大ニュース
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
「……っ、何、この写真……」
自宅で休日を過ごしていた私――水瀬綾香の手にあったデバイスが、微かに震えた。
突然、姉さんから送られてきた一通のメッセージ。
そこに添付されていた画像を表示した瞬間、私は言葉を失った。
そこには、池袋ダンジョン16層の、青く幻想的な光に包まれた美しい背景に2人が写った画像が写し出されていた。
写真の右側には、何が起きたのか分からず目を丸くして固まっている、驚いた表情の朔。
そして左側には……あろうことか、朔の頬に、愛おしそうにキスをしている姉さんの姿があった。
「もうっ!!信じられない!!朔のバカ!!姉さんのバカバカバカ!!!」
私は堪らなくなって、手近にあった枕に顔を突っ伏した。
「うぅぅぅ……」という情けない声が、静かな自室に虚しく響く。
朔が生きていることが分かって、姉さんが彼に会いに行ったことも知ってる。
けれど、まさかこんな、恋人同士のような不意打ちを仕掛けるなんて……!
その時、追い打ちをかけるようにデバイスが着信を告げた。
画面に表示された『姉さん』の文字を、私は恨みがましく睨みつけてから通話ボタンを押した。
「……綾ちゃん、写真見た?」
「……見たよ。で、何なのあれ。何の報告よ」
自分でも分かるくらい、声にトゲが混じってしまう。
姉さんは昔からそうだ。
朔に対して何かアクションを起こす度に、こうして私に報告してきたり、見せつけてきたりする。
そして決まって、「綾ちゃんはいいよね、同じパーティでずっと一緒にいられるんだから。私はたまにしか会えないんだもん」なんて、ずるい言い訳をするのだ。
「ふふっ、ちゃんとお話しできたよ。朔ちゃんは、やっぱり朔ちゃんだった」
「……だからって、なんでそれが、あんな不適切な写真に繋がるわけ?」
「不適切だなんて失礼だよ。あれは正当な愛情表現。……言ったでしょう、モンスターになっても、あの子は朔ちゃんなの」
世間の人たちに、今の姉さんの声を聞かせてやりたい。
あの孤高で、誰にも媚びない『氷の女王』が、朔や私の前でだけ見せる、この甘ったるくて、独占欲に満ちた感じを。
「でね、直継さんとの面会のことも、ちゃんと伝えておいたから」
「……っ、それは、私の仕事でしょ……!」
「いいじゃない。せっかく会えたんだから、早めに伝えてあげなきゃと思って。直継さんの記憶がないのなら、私からもちゃんと話しておいてあげようと思ったの」
それは、確かにそうかもしれないけれど。
私だって、自分の口からちゃんと伝えたかった。
「……それで、朔の反応は?」
「記憶にはなくても、表情的に思うところはあったみたい。……やっぱり、魂の部分では繋がっているのね」
「そう……。まあ、それはありがとう。……玲司には?」
「玲司にもさっき見せたよ。デバイスの画面を見た瞬間、飲んでたコーヒーを思いっきり吹き出してたわ」
それはそうでしょうよ。
あの、常に無表情な女王様が、スッとこんな写真を差し出してきたら、吹き出すの一択だ。
「直継さんにも見せなきゃね。状況報告って、組織として大事なことだもの」
「やめなさいよ!朔が可哀想でしょうが!!」
「そんなことないよ。あの子が死んだと思ってあれほど落ち込んでいた直継さんだって、この写真を見たらきっと笑ってくれるわ。それに、朔ちゃん本人だってSNSにアップしていいって言ってたんだから」
「……はあ!?嘘でしょう!?朔がそんなこと許可したの!?あり得ない!」
「許可してた……と思う。少なくとも、SNS用に写真を撮りたいって言った時は、頷いてくれたもの」
「どうせ、普通の2ショットを撮るふりをして、シャッターを切る瞬間に不意打ちしたんでしょう……」
「…………」
沈黙。
図星だ。
「……朔をからかうのは、いい加減辞めなさいよ。姉さんももう、いい歳なんだから」
「あ、言っちゃいけないことを言ったね、綾ちゃん。……私はずっと、朔を待っていたんだから、これくらいのご褒美はいいの。……とりあえず、お姉ちゃんが一歩リードということで。じゃあね、おやすみ」
プープープー。
一方的に切られた。
なんなの……。
本当に、本当に最悪。
なんで朔も、私にちゃんと報告してこないのよ!!
もう、知らない!バカ!!
◇
@水瀬舞香
本日、宣言通り『サナサクちゃんねる』のサクちゃんのところまで行ってきました。
結果、無事討伐できました。
応援ありがとうございました。
【サクへの不意打ちキス写真】
@ADV NEWS
【衝撃】氷の女王、まさかの魔王討伐!?
冒険者パーティ『レガリア』の『氷の女王』こと @水瀬舞香 さんが、今大注目の配信モンスター @サナサクちゃんねる の『優しい魔王』サクにアタック。
本日、舞香さんのアカウントがキャストした内容には「討伐できました」の記載と共に、まさかのキス写真が添えられていた。
取材やファンへの対応でも、常にクールで冷徹なことで有名な氷の女王だが、この写真の中では驚くほど柔らかい表情を見せている。
モンスターと人間の垣根を越えた、この先の二人の関係にも注目が集まりそうだ。
#レガリア #水瀬舞香 #サナサクちゃんねる #優しい魔王
@週間ギルドレポート
孤高の美女、氷の女王が魅せた『究極のデレ』。
水瀬舞香さんが本日、SNSのCurrentにて衝撃的な写真をキャストした。
そこには、世界的に注目を集めるサクさんと、彼の頬に唇を寄せる舞香さんの姿が。
ネット上では、
・氷の女王もあんな顔をするのか……
・ずっと塩対応だったのは、本命がいたからなのか?
・氷すら溶かすほどのいい男
・あり得ない。ショックで明日会社休む。
など、全方位から阿鼻叫喚の反応が巻き起こっている。
本誌は今後も、この異色のカップルを徹底的に追いかけたい。
@コンビニ飯研究所
水瀬舞香のキャスト見た?あんな顔するんだな。
綺麗な人だとは思ってたけど、めちゃくちゃ可愛いじゃん。
@帰りたいbot
水瀬舞香のキャストを見た。
……帰りたい。
@電車遅延許さないマン
トレンドに上がってる氷の女王と優しい魔王の熱愛騒動。
これ、どっちもファンが多すぎるから、さらに燃え広がるぞ。阿鼻叫喚の地獄絵図だな。
@装備ローン返済中
普通に美男美女じゃん。
もうサクちゃんは特例で人間として扱えよ。
@テイクで行く(サクラー)
……普通にサナちゃんが心配。
大丈夫か?
「はぁ……。……Currentが、凄いことになってる……」
それは、そうなるよね。
国内トップの冒険者と、今一番勢いのあるモンスターなんだもん。
……。
「あぁぁぁああ!!もう!!!」
自宅で動画編集作業をしていた私――松田紗奈は、デバイスの通知が鳴り止まないことを不審に思ってCurrentを開き、そしてこの「事件」を知った。
配信中の流れから、お姉さん……舞香さんが会いに行くと言っていたのは知っていたし、関係性も把握しているつもりだった。
だって、あの水瀬さんの、お姉さんなんだから。
でも。
画面に表示された写真を見た瞬間、私の時は止まった。
心臓がぎゅっと締め付けられ、呼吸をすることを忘れてしまう。
視界がじわじわと滲み、頬を伝ってキーボードの上に落ちた涙の音で、ようやくハッと意識が戻った。
それでも、涙を拭ってよく見ると、写真の中のサクは、魂が抜けたような、鳩が豆鉄砲を食ったような、凄くビックリした表情をしていた。
たぶん、不意打ちだったんだろう。
もし……これが、サクも笑顔だったら。
そう思うと、胸が苦しくて張り裂けそうになる。
けれど、本人に確かめる勇気なんて、今の私には……。
ピコーン。
あ、サクからのメッセージ。
『Currentが凄いことになってるんだけど、どうしよう。あれ、SNS用に写真を撮るって言われて、カメラを見てたら、いきなりあんなことをされたんだ。……参ったよ、本当に』
「……そっか。そうだったんだ……」
一瞬で、胸のつかえが取れていくのが分かった。
よかった。
サクが自ら進んでしたことじゃなかったんだ。
私は震える指先で、精一杯の言葉を打ち込んだ。
『たぶん、これからもっと忙しくなると思うけど……これもネタにしていこう。バックアップはするし、サクならきっと大丈夫』
こう返すのが、協力者としての正解なんだよね。
『こんなの、ネタにできないよ……。でも、やるしかないか』
サクの困ったような顔が目に浮かぶ。
『ねえ、サク。……嬉しかった?』
送ってしまった。
聞いてしまった。
『ビックリしただけだよ!もう、本当に心臓に悪いって……』
サクの焦ったような返信を見て、私は少しだけ意地悪な気持ちになった。
不安だった思いが、いつの間にか、サクを困らせたいという欲求に変わっていく。
『じゃあ……もし、私がサクにしたら?』
あぁ……。
心臓が、さっきとは違う意味で爆発しそうに跳ねる。
勝手に指先が動いて、送信ボタンを押してしまった。
『出来るものなら、やってみなさい!』
数秒後、届いたのは、そんな挑戦的な言葉。
「ふふっ……」
暗い部屋の中で、私は思わず小さく笑ってしまった。
不意打ちでキスされて赤くなっているサクの顔を思い浮かべる。
次に彼に会うのが、少しだけ……いや、怖いくらいに楽しみになってきた。
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よろしくお願いいたします。




