パーティ名
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
「サク!お待たせ!」
エントランスの向こうから駆けてくる紗奈の姿を見つけた瞬間、俺の視線は釘付けになった。
……あれ、何かいつもと雰囲気が違う?
「紗奈、髪型変えた?」
「あ、うん。今日、ちょっと時間があったから……巻いてみたの。やっぱり、変かな?」
少し不安そうに、首を傾げながら上目遣いで尋ねてくる紗奈。
淡い栗色の髪がふんわりとカールして、彼女の柔らかい雰囲気をさらに引き立てている。
「いや、可愛い。めちゃくちゃ可愛い」
気がつけば、心の声がそのまま口から漏れ出していた。
「……っ、ありがとう。……そんなにはっきり言われると、恥ずかしいよ」
紗奈は顔を真っ赤にして、俯き加減に指先で髪の毛を弄る。
その仕草一つ一つが、俺の心臓に悪い。
「おう、紗奈。元気でやってるか?」
「あれからどうだ。変な連中に絡まれたりしていないか?」
後ろに控えていたグリムとゴウキも、親戚の叔父さんのような顔で紗奈に声をかける。
「グリムさん、ゴウキさん。ありがとうございます、私は元気ですよ!あの2人も――成瀬さんと江藤さんも、あれからちゃんと仕事に向き合うようになったみたいです。本格的に攻略を始めたみたいで、今は練馬ダンジョンに通っているんです。時々、装備やスキルのことで私に質問しに来るようになったんですよ」
よかった。
あの時、かなりきついお灸を据える形にはなったけれど、結果的に彼女たちがいい方向へ変わるきっかけになったのなら、やった甲斐があったというものだ。
「……それにしても、グリムさんは本当に人間みたいになりましたね。凄く素敵ですよ」
「ははは!ありがとう。紗奈にそう言ってもらえるとは光栄だな」
「あ、そうだ。グリムさん、これ。もしその長い髪が邪魔になったら、これで結んでください」
紗奈は鞄から、シンプルなデザインの髪ゴムを取り出して手渡した。
「ん?……ほう、これは便利そうだな。心遣い、感謝するぞ」
グリムは細い手首にそのゴムを通し、少し照れくさそうに笑った。
「それと、サク。その隣にいる女の子は?」
「ああ、紹介するよ。新しく仲間に加わったノアだ。ノア子、この人は俺の大切なパートナーで、テイマーの紗奈だよ」
「……ノア。よろしく、紗奈」
「はい、よろしくね!ノアちゃん」
紗奈は屈んでノア子の視線に合わせると、優しく頭を撫でた。
ノア子も、紗奈の放つ温かい雰囲気に毒気を抜かれたのか、大人しく撫でられている。
幼い子を扱うような紗奈の姿は、見ていて本当に微笑ましい。
「そういえば、サク。私の方にも冒険者協会から連絡が来たよ。10日後の『お話し合い』、私も参加させてもらえることになったから」
「……申し訳ないね。紗奈も忙しいのに、そんな大ごとに巻き込んじゃって」
「ううん、当たり前だよ。……サクのことは、私のことだと思ってるから」
さらりと、けれど真っ直ぐに。
そんな嬉しいことを言ってくれる彼女に、俺は胸がいっぱいになる。
「……ありがとう、紗奈。外に自由に出られるようになったら、真っ先に二人でお出かけしよう」
「……うん。楽しみにしてる。……あ、でも。サクは他の人とも、もうお出かけの約束とかしてるんでしょ?」
紗奈が少し目を細め、不満げに口を尖らせる。
……あ、これ、水瀬姉妹のことだ。
あの衝撃的なキャストのことを言っているんだろう。
「あ、いや、まあ……色々と付き合いというか、昔からの縁がありまして……」
「へぇ……お付き合いで、いきなりキスまでされちゃうんだねぇ……」
痛い。
痛すぎる。言葉のナイフが俺の良心を抉ってくる。
「サク、キスされたの?」
「ノ、ノア子!子供はそういう細かいことは気にしなくていいんだよ!」
ノア子の純粋な問いを全力で遮り、俺は強引に話を転換させることにした。
冷や汗が止まらない。
「あ、そうだ!紗奈、話を変えるわけじゃないけど、これを渡したかったんだ。はい、受け取って!」
俺はシャドウインベントリから、以前の探索で見つけた『光雷の槍』を取り出した。
「えっ……待って、これ……」
紗奈がその槍を受け取ると、エントランスの明かりを反射して、槍の穂先がバチバチと青白い火花を散らした。
「こんなに良いもの、本当に私がもらっちゃっていいの?」
鑑定スキルを持たない彼女でも、その溢れ出す魔力の質で理解したのだろう。
市場に出れば数百万クラスで取引されてもおかしくない、トップ層御用達の業物だ。
「もちろんだよ。装備してみて」
紗奈は今まで使っていた槍をマジックバッグへ仕舞うと、新しく受け取った槍を構え直した。
「うわぁ……凄い。筋力補正がプラス45に、雷属性付与……?待って、サク。やっぱり私にはもったいなすぎるよ」
「そんなことない。でもそう思うなら、その槍に見合うような、立派な冒険者にこれからなっていけばいいんだから。……それに、これは俺からのお守りだと思って持っててほしいんだ」
「……ありがとう。……サク、大事にするね!」
槍を大切そうにギュッと抱きしめる彼女の笑顔を見て、俺は心の底から「渡せてよかった」と思った。
「……そうだ、紗奈。実は一つ相談があったんだ。俺たち、いつの間にかこんなに大所帯になったでしょ?」
「ん?そうかな?……今は、4人?」
紗奈の言葉に、俺はニヤリと笑った。
「みんな、各自の召喚をお願い!」
俺が合図を送ると、グリムは三英傑とボーンキャスターたちを次々と影から呼び出し、ノア子もブラッドメイデンの3少女を実体化させた。
「わぁ……本当に。全部合わせると、10人もいるんだね」
「そう。それに紗奈にグレイ、リリを合わせればもっとだ。みんなで『サナサクちゃんねる』を盛り上げているけど……それはあくまで活動名だろ?だから、俺たちの『パーティ名』を正式に決めたいと思って、紗奈に相談したかったんだ。何か、いい案はないかな?」
紗奈は俺達モンスターとはパーティを正式に組めるわけではない。
謂わば名誉メンバーだが、俺の配下たちはちゃんと紗奈も仲間だと思っている。
俺の問いに、紗奈は少し考え込むように視線を泳がせた。
「えっ、難しいよ……。うーん……でも、サクたちは、今までのモンスターたちが絶対にやらなかったことに挑戦してるよね。誰も見たことのない道を、自分たちで切り拓いてる」
「……うん。頑張ってるつもりだよ」
「サクは嫌かもしれないけど……それこそ、世界の最前線――『フロントライン』なんじゃないかな?モンスターの先頭に立って、新しい未来を切り拓いていく……そんな意味を込めて」
「フロントライン」
その名前を聞いた瞬間、俺の胸の中に熱いものが込み上げてきた。
かつての俺が、高梨朔として命を懸けていたパーティの名前。
そして今、モンスターとして転生した俺たちが目指すべき場所。
「……確かに。凄く納得したよ。……でも、その名前を使うには、綾香と黒崎玲司にちゃんと許可をもらう必要があると思うんだ。10日後の話し合いの時に、2人に話してみるよ」
「そうだね、それがいいと思う。……あぁ、でも今から凄く緊張しちゃうな。何を言われるんだろう」
「大丈夫だよ。紗奈には、嫌な思いもさせないから」
「ふふっ。サクがそう言ってくれると、不思議と本当に安心できるんだ。凄いね、サクって」
ニコッと笑う紗奈の笑顔が、眩しいくらいに俺の瞳に映る。
「……なんか、紗奈。変わった気がするよ」
「えっ?」
「凄く、強くなった気がする。また一段と素敵になった。これは、モテちゃうなぁ……」
俺が少し茶化すように言うと、紗奈はふいっと顔を背けた。
「……モテないよ!でも、ちゃんと自分でお化粧して、髪も整えて仕事をするようになったからかな……バイト中に、たまに声をかけられることも増えた……かも」
はぁ!?ちょっと待て、それは聞き捨てならないぞ!許しません、絶対に!
「紗奈!知らない人についてっちゃダメだぞ!危ないから!絶対に、ダメだからね!!」
「……どの口が言ってるんだか。サクだって、色んな女の人にモテてるじゃない」
何も言えません。
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
「あ、サク。ちょっと耳、貸して」
「ん?……なに?」
何だろうと思って耳を差し出すと、紗奈は俺の肩にそっと手を置いた。
「……他の人のところに行ったら、ダメだよ?」
チュッ。
「……ひゃっ!!」
頬に、柔らかくて繊細な熱が触れた。
「「おお……」」
グリムとゴウキ、そしてグリムの配下たちが、感心したように一斉に頷きながら声を上げる。
ノア子と3少女は、小さな顔を両手で覆いながらも、指の間からこちらをじっと見守っている気配がした。
「あ、あ、あれは……今の、不可抗力と言いますか……っ!!」
顔を真っ赤にして狼狽える俺を見て、紗奈は満足そうに微笑んだ。
「わかってるよ。……じゃあ、そろそろ行くね。サク、また会談の時に!」
そう言って、軽やかな足取りで手を振りながら、紗奈は地上へと戻っていった。
俺たちは、彼女の背中が見えなくなるまで、総出で手を振り続けて見送った。
「……なんだか、見てはいけないものを見てしまった気がするの」
「ノア子。お子様は、ああいう刺激の強いものを見ちゃいけません」
「……私、そんなに子供じゃないんだけど」
そうだった。
モンスター年齢で言えば、俺の方がよっぽど年下なんだった。
「……私も、いつかああいうこと、するのかな」
「ダメです!!そんなこと絶対に許しません!!もしノア子にそんなことをする不届き者がいたら、俺がそいつを消し炭に変えてやります!!!」
可愛い我が子に不埒な輩が近寄る場面を想像しただけで、猛烈な怒りが湧き上がってきた。
そんな俺の過保護っぷりを見て、ノア子と3少女はクスクスと笑い出し、つられてグリムやゴウキたちも声を上げて笑い出した。
幸せそうな彼らの笑い声を聞いているうちに、カッカとしていた俺の心もいつの間にか解けていき、最後には俺も一緒に、声を上げて笑ってしまった。
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