インタビュー 1
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
「先程も言わせていただきましたが、この度はこのダンジョンを、大阪を救っていただき、ありがとうございました。会長からの通達もありましたし、全面的に協力させていただくつもりだったんですが、既にサクさんがダンジョンに入られたと聞きまして……。対応が遅れてしまい、申し訳ございません」
会議室の空調の効いた室内で、大阪支部長の永野さんは額に滲んだ汗を何度もハンカチで拭いながら、申し訳なさそうに俺を見た。
まあ、俺の行動が早すぎたのは自覚している。
だが、一刻を争う事態だったし、何よりニンゲンの命がかかっていたのだから、お互いに仕方のないことだね。
「大事故になり得ることだったので、少々強引に入らせてもらいました。受付にいた職員の女性に止められましたが、当然の対応です。叱らないであげてください」
そりゃあ、すべての人間が俺の顔を知っているわけではないし、そもそも受付も通らずにダンジョンへ向かい、挙げ句に自分は冒険者ではないなどと言い放てば、職員として止めるのは当然の職務だ。
俺の説明不足もあったのだから、彼女を責めるのは筋違いというものだろう。
「そう仰っていただけますとありがたい。……このダンジョンを救っていただいた英雄さんに、こんなことを伺うのは大変失礼だとは思いますが、報告のために聞き取りの方をさせていただけますか……?」
「もちろんですよ。永野さんは大阪支部の支部長をされているのですから、包み隠さずすべてお話しします。もし内容の扱いに困るようでしたら、師匠……鷹栖会長に相談してください」
俺はそう言って、ダンジョン内で起きた出来事のすべてを話し始めた。
◇
「……そんなことが、起きてたんやな……」
俺の話を聞き終えた永野さんは、あまりの情報量の多さに、椅子に深く腰掛けたまま呆然と呟いた。
それもそうだろう。
厄災の位置を遠隔で把握し、東京から大阪まで文字通り『飛んで』駆けつけたこと。
1層から深層までを神速で踏破し、スタンピードと会敵してから数秒で消滅させたこと。
そして、既に命を落としていた9名の冒険者を、ノア子の権能によって蘇生させたこと。
最後は管理者とは言えないため、ダンジョンの管理システムに直接介入して、安全を確認してから戻ってきたと説明。
それらを一つ一つ、事実関係を整理しながら詳細に説明した。
「もし、俺の言っていることが嘘だと思うのであれば、今すぐ腕利きの鑑定官を呼んでもらって結構ですよ」
「いやいや! 疑ってなどいません。救助された冒険者たちの証言や聞き取り内容とも完全に一致してますし、蘇生したと思われる冒険者からも、搬送される前に少しだけ話は聞いております。誰が見ても、サクさんが嘘をついているなんて思いません」
軽症者はその場でノア子隊に応急処置を受けたが、重症者と蘇生した9名については、回復や肉体の再生が完了しているとはいえ念のために病院へ搬送されたそうだ。
彼らが無事であれば、それでいい。
「長々とお引き止めしまして、申し訳ございません。……それで、これからはいかがなさいますか? 協会からも、緊急事態いうことでサクさんに救助依頼を出したという声明は出させてもらいましたが……」
ここに来るまでにダンジョンの入口から見えた、飢えた獣のように待ち構えるメディアの群れと、無数に瞬くカメラのフラッシュを思い出す。
協会の公式発表があり、救われた冒険者たちが納得したとしても、事情を知らない世間というやつは決して黙ってはいないだろう。
「大丈夫ですよ。ちゃちゃっと対応して東京に帰りますから。永野さんこそ、これから事後処理で大変になるでしょうけど、頑張ってくださいね」
「……そのお気遣い、身に沁みます。今後とも、冒険者協会をよろしくお願いいたします」
永野さんは立ち上がり、丁寧な動作で深く頭を下げた。
俺は永野さんと力強く握手を交わし、会議室を後にした。
ロビーやエントランスには、まだ多くの冒険者たちが残っている。
死の淵から生還して安堵の表情を浮かべる者、興奮冷めやらぬ様子で仲間と語らう者、様々だ。
よし、今日という一日の、最後の仕事に向かうとするか。
◇
「サクさん! 一言お願いします!」
「サクさん! こちらを向いてください!」
ダンジョンの出口に足を踏み出した瞬間、昼間のような激しいフラッシュがパシャパシャとたかれ、無数のマイクが向けられた。
そんなに大声で呼ばなくても、逃げるつもりはない。
俺は静かに片手を上げ、周囲の空気を震わせるように、ほんの僅かだけ魔力を込めた。
「話は聞きますから。……皆さん、まずは落ち着いてください」
俺がそう告げると、先ほどまで騒然としていた記者たちが、まるで冷水を浴びせられたように一斉に口を閉ざした。
魔力を極限まで抑えたまま、俺は「一人ずつ手を挙げて発言してください。どうぞ」と静かに促した。
最初に指名された記者が、緊張した面持ちで口を開いた。
「……まずは救助活動、本当にお疲れ様でした。……中の様子は、どのようになっていましたか?」
聞きたい核心を外し、まずは無難な挨拶程度の質問から入る。
俺に対して何を問い、何を暴こうとしているのか。
彼らの思惑は大体察しがつく。
俺がここにいる理由、スタンピードの原因、そして蘇生の奇跡。
それらについては置いておいて、こちらからある程度を話してしまおう。
「15層からの異変通知を受け、ダンジョン内にいた俺は直ちに現場へと急行しました。中の冒険者たちも速やかにアナウンスに従い、地上への避難を開始していたため、全体的な誘導は非常にスムーズだったと認識しています」
「14層に到達した際、スタンピードの群れに追われていた多くの冒険者たちを確認しました。最後尾では剣士職の皆さんが懸命に殿を務め、その前方では魔法職やシーフ職の皆さんが必死にモンスターの足を止めていました。俺はその間に割って入り、脅威を排除した。それだけの話です」
「最終的には19層で最後の冒険者たちを救助した後、さらに下層の29層まで向かい、ここではあえて『システム』と呼びますが……直接アクセスし、スタンピードの完全な消滅と全冒険者の避難完了を確認しました。安全が担保されたので、こうして戻ってきた次第です」
淀みなく説明を終えると、記者は圧倒されたように頷いた。
「あ、ありがとうございます……。以上です」
次の記者からは、冒険者たちの具体的な様子や、襲いかかってきたモンスターの種類について質問が飛ぶ。
そして、ついにその質問が出た。
「……今回の、前代未聞のスタンピード。その原因は一体何だと考えてますか?」
ここからが本題だ。
俺は一度言葉を切り、すべてのカメラが自分を向いていることを確認してから答えた。
「はい。原因は明確です。……『厄災』と呼ばれる、イレギュラーモンスターの出現です」
記者の間から、ざわめきが波のように広がっていく。
「俺は、厄災たちが現在どこに位置しているのかを、ある程度感知することができます。ちょうど状況を確認していたところ、1体の厄災が大阪へ飛来したのが分かったため、パートナーを通じて直ちに協会へ報告を入れました。相手はニンゲンでは決して太刀打ちできない『化物』です。事態を重く見た協会側が、俺に緊急の救助要請を出した。……そういう経緯です。非難したい人間もいるでしょうが、あれを相手にするということは、ただ無駄に犠牲を増やすだけのことですから」
「……どれほどまでに強いんですか? 私は冒険者ではないため、よく分からないんですが……。そんな者でも分かりやすいように、教えていただけますか?」
この記者の聞き方は、悪くない。
「例えば、この梅田ダンジョンですが、最高攻略階層は28層。推奨レベルは84から85です。どこの国のダンジョンも似たようなもので、行けてもせいぜい29層止まりでしょう。……記録があるはずですが、人類の最高到達階層は何層ですか?」
俺の問いに、一人の記者が即座に答えた。
「はい。……伝説の『勇者』アルフレッド・ノーマンのパーティが、ギリシャのダンジョンの30層を攻略したのが最高記録です」
その通りだ。
この世界の歴史において、唯一、たった1組だけが『30層』という深層に到達した。
だが、その代償としてアルフレッド以外の全メンバーが命を落とし、勇者パーティはそこで消滅した。
人類の限界は、そこにあるのだ。
「そうですね。ですが、俺は既に、池袋ダンジョンの最深部である33層まで攻略済みです。31層以降の世界は、断言しますがニンゲンたちの力では決して攻略できません。可能性を語るなら、テイマーや召喚士くらいなものでしょう」
「その、理由を教えてもらえますか?」
「彼らはモンスターを仲間にして、その力を借りて戦うことができますから。ニンゲン単体のスペックを超えた領域で戦える可能性があるからです。……話を戻しましょう。厄災がどれほど強いかという話でしたね。……奴らは、俺が踏破した33層の最深部ボスを、圧倒できるほどの力を持っています」
質問していた記者の顔から、血の気が引いていくのが分かった。
「……では、そんな厄災を相手に、サクさんは死闘を繰り広げたということですか……?」
「死闘? いえ。無傷で終わらせました。相手はフルグル・ベヒモスという名のモンスターでしたが、所詮は『怪物』止まりです」
「で、では……。そんな『怪物』を圧倒するあなたは、一体何者なんですか……?」
俺はふっと笑みを浮かべながらほんの僅かの魔力を込め、答えた。
「……私の種族名は『幻惑神サク』。幻惑神、神なんですよ。……怪物程度を相手にするのに、苦労するはずがないでしょう?」
「あ、ありがとうございました……っ」
俺の放った一言に、記者は震えながら頭を下げた。
さて、一つ目の大きな仕事は片付いた。
次はどんな質問だ?
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よろしくお願いいたします。




