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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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パーティ名、公表、そして真実

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

張り詰めていた空気はようやく僅かな和らぎを見せていた。


だが、本当の話し合いはここからだ。


俺は会談を締めくくる前に、俺自身の口からどうしても伝えておかなければならないことがあった。


「……師匠、皆さん。最後に、俺からお話ししたいことが3つあります。聞いてもらえますか?」


俺の言葉に、室内にいた全員の視線が再び俺へと集中した。


正面に座る師匠が、どっしりと椅子に深く腰掛け直し、「……構わん。言ってみろ、どうした?」と促してくれた。


「……まず、1つ目です。現在、俺たちはQtubeで『サナサクちゃんねる』という名前で配信活動をしています。皆さんも既にご存知だとは思います。ですが、俺たちはただの配信者ではなく、このダンジョンを現役で攻略し続けている探索者でもあります。……今の俺たちには、多くの仲間がいます。実際には召喚体が多いですが、中心となるのは俺と、そこにいる配下の3人です」


「……そうだな。それがどうした」


「……俺たちはニンゲンではありません。だから、協会公認のパーティを正式に組むことは、今の規則では難しいでしょう。……けれど、非公式で構いません。俺たちのパーティ……あるいはギルドとしての『名前』を名乗ることを、ここで許してほしいんです」


俺の提案に、室内には「そんなことか」という安堵の混じった空気が流れた。師匠も周囲の者たちも、互いに小さく頷き合っている。


「……そんなものは坊主の自由だ。わざわざ許可など求めずとも、好きに名乗ったらいいじゃないか」


「……いえ。名前は、もう決めてあるんです。……けれど、その名前は、俺一人の意思で勝手に決めていいものではないと思っているんです」


「……ほう?一体、何という名前だ」


俺は一呼吸置き、真っ直ぐに師匠の、そして黒崎玲司と綾香の目を見た。


「……『フロントライン』。俺たちのパーティを、そう名乗ろうと思っています」


隣で静かに聞いていた紗奈が提案してくれた、大切な名前。


「……モンスターという側から、ニンゲンに歩み寄るための『最前線』に立つ。そして、あのルミナスドラゴンとの戦いにおいても、『最前線』で戦う。……それが、この名前を選んだ理由です」


室内は、再び深い沈黙に包まれた。


かつての仲間たちにとっては、あの日、地獄のような惨劇と共に失われたはずの名前。


それを、モンスターとなった俺が再び掲げることの重みを、誰もが噛み締めているようだった。


「……私は、賛成です」


最初に沈黙を破ったのは、綾香だった。


「……あの事件でリーダーが亡くなって、朔もいなくなって……あの時、私たちの『フロントライン』は解散してしまいました。……けれど、朔がこうして戻ってきてくれた。朔が、あの時の志を今も持ち続けてくれているのなら……私は、名前を継いでほしいです」


「……ありがとう、綾香」


「……俺も、賛成です」


玲司が、震える声で言葉を継いだ。


「……その名前を継いでくれるのがお前だと言うのなら。……あの日、俺と綾香を守るために、命を懸けて戦ってくれたお前にこそ、俺はその名を託したい」


玲司の力強い言葉に、俺の胸の奥が熱くなった。


「……坊主。理由はわかった。お前の、そしてあの日を生き残った者たちの気持ちも理解した。……だがな、一つだけ警告しておこう。あの『フロントライン』の悲劇は、世間では大きなニュースになりすぎた。今でも高梨朔や『凶星』の名は、ネット上のいたるところに刻まれている。その名を再び掲げれば、過去のすべてが再び掘り返されることになるぞ。……その覚悟はあるか?」


「……師匠。それは遅かれ早かれですよ。……今の俺は、この顔なんです。気づいているニンゲンは既に現れ始めています。現に、ここの受付にいた鈴花ちゃんは、俺の正体に気づいていました。……黙っていてくれたみたいですが。……だから、隠し通すことなんて最初から無理なんです。これが2つ目の話です。……俺の正体を、公表します」


師匠は、険しい表情で腕を組み、考え込んだ。


「……覚悟は、できているようだな。だが、外の連中は想像以上に騒ぎ立てるぞ。……あの日、仲間を守って散った英雄が、数年の時を経てモンスターとして生まれ変わった。そんなおとぎ話のような話、世間が放っておくはずがない。お前の周りは、今よりも遥かに忙しくなるぞ?」


「……承知の上です。それに、正体が公表されれば、師匠だって協会として動きやすくなるでしょ?」


「……ハハッ、違いないな。……わかった。公表を認めよう。むしろ、俺の方から交渉や公式の場にお前を呼びつけることも増えるはずだ。……やるからには、デカくいくぞ。協会としても、サクという存在を正式な協力者として認める形をとる」


「……ありがとうございます!……紗奈、ありがとう」


俺が横を向いて礼を言うと、紗奈は穏やかで温かい笑顔を返してくれた。


「……ううん、サク。サクがこれまで必死に頑張ってきたからこそ、みんなが認めてくれたんだよ」


「……ならば、レガリアとしても、私個人としても、この件が公に発表され次第、即座に全面的な支援を表明させてもらうわ。金澤、いいわね?」


「……舞香がいいと言うのなら、断る理由はない。もとより支援するつもりだったからな」


舞香さんの頼もしい言葉に、金澤さんも力強く頷いてくれた。


「……サク、本当によかったね。……私も、裏方として精一杯頑張るからね!」


「……裏方じゃないよ、紗奈。……俺たちは何?ただの仕事仲間じゃないだろ。……パートナーでしょ?」


「……っ。……うん。……そうだね、パートナー。……私、ずっと、サクのパートナーとして隣にいるから」


紗奈は俺の目を真っ直ぐに見つめて頷いてくれた。


「……松田紗奈さん」


師匠が、改まった口調で紗奈に語りかけた。


「……これからも、この馬鹿弟子のサポートをどうかよろしくお願いします。何か困ったことがあれば、いつでも協会に連絡してほしい。こちらからも、正式な仕事の依頼を出させてもらうことになる。……それとな、可能であれば、君も彼と一緒に表舞台に立ってほしいんだ。……君のような心優しい人間が隣にいることが、世間の人々にとって最大の安心感に繋がるはずだからな」


「……はい。……わかりました。私にできることは限られているかもしれませんが、精一杯務めさせていただきます」


「……ありがとう。私は、君を信じているよ」


紗奈は師匠の言葉を噛み締めるように、力強く頷いた。





「……それでは、最後に3つ目のお話をします。皆さんは、ダンジョンには『管理者』と呼ばれる存在がいることを、知っていますか?」


俺が見回すと、室内は困惑に包まれた。


師匠も含め、誰もその存在を耳にしたことがないようだった。


「俺は先日、19層で隠しフロアを発見しました。そこに、約20年もの間、拘束されていたノアを見つけたんです。……俺たちは、その拘束を解き、彼女を仲間に迎えました。……それが、そこにいる彼女です」


室内にいた者たちの視線が、ノア子へと向けられる。


「……そんなことが。20年もの間、人知れず封印されていた個体がいたというのか……」


信じられないといった表情で、全員が言葉を失っている。


「そして、話はそこからです。俺たちが隠しフロアを出ようとした時、どこからともなく『声』が聞こえてきました。その声の主は、自らを『管理者』と名乗ったんです。……封印を解いてしまったんだね、隠しボスとして用意したのに誰も来ないから忘れていたよ、と」


「そして、その管理者は語りました。……ダンジョンを維持するためには、エネルギーが必要であること。そのエネルギーを集めるために、ニンゲンをダンジョンへと誘い込む必要があること。そのための目玉として、ノアのような存在を配置したのだと」


「さらに、彼は俺に問いかけました。……なぜ、この世界には数多のダンジョンが存在し、それぞれ階層や構造が違うのか、考えたことはあるかと」


俺の話が進むにつれ、室内の空気はどんどん重苦しく、深刻なものへと変わっていった。


「管理者の言葉によれば、この世界には4種類のダンジョンが存在するそうです。……『中枢ダンジョン』、『成熟ダンジョン』、『発展ダンジョン』、そして『衰退ダンジョン』。……師匠、この言葉の意味、わかりますか?」


師匠は、俺が告げた不穏な単語を一つ一つ、反芻するように呟いた。


「……言葉の通りに推測するならば。核、あるいは旗艦となるのが『中枢ダンジョン』。既に育ちきり、完成されたのが『成熟ダンジョン』。今まさに成長を続けているのが『発展ダンジョン』。そして、完全に攻略され尽くしたのが『衰退ダンジョン』……ということか?」


「……正解です。俺も、同じ答えに辿り着きました。……管理者の話では、成熟したダンジョンは、自分たちが蓄積したエネルギーを中枢へと送る役割を担っているそうです。そして、成熟に達したダンジョンには、あの声の主のような『管理者』が生み出されるのだと」


「……なぜ階層が違うのか。それは、そのダンジョンが完成しているのか、まだ成長途中なのかの違いでしかありません。……そして、問題は『衰退ダンジョン』です。一度攻略されたダンジョンは、それまでに蓄積されたエネルギーを使い切るまで活動を続けますが、そのエネルギーが枯渇すれば、役目を終えてこの世界から消失する運命にあるそうです」


師匠が、その言葉の裏にある恐ろしい可能性を、いち早く察知した。


「……待て。……新たに生み出されるダンジョンや、未発見のものはまだあるだろう。だが、既に攻略されたダンジョンも世界中に数多く存在する。……それらのダンジョンは、今はまだ稼働しているが、いつかエネルギーが尽きれば、この世から消えてなくなるということか?」


「……はい。そうなります。……ここからは俺の持論ですが、もしも世界中の攻略済みダンジョンが次々と消えていけば、どうなると思いますか?」


「……現代社会において、ダンジョン資源はもはや必須のインフラだ。……それが枯渇すれば、世界のバランスは一気に崩れる。……資源を失った国は、資源を持っている国から奪おうとするだろう。……待っているのは、世界規模の戦争か」


流石は師匠だ。俺が危惧していた最悪のシナリオを、即座に口にした。


「そうです。資源を失った国は、生き残るために他国を侵略する。……世界が火の海になる」


「……つまり、ダンジョンを攻略し尽くしてはいけない、ということか?」


「……いいえ、それも違います。管理者はこうも言っていました。……中枢ダンジョンや成熟ダンジョンは、まだ『ニンゲン』の手では攻略されたことがない。なぜなら、自分たち管理者が守っているからだ、と。……レガリアの皆さんなら、心当たりがあるんじゃないですか?……どれだけ潜っても、どれだけ戦っても、到底太刀打ちできないような理不尽な難易度の壁にぶつかったことが」


舞香さんが、ハッとしたように身を乗り出した。


「……確かに。……下層に潜れば潜るほど、生物としての理屈が通じないような、絶望的な理不尽さに襲われることがあったわ。……なるほど、あれが管理者の干渉による力で、私たちが攻略できたダンジョンは、ただ管理者が生まれる前の、未熟な段階に過ぎなかったというのね……」


師匠が、ある一つの残酷な事実に気づく。


「『ニンゲンには攻略されたことがない』……。……ならば、ニンゲンではない存在、すなわちモンスターには攻略されたことがあるということか?」


「はい。それがモンスターなのか、あるいは別の何かなのかは分かりません。……管理者はこう締めくくりました。『ニンゲン風情に負けるつもりはない』と。そして、続きは自分がいる場所でしようと言い残して、声は消えました」


会議室にいた全員が、深く俯いて黙り込んだ。


あまりにも巨大で、あまりにも残酷な世界の真理。


一冒険者が、あるいは一つの組織が背負うには、その情報はあまりにも重すぎた。


「……この情報は、どう扱ってもらっても構いません。……俺は、管理者のところへ直接話を聞きに行こうと思っています。そこで得た情報は、すべて皆さんに共有します」


これは単なる冒険の話ではない。


政治、経済、そして国家間のパワーバランスが複雑に絡み合う、国、人類の存亡を賭けた戦いだ。


情報をどう公開し、どう活用するか。それは俺一人で決められることではない。


「……わかった。坊主、お前の覚悟、確かに受け取った。……この件について協会内で議論する際、再びお前を呼ぶこともある。……協力してくれるか?」


「……もちろんです、師匠」


「……よし。この話は一度、私の方で預からせてもらう。追って、連絡を入れる。……今日の会談は、これで以上だ」


師匠のその言葉で、歴史的な会談は幕を閉じた。


積もる話は山ほどあっただろうが、それぞれが持ち帰るべき情報の重さに、誰もが足早に動き出していた。


綾香や舞香さんからは「またすぐに連絡する」と約束され、玲司とも正式にデバイスの連絡先を交換した。


「凄いことになっちゃったね。……でも、本当の勝負はここからだね、サク。……今日は、これから配信するの?」


廊下に出たところで、紗奈が心配そうに聞いてきた。


「……いや。師匠がまだ周知を始めていないからね。……混乱を避けるためにも、来週あたりにしようと思っているよ」


「……わかった。準備ができたら教えてね。私はいつでも大丈夫だから」


「そうだ、紗奈。その配信の時に、一度俺たちの拠点に来てほしいんだ。……師匠も言っていた通り、紗奈が俺の隣にいる姿を、みんなに見てもらいたいんだよ」


紗奈は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んで「……わかったよ」と答えてくれた。


来週の配信までに、やるべきことは山積みだ。


もっと、もっと強くならなければならない。


俺はホームへと、急ぎ足で戻っていった。

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