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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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ノアと残る謎

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

池袋ダンジョン――19層。


そこは、音すらも闇に吸い込まれるような、静寂に包まれた真っ暗な洞窟だった。


エリアのあちこちに設置された僅かな松明が、心許ない光で岩肌を少しだけ照らし出している。


この19層の推奨レベルは57から60。


冒険者の区分で言えば、上級からトップ層に足を踏み入れる者たちが挑む、危険極まりない階層だ。


俺たちはここまで、1日1レベルという目標を確実に達成し続けてきた。


その結果、俺のレベルは68、グリムとゴウキは揃って63に到達している。


この層には既に何度も足を運んでいるが、まだフロアボスは倒していない。


それに、腰を据えて休めるような「住処」もまだ決まっていない状態だ。


俺たちの当面の目標の一つが、この階層に潜んでいる。


出現するモンスターは、ダンピール、ダークブラッディバット、そしてヴァンパイア。


そして、このフロアの頂点に君臨するボス、『ヴァンパイアロード』だ。


ここに巣食うモンスターたちは、俺と同じ闇属性を持っている。


おまけに、意外なほど耐久値が高いのが厄介な点だ。


だが、今の俺には新たな力が備わっている。


一つは闇属性の広域殲滅スキル、『シャドウカラミティ』。


これは無数の影の棘を発生させ、広範囲の敵を串刺しにする攻撃だ。


そしてもう一つ、エクスプロードボールの上位スキルである火属性最上位魔法、『メテオストライク』。


凄まじい威力を誇るこのスキルを習得したことで、俺の攻撃手段は劇的に強化された。


MP消費が激しいため乱用はできないが、ここぞという場面での切り札として温存している。


それに、進化した配下たちもこの層で凄まじい猛威を振るってくれている。


ステータスでも、数でも、俺たちは既にこの層のモンスターたちを上回っているんだ。


さっさと住処を決めて、ボスに挑戦して目標を達成しちゃおう。





19層、中域。


「……あれ。こんな道、今まで通ったっけ?」


俺はふと足を止め、デバイスのマップを確認した。


表示されている地図のほとんどは既に埋まっているはずなのに、目の前には見たこともない細い横道が奥へと続いていた。


少し進んでみたが、すぐに切り立った岩壁に突き当たって行き止まりになる。


「なんだよ、結局行き止まりか。何もないじゃん」


そう吐き捨てて戻ろうとした時だった。


なぜか、俺の直感が「ここには何かがある」と強く告げていた。


元々、俺のステータスの中でも「運」の数値は異常に高かった。


これまでも、誰も見つけられなかったような隠し宝箱を何度も発見してきた実績がある。


そして現在、運の数値は「A」まで成長している。


そのセンサーが、以前よりも遥かに精密に、そして鋭敏に働いているのを感じた。


「……上か?」


俺は、グリムたちを地上で待たせ、幻体の羽根を広げて飛び上がった。


流石にダークブラッドバットやヴァンパイアが棲息する階層だけあって、天井は驚くほど高く、巨大な鍾乳石がいくつも槍のように下へと伸びている。


俺はその一本一本を丁寧に調べ、ついに、巨大な鍾乳石の裏側に潜む「窪み」のようなものを発見した。


「なんだ、あれ」


一気に近づき、その中を覗き込む。


ただの窪みだと思っていたそれは、奥へと続く精巧な隠し通路になっていた。


俺は一度グリムたちの元へ戻り、彼らを影の中へ収容してから、再びその隠し通路へと舞い戻った。


マップにも記載されていない、完全に未知の道。


俺たちは、極限まで警戒を高めながらその奥へと進んでいく。


しばらく進むと、目の前に太い鎖で幾重にも封じられた、巨大で堅牢な鉄の扉が現れた。


「……なんだこれ。デカい扉だな。おまけに封印までされちゃってるよ」


「大将、これ、開けてみるか?」


ゴウキが太い指で鎖に触れる。その時だった。


(……だ……か……。た……けて……)


微かな、掠れたような声が耳に届いた。


「おい、今の聞こえたか?もう開けちゃおうぜ!」


そう言って、ゴウキが鎖をガチャガチャと力任せに引きちぎろうとする。


「グリム、お前も手伝えよ!」


ゴウキに促され、グリムが渋々といった様子で鎖に細い指をかけた。


「……ほう、これは。ただの物理的な鎖ではないな」


そう呟いたグリムは、鎖に自らの濃密な魔力を流し込んでいく。


「……完了したぞ」


カチャッ、という乾いた音。


グリムの言葉と同時に、あんなに頑丈そうだった鎖が嘘のようにバラバラと崩れ落ちた。


「ようし、扉を開けちまおう!」


ゴウキが扉に手をかけ、全身の筋力を込めて押し開けようとする。


だが、扉はびくともしない。


グリムや三英傑たちまでもが加わり、総出で押しにかかるが、それでも扉は拒絶するように閉ざされたままだ。


(さ……ごの……しゅだ……つか……て……い……ら……)


「わからん!何を言ってるのか全然わからん!!」


じれったくなった俺も加わり、全員でタイミングを合わせる。


「せーのっ!!」


全員で扉を蹴破るように衝撃を与えた、その瞬間。


凄まじい轟音と共に、扉が内側へと吹き飛ぶようにして開け放たれた。


中から、乾いた風が一瞬だけ、洞窟の奥から俺たちの頬を撫でて流れ込んだ。


凍えるように冷たいのに、どこか「生きている」生々しい気配。


「……なんだ、あれは」


俺がそう呟いた瞬間、その場にいた全員の動きが凍りついた。


そこにあったのは――。


石の床一面に刻まれた、巨大で禍々しい魔法陣。


その中心で、未だに重い鎖に縛られたまま、力なく膝をついている一人の少女だった。


白いドレスと修道服を掛け合わせたような、清廉なな衣装。


透き通るような白い肌。


長い年月の間に光を失ったかのような、くすんだ金の髪。


そして、薄く揺れる赤い瞳。


だが、その瞳だけは――まだ、死んでいなかった。


(……こちらも、内側から開けようとしたのだけれど)


微かに。けれど今度ははっきりと、「声」が脳内に響いた。


「今の……お前の声なのか?」


俺が一歩、魔法陣の中に足を踏み出す。


少女はゆっくりと顔を上げた。彼女の動きに合わせて、鎖が軋む金属音が洞窟内に不気味に反響する。


「……助かった、と言うべきか。それとも……余計なことをした、と言うべきか」


その言葉と同時に、少女を縛っていた鎖に刻まれていた魔力が、砂の城が崩れるようにゆっくりと霧散し始めた。


グリムが小さく目を細め、その様子を観察する。


「……なるほどな。これは封印ではないぞ」


「……『制御』か。それとも『拘束』か」


ゴウキが、本能的な危機感からか一歩後ろへ下がった。


「おいおい……大将。この嬢ちゃん、ただもんじゃねぇぞ。気配が尋常じゃねぇ」


少女は、足元に積み上がった鎖を意に介さず、ゆっくりと立ち上がった。


鎖はまだ彼女の身体に絡みついているはずなのに、まるで最初から意味を失っていたかのように、力なく揺れているだけだった。


そして――。


「嬢ちゃんじゃない。……ノアだ」


彼女は、ただそれだけを短く呟いた。





ノア。


なぜ、こんなか細い女の子が、誰にも知られずにこんな場所で封印されていたんだ?


「……なぜここにいるんだ?どうして封印されていた?一体、誰がこんなことを……」


俺の問いに、ノアは感情の読めない赤い瞳でこちらを見つめ返した。


「……わからん。気がついた時にはこの場所にいて、ずっと、ずっと助けを求めていた。けれど、誰も来なかった。ずっと、独りだった」


このダンジョンがこの世に現れてからだとしたら、約20年もの歳月が流れている。


その間ずっと、この暗闇の中で、独りで……。


「……まあ、よく分からんが、俺たちがたまたま声を聞いて扉を開けちゃったわけだし。助けられてよかったよ」


「……それは。……一応、感謝する。……ありがと」


そっけない返事だけど、確かに感謝の言葉が返ってきた。


「お前、これからどうするんだ?封印は解かれたんだから自由の身だけど……というか、お前、やっぱりモンスターなのか?」


「お前じゃない。ノアだ」


「ノア子。モンスターならこのダンジョンで生きていくしかないだろうけど、一体何者なんだ?」


この吸い込まれるような赤い瞳。


到底、ニンゲンのものとは思えない。


「ノ……まあそれでいい。私は、サングイスヒーラー」


サングイスヒーラー。


そんな種族の名前、聞いたこともないぞ。


俺は少しだけ申し訳ないと思いつつも、彼女の実力を把握するためにスキルを発動させた。


「悪い、ちょっとだけ覗かせてもらうぞ」


■名前:ノア 種族:サングイスヒーラー レベル:65

HP:525/409

MP:334/324

筋力:D(172)

耐久:D(158)

敏捷:B(265)

器用:D(174)

魔力:A(322)

運 :D(162)

スキル:ブラッドドレイン、ブラッドヒール、リジェネレートブラッド、ステータスリカバー、ブラッドリンク、ライフシェア、ブラッドランス、スレイブバイト、レッドフィールド、ブラッドセイヴ、スカーレットサークル、ライフストック、ブラッドサーヴァント、サングイス・ヒール


「……うわぁ、強い」


思わず声が漏れた。


しかも、俺たちが喉から手が出るほど欲しがっていた回復職――ヒーラーだ。


どうする。


ここで別れるべきか、それとも。


「……なぁ、ノア子。よかったら、俺たちと一緒に来ないか?」


「……よかったらも何も。いきなり外へ放り出されても、私には何もできない」


「そっか。なら話は早い。……俺の眷属にならないか?」


頼む、頷いてくれ。


「……嫌だ」


「なんでぇぇぇえええ!?」


絶叫する俺を、ノアは冷めた目で見つめる。


「……もう、何かに縛られるのは嫌。自由に生きたい」


「……いや、縛るつもりなんて毛頭ないよ!一緒に来たら、絶対にいいことがあるって保証する!」


俺は、必死になってこの扉の向こう側の話を彼女に聞かせた。


この外に広がる広大な世界のこと。


この国、このダンジョンの現状。


そして、俺が今まさに取り組んでいる活動の内容。


さらには、上手くいけばこのダンジョンそのものを抜け出し、外の世界へ行けるかもしれないという希望。


「……あ。そうだ、これをあげよう」


俺はシャドウインベントリから、一袋の菓子を取り出した。


『たべっこモンスター チョコ味』。


「……なんだ、これは」


「いいから食べてみな。飛ぶぞ、美味すぎて」


俺が袋から取り出したのは、スライムの形をした小さなクッキーだ。


ノアはおそるおそる手を伸ばし、それを一口、小さな口に運んだ。


「……っ!!」


「美味いだろ?外の世界には、こういう美味い物がいっぱいあるんだよ。俺たちモンスターがいつも獲物にしているニンゲンたちが、知恵を絞って作ってるんだ。……どうだ?こんなダンジョンを出て、外の世界を見てみたいと思わないか?」


自分で言っていて、なんだか悪徳な詐欺師か何かのような気分になってくる。


「……なるほど。外に出て、ニンゲンの世界を力で征服して、この美味い物を根こそぎ奪い集めるのだな」


「違う!全然違うよ!!」


俺は全力で首を振った。


「ノア子、それは違うんだ。俺たちはニンゲンと争うつもりはない。仲良くして、面白いことや美味しい物を一緒に楽しみながら生きていきたいんだ。……どうだ?俺と一緒に、新しい世界を作ってみないか?」


ノアは視線を落とし、じっと考え込んでいた。


そして、つり目がちで大きな赤い瞳を、真っ直ぐに俺へと向けた。


「……わかった。ついていく」


「よしっ!!」


俺は思わず拳を握りしめた。


「ありがとう、ノア子。改めて自己紹介するよ。俺はサク。種族はミラージュデーモンだ」


「……私はグリムだ。シャドウネクロマンサーをやっている」


「俺は鬼将のゴウキだ。よろしくな、ノア!」


「……じゃあ、今から眷属化の儀式をするよ。動かないでね」


俺はスキル『シャドウドミニオン』を発動させた。


俺の足元から漆黒の影が蛇のように伸び、ノアの身体を優しく、それでいて抗いようのない力で包み込んでいく。


数秒後。


影が霧のように晴れ、再びノアが姿を現した。


彼女が着ていた白い衣装は深淵のような黒へと染まり、そこへ鮮やかな赤いラインが美しく刻まれていた。


「……どう?気分は悪くない?」


「……まあまあ。……ん。でも、悪くない。力が満ちている気がする」


「それはよかった。それじゃあ一度グリムたちは影に――」


(……おや。ついに、その封印を解いてしまったんだね)


「っ!?」


不意に、部屋全体に響き渡るような、透明感がありながらも傲慢な声が届いた。


俺たちは瞬時に武器を構え、周囲を警戒する。


(……隠しボスとしてあそこに配置しておいたのに、あまりに誰も来ないものだから、こちらも存在を忘れていたよ)


そのノア子を蔑ろにするような言葉に、怒りを覚える。


「……誰なんだ、お前は!どこに隠れている!」


(警戒しなくていいよ、サクくん。僕は、ここの『管理者』だよ。……と言っても、今の僕には君たちに直接干渉することはできないんだけどね。上層の管理を少し怠っていたせいで、君というイレギュラーを見落としていたよ)


「管理者……?なんだ、それは。どこにいるんだ!」


(ずっと下さ。君たちが降りてくるのを、楽しみに待っているよ。……あぁ、そうだ。せっかく会えたんだ。何か一つ、質問に答えてあげよう。何がいいかな?)


「……どうしてノアを、こんな場所に放置していたんだ!」


俺が叫ぶように問うと、管理者は可笑しそうに笑った。


(さっきも言った通り、そこへ辿り着く者が誰もいなかったから、どうしようもなかったんだよ。ダンジョンを運営し、維持するためには莫大なエネルギーが必要だ。そのためには、多くの人間を呼び寄せる必要がある。その目玉として、あの隠しボスを設置したんだ。……ただ、少しばかり見つけにくい場所に隠しすぎたのは、僕の落ち度だったかもしれないね)


「……なんだ、それ」


そんな、ただのゲームのような軽い理由で、ノアを長い間放置していたのか。


ふざけるな。


(……怒っているのかい?言っただろう、エネルギーが必要なんだ。……特別に、良いことを教えてあげよう。君は、なぜこの世界に数多のダンジョンが存在し、それぞれ階層が違うのか、考えたことはあるかい?)


「……そんなの、そういうシステムなんじゃないのか。それぞれに特徴を持たせて、攻略させるための……」


(ふふっ。ダンジョンには、大きく分けて4つの種類が存在するんだ。『中枢ダンジョン』、『成熟ダンジョン』、『発展ダンジョン』、そして『衰退ダンジョン』だ。賢い君なら、これだけでピンとくるんじゃないかな?)


「……中枢は、文字通りメインとなる核。成熟は、既に育ちきった完成されたダンジョン。発展は、今まさに成長を続けている最中のもの。そして衰退は……攻略され、活動を終えたダンジョンか」


(……正解だよ。流石だね、感心するよ。もちろんその中にも、君たちが推奨レベルと呼んでいる基準もあるからそれで言えば各ダンジョン2種類かな?ここはレベル3基準。新宿はレベル2基準だ)


俺の思考を読み取ったかのような返答に、背筋が寒くなる。


(成熟ダンジョンは、中枢ダンジョンにエネルギーを送る役割を担っている。その維持のために、僕たちのような『管理者』が生まれるんだ。先程の話は、発展ダンジョンの頃の話だよ。まだ成長段階だったから、各階層の構造が不安定だったんだ)


「……だろうな。勝手な話だ」


(そして、衰退ダンジョン。発展ダンジョンの最深層のボスが討伐されれば、そのダンジョンの成長や生産活動は完全に停止する。止まったダンジョンは、それまでに蓄積したエネルギーを消費して動かされるけれど、それが尽きればダンジョンそのものが消失する運命にある)


「……なら、成熟ダンジョンはどうなんだ?それに、中枢は?」


(……中枢、成熟ダンジョンはね、まだニンゲンには完全に攻略されたことがないんだよ。なぜなら、僕たち管理者が守っているからね。少なくとも、ニンゲン風情に負けるつもりは毛頭ないよ)


「ニンゲンには……?」


(……お喋りが過ぎたようだね。続きは、僕のいる場所でしよう。楽しみに待っているよ、サクくん)


その言葉を最後に、管理者の声はピタリと止み、部屋には再び重苦しい静寂が戻った。


「……クソが」


管理者。


そいつは間違いなく、このダンジョンの最深部にいる。


いいだろう。


そこまで行って、積もる話をたっぷり聞いてやるよ。


「……みんな、行こうか」


俺たちは、約20年もの間閉ざされていたその部屋を後にした。


ノアという新しい仲間を加え、俺たちの視線は、まだ見ぬ深淵へと向けられていた。


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よろしくお願いいたします。

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