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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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特別重要協力者及び特殊技能保持者

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

大阪でのメディア各社によるあの報道。


それが引き金となり、日本中の、いや世界中の世論は一気に加速した。


「サクを日本の守護神に」


あの一喝を聞いた人々の多くは、恐怖ではなく、自分たちを守ってくれる存在としての『神』をそこに見たのだ。


未だに一部では「モンスターを認めるなど正気か」と騒ぎ立てる声もあったが、そんなものは押し寄せる熱狂の波に呑み込まれていく。


もし友好的な彼らを拒絶し、その機嫌を損ねれば、次の厄災が訪れた際にこの国は確実に滅亡する。


守る力を持つ者が友好的であるならば、拒む理由などどこにあるというのか。


神に逆らい、国を滅ぼす気か――。


ネット上でも、街頭でも、そういった切実な、あるいは狂信的とも取れる意見が飛び交い、政府を突き動かした。


結果、反対していた野党の大部分も賛成へと回り、事態の緊急性を鑑みて特例措置が取られた。


俺、サクはとして。


そして俺の配下たちは『公認眷属個体』として。


正式に、日本国内におけるダンジョン外活動が法的に認められることになったのだ。


それに伴い、国からは活動拠点としての家が用意され、そこを使用するようにと通達があった。


表向きは英雄への待遇だが、その実態は監視の意味合いも強いのだろう。


だが、俺には一つだけ、贅沢でわがままな悩みがあった。


それは、あの管理者に作らせたダンジョン内の自宅が、あまりにも便利過ぎたことだ。


絶対的な安全性。


広大で快適な個人部屋。


豪華さと清潔感溢れるリビングに、最新鋭のキッチン。


そして、一日の疲れがすべて溶けて消えるような巨大な風呂。


おそらく管理者に一言言えば、さらなる増築すら容易だろう。


それを考えれば、地上の豪邸にわざわざ引っ越す実利的な理由が、俺には全く見当たらなかったのだ。


結局、俺はダンジョン外の家を、贅沢に『別荘』として扱うことに決めた。


そして、ついに俺たちに『特別重要協力者及び特殊技能保持者』、ならびに『公認眷属個体』の証明書が授与される日がやってきた。


式典には師匠も同席することになっていたため、俺はひとまず『影移動』を使い、一人で冒険者協会東京本部へと向かった。





冒険者協会東京本部――会長室。


俺は師匠があらかじめ置いておいた自分のサインの影から、音もなく這い出した。


「おお、坊主。待っていたぞ。……大阪の件、本当によくやってくれた」


デスクで書類に目を通していた師匠が顔を上げ、安堵の笑みを浮かべた。


「できることをしたまでですよ。それに、俺自身にもそれなりの旨味はありましたから」


「と言うと、何だ? また何か良からぬものでも拾ってきたのか?」


「いいえ。……あのフルグル・ベヒモスを討伐したおかげで、レベルが2つも上がりました。厄災級の経験値は、やはり破格ですね」


管理者からは、厄災はなかなかレベルが上がらないし、ダンジョンを1つや2つ落とした程度では成長しないと聞いていた。


だが、そんな厄災と、その魔石を『喰らう』ことで得られる成長は、想像を絶するものだった。


何より、厄災という格上の、それも未知のスキルを持つモンスターとの実戦経験は、今の俺にとって何物にも代えがたい収穫だ。


素材や、現地冒険者との交流、そしてあのメディアへのインタビュー。


それらすべてが、俺をまた一歩、目標へと進めてくれた。


俺の話を聞いた師匠は、「まだ強くなるのか」と呆れたように、けれどどこか嬉しそうに苦笑いを浮かべていた。


「わかってはいたことだが、弟子にこうもあっさりと抜かれるというのは、師匠としては複雑なもんだな。……だが、同時にこれほど誇らしいこともない」


「……それでも、今の俺の戦闘の基礎となっているのは、すべて師匠の教えです。種族が変わっても、神になっても、これだけは一生変わることはありません」


俺の言葉に、師匠は一瞬だけ目を見開いた後、ふっと不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。


「……ちょっとついてこい」


そう言われて案内されたのは、本部内の奥にある、広々とした道場のような場所だった。


師匠は壁に掛けられていた使い古された木剣を手に取り、俺には予備の木製の小刀2本を無造作に投げ渡してきた。


「坊主。……一度、本気で私の首を獲ってみろ」


「……大事な授与式の前に。つくづく、師匠は根っからの冒険者ですね」


俺たちは顔を見合わせ、自然と笑い合った。


お互いに得物を構え、中心で対峙する。


俺は軽くフェイントを入れて踏み込むが、師匠の軸は一切ぶれない。


さすがだ。


引退して会長職に収まっていても、その感覚は全く錆びついていない。


ここでスキルを使うのは、無粋というものだ。


俺は純粋なステータスの身体能力のみで、全力の踏み込みを見せる。


師匠が深く息を吸い込み、そして吐き出す。


再び師匠が肺に空気を満たそうとした、その刹那――。


「…………っ!」


師匠が反応するよりも速く、俺は背後へと回り込み、その首元に逆手に持った小刀をそっと当てていた。


「…………まいった」


師匠の口から漏れた、絞り出すような降伏の宣言。


それを聞き、俺は静かに武器を引き、師匠から距離を取った。


「見えなかった。……いや、一瞬で視界から消えたな。これはもう、ニンゲンの理では到底敵わん。……朔。本当にお前は、強く、尊くなったのだな」


師匠は木剣を置くと、昔のように俺の頭をガシガシと雑に、乱暴に撫で回した。


その大きな手のひらからは、かつて修行に励んでいた頃と変わらない、深い師弟の愛情だけが伝わってきた。


「……驕ることなく、これからも精進します」


「頑張れ。……よし、じゃあ行くか。日本の顔を待たせるわけにはいかないからな」


俺と師匠は会長室を後にし、証明書の授与式が執り行われる千代田区の総理官邸へと向かった。





総理官邸。


以前訪れたのは隣にある公邸だったが、今回は正式な式典ということで、官邸の特別応接室が会場となっていた。


その後会見室にて、会見が行われるらしい。


絹川総理直々による授与。


世界で初めて、モンスターという個体に人権に準ずる地位が与えられる。


その歴史的な瞬間を逃すまいと、各メディアも官邸前には黒山の人だかりを作っていた。


SPたちが厳重な警戒を敷く部屋で、俺と師匠が待機していると、式典の開始直前だというのに、絹川総理がわざわざ顔を出してくれた。


「やってくれたな、サクくん! 君の活躍は、この日本に新たな希望をもたらしてくれたよ!」


「総理こそ。急な法整備や調整、本当にありがとうございました」


俺は総理の手を握り、真っ直ぐにその瞳を見つめた。


「君から鷹栖くんに伝えられた情報は、すべて精査させてもらっている。どれも極めて有益な情報ばかりだ。礼を言うよ。……それに、あの大阪での活躍もな!」


絹川総理は、ガシガシと俺の肩を力強く叩き、破顔した。


「……俺は、自分にできることをしたまでですから」


「いや、それは君にしかできないことだ。それに、あのインタビューの映像も観させてもらったよ。よくぞ言ってくれた。あの毅然とした態度は、観ていて実に胸がスッとしたわい!」


ガハハ、と豪快に笑う総理の姿には、一国のリーダーとしての器の大きさを感じさせる。


「安心しなさい。私は君を、決して使い捨ての道具のようには扱わん。君は君だ。君が掲げる目標や、その行動指針についてはすべて聞いている。この国のため、そして君自身のために、やりたいようにやりなさい」


俺は静かに頭を下げる。


その信頼が、何よりも心強かった。


「もちろん、国家に万が一の事態が起きた際は、その役目上、協力を仰ぐこともあるだろう。だが、君なら快く引き受けてくれると、私は信じているぞ」


「もちろんです。任せてください」


絹川総理は満足げに頷くと、「では、また後でな」と言い残し、豪快な笑い声を響かせながら部屋を出ていった。


「……相変わらず、底知れないほどお元気な方ですね」


「……お前が神様なら、あの方は間違いなく妖怪の類だな。SPなど不要と思えるほど、生命力の塊のような御方だ」


師匠の言葉に、俺たちは顔を見合わせて笑い合った。


神と、妖怪。そしてレジェンド冒険者。


この奇妙な組み合わせが、これからの日本を、そして世界を変えていこうとしていた。

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