依頼主を迎えに行こう
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
進化した2体は、山積みの魔石を食べ終えると、それぞれに購入した娯楽を存分に楽しんでいた。
静まり返った本拠地の隠しフロアに、将棋の駒が鳴る音やお笑い番組の音声が心地よく響く。
そして、その片隅には新たな力を得た少女の姿もあった。
■名前:ノア 種族:ブラッドセイント レベル:75
HP:675/675
MP:384/384
筋力:C(202+20)
耐久:C(188+18)
敏捷:A(296+29)
器用:C(214+21)
魔力:S(362+36)
運 :C(194+19)
スキル:ブラッドドレイン、ブラッドヒール、リジェネレートブラッド、ステータスリカバー、ブラッドリンク、ライフシェア、ブラッドランス、スレイブバイト、レッドフィールド、ブラッドセイヴ、スカーレットサークル、ライフストック、ブラッドサーヴァント、サングイス・ヒール、ブラッドバースト、ブラッドバインド、セイクリッドブラッド
魔石とお菓子をたくさん食べ終え、お気に入りのビーズソファーでスヤスヤと眠りについているノア子。
基本的な外見に大きな変化はないが、ドレスの漆黒には脈動するような鮮やかな「赤い刺繍」の紋様が浮かび上がり、修道服を模したヴェールはより長く、優雅なシルエットを描いている。
背中に生えていた小さな黒い羽根も、以前より一回りほど大きく成長していた。
また、グリムに付き従う三英傑たちも新たな段階へと足を踏み入れた。
ノブナガは『怨天将』。
イエヤスは『守護闇将』。
ヒデヨシは『百戦骸将』へとそれぞれ進化。
ボーンキャスターたちは『カースサモナー』となり、各個体がさらなるアンデッド召喚を可能とした。
ノア子直属の三少女も『ブラッドシスター』へと進化したが、その見た目はノア子と変わらず幼いままだ。
変わった点といえば、瞳の赤がより濃くなり、それぞれの衣装に赤い装飾が追加されたこと。
そして何より、彼女たちが言葉を話せるようになったことだ。
「サク様、サク様」と慕ってくれる少女たちは、もはや目に入れても痛くない、自分の娘のように思えてしまう。
……実年齢は、たぶん俺より上なんだろうけどね。
そして、俺自身のステータスだ。
■名前:サク 種族:ナイトメアジョーカー レベル:75
HP:817/817
MP:335/335(-82)
筋力:A(227+79)
耐久:A(224+80)
敏捷:SSS(426+67)
器用:S(312+71)
魔力:EX(405+98)
運 :A(285+53)
スキル:盗む、シャドウインベントリ、ファイヤーボール、強奪、アナライズ、バックスタブ、エクスプロードボール、影潜り、完全透明化、ダークブレード、影移動、幻惑、シャドウドミニオン、シャドウワイヤー、シャドウミラージュ、メテオストライク、シャドウカラミティ、ナイトメア、影葬
さて、この『EX』とは一体何なのだろうか。
ランクがSSと続いていたため、その次があるならSSSだろうと予測はしていた。
だが、ステータスの基準値を大きく飛び越え、EXという未知の領域に達してしまった。
こんなランクが存在することを、一体どれだけの人間が知っているのだろうか。
……少なくとも、俺は全く知らなかった。
だが、この規格外の数値のおかげで、眷属を増やしたことによるMP減少のデメリットを遥かに凌駕するほどの恩恵を感じている。
ただし、これ以上眷属を増やすことは、文字通り命の危険に直結する。
眷属が倒れた際に発生する、一体につき最大値の20%という直接ダメージ。
現在の数で言えば、全滅すれば、俺は無傷でも一気に60%ものダメージを受けることになる。
これ以上のリスクを負うわけにはいかない。
新スキルの『影葬』は、手にした鎌から極大サイズの闇の刃を放つ貫通攻撃スキルだ。
そして今の俺の姿は、一言で言えば「道化師のような悪魔」だった。
黒と紫が混ざり合ったスーツを纏い、顔には白と黒が左右半分ずつに塗り分けられたポップだがどこか不気味な仮面がついている。
この仮面は自由に着脱が可能で、デバイスで確認した素顔は、ネットにある成人の高梨朔そのものだった。
これで、全員が新たな姿になった。
ステータスにおいては、シャドウドミニオンの影響もあり、同レベル帯のモンスターを圧倒する。
それどころか、自分より遥かに格上のモンスターが相手でも、今の俺ならねじ伏せることができるはずだ。
だが、俺は決して調子に乗るつもりはない。
ペースを落とさず、一歩ずつ確実に成長していこうと決めている。
なぜならば、俺の最終的な目標は、あのルミナスドラゴンをぶっ飛ばすことだからだ。
イレギュラーなモンスターの真の強さが未知数である以上、俺は限界を迎えるその瞬間まで、強くなり続けるしかない。
思い思いにくつろぐ配下たちの姿を見つめながら、俺は静かに、けれど熱い決意を胸に秘めた。
◇
翌日――池袋ダンジョン1層。
俺は新しく手に入れた仮面を装着し、エントランスでクマガイフーズの方々を待っていた。
いつも、誰かと待ち合わせをする時は、冒険者たちとの交流の時間を持つために、かなり早めに到着するようにしている。
今日も多くの冒険者と挨拶を交わしていると、向こうから見覚えのある女性冒険者たちが歩いてくるのが見えた。
先日、ノア子にお菓子をくれた女性を含めた4人組だ。
「あっ、お姉さんたち!」
「えっ……?あ、あの……どなたでしょうか?」
あ、しまった。
仮面をつけているから、誰だか分からなくて驚かせてしまったか。
「ごめんごめん、俺だよ、サクだよ!」
俺は慌てて仮面を外し、頭の横にかけるようにして素顔を見せた。
「なんだ、魔王さんじゃないですか!ビックリしたぁ。てっきり、変な冒険者にナンパでもされたのかと思っちゃいましたよ!」
面識のある女性を中心とした4人は、俺の正体が分かるとケラケラと楽しそうに笑い声を上げた。
「ははは、モンスターがナンパなんてするわけないじゃん!この間は本当にありがとうね。ノア子たち、凄く喜んで大事に食べてたよ」
「よかったぁ!あ、じゃあこれも皆さんに渡しておいてください!」
そう言って女性が手渡してくれたのは、クマの形をしたグミの袋と、カラフルなマシュマロだった。
「うわぁ、これは絶対に喜ぶよ!ありがとう。……あ、そういえば、ちゃんとお名前を聞いてなかったよね」
「あ、私は白川咲菜です!」
「咲菜ちゃんね、しっかり覚えたよ。ノア子にもちゃんと伝えておくね!」
「あ、あの、魔王さん。この前は緊張して言えなかったんですけど……サイン、ください!」
突然のサインのおねだりに、俺は一瞬固まってしまった。
サインの練習なんて一度もしたことがない。
「サインなんて格好いいもの、持ってないんだけど……それでもいいかな?」
「「「「ほしいです!ください!」」」」
全員が目を輝かせて色めき立ち、口々に「私も!」と差し出してくる。
俺は彼女たちからペンを預かり、それぞれの名前と、俺の名前である『優しい魔王 サク』の文字、その横にデフォルメされた下手くそなインプの絵を添えた。
咲菜、鈴花、愛実、唯。よし、全員覚えたぞ。
「可愛い!!本当にありがとうございます!……あ、最後に。鈴花、ほら、言いたがってたこと、ちゃんと言いなよ」
咲菜ちゃんに促され、鈴花と呼ばれた黒髪の女性が一歩前に出た。
「わ、私、実はここの池袋ダンジョンの職員をしておりまして……。いつもダンジョンを盛り上げてくださるた……サクさんに、どうしてもお礼が言いたかったんです。いつも、本当にありがとうございます!冒険者の方たちが、『今日魔王さんに会えた』とか、『こんなお話をした』って報告してくれる時、みんな本当にいい笑顔なんです」
……そうか。
俺の活動は、ちゃんと誰かを笑顔にできていたんだ。
「いいことを聞いたよ。本当によかった。こちらこそ、いつも管理をありがとう。あなたたちがいるから、冒険者は安心してやっていけるんだよ。鈴花ちゃん、これからも頑張ってね」
俺がそう伝えると、鈴花ちゃんはポロポロと涙を零し、「ありがとうございます」と何度も頭を下げた。
「泣かないでよ!笑顔でね!よし、じゃあまた会おうね!」
彼女たちの探索の邪魔にならないよう、俺は努めて明るく切り上げて、大きく手を振って見送った。
◇
「サクさん!お待たせいたしました!」
それからしばらくして、エントランスの向こうから4名の男女がこちらに向かって足早に歩いてきた。
「いえいえ、気になさらないでください。俺は早めにきて冒険者の皆さんと交流するのが好きですから」
「あ、申し遅れました。私、クマガイフーズの常務取締役、熊谷と申します」
差し出された名刺には、確かに常務取締役の文字。
「クマガイフーズの熊谷さん。……もしかして、ご実家なんですか?」
「あ、はい。創業は私の祖父である会長でして、現在の社長は父になります」
なるほど、三代目に当たる方というわけだ。
続いて、同行していた3名からも次々に名刺を渡される。
営業部の男性、業務企画部の女性、そして商品開発部の男性だ。
「うわぁ……どうしよう。俺、モンスターなので名刺なんて用意してなくて。……あ、すいません。もしよろしければ、ペンと紙を4枚いただけますか?」
俺がそう告げると、営業部の黒田さんが手早く紙とペンを差し出してくれた。
俺は先程、咲菜ちゃんたちに書いたのと同じように、『優しい魔王 サク』という文字と、あのデフォルメした下手くそなインプの絵を描いて、4人に手渡した。
「申し訳ないんですけど、これを名刺代わりに受け取っていただけますか?」
「あ、あ、あああっ……凄い!!ありがとうございます!!」
4人は、俺の描いた紙を、まるで宝物でも扱うかのように慎重にファイルへと仕舞い込んだ。
「これは、弊社の社内に飾らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです!好きに使ってください。あ、でも……どこかに売ったりはしないでくださいね。悲しいから」
「滅相もございません!このような宝物、手放せませんよ!」
熊谷さんが力説し、後ろの3名も深く頷く。
「サクさんが、弊社の商品を配信でご紹介してくださったその瞬間から、売上がグンッと伸びまして……。あらためて感謝をお伝えしたく、参りました。誠に、ありがとうございます!」
4人が揃って、深く頭を下げる。
「いえいえ、商品がいいから、俺は正直に美味いと言っただけですよ!さて、立ち話もなんですし、俺たちの本拠地へ向かいましょうか。一度に運べるのは二人までですので、残りのお二人はこちらでお待ちくださいね!」
俺はそう言って、まずは熊谷さんと営業の黒田さんの二人を抱え、影の中へと潜り込んだ。
影移動――一瞬の暗転の後、俺たちは19層の隠された本拠へと転移した。
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