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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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クマガイフーズの広告撮影

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

19層――本拠。


俺は、池袋ダンジョンの19層にあるこの隠し拠点へ、クマガイフーズの社員さん4名を運び終わった。


影移動による一瞬の転移に目を白黒させていた彼らだったが、ようやく足元が落ち着くと、目の前に広がる光景に感嘆の声を漏らした。


「サクさん、すごいですね……。まさかダンジョンの奥深くに、このような立派な部屋があるなんて……」


常務取締役の熊谷さんが、驚きに目を見開きながら本拠地を見渡している。


「ここを本拠にして、色々な階層に行ったり、配信の拠点にできたらなと思いまして。Nexmartで色々と買い揃えてみたんですけど、まだまだ殺風景ですよね」


「いえいえ、これだけの空間を維持するのは並大抵のことではありませんよ。なにかお手伝いできればと思うのですが、あいにく弊社は食品会社ですので……。あ、黒田くん、サクさんたちにアレを」


熊谷さんに指示された営業部の黒田さんは、手際よくマジックバッグからクマガイフーズ自慢のレトルト食品やドライフードを、テーブルに溢れんばかりに大量に取り出した。


「皆さん、よろしければ弊社の商品をお受け取りください!」


「わぁ、こんなにたくさん!クマガイフーズさん、素敵なプレゼントをありがとうございます!微力ながら、今日の撮影が良いPRになるよう俺たちも精一杯頑張りますね!」


今日はクマガイフーズさんのWEB広告用動画の撮影と、その舞台裏を収める俺たちのチャンネル用の動画撮影を並行して行うことになっている。


この広告がQtubeなどで流れるという。


「サクさん、そういえば先程から気になっていたのですが……皆さん、お姿が変わられていませんか?」


「あ、気づきました?そうなんですよ。実は全員、昨日のうちに進化しまして。あ、あとあそこのビーズソファーで気持ちよさそうに寝ているのが、新しく配下に加わったノアです」


本拠にいるときは、一度座ったら最後、ビーズソファーから磁石のように動かなくなったノア子ら4人の少女たち。


彼女たちは今も、ポフポフとしたクッションの感触に包まれて微睡んでいる。


「みんな、集合!各自、クマガイフーズさんに挨拶して」


アビスゲートの召喚体以外のメンバーに声をかけると、テーブルの周りにゾロゾロと配下たちが集まってきた。


「じゃあ、まずはグリムから」


「シャドウデスロードのグリムだ。……お前たちの『餌』は、なかなかに良い味をしている。気に入っているぞ。今後ともよろしく頼む」


高貴な美青年へと進化したグリムが、不敵ながらも挨拶をすると、後ろに控えていたグリムの配下たちも一斉に手を挙げ、軍隊のような統制の取れた動きで歓迎の意を示した。


「……人間のようになられたんですね。影を纏った姿が、凄くミステリアスで格好いいです……」


業務企画部の桜井さんが、グリムの端正な顔立ちを見て、うっとりと頬を染めながらそう呟いた。


次は、さらに迫力を増したゴウキの番だ。


「羅刹のゴウキだ。お前らの作る餌はいいものだな。特にあの味噌汁というやつ。あれは身体の芯まで温まる、実に良い味だ。今日も、あれは飲めるんだろ?」


「もちろんです!今日も用意しておりますので、よろしくお願いいたします!」


黒田さんが元気よく応えると、ゴウキは満足そうに鼻を鳴らした。


「じゃあ次。ノア子、挨拶して」


「……ノア。ねえ、ニンゲン。お菓子はないの?」


「こらノア子。クマガイフーズさんはおかずや汁物のメーカーさんなんだからないよ。我儘言わないの」


「……なら、ここで新しく作ったらいいじゃない」


なんて無茶を言うんだ、この我儘ヴァンパイア姫は。


「ダメだよ。一つの商品を作るのに、ニンゲンは何ヶ月も、時には何年もかけて必死に研究して作るんだ。そんな簡単に『作って』なんて言っちゃ失礼だろ?」


「……ふーん、そうなの。つまんない」


興味を失ったように、ぷいっと後ろのソファーに戻るノア子。


その自由奔放さに俺が苦笑いしていると、商品開発部の坂下さんが身を乗り出して目を輝かせた。


「常務、ここはチャンスです!ノアさんの感性を是非お借りして、新商品を……!」


「実はですね、サクさん。弊社にもお菓子の商品はあるんです。現在フルーツのドライフードは既に商品化されていますし、お菓子分野もこれから伸ばしていければと。よろしければ、ノアさんにも是非ご協力いただければ幸いです!」


おお、それは面白い展開になってきたな。


「知らずに失礼しました!ノア子、聞いたか?どういうお菓子がいいか、坂下さんとお話ししてごらん」


「……わかったわ。美味しいの、作ってね」


そう言うと、ノア子は坂下さんをビーズソファーの方へと手招きして案内した。


「熊谷さん、すいませんね。あの子たちはマイペースで。ノアの後ろにいる3人の子たちはノアの眷属です。可愛いので、よかったら広告にも出してあげてください。では、俺たちはあちらにおかけいただいて、今日の撮影の流れを詳しくお聞きできればと思います」





メインテーブルには、俺、グリム、そして熊谷さんと黒田さんが腰を下ろした。


少し離れた場所では、桜井さんと坂下さんがノア子たちへの熱心な聞き取り調査を行っている。


桜井さんはノア子たちのことが相当に気に入ったようで、仕事も忘れて自前の櫛を取り出し、少女たちの金髪を順番に優しく丁寧にとかしてあげていた。


ノア子たちも、それが心地よいのか、目を細めて大人しく身を委ねている。


一方のゴウキは、相変わらずポータブルプレイヤーでお笑い番組を観ながら、「ブフッ」と時折吹き出していた。


「本当は事前に案をご説明したかったのですが、こちらの調査不足で申し訳ありません。ノアさんたちの存在を把握しておりませんでしたので、撮影内容をこの場でご相談しながら決められればと……」


「いえいえ、当然ですよ!昨日進化したばかりで、まだ配信でもお披露目していないメンバーですから。誰も知らないのが普通です」


「ありがとうございます!ですが、この素晴らしいお仲間さんがいれば、当初の予定より遥かに良い物が作れると確信しております!」


熊谷さんの言葉に、俺たちは早速具体的な話を詰めていった。


俺とグリムは指示通りに動けるが、他の配下たちはどうしても自由奔放になりがちだ。


その難しさを正直に伝えると、熊谷さんは力強く頷いた。


「それならば、あえて作り込まずにいきましょう。サクさんたちがアルコールバーナーでお湯を沸かしたり、商品を盛り付けたりして、みんなで仲良く、美味しそうに食べているところをありのままに映す。それが一番、視聴者に商品の魅力を自然に伝えられると思うんです」


俺もグリムも、その飾らない案に全面的に賛成した。





さて、いよいよ本番だ。クマガイフーズさんが用意してくれた、選りすぐりの8種類の商品がテーブルに並ぶ。


まずは、皿を一生懸命に並べていくノア子と三少女たちの健気なシーン。


そして、いただいた味噌汁のパッケージに描かれた具材の写真を、グリムとゴウキが「これが中に入っているのか」と真剣に、どこか不思議そうに見つめているシーン。


さらには、俺が用意してもらったエプロンをきっちりと締め、バーナーの火でお湯を沸かしているシーンなどを順調に撮影していった。


用意されているセリフは、最後に全員で言うたった一つだけ。


「俺らも認めた、クマガイフーズ!」


それ以外は、あえて台本を用意せず、心から出た自然な言葉を大切にしたいというのが、熊谷さんのこだわりだった。


「よし、出来たぞ!」


最後のレトルト食品の湯煎が終わり、俺は熱々の袋を慎重に開けて皿へと盛り付けていく。


もう一つの鍋の方では、みんなが大好きなフリーズドライの味噌汁の準備もバッチリ整っている。


「……いい匂い。美味しそう。ねぇ、もう食べていい?」


「まだだよノア子。みんなで揃ってから食べるんだから。ほら、席について」


俺は立ち昇る湯気に目を輝かせる彼女たちを宥め、人数分のカップに味噌汁を注ぎ、全員で席に着いた。


「よし、じゃあみんな。食べる前に言うことは?せーの!」


パンッ、という小気味よい音が洞窟内に響く。


「「「いただきます!!」」」


全員で声を揃えて手を合わせると、各々が待ちきれない様子でスプーンを手に取り、一斉に食べ始めた。


みんな、本当にいい顔をして食べている。


「ノア子、美味いか?」


「……うん。これ、すごく美味しい」


やはり、肉厚なハンバーグがお気に入りらしい。


三少女のうち2人もハンバーグに夢中になり、レイは「サク様、これがいいです」と、しっかり味の染みた鶏大根を美味しそうに頬張っている。


その幸せそうな様子を、桜井さんが慈しむような表情でカメラに収めていた。


グリムとゴウキも、それぞれの好物を楽しんでいる。


「やはり俺は、このカレーというやつが一番だな。この刺激が癖になる」


「私は、この肉じゃがという物の味が気に入ったぞ。甘みが実に深い」


三英傑やボーンキャスターたちも、召喚主の影で静かに、けれど黙々とその味を噛み締めていた。


そして、仕上げに全員で味噌汁を一口飲むと……。


「「「うまぁ……」」」


全員の顔から、自然と幸せそうな笑みが溢れ出した。


特に、少女たちが一列に並んでカップを両手で持ち、ホッとしたような、とろけるような笑顔で味噌汁を啜るシーンは、間違いなくこの広告のベストショットになるだろう。


それぞれの商品を完食したところで、いよいよ今日唯一の決め台詞のタイミングだ。


「……みんな、美味しかったか?本当に美味しいと思った奴は、正直に手を挙げてくれ!」


俺が問いかけると、迷うことなく全員が、力強く真っ直ぐに手を挙げた。


その光景を見たクマガイフーズの方々は、自分たちの商品がモンスターたちにこれほど愛されたことに、感極まったような笑顔を浮かべていた。


「なら、みんなで言うぞ!せーの!」


「「「俺らが認めた、クマガイフーズ!!!」」」


それぞれが思い思いのポーズを決め、同じセリフを力一杯叫ぶ。


少女たちはスプーンを剣のように天に掲げ、グリムは不敵に、ゴウキは逞しい腕を前へと突き出した。


「はい!撮影は以上です!皆さん、本当にお疲れ様でした!」


桜井さんの明るい声が響き、現場に安堵の空気が流れる。


「サクさん、皆さん、本当にありがとうございます。これほど素晴らしい映像が撮れるなんて……」


熊谷さんが、感激で声を震わせながら歩み寄ってきた。


「いえ、あなたたちの商品が本当に素晴らしいから、みんなも自然と笑顔になれたんだと思います。こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」


俺が右手を差し出すと、熊谷さんはそれを両手でしっかりと包み込み、力強く握手を交わした。


「……サクさん。最後にお願いがあるのですが、記念に皆さんの写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです!それなら、社員の皆さんも一緒に写りましょうよ」


俺は桜井さんのスマートフォンを3脚にセットし、タイマーを設定した。


俺たちと、クマガイフーズの社員さんたちが肩を並べて並ぶ。


俺は熊谷さんとガッチリと肩を組み、最高の笑顔でレンズを見つめた。


パシャリ、とシャッター音が響く。


その後、ノア子の考案したお菓子のアイデアや、今日撮影した内容の今後のスケジュールなどを共有し、俺はデバイスの連絡先を熊谷さんに教えた。


「また何かあれば、いつでも連絡してください。新商品の試食も待ってますからね!」


「ありがとうございます!必ず、最高の商品をお届けします!」


最後は、1層のエントランスまで彼らを送り届けた。


配下たちはいつものお決まりのスタイルで、姿が見えなくなるまで全員で大きく手を振って見送っていた。


熊谷さんは何度も何度も振り返り、最後まで感謝の言葉を口にしながら、地上へと戻っていった。


これからも、彼らとは良いお付き合いを続けていけたらいいな。


俺は温かい気持ちを抱えたまま、再び自分たちのホームへと向かうべく、仲間たちと共に歩き出した。

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