な問題に直面した。


俺のデバイスには『DPay』の残高はたっぷりあるが、物理的な『現金』が手元にまったくないのだ。


これまで紗奈がダンジョンのドロップ品を売却してくれた利益や、配信活動の収益をすべてDPayとして送金してくれていたおかげで、キャッシュレス決済には困らない。


だが、地上の街で買い物をするとなれば、ある程度の現金を所持していないと不便な場面も多いだろう。


俺はソファでくつろいでいる師匠に、おずおずと相談を持ちかけた。


「……師匠。ちょっと、ご相談が……」


「なんだ、坊主。金か?」


「……っ。察しが良すぎますよ、毎回!」


「お前の考えそうなことくらい、手に取るようにわかるさ」


師匠はニヤリと笑い、腕を組んだ。


「……そうなんですよね。DPayはたくさんあるんですけど、地上で動くにはやっぱり現金も持っておかないと、不便なことも多いかなと思いまして」


「……なら、正式に冒険者登録を済ませるか? 今の立場なら、銀行の口座もすぐに作れるはずだぞ」


その手があったか。


正式な身分証を授与された今の状況なら、ニンゲンが行う社会的な手続きの大抵は可能になっているはずだ。


それなら、管理課にいる綾香のところへ行くのがいちばん手っ取り早いだろう。


「わかりました! ちょうどいい人材が協会にいるので、行ってきます。……ちょうどゴウキのこの格好も、何とかしなきゃいけませんしね。このままだと、いち歩外に出ただけでお巡りさんに捕まっちゃいますよ」


隣で「ガハハ!」と笑っているゴウキは、相変わらず上半身が裸のままだ。


あの広大なウォークインクローゼットを埋め尽くすくらい、みんなに似合う服をたくさん買ってやろう。


「警察も、まさか神様を公然わいせつで捕まえるわけにはいかんから、びっくりするだろうな。いい人材……あぁ」


クククと、悪戯っぽく笑う師匠。


「じゃあ、私はそろそろ帰るよ。また近いうちに本部に顔を出せ。いいな?」


「はい! 本当にありがとうございました、師匠!」


そう言って部屋を出ていく師匠の背中に、俺たちはいつものように全員で手を振った。


師匠の姿が見えなくなるまで、俺たちは笑顔のまま、その温かい別れを惜しんだ。

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