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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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新居への訪問

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

管理者の部屋を後にした俺は、すぐさま19層にある本拠へと戻った。


ここが俺の安息の地だったけど、今はもう、管理者に用意させた部屋が出来ているはず。



だよな?


俺は愛着のあるこの部屋にある荷物や、配下の荷物を手当たり次第に『シャドウインベントリ』へと詰め込んでいく。


家具も、備品も、思い出の品も、すべて影の中へ。


その作業の合間に、俺は紗奈にデバイスで連絡を入れておいた。「緊急で師匠に繋いでほしい」と。


今の俺が感じている世界の危機、そして管理者から聞いた真実。


これは一刻も早く、この国のトップに伝えるべきことだった。


引っ越し作業を終え、俺たちは池袋ダンジョンのエントランスである1層へと転移した。


用意された部屋は何処だと、すれ違う冒険者交流しながら歩みを進めていると、不意に脳内へあの苛立たしい声が響く。


『――サクくん、聞こえるかな? リクエスト通り、最高の部屋を用意しておいたよ。神様になった君も、きっと喜んでくれるはずさ。ははは』


……管理者の野郎。


俺たちは1層の住処である、水辺がある巨大な岩場付近へと戻ってきていた。


そこは一見すればただの岩肌だが、目を凝らせば、ゴツゴツとした壁の一部が、定規で引いたように綺麗に切り取られ、通路が形成されているのが分かった。


「……認識阻害か」


俺たちだからこそ感知できる、極めて僅かな魔力の揺らぎ。


1層に戻ってきた時に、ここへ移動されるはずなのに気がつかなかった。


あいつ、まだやってなかったな?


『時間がかかっちゃったんだよ。でも、ちゃんと気に入ってくれるはずさ。許してね』


これはニンゲンたちの目や、あるいは高性能なスキルを使ったとしても、ただの岩肌にしか見えないよう精巧に偽装されている。


俺はその切り取られた入口を潜り、通路の中へと足を踏み入れた。


なるほどな。


認識阻害の魔法だけでなく、物理的な干渉すらも遮断されているのか。


『そうだよ。君と君の仲間、それから君が許可を出した者以外は、決してその境界を越えることはできない。どうだい、最高のセキュリティだろ? あまりに居心地が良さそうだから、僕もそこに住んじゃおうかな。はは』


「……軽口喋るな」


『冗談だよ。僕はシステムの一部だから、ここから移動することなんてできない。安心してよ。僕は特等席で、神様の行く末を見守っているからさ。ははは』


神様だと思うなら、少しは敬意を払った態度をとったらどうなんだ。


管理者の軽口がようやく途切れ、通路をさらに進むと、そこにはダンジョンの光景には似つかわしくない、人工的な、どこにでもあるような『住宅の扉』が姿を現した。


だが、その扉の隣を見て、俺の頬が引き攣った。


そこには『神様』と、これ見よがしに丁寧な筆致で書かれた表札が掲げられていたのだ。


声こそ聞こえないが、あのははっ、という人を食ったような笑い声がどこからか聞こえてきた気がして、俺は無意識に拳を握りしめた。


……あとで絶対に一発ぶん殴る。


怒りを抑えて扉を開くと、そこには広々とした玄関が広がっていた。


造りは一般的な住宅……いや、地上にある最高級の邸宅を彷彿とさせる豪華さだ。


間取りを確認すれば、個室が4つ。リビングは驚くほど開放的で、最新式のキッチンやトイレまで完備されている。


さらには、俺とゴウキ、グリム、ノア子の4体全員が一度に入っても余裕があるほどの巨大な風呂まで付いていた。


魔物にとってトイレなんて必要ないはずだが……来客用ということだろうか。


当然、備え付けの家具などはないが、壁の至る所にコンセントの差し込み口が付いているのが目に入った。


「……電気が使えるのか?」


おい、こういう時は説明しろよ。聞こえてるんだろ。


だが、管理者からの返答はなく、俺はあとの楽しみにとっておくことにした。


その時、デバイスが激しい着信音を鳴らした。


画面には、待ち望んでいた『紗奈』の名前が表示されている。


『――サク! ごめんね、仕事が立て込んでて確認するのが遅れちゃった。……緊急事態って聞いて、すぐに会長さんに連絡したよ!』


「ありがとう、紗奈。助かった。……師匠はなんて言ってた?」


『すぐに向かうから、1層で待っていてくれって。……また会長さんにどこかへ連れて行かれちゃうのかな? 大丈夫?』


紗奈には、総理とは言えないから、大事な人との会談で連れて行かれたと話したことがあった。


またあの時のように、顔を隠すローブを着せられて何処かへと運ばれるのだろうか。


まあ、今の俺を考えれば、その方が都合が良いのかもしれない。


「わかった、師匠を待ってるよ。……というか、もう1層にいるんだ」


『えっ? もう着いたの? ……もしかして、他の冒険者の子たちと交流でもしてるの?』


「いや。……引っ越したんだよ、俺」


『――ええっ!! 1層になんて引っ越したら、冒険者たちが大騒ぎになっちゃうよ!』


そういえば、説明を忘れていたな。


「ああ、そのことなんだけどさ。……さっき、池袋ダンジョンを完全に攻略して、管理者と会ってきたんだ。管理者は討伐せずに、そのまま運営を続けるように命令してきたから、崩壊の心配はないよ」


『命令って……サク、管理者に命令したの……?』


「それで、1層の自宅として、隠しフロアを特別に作らせたんだ。だからもう、引っ越し先はここ、1層なんだよ」


紗奈は通話の向こう側で絶句し、「もう、めちゃくちゃだよ……」と弱々しく呟いた。


「そんな感じだからさ。時間がある時に、紗奈も遊びにおいでよ」


『……それなら、会長さんも来るし、私も今からそっちに行くよ!』


久しぶりに紗奈の顔が見られる。


33層の攻略、そして管理者からの話。


そんな時間が続いた俺に、1番嬉しい提案を紗奈がしてくれた。





1時間後。


俺の目の前には、石像のようにカチコチに固まった紗奈の姿があった。


そしてその隣には、俺の師匠であり、冒険者協会のレジェンドである会長。


さらにその後ろには、高等鑑定官であり会長秘書を務める春原さん。


さらにその後方には、護衛と思われる重装備の冒険者たちが数名、鋭い視線を周囲に走らせている。


……師匠自ら、ダンジョンの中まで足を運ぶなんて。


「――坊主、すまなかったな。すぐに向かうと言いながら、少し時間がかかってしまった」


師匠の声が響く。


多忙を極めるこの人が、連絡から僅か1時間で駆けつけてくれたのだ。


これ以上の迅速な対応はないだろう。


「いえ。ご多忙な身なのはわかってますから。来てもらえるだけでも、本当にありがたいですよ」


「坊主が『緊急』だと言えば、俺が動かないわけにはいかないからな。……それで、来てみたら松田さんもいたのでな。せっかくなら一緒に行こうということになったのだ」


師匠はそう言って、緊張で震えている紗奈の肩をポンポンと親しげに叩いた。


伝説の冒険者であり、協会のトップにそんな風に接せられ、紗奈は完全にキャパシティを超えているようだった。


「は、は、はい! あ、あり、ありがとうございます……っ!?」


「ガハハ! 一度会っているし、連絡も取り合っている仲ではないか! 何をそんなに緊張することがある! ガハハ!」


何を楽しそうに笑っているんだ、このおじさんは。


もう少し自分の立場と、周りに与える圧力を理解してほしいものだ。


「……会長。無駄話はそのくらいにして、用件を済ませましょう」


春原さんが、呆れたような溜息混じりに割って入る。


「おお、すまない。……で、坊主。話というのはどこでするのだ?」


俺は「こちらです」と短く答え、彼らを案内した。


「まてまて。ここに何があるというのだ? どう見ても行き止まりの壁だろう」


師匠が不思議そうに眉を寄せるが、俺は構わず歩き出す。


「まあ、ついてきてください。すぐに分かりますから」


護衛の冒険者たちはその場に留まらせ、紗奈、師匠、そして春原さんの3人だけが俺の後をついてくる。


「信じられません……。私にも分かりませんでした」


高等鑑定官である春原さんでもわからない認識阻害。


これならほかのニンゲンたちでも絶対にわからないな。


隠し通路を抜け、唐突に現れた住宅の扉を前にして、3人は言葉を失った。


「……家、だな。……本当に、ダンジョンの中に家があるのか。この『神様』というふざけた表札はなんだ、坊主」


師匠の呆れたような問いに、俺は「……それもあとで説明します」とだけ返し、苦々しく扉を開けた。


管理者の野郎、絶対に許さない。


リビングに足を踏み入れると、そこには既に3体の配下たちが待機していた。


師匠らを待っている1時間の間に、19層から運んできた家具や荷物を、グリム主導で配置させておいたのだ。


お陰で、先ほどまでガランとしていた無機質な空間は、以前の本拠と同じような、生活感のある落ち着いた空間へと変貌を遂げていた。


「凄いな……。これは、一体どうやって用意したのだ?」


「信じられません。ダンジョン内にこれほど高度な居住空間を構築するなど……」


春原さんも驚きを隠せない様子で、室内を見渡している。


そして、神化を遂げた配下の姿に驚いていた。


「……では、順を追ってすべてお話しします。とりあえず、座ってください」


俺はリビングにあるテーブルに、師匠、春原さん、そして紗奈の3人を促した。


グリムとゴウキは、使い慣れた大きなソファーへ。


そして何故かリビングの中央に鎮座しているビーズソファーには、ノア子がちょこんと腰を下ろした。


あまりにも異様な、けれどどこか平穏な空間。


俺はゆっくりと口を開き、33層で起きた出来事、そして管理者から聞いた話をし始めた。


ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

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