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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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梅田ダンジョン

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

梅田ダンジョン――14層。


カレンダーの上では3連休の初日。


地上では多くの人々が休日を謳歌し、賑わいを見せる大阪の街。


その地下に広がる梅田ダンジョンもまた、例外ではなかった。


大阪府民のみならず、関西圏全域から集まった冒険者たちで、フロアはかつてないほどの混雑を極めていた。


「いやあ、それにしても今日は人が多いなあ。さっきからモンスターの取り合いになってたわ」


「ただでさえ人が多いのに、稼ぎが悪くなってまうやんか。俺、明日デートやねんけど」


「それまでに貯めとかんかったお前が悪いわ!」


推奨レベル42。


上級冒険者の仲間入りを果たしたばかりの者たちが集うこの階層では、そこかしこで獲物の奪い合いが起きていた。


普段なら命の危険が伴う上級の層だが、これだけ周囲に同業者が多ければ、自ずと緊張感も緩む。


彼らは軽口を叩き合いながら、効率の悪い狩りに愚痴をこぼしていた。


「……これ、1つ上の階層に戻ったほうがええんちゃうか?」


「そうするか。このままやと時間の無駄やしな」


一人の冒険者が踵を返そうとした、その時だった。


フロアの奥、暗がりの先から、耳を裂くような怒号が響き渡った。


「――逃げろ!! 逃げろ、逃げろおぉ!! スタンピードや!! 逆流してくる!!!」


一瞬、思考が停止した。


嘘やろ、と二人は顔を見合わせる。


だが、視界の先から雪崩のように押し寄せてくる、必死の形相で逃げ惑う冒険者たちの群れ。


その背後に立ち上る、おびただしい数の魔物の咆哮と地響き。


それが冗談ではないことを理解した瞬間、二人の身体は本能的に駆け出していた。


「やばい、やばい、やばい!! マジでスタンピードやんけ!!」


「とりあえず走りながら落ち着け! ……あれ、何やったっけ、ほら!」


「何やねん急に!」


「あ、サナサクや! この前の配信でサクちゃんが言うてたわ。スタンピードが起きたらパニックにならんと、堪えろって言うてたはずや!」


「そんなん、この状況で無理に決まってるやろ!」


「大きな声は出したらあかんねん。協力しあって、みんなでみんなを守れって、あの子はそう言うてたんや!」


「そんな、無茶苦茶や……っ!」


「大丈夫や、サクちゃんが守ってくれる。……あの子は、神様なんやで!?」


「――神頼みかいな! クソッ……やるか!!」


二人は逃げる足を僅かに緩め、後ろから来るパニック寸前の集団を落ち着かせに合流した。


サクの言葉。


画面越しに届けられたあの真摯な響きが、絶望に染まりかけた彼らの心に、僅かな、けれど確かな勇気の火を灯していた。





池袋ダンジョン――『神様』の家。


俺はリビングのソファーに座り、身体の奥底から溢れ出す『感覚』を研ぎ澄ませていた。


神格化したことで、俺の知覚はもはや一箇所の空間に留まってはいない。


世界中に点在する強大な魔力の渦。


管理者が言っていた通り、3つの巨大な意識が、この地球のあちこちで拍動しているのを感じ取ることができた。


それがどの『厄災』なのかまでは判別できないが、どの国にいるか程度の位置関係は、なんとなく直感で理解できる。


そしてそのうちの1体は、海を隔てた隣の国に鎮座していた。


……だが、何かがおかしい。


現在確認されている厄災は、俺たちを除けば5体のはずだ。


だというのに、俺が広域感知で捉えられるのは3体だけ。


残りの2体はどこへ消えた?


管理者に聞いても、奴は「近くに来ないと感知できない」と言っていた。


だとすれば、奴に聞くのは無駄だ。


そう考え、思考を巡らせていた、その瞬間。


――俺の神経を逆なでするような、おぞましい衝撃が意識を貫いた。


一つの意識が、近くに現れた。


あまりにも急に。


厄災の意識は4つ。


先程消えていたうちの1体が、この国へ――日本へと到達したのだ。


「おい!! 管理者!! 聞こえてるんだろ、出てこい!!」


俺は静寂のリビングで叫ぶように、奴を呼び出した。


『――はいはい、聞こえてるよお。そんなに大声をださなくても大丈夫。……で、どうかしたのかな?』


「……お前、寝ぼけてんのか!? 厄災が日本に来てるんだよ。管理者のネットワークだか何だか知らねえが、今すぐ確認しろ!!」


『はい? 本気で言っているのかい? ……そんなはず……。……あ』


沈黙。


それから、奴の驚愕したような気配が伝わってきた。


……この野郎、サボってやがったな。


『あ、うん。……サクくんの言う通りだ。厄災が……来ている。日本に来てるね』


その反応を待つまでもない。


俺は既に、奴の出現ポイントを特定していた。


「――大阪か?」


『……うん。梅田ダンジョン。成熟ダンジョンなんだけど、あっちの管理者がもう、見たこともないくらい慌てふためいちゃってるよ。……さて、どうする?』


「……行くしかないだろ、そんなの!!」


『そうだよね。そうでなくっちゃ! じゃあ、ここの管理は僕に任せてよ。……それじゃあ、いってらっしゃい』


いってらっしゃい、だと? 簡単に言いやがって。


だが、文句を言っている時間は1秒たりとも惜しい。


「――もしもし、紗奈か!? ごめん、めちゃくちゃ急いでるんだ」


俺は即座に紗奈へ連絡を入れ、事情を伏せたまま師匠の直通デバイスの連絡先を聞き出した。


今この瞬間、俺と協会が癒着しているだとか、モンスターに騙されているだとか、そんなクソみたいな意見などどうでもいい。


最優先すべきは、あそこにいる人々の命だ。


『ど、どうしたの? ……わかった。今すぐメッセージで送るね! ……あとで、ちゃんと教えてよ!』


紗奈の声を背に、通話を切る。


即座に届いた連絡先へと、俺は指を走らせた。


出ろ。


……出ろ!


『――もしもし。』


「師匠! すいません、俺です」


『……坊主か。何があった。この番号にかけてくるということは、ただ事ではないな』


師匠の察しの良さに救われた。


無駄なやり取りを省けるのはありがたい。


「――梅田ダンジョンに、イレギュラー……『厄災』が現れました。スタンピードが起こるかもしれません」


『なっ……!? ……わかった。協会側でも確認を急がせる。確認が取れ次第、現場には坊主の件を伝えておく。……頼む、救ってやってくれ!!』


「……任されました」


通話が切れると同時に、俺はリビングにいたグリム、ゴウキ、ノア子たちを影の中へと収納した。


準備を整えながら、思考を加速させる。


出現ポイントはどこだ? 


梅田ダンジョンは……レベル3基準か。


今日は連休初日。


梅田という場所柄、犠牲者の数は想像もしたくない。


考えれば考えるほど、最悪のシナリオが頭を埋め尽くそうとするが、それを無理やり振り払った。


池袋から梅田。


距離はあるが、今の俺なら届く。





冒険者協会――大阪支部大阪北支所。


そこは、俺が師匠に預けた『サイン』が保管されている場所の一つだった。


「――うわあああああっ!!?」


カウンターの奥で作業をしていた職員が、突如として空間から現れた俺の姿に腰を抜かした。


「……すいません。会長からの連絡は届いていますか?」


「な、な、何のことですか!? 不法侵入ですよ、あなた!!」


……まだ話が通っていないか。


師匠のことだ、全力で動いてくれているはずだが、手続きが追いついていないのだろう。


「わかりました。失礼します」


俺はデバイスを開き、梅田ダンジョンへの最短ルートをセットした。


ナビの更新速度すら置き去りにする速度になるだろうが、方角さえ分かれば十分だ。


俺は支所の建物を飛び出し、エントランスの前で一気に宙へと舞い上がった。


今の俺の背に羽根はないが飛べる。


俺は一直線に、空気を切り裂いて、梅田ダンジョンへと飛び立った。


支所からダンジョンまでは、30秒もかからなかった。


入口へと滑り込み、ダンジョンのエントランスへと一直線に向かう。


「――ちょ、ちょっと待ってください!!」


受付から、一人の女性職員が血相を変えて走ってきた。


「受付を済ませてください! 手続きなしにダンジョンへ入ることは規則違反です!」


「……悪いけど、俺は冒険者じゃないんだ。急いでるんだよ」


「冒険者じゃなければ、なおさら入れません! 規則は規則です。守って……」


俺は、彼女の言葉を遮るように、魔力をほんの僅かだけ解放した。


その場に居合わせた人々が、あまりの威圧感に膝を突き、空気が重く沈み込む。


「……お姉さん。今、このダンジョンに『厄災』が現れてる。未曾有のスタンピードが起こる直前だ。俺に構ってる暇があるなら、一刻も早く避難誘導の準備をしたほうがいい」


「そんな……嘘を……」


「緊急通報はどうなってる?」


「入ってません……」


「ならもう行くね」


それだけを言い残すと、俺は呆然としている彼女を置き去りにして、ダンジョンの奥底へと突き進んでいった。


厄災がこの梅田ダンジョンに出現してから、およそ10分。


俺は移動しながら、影の中からグリムたちを呼び戻し、さらに召喚体たちを展開させた。


「――全員、全速力で厄災まで降下する。途中でスタンピードに遭遇したら、各自の判断で対応しろ。特にノア子隊、負傷者の回復を最優先だ。俺は最短距離で厄災まで突っ走る。……行くぞ!!」


一気に加速する。


敏捷値が『ERR』にまで達した俺の速度には、神化した配下たちでさえついてくることはできない。


それでも構わなかった。


俺は影の道を滑るように、ダンジョンの階層を次々と踏破していく。


フロアボスたちは、俺の放つ圧倒的な神の威圧に恐れをなし、戦うどころか姿を隠すように俺をスルーしていった。


上層の冒険者たちが、背後を通り抜けた『何か』の正体に騒いでいる気配がしたが、それすらも意識の外へと追いやる。


まだ、上層までは魔物の波は到達していない。


それが、今この瞬間の唯一の救いだった。


「……待ってろ。今、助けに行く」


俺は牙を剥き、さらなる加速で下へと突き進んだ。


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