配信!
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
19層――本拠。
さて、今日という一日の締めくくりとなる、最後の大事なお仕事だ。
新しく本拠地としたこの隠しフロアの紹介と、新メンバーであるノア子たちの紹介を兼ねた生配信をする予定なのだが……俺は今、ちょっと、いや、かなり緊張していた。
その最大の理由は、言うまでもない。
舞ちゃんが、あんな衝撃的な写真をCurrentに投稿してしまったからだ!
あんな写真――俺の頬に、彼女が幸せそうにキスをしているあの瞬間。
あまりにも完璧すぎる不意打ちに、俺は文字通り「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」を晒してしまった。
おかげでネットは、ざわつくどころか大騒ぎになっている。
俺は震える手でデバイスを三脚にセットし、角度を調整した。
「……みんな、配信を始めるよ。基本は自由にしてていいけど、参加したい奴はこっちに来てくれ」
声をかけたが、背後の反応は薄い。
「……大将、このお笑いを観終わったら行く。少し待っててくれ」
「……私もだ。今は非常に良い場面なのだ。構わず始めてくれ」
ゴウキだけでなく、あのグリムまで……。
誰も来んのかい!自由すぎるだろ、お前ら!
グリムの奴、一度本を読みだすと周囲の音が聞こえなくなるタイプなんだよな……。
「……サク様。私は、いいですか?」
トコトコと歩み寄ってきたのは、三少女の一人、グレイスだ。
ノア子の眷属である少女たちの中でも、彼女は一番外見がノア子に似ていて、性格は穏やかで常にニコニコしている、本当にいい子だ。
もちろん、他のみんなもいい子なのだが、シュナはノア子と同じく感情が表に出にくく、レイは笑顔を見せつつも攻撃的な気配が強い。
警戒心の強い他の2体に比べると、グレイスは割と誰にでも初対面から懐いてくれる印象がある。
……まあ、俺は!他の子たちにも!しっかり懐かれてる自信があるけどね!!
ということで、俺はグレイスを自分の膝の上に乗せて、覚悟を決めて配信を開始した。
:サクちゃん!お疲れ様!
:待ってました!
:サクちゃん、なんか雰囲気変わった?大人っぽくなってる気がする!
:え、その膝の上の天使は誰!?隠し子!?
「サクラーの皆さん、お疲れ様!驚かせてごめんね。この子はグレイスだよ。俺の配下の、そのまた配下なんだ。めちゃくちゃ可愛いでしょ?」
俺がそう言って、グレイスの柔らかな頭を優しく撫でると、彼女は心地よさそうに目を細めて俺の胸に寄り添った。
:くっそ可愛い……。
:癒やされる。
:サクちゃん、代わってくれ!
:グレイスちゃん推しに決定しました。
「サク様、なんて書いてあるんですか?」
「グレイスが可愛いって、ニンゲンのみんなが絶賛してるんだよ」
「……ありがとうございます。優しいニンゲンたち」
グレイスが画面の向こうに小さく手を振る。
:¥1,000|グレイス推し
とりあえず、お布施を置いときます。
:¥500|チルリラ
美味しいものでも買ってあげてください!
「みんな、スパチャもありがとう!あ、そういえばさっきのコメントにあったけど、俺たち全員、昨日の夜に進化したんだ。だから見た目や雰囲気が少し変わってるかもしれないね」
その言葉を聞きつけたのか、シュナとレイもこちらに近づいてきた。
:うわぁ!他にも美少女がいる!
:全員進化!?
:サクちゃん、いつの間にこんなハーレムを……。
:三つ子?天使の軍団やん!
「サク様、画面の中に何かわからない文字がいっぱい出てます」
「これはコメントって言ってね、遠くにいるニンゲンたちが、リアルタイムで俺たちに話しかけてくれてるんだよ、レイ」
「なんて言ってるんですか?」
「お前たちが天使のように可愛い、だってさ」
レイは少し照れくさそうに微笑むと、自分のスカートの端をちょこんと持ち上げ、優雅にお辞儀をした。
「……天使?いいえ、私たちはどちらかと言えば、性質的には悪魔に近い存在です。ニンゲンの感性は、少し変ですね」
シュナが、至極真面目な顔で正論を突っ込んでくる。
それには俺も、苦笑いを浮かべるしかなかった。
「……ノア子、ちょっとこっちに来て!みんなに紹介したいんだ」
「……ん。何?」
俺が呼ぶと、ビーズソファーから重い腰を上げたノア子が画面に映り込んだ。
「皆さん、この子が新しく仲間になったノアだよ。で、さっきの三少女がノアの眷属なんだ」
:やばい、透明感が凄い……。
:ノアちゃん、美しすぎるだろ。
:推しが決められない事態に突入した。
:俺はレイちゃん派!
:シュナちゃんのクールさがたまらん。
「……ニンゲンたちが、私を見ているの?」
「そうだよ。みんなに挨拶をして!」
「……ニンゲンたち。ここに来るなら、美味しいお菓子を持ってきて」
それだけ言い残すと、彼女はさっさとビーズソファーへと戻っていった。
それについていくように、シュナも定位置に戻る。
レイは興味があるのかその場に残り、グレイスと一緒に俺の膝の上に仲良く座り込んだ。
:挨拶が「お菓子」w
:いいよ!いくらでも持っていくよ!
:むしろ貢がせてください!
「……すまない、主。こちらも一段落したぞ」
ようやく読書を終えたグリムが、自分で椅子を持ってきて画角の中へと収まった。
:えっ、誰!?
:新キャラ!?
:……いや、グリムだろこれ。ケンちゃんねるの時と輪郭が似てる。
:でも、印象が違いすぎるだろ……。
:くっそイケメン。モデルかよ。
「さっきも言った通り、グリムも『シャドウデスロード』に進化したからね。中身はいつものグリムだけど、見た目は本当にカッコよくなったよなぁ。正直、俺も羨ましいよ」
:お前が言うなw
:サクちゃんもめちゃくちゃ格好よくなってるだろ。
:今のサクちゃん、色気が半端ない。
「あはは、褒めてくれてありがとう!……今の姿、結構気に入ってるんだ」
「……主、私からも一つ、聞いてもらいたいことがある」
グリムが真剣な面持ちで、画面の向こうの視聴者たちを見つめた。
「ん?どうした、グリム」
「……もしも、将来的に私たちがダンジョンの外へと自由に出られるようになったら、私は『将棋』の得意な者に、教わってみたい。……この中に、将棋が得意なニンゲンはいるだろうか?」
:将棋かよ!渋いなw
:好きだけど、下手だからなぁ……。
:うちの爺ちゃんなら、強いぞ。
:俺もそれなりには指せる自信がある。
:グリムと将棋、なんか絵になるはず。
「……そうか。ならば、地上へ出た際はよろしく頼む。一局指せる日を、楽しみにしているぞ」
それだけ告げると、グリムは再び沈黙し、興味深そうに流れるコメントの滝を見つめ始めた。
:そういえばサクちゃん、モンスターインタビュー動画、最高に面白かった!
:ゴブリンリーダーがビビりまくってて、めちゃくちゃ笑ったわw
:フロアボスって、あんなにあっさりスルーできるもんなんだなw
「みんな、動画も観てくれてありがとう!リクエストがあったからやってみたけど、楽しんでもらえたなら頑張った甲斐があるよ。またやってほしい企画があったら、コメントでキャストで教えてね!」
◇
配信は順調に進み、画面に映り続けているグレイスとレイへの質問が殺到した。
グレイスは少し戸惑いながらも、たどたどしく一生懸命に。
レイはニコッと微笑みながら、ハキハキと質問に答えていく。
同じ三少女でも、性格がこれほどまでに違うのは、見ていて本当に飽きない。
:……ところで魔王さん。あの、水瀬舞香さんのCurrentのキャスト、ぶっちゃけどうなんですか!?
:うわぁ、ついにぶっ込んできた奴がいる。
:ずっと空気を読んでたのにw
:正直、そこが一番気になってるんだよ。
:ガチ恋の皆さんが阿鼻叫喚で寝込んでるぞ。
あぁ……。ついに、ついに来てしまった。
俺は内心で冷や汗をかきながら、慎重に言葉を選んで口を開いた。
「……あ、その件についてお話しするよ。あの日、舞ちゃ……舞香さんが俺のところに会いに来てくれたのは事実だよ。そこで、妹である綾香さんの話を聞かせてくれたり、俺自身のこれまでの話をしたんだ」
もちろん、言えないことは山ほどある。
俺は、今の「サク」として不自然にならないように話を続けた。
「皆さんが心配していたような、討伐に来たとか、そういう物騒な理由ではなかったんだ。……俺が本当に安全なモンスターなのか、彼女自身の目で確かめに来たんだってさ」
:へぇ……。何を確かめたんだろうねぇ(ニヤニヤ)
:サクちゃん、あの時ビビって配信切ってたよねw
:本当は怖かったんじゃないの?
「まあ、俺が悪いモンスターじゃないってことが伝わった、ということさ」
多少の脚色はあるけれど、嘘ではない……はずだ。
「……で、意気投合したのは事実だよ。お見送りをする時にさ、記念に写真を撮りたいって言われたんだ。その時に、あのアレが、突然撮られたというわけだよ……」
:……いや、わからんw
:なんで「意気投合」が、あのキス写真に繋がるんだよw
:でもサクちゃんの顔、マジで魂抜けてたもんなw
:ありゃ完全に不意打ちの顔だわ。
「そうなんだよ!本当にビックリしたんだからな!……たぶん、俺をからかって遊んだんだろうね。あの方、案外茶目っ気があるみたいだし」
「……サク様。何に、そんなにビックリしたのですか?」
膝の上のレイが、純粋な赤い瞳を向けて聞いてくる。
「……ん?あ、あぁ。レイはまだ気にしなくていいことだよ。大人たちの、ちょっとした悪ふざけなんだ」
俺は誤魔化すように、レイの頭を優しく撫でた。
彼女は理由が分からないなりに、撫でられて満足そうにニコニコしている。
:確かに、子供の前でする話じゃないよなw
:レイちゃん、グレイスちゃん、おじさんたちが変なこと聞いてごめんね!
:でも、あの「氷の女王」がそんな悪ふざけ、するかなぁ……?
:サクちゃん、本当は自分からいったんじゃないのー?
クソッ、鋭いところを突きやがる……!
ここはもう、「知らぬ存ぜぬ」で押し通すしかない。
「……俺だって分からないよ。だって、あの時が初対面なんだよ?どんな性格の人かなんて、一回会っただけで分かるわけないじゃない。……まあ、でも。凄く綺麗な人だし、有名な人なんでしょ?騒がせてしまって、申し訳ないと思っているよ」
俺は少ししおらしい表情を作ってみせた。
:まあ、サクちゃんの言う通りかもな。
:初対面であれは、流石にわからないだろw
:むしろサクちゃんがタイプだったんじゃないの?舞香さんの。
:氷の女王の真意なんて、誰にも分からないよな……。
ふぅ……。なんとか、最悪の追及は乗り切っただろうか。
安堵の溜息を漏らそうとした、その時だった。
「……おう、終わったぞ大将。何の話だ?……あぁ、この前のあの姉ちゃんのことか?」
ヤバい……!!
よりによって、何でこのタイミングでゴウキが来るんだよ!!
「あ、あぁ……。そうだけど、その話はもう終わったんだよ、ゴウキ!」
「……まあ、大将も大変だよな。紗奈の嬢ちゃんに、聖女に、あの姉ちゃん。……ニンゲンども!大将を『番い(つがい)』にしたいのなら、早めにしておけよ!早い者勝ちだぞ!」
バカ野郎!!
余計なことを……!!あぁ……コメント欄が……!!
:番い!?!?!?
:ゴウキさん、爆弾落としすぎwww
:紗奈ちゃん、聖女、女王……サクちゃん、マジでハーレムなの!?
:早い者勝ちきたあああ!
:今から池袋に凸してくる!!
:ゴウキさん、進化した姿が格好良すぎて内容が入ってこないw
:ゴウキ、強そうすぎる……。
「あはは……。……みんな、ゴウキの冗談を本気にしないでね!俺はみんなと仲良くなれるのが一番楽しいんだから。……あ、そうだ!」
話の矛先を強引に変えるため、俺は本来の目的を思い出した。
まだ紹介していなかった、本拠地の様子だ。
どうせ一般の冒険者は誰も来られない場所なのだから、隠す必要もない。
それに、クマガイフーズさんの広告が公開されれば、どのみち露出することになる。
俺は三脚からデバイスを取り外すと、カメラを回しながら拠点内をぐるりと映した。
「……ここが、俺たちの本拠地です!どう?まだ物は少ないけど、結構『部屋』っぽくなったでしょ?」
:は!?何これ、めちゃくちゃ快適そうじゃん!
:ダンジョンの中にこんな場所があるのかよ……。
:くつろいでるノアちゃんとシュナちゃん、最高に可愛い。
:私もそこに混ざりたい!
:本拠地、なかなか良いじゃん。
:ノブナガたちまで進化してる!
俺はカメラを一周させ、再びデバイスを三脚へと戻した。
「……って感じで、どこかに作った秘密の本拠地でした!あとね、俺たちの『パーティ名』もそろそろ決めたいと思ってるんだ。そのうち公式に発表するから、楽しみにしててね」
:魔王軍でいいじゃん!
:シンプルに「サクと愉快な仲間たち」は?
:いや、もっと格好いいやつがいいな。
:発表、ワクワクして待ってるよ!
「よし。じゃあ、今日は少し早いけど、これくらいにするよ。皆さん、今日も会いに来てくれてありがとう!ばいばーい!!」
俺と、膝の上のグレイス、そしてレイの3人で、満面の笑顔で手を振りながら、配信を終了させた。
いつもよりは少し短い配信だったが、同時接続数は多かった。
やはり、舞ちゃんとの一件の影響力は凄まじいな。
「……サク様。さっき、凄くたくさんのニンゲンが見ていたのですよね?」
グレイスが、不思議そうに問いかけてきた。
「そうだよ。このダンジョンが溢れかえるくらいの数のニンゲンが観てくれてたんだ」
「……外には、もっとたくさんのニンゲンがいるのですか?」
「うん。もっと、もっとたくさん。数えきれないくらいの人がいるんだよ」
グレイスは少しの間、何かを考えるように沈黙してから、真っ直ぐに俺を見上げた。
「……サク様。私、もっとたくさんのニンゲンに見てもらいたいです。皆さんに、私たちのことを知ってほしいです」
……本当に、いい子だ。
俺は愛おしさを込めて、グレイスの頭を撫でた。
レイも「私は?」という顔でこちらを見ていたので、ついでにたっぷり撫でてやる。
「……みんなに胸を張って見てもらえるように、明日、頑張らないとな」
明日は、ついに冒険者協会会長、鷹栖さんとの会談だ。
これからの俺たちの運命を左右する、極めて重要な一日になる。
気を引き締めて、全力でぶつかってこよう。
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よろしくお願いいたします。




