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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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公表 1

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

池袋での歴史的な会談から2週間程が経過した。


首相との極秘会談からも数日が過ぎ、俺たちは変わらずダンジョンへと潜り続けていた。


現在の俺たちの到達階層は29層、レベルは88にまで到達している。


協会の公式記録では、依然として27層が最高攻略階層とされているため、非公式ではあるものの、俺たち『フロントライン』がニンゲンの未踏領域をまた2つ更新したことになる。


ここ最近、俺は攻略や魔石周回の合間を縫って、意識的に冒険者たちとの交流を強化していた。


師匠や総理と約束した通り、近いうちに俺の正体を公表する日が来る。


その時のために、俺の語る「荒唐無稽な真実」を受け入れてくれるニンゲンの分母を、少しでも増やしておきたかったんだ。


俺一人なら、最悪どうなっても構わない。


けれど、紗奈や、綾香たち、そして俺を信じて支援を約束してくれた師匠や総理といった人たちの顔に泥を塗るわけにはいかない。


彼らの立場を守るために、俺にできる最善の準備をしておきたかった。


「主は紗奈と一緒に配信をしていてくれ。私たちは、少しでも戦力を底上げするために成長してくるよ」


そう言ってグリムがゴウキやノア子たちを連れて下層へと向かってくれた。


その気遣いに甘え、俺は1層のエントランスへと向かった。


紗奈を迎えに行くついでに、そこでたむろしていた若い男性冒険者のグループと雑談を交わす。


「へぇ、魔王さん。最近よくここに顔を出しますよね。なんだか親近感湧いちゃいますよ」


「ははは、そう言ってもらえると嬉しいよ。俺もみんなの話を聞くのは楽しいからね」


俺が気さくに応じていると、エントランスの向こうから紗奈が姿を現した。


「あ、紗奈。こっちだよ!」


俺が呼ぶ声に、周囲の冒険者たちが一斉に反応した。


「え、魔王さん。今、サナって言いました?……あの歩いてくる可愛い人が、噂のサナさんなんですか!?」


あぁ、そういえば紗奈は今まで一度も配信で顔出しをしたことがなかった。


声や名前だけは聞いていたはずの彼らも、実物の彼女を見るのは初めてなのだろう。


今日の配信には彼女も登場してもらう予定だし、ここで軽く紹介しておくのも悪くないか。


「そうだよ!めちゃくちゃ可愛いでしょ。俺の自慢の相棒なんだ」


俺がニヤッと笑って胸を張ると、冒険者の一人が顔を赤くして、小声で俺に囁いてきた。


「……めっちゃ可愛いっすね。……あの、魔王さん。サナさんって、彼氏とか、いたりするんすかね?」


「もしいたら、俺がその瞬間に滅してるよ」


「ひえっ!全然冗談に聞こえないっすよ、それ!!」


冒険者の男の子がわざとらしく震えて見せると、グループ全員から爆笑が沸き起こった。


こうして下らない軽口を叩き合える間柄を増やしていくこと。


この地道な草の根活動が、いつか俺たちへの理解という大きな実を結ぶはずだと信じている。


「サク、お待たせ!……みんなとお話ししてたの?」


「うん、今ね、紗奈に彼氏がいるかどうかをこっそり聞かれてたところ」


「ちょっ!魔王さん、なんでそれを本人に言っちゃうんですか!気まずすぎるっすよ!」


慌てふためく冒険者の姿を見て、紗奈も楽しそうに笑い声を上げた。


「それで、サクは何て答えたの?」


「……いたら滅してる、って即答した」


「ふふっ。そうだねぇ。サクは私のことが大好きだもんね!」


そう言って、紗奈が自然な動作で俺の腕にギュッとしがみついてくる。


「……じゃ、じゃあ、俺も魔王さんのこと大好きっすからぁ!俺も仲間にしてくださいよ!」


お調子者っぽい冒険者が、反対側の腕にふざけて絡みついてくる。


すかさず周りから「何してんだよお前!」とツッコミが入り、現場は一層賑やかな笑いに包まれた。


「よし、貴様ら、我がものとしてやろう」


「ハハハ!その発言、マジで魔王っぽくて最高っすよ!」


今日も、池袋ダンジョンの1層フロアには、種族を超えた穏やかで明るい笑い声が響き渡っていた。





「……わぁ。やっぱり、映像で見ているのと実際に見るのとでは全然違うね」


俺は1層から、影移動を使って紗奈を連れて本拠地へと戻ってきた。


初めて足を踏み入れる19層の隠しフロアを、紗奈は物珍しそうに、そして少し圧倒されたように見渡している。


「どう?意外と快適そうでしょ。Nexmartで注文した家具も結構揃ってきたんだ」


「本当に一部屋できちゃってる!私も、ここに住みたくなっちゃった!」


俺たちにとっては安全地帯であるこの19層だが、普通の冒険者である紗奈にとっては、本来なら一歩外へ出れば命の危険がある地獄のような場所だ。


住めることなら俺だって一緒に暮らしたいけれど、今はまだその時じゃない。


「……いつか、俺が地上で普通に暮らせるようになったらね。その時は考えよう」


俺がそっと呟くと、紗奈も少し気恥ずかしくなったのか、「……うん。約束だよ」と頬を染めて小声で返してくれた。


「あ、あぁ、そうだ。そろそろ配信を始めるよ!紗奈、準備はいい?」


俺は照れ隠しに声を張り、デバイスを三脚へとセットした。


「……大丈夫。自分の中で、ちゃんといっぱい準備はしてきたから。……今日は、私の本当の気持ちを、みんなに伝えるの。私は、あの時より少しだけ、強くなれたと思うから」


紗奈の瞳には、かつての弱々しさは消え、確かな覚悟の光が宿っていた。


ステータスとしての数値ではない、彼女自身の心の成長。


本当に、彼女は強くなった。


「よし。……じゃあ、始めるよ」


俺は一つ、深く息を吐き、配信開始のボタンを押し込んだ。


視聴者数を示すカウンターが、目にも止まらぬ速さで数字を積み上げていき、画面上には次々とコメントが流れ始める。


:今日は何の配信?待ってたよ!

:あれ、隣にいる人は誰!?

:グリムさんやゴウキさんはお休み?

:グレイスちゃん、今日も出てー!


隣に座る紗奈を横目で盗み見ると、案の定、彼女はガチガチに緊張していた。


……よし、ここは俺がリードしてやる番だな。


「サクラーの皆さん、こんばんは。今日は、俺たちにとって、そしてみんなにとっても、すごく大事な話があって配信を始めました」


俺の、いつもより少しトーンを落とした真剣な声に、コメント欄の空気が一変する。


:え、何?真面目な話?

:重大発表!?結婚報告とかじゃないよね?

:なんか怖いんだけど……何が起きるの?

:サクちゃん、どうしたの?


よし、みんなの興味は十分に引けた。


「……その前に、まずは隣にいる大切な人を紹介させてほしい。サナサクちゃんねるの、紗奈ちゃんです」


「……皆さん、初めまして。……これまで声だけはお聞かせしたことがありましたが、こうして皆さんの前に姿をお見せするのは初めてになります。サナサクちゃんねるの、紗奈です。よろしくお願いします」


練習した通り、彼女は震える声を抑えて立派に挨拶を済ませた。


:おおおおおおお!!サナちゃん!!ついに顔出しきたー!!

:めちゃくちゃ可愛い!!想像以上だ!

:こんな子が、昔カメラにおでこをぶつけてたのかw

:サナちゃん、お帰りなさい!テイムモンスターたちは元気?


一気に紗奈を歓迎するコメントで画面が埋め尽くされる。


「こうして、みんなの前に2人で並んで出たのには、大きな理由があります。……たぶん、これから俺が話す内容に、ショックを受けたり、到底信じられないと思う人も出てくるはずです。……けれど、これは決して嘘ではありません。俺たちの言葉を信じてくれとは言いません。ただ、最後まで耳だけを貸してください。お願いします」


俺と紗奈は、画面の向こうにいる視聴者に向けて、深く頭を下げた。


:……何、この空気。マジで重大なやつじゃん。

:結婚とかのレベルじゃない、もっと重い何かだ。

:モンスターと人間が結婚なんてできるわけないだろ、現実を見ろよ。

:だからサクちゃんも「信じられない人もいる」って言ってるじゃん。聞こうぜ。


「……皆さんの記憶の中に、『フロントライン』というパーティの名前を覚えている人はいるでしょうか?」


俺がその名前を出した瞬間、コメント欄の動きが一瞬だけ止まり、その後、激しい勢いで流れ始めた。


「知っている」「あの悲劇のパーティだろ」「数年前の事件の……」


このチャンネルには、当時のことを詳しく知る世代から、海外のファン、そして事件当時はまだ幼かった子供たちまで、幅広い層がいた。


「……なら、知っている人に、もう一つ聞きたい。……その犠牲者の一人である、リーダーの相馬武晴。そして、もう一人の犠牲者であり、当時『凶星』という二つ名で呼ばれていた、高梨朔という冒険者を知っていますか?」


俺は、一歩も退かずに踏み込んだ。


「知ってる」「名前は聞いたことがある」「ニュースで何度も見た」というコメントに混じって、「……まさか、ね」という、何かに気づき始めたような不穏な予感を含んだ声が混ざり始める。


「……俺は、その犠牲となった高梨朔……だったものです」


:……「だったもの」?

:え、どういう意味?過去形なの?

:サクちゃん、何言ってるの……?


「……そう、過去形だよ。俺はあの日、新宿ダンジョンに出現したルミナスドラゴンというイレギュラーモンスターに喰われ、命を落としたんだ」


:うわ……。

:ちょっと待て、話が重すぎる。

:じゃあ、なんで今、サクちゃんはそこにいるんだよ?

:記憶が残っているってことか?


俺は一つ一つ、丁寧に真実を解き明かしていった。


喰われた後、意識が戻った時にはインプというモンスターとなってダンジョンにいたこと。


最初は自分自身の名前すら思い出せなかったこと。


少しずつ、失われていた断片的な記憶が戻り始めていったこと。


ニンゲンの意識を持ちながら、逃げ場のない地獄のようなダンジョン生活の中で、絶望し、諦めそうになっていたこと。


そんな絶望のどん底で、紗奈に救い出されたこと。


「……あの時の孤独を想像してみて、と言いたいけれど、多分それは誰にもできないよね。……うーん、簡単に言えば、24時間常に、隙あらば自分を殺そうとする者たちが周囲をウロウロしている……そんな地獄が、俺の日常だったんだ」


:……しんどいなんてレベルじゃないだろ、それ。

:いや、嘘だ。信じられない。映画の設定かよ。

:でも、サクちゃんって最初から、妙に人間臭かったよな……。

:モンスターの着ぐるみ説あったろ?

:今の話を聞いて、最初のあの「事故配信」を思い出したら、色々と腑に落ちてしまった。

:というか、よく見ろよ。今のサクちゃんの素顔、あの頃の「凶星」そのものじゃん……。

:……こいつが、高梨朔を食い殺して、その記憶と姿を奪った化物って可能性はないのか?


当然の疑問だ。


俺が視聴者の立場なら、同じように疑うだろう。


「……もしかしたら、そのうち事の真偽は、俺の口からではなく公式な形で発表されることになるかもしれません。……俺は、かつての仲間たちの意志を継ぐため、モンスターだけの非公式パーティとして『フロントライン』の名を継承することに決めたんだ」


:マジかよ……。

:あぁ、だから聖女さんとも仲が良かったのか……。

:そういうことか、すべての線が繋がった気がする。

:でも、元仲間は納得しているのか?


「……このことは、あの日の事件を生き延びた生還者である水瀬綾香さん、現在『レガリア』に所属している黒崎玲司も認めてくれているよ。もちろん、舞香さんや金澤さん、門脇さんもね」


:まじかよ……。

:トップ冒険者たちが認めているなら、信じるしかないのか。

:いや、でもやっぱり飛躍しすぎてて脳が追いつかない。

:サクちゃん、俺たちを騙してないよな?


「……逆に、皆さんに聞きたい。……俺がこんな突拍子もない嘘を吐いて、ニンゲンたちを騙して、一体何のメリットがあるというんだ?……俺には、理由があってこの名前を継承するんだ。理由もなければ、わざわざ死者が出ている不謹慎な名前を騙って、こんな配信なんてしないよ。というか、その死者が本人なんだけどね」


:……確かに。正論すぎる。

:メリットどころか、下手をすれば恨みを買うリスクしかないもんな。

:死人をネタにするのは、それこそ大炎上だわ

:……理由って、何なの?


「……『フロントライン』。……最前線という意味だよね。1つは、俺がモンスターという側に立って、ニンゲンとモンスターが歩み寄るための『最前線』でありたいということ」


:……泣ける理由じゃん。

:応援したくなってきた。

:サクちゃんなら、本当に変えてくれるかもしれない。


「……そして2つ目は、俺の最終目標。……あの日に俺を喰らい、リーダーの命を奪った仇敵、ルミナスドラゴンの討伐。その戦いの『最前線』に立つ、という誓いだよ。……俺だけじゃない。あの事件のせいで、深い悲しみを背負って生きている人たちがたくさんいた。……記憶が戻って、ようやくその痛みが分かったんだ」


:……納得したよ。

:サクちゃん、あんたが本気なら俺はついていくよ。

:でもさ、力があるとはいえ、あのイレギュラーに勝てるのか?

:どうやって倒すつもりだよ。どこに現れるかも、いつ来るかも分からない化け物だぞ。


「……それを今、協議している最中なんだ。……そして、俺たちモンスターパーティ『フロントライン』は、これからの未来、全面的にニンゲンたちに協力することを、ここで改めて誓いたいと思う」


:おおおおおおおお!!

:具体的に、どんな協力をしてくれるの?

:ありがたいけれど……本当に信じていいのか?


「……例えばか。今話せる範囲で言うなら、モンスター自身の視点から見た生態情報、ダンジョンの情報、そして有事の際の強力なモンスターの討伐。……俺たちにしかできないことが、たくさんあるはずだ」


:……これって、この国の強力な『武力』になるっていう意味か?

:サクちゃんを、戦争の道具にしようとしている奴がいるんじゃないの?

:不吉なこと言うなよ!今はそんな話じゃないだろ。

:飛躍しすぎだ、まずはサクちゃんの話を聞こうぜ。


「……うん。やっぱり、そういった懸念を持つ人がいるのも、当然だと思う。……でも、俺を勝手に『道具』にしないでよ。……俺には、俺たちの仲間には、自分たちの『意思』がしっかりとあるんだから」


:……なら、もしその「意思」が、ニンゲンに敵対する方向へ向かったら?

:この国を、混乱や戦火に巻き込むつもりじゃないだろうな!

:サクちゃんが伝えたかったのは、そんなことじゃないはずだろ!


コメント欄は、応援と危惧、期待と不安が複雑に混ざり合い、激しい勢いで流れ続けている。


なかなか一筋縄ではいかない。


けれど、ここでしっかりと時間を使い、誠実に言葉を重ねなければ、本当の意味での理解は得られないな。


俺は隣に座る紗奈の手をそっと握りしめ、次の一歩を踏み出すために、カメラを真っ直ぐに見据えた。

ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

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