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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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会心の一撃

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

俺達はしばらくの間、静かに流れる川を眺めていた。


舞ちゃんは、俺に関して知っていること、そして今現在の状況に関わっていることを、一つ一つ丁寧に、細かく話してくれた。


その言葉を噛み締めていると、ふと彼女が思い出したように問いかけてきた。


「そういえば、朔ちゃん。……直継さんのことは、覚えてないよね?」


「……ん?ナオツグ……さん?どなた?」


「あぁ……やっぱり。朔ちゃんの、命の恩人みたいな人だよ。パーティ『天剣』のリーダー。そして、現在の冒険者協会会長」


その名前、そして肩書きを聞いた瞬間、俺の脳裏に知らないはずの情景が微かに揺らいだ。


これは、生前の高梨朔が、そして鷹栖直継さん本人から直接聞いた話なのだと舞ちゃんは教えてくれた。


高梨朔がまだ、駆け出しの15〜6歳だった頃の話だ。


当時は何もかもが手探りで、闇雲にダンジョンを探索していた俺は、判断をしくじってボロボロになり、ダンジョンのロビーで力尽きたように座り込んでいたらしい。


回復ポーションを買う金すら底を突き、ただ惨めに蹲るしかなかった。


その時、「おい、坊主。どうした」と声をかけてくれたのが、当時トップクラスのパーティのリーダーだった鷹栖直継さんだったという。


彼は見ず知らずの俺に惜しげもなくポーションを渡し、色々と話を聞いてくれたそうだ。


その「色々」の内容に関しては、舞ちゃんも詳しくは知らないらしい。


けれど、そこから俺は鷹栖さんに可愛がられ、冒険者としての初歩から手ほどきを受けるようになった。


俺は鷹栖さんのことを慕って「師匠」と呼び、鷹栖さんは「その呼び方は恥ずかしいからよせ」と照れながら笑っていたという。


一時期、どこかのパーティに所属していたこともあったらしいが、どうしても馴染めずに辞めて以来、俺はソロで活動していた。


そんな俺を見て、鷹栖さんは周囲にこう言っていたそうだ。「アイツのスタイルは、ソロでも十分にやっていける」と。


俺が周囲から褒められるたびに、俺自身も「師匠の教えがいいからな」と恥ずかしがっていたくせに、鼻を高くして笑っていたらしい。


鷹栖さんが現役を引退する頃、俺は既にパーティ『フロントライン』に所属していた。


「師匠、引退なんて早すぎますよ。まだまだあんたが、この業界を引っ張っていってください」


泣きながら懇願した俺に、鷹栖さんは穏やかな顔でこう諭したという。


「坊主。人間という生き物はな、誰しもいつかは衰えるんだ。俺も、その時が来たんだよ。だからな、ダンジョンの次の層に進むように、俺はお前たち後進を支える『次のステージ』に行くことにしたんだ」


そう、人間はそれぞれのタイミングで、ステータスが下がる時期がくる。


それが鷹栖さんの言う「衰え」なのだろう。


スキルそのものを失うわけではないが、トップとして最前線を走り続けてきた鷹栖さんのレベル帯になると、わずかな能力の低下が命取りになる。


それに、レベルが上がりにくくなるタイミングも人それぞれだ。


このダンジョンの歴史の中で、レベル100に到達した者がたったの1人しかいないという事実が、その過酷さを物語っている。


レベルが上がりきる前に肉体が衰えるか、成長が止まってしまうか。


あるいは絶望して諦めてしまうか、志半ばで死んでしまうか。


ステータスも、才能も、人それぞれ。


オールCで終わる者もいれば、オールAまで届く者もいるだろう。


そんな中、鷹栖さんは「どんな冒険者も死なせたくない」「冒険者の社会的地位を上げたい、守りたい」という強い思いを抱いて、会長という職務に就く「次のステージ」へ進んだのだという。


そんな、俺にとっての師匠である鷹栖さんが、今の俺に会いたいと言っているそうだ。


舞ちゃんが直接連絡を受け、多忙な身ゆえに正確な日時はまだ言えないが、「来月中には必ず」と断言していたらしい。


「え、そんな……冒険者協会の会長さんが、わざわざダンジョンの中まで来るの?」


「違うよ、朔ちゃん。池袋ダンジョンの地上階にある、協会の会議室。そこにだよ」


「……え?俺、ダンジョンの外に出られるの?」


驚いて聞き返したが、同時に不安が襲ってきた。


「俺が言うのもなんだけど、モンスターの俺が外に出るなんて、流石にまずいんじゃ……?」


「まあね。普通ならあり得ないよ。でも、そこは『超法規的措置』という名の、鷹栖さんの剛腕な力技でなんとかするみたい。これは絶対に秘密にしてね?」


言えるわけがない。


こんな極秘事項が世間にバレたら、冒険者協会そのものがひっくり返る大スキャンダルだ。


だが、来月ならまだ準備する時間は十分にある。


「というか……他の冒険者たちにバレる心配はないんですか?」


「そこは、短時間のシステムメンテナンスとか、緊急点検とかを理由にするみたいよ。その間はダンジョンの利用を一時的に不可にするって」


「なるほどね……徹底してるな」


「朔ちゃんの護送も、私たち『レガリア』が担当することになったから、またすぐに会えるよ。嬉しいね」


舞ちゃんは顔を綻ばせるが、俺の心境は複雑だ。


嬉しいのは山々だが、一体俺は鷹栖さんと何を話せばいいんだろう。


「坊主、お前モンスターになったんなら、ちょっとその体の構造を調べさせてくれ。師匠の頼みだぞ?」なんて言われないだろうか。


……流石にそれはないか。


だが、相手は会長さんだ。


もし俺が失礼な態度を取ったり、モンスターとしての危険性を見せたりすれば即座にアウト。


アウトということは、文字通りの「死」を意味するだろう。


これは、万全の対策を練らなければならない。


「舞ちゃんもお忙しいのに、ありがとうございます。……俺も、皆さんに会えるのは、正直に言って嬉しいです」


「いいの!そんな顔しないで。……それと、玲司のことはわかるかな?」


「『フロントライン』のメンバーだった、男性ですよね?……それくらいしか」


断片的な記憶はある。


意識を失った綾香を無理やり抱えて、必死に逃げる男の後ろ姿が、ぼんやりと脳裏に浮かぶ程度だ。


「その玲司も今は『レガリア』のメンバーだから、その時に一緒に来るからね」


「なるほど……、ちなみに……綾香は?」


「……綾ちゃんも、もちろん来るよ。……嬉しい?」


舞ちゃんが少しだけ意地悪そうに微笑む。


あぁ、これは。俺を知る人間たちが、一堂に会することになるわけだ。


それならまだ、少しだけは安心できるだろうか。


「俺のことを知っている人たちが集まってくれる。……それは、すごくありがたいことです」


でも、今の俺は強くなればなるほど、自覚してしまうこともある。


自分はかつての「高梨朔」の記憶と見た目を受け継いだだけの、全く別物のバケモノなんだと。


その本質的なズレだけは、どう足掻いても誤魔化せない。


けれど、それはそれで仕方ないと割り切るしかない。ありのままの俺を見てもらうしかないのだ。


「まだもうちょっと先の話になっちゃうから、楽しみにしててね」


「わかりました。舞ちゃんも、怪我や無理はしないでくださいね」


舞ちゃんは満面の笑顔で「ありがとう」と言うと、「そろそろ行こうかな」と切り出した。


俺は再び彼女を優しく抱えて飛び立ち、エントランスの方角へと、キラキラと輝く地下の川の上を滑るように進んでいった。





「朔ちゃん。今日は急だったのに、時間を作ってくれてありがとう。……綾ちゃんのことも、よろしく頼むね」


エントランスに到着し、地上へ戻る転移石の前。


「もちろんです。俺にできることなら、なるべく協力しますから」


俺はここで、舞ちゃんと連絡先の交換を済ませた。


「あ、そうだ!記念に一枚、写真撮ってもいい?」


「もちろんです。……え、SNS用ですか?」


「それもあるけど、今の朔ちゃんの姿を、ちゃんと持っておきたいからね」


舞ちゃんがデバイスを構え、顔をぐっと近づけてくる。


あまりの至近距離にドギマギしていると、「撮るよぉ~」という軽やかな声と共に、チュッ、という微かな音がした。


「えっ、ちょっ……!?」


頬に触れた柔らかくて温かい感触に、俺は硬直する。


「よし!これ、後で綾ちゃんにも見せてあげるし、玲司にも見せつけちゃおう。SNSにも『戦闘じゃなくて、こんな感じでサクッと倒してきました』って書いておくね!」


おいおいおいおい!


最後の最後で、とんでもない不意打ち攻撃を食らってしまった。


「か、勘弁してくださいよ……。舞ちゃん、やりすぎだって……」


「あはは!懐かしい、その言葉!」


前にも、こんなことがあったのかもしれない。


この俺の前だけ奔放な女王様なら、昔からこれくらいは平気でやってのけていたんだろう。



「じゃあね、朔ちゃん。また今度!」


嵐のような余韻を残して、彼女は転移石から地上へと戻っていった。


俺は彼女の姿が見えなくなるのを待ってから、影の中からグリムとゴウキを呼び出した。


「……番いが増えたな。こりゃあ、前途多難だぞ、大将」


「また随分と賑やかなお嬢さんが増えたものだ。これからさらに楽しくなりそうだな、主よ」


二体とも、隠そうともせずにニヤニヤと笑いながら冷やかしてくる。


「からかわれるために呼んだんじゃないぞ。……いいか、ここからの『作戦』を伝えていくからな」


俺は、頬に残る熱を強引に振り払うようにして、先に控えた重大な会談に向けた道筋を、信頼する二体の配下へと伝え始めた。


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