記念配信 1
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
翌週。
池袋ダンジョン――18層エントランス付近。
俺達はこの1週間、徹底したレベル上げと、通りかかる冒険者たちとの適度な交流、そして時折現れる「アレな奴ら」への対応に追われていた。
レベル上げは、俺とグリムのレベル効率を落として、獲得した魔石の多くをゴウキの強化に回した。
その結果、俺のレベルは63。
グリムとゴウキは揃ってレベル59まで到達した。
三英傑とカースドリッチたちのレベルは、召喚主であるグリムのレベルに同期して上昇するため、軍団全体の戦力も底上げされている。
目標としているグリムとゴウキの「進化」まで、残りあと1レベル。
そんなある日、俺達には戦い以外にワクワクしていることがあった。
「おっ、きたきた」
「主、今日は何が届くのだ?早く、早く受け取ってくれ」
「骸骨がはしゃぐな。カタカタと骨を鳴らして喧しいぞ、グリム」
この地下墓地がモチーフとなっている、薄暗く陰鬱な18層には全く似合わない音が聞こえてくる。
ブーン、という軽快なプロペラ音。
それが見えた瞬間、俺とグリムはまるでおもちゃを待つ子供のように目を輝かせた。
そう、ネットショッピングの配達ドローンが到着したのだ。
利用したのは、最大手ショッピングサイト『Nexmart』。
日用品や食品、キャンプ道具から冒険者用の専門アイテムまで揃う、俺にとっての最高のライフラインだ。
本来、一般人のスマートフォンからは、危険防止のため武器や専門用具の購入には制限がかかる。
だが、このデバイスは紗奈名義で購入したものだ。
そのため、冒険者協会に登録されている「冒険者用グッズ」も問題なく購入できたというわけだ。
もっとも、今の俺にニンゲンの武器は必要ないんだけれども。
到着したドローンの機体には小型モニターがついており、そこには『受け取ってください』という文字が点滅している。
搭載されている小型のコンテナ箱は、軽量用のマジックバッグと同様の効果があり、外見以上の収納力を誇る。
俺は逸る気持ちを抑えて、箱の中から注文した品々を取り出していった。
・HP回復ポーション×20
・MP回復ポーション×20
・水2リットル×2箱
・飯盒
・キャンプ食器マグカップセット
・キャンプ用小型鍋×2
・アルコールバーナー×2
・燃料用アルコール
・無洗米5キロ
・レトルトおかずセット×3
・フリーズドライ味噌汁セット×3
・たべっこモンスタープレーン味×3
・たべっこモンスターチョコ味×3
「うーん……素晴らしい」
並べられたアイテムを眺め、俺はうっとりと吐息を漏らした。
冒険者用のポーション?そんなものより、今の俺には「飯」だ。
最初は一から本格的な調理に挑戦しようかとも思ったが、まずは手軽に楽しめるフリーズドライやレトルトを中心に揃えてみた。
そして、個人的に外せなかったのが「たべっこモンスター」というお菓子だ。
ダンジョンに出現する本物のモンスターたちが、可愛くデフォルメされたサクサクのクッキー。
残念ながら、グリムのようなスケルトンや、ゴウキのような鬼人の種族はラインナップに登場していない。
インプはしっかり入っているというのに!
……あ、喉を潤すための炭酸飲料を頼むのを忘れていた。
これは次回の楽しみにしておこう。
後ろでグリムが「早くしろ、早く開けろ」と、いい加減うるさい。
「待て待て、グリム。これを配信のネタにしないでどうするんだ」
「……配信?なら、一刻も早く始めようではないか、主」
「とりあえず、いつもの住処に移動しよう。こんな開けた場所で始めるわけにはいかないからな」
俺は飛び立つドローンに手を振り、待ちきれない様子のグリムを諭し、足早に18層の拠点へと向かった。
◇
18層――住処。
天井の高いフロアの壁面に、俺が見つけた巨大な横穴。
この階層には飛行型のモンスターが存在しないため、誰も見向きもしない高所にあったその穴。
「あそこ、何があるんだろう」と、以前飛行して確認しに行ったところ、隠された宝箱と、俺達がくつろぐのに十分すぎる広大なスペースを発見したのだ。
宝箱には光雷の槍という武器が入っていた。
俺には使い道がないから紗奈にあげよう。
奥は行き止まりになっているが、配下全員が一度に実体化しても余裕がある。
ここに来るには、配下を一旦影の中に収容し、俺が飛行して移動するしかない。
その手間はあるが、安全性に関してはこれ以上ないほどバッチリだ。
俺は住処の中央に、届いたばかりの品々を広げた。
配信を始める前に、まずは米を炊かなければならない。
俺はアルコールバーナーをカチャカチャと手際よくセットし、新品の飯盒を用意する。
3合も炊けば、みんなで分け合えるだろう。
ネットで調べた手順を確認しながら、「こんなものか?」と準備を進める。
米は炊く前に30分ほど水に浸しておく必要があるらしい。
その間に準備を整え、炊き上がる頃合いを見計らって配信を開始する計画だ。
「あっ、いいか二人とも。これは『紗奈が用意してくれた物』っていう設定にするからな!モンスターが自分でドローンを呼んだなんてバレたら、流石にヤバいからな」
特に、正直すぎる性格のゴウキがペラペラと真実を喋ってしまいそうだったので、念入りに釘を刺しておく。
もしバレたら、俺だけじゃなく紗奈にまで迷惑がかかってしまうからな。
「準備は終わったのではないか?もう始めてもよいだろう」
グリムが痺れを切らしたように話しかけてくる。
「この『米』というやつはな、まずは水に浸しておく必要があるんだ。その後、じっくり火にかけて柔らかくする。それがニンゲンの流儀だ」
「ふむ。ニンゲンの食い物というのは、随分と手間がかかるのだな」
「そうなんだよ。その代わり、驚くほど美味いぞ。楽しみにしててくれ」
「……ならば待つとしよう」
グリムは腕を組み、ふんと鼻を鳴らして大人しくなった。
「ニンゲンとはずいぶんと面白い物を作るな。他にも気になってきたぞ」
なんだかんだ、この2体もニンゲンの文化を楽しみにしている様子なのが、俺としては少し嬉しい。
「グリム、三英傑たちも食べさせたいから、今のうちに出しておいてくれ」
「承知した」
どうせ祝杯を挙げるなら、みんなで賑やかに食べたほうが楽しいに決まっている。
◇
「始まったかな?みなさん、こんばんは!聞こえる?」
画面には、焚き火のようなバーナーの火を囲む俺、グリム、ゴウキの姿が映し出される。
:毎度いきなりの配信w
:サクちゃん、SNSで告知しなよ!
:配信だけでもおかしいのに、SNSまで使いこなすモンスターは流石にヤバいw
:おお、今日は勢揃いじゃん!
「あはは、告知ね。それは……そのうち、なんとかするよ!紗奈が!」
:サナちゃんの疲労が加速する……
:飼い主の責任だからね、仕方ないね
:そろそろスタッフ雇ったら?
:スタッフ希望です!
「うーん……スタッフかぁ。俺達の正体を知ってて動ける人なんて、そうそういないからね。スタッフ雇うくらいなら、配信のペースを落とすかな」
:それはやだ!
:サナサクのペースでいいから、長く続けてほしい
:今日は何の配信なの?お祝い?
「そうそう、みなさん。見てください!なんと、俺らのチャンネル登録者数が、ついに100万人を達成しました!」
「……100万人というのは、一体どれほどの規模なのだ?」
ゴウキが不思議そうに画面を覗き込む。
「わからん。だが、途方もない数であることは察しがつく」
グリムも神妙な顔で頷く。
:おめでとう!!!!!
:100万人のサクラーのみなさん、おめでとうございます!
:グリムさんゴウキさん、今このダンジョンが人間で埋め尽くされるくらいの人数ですよー!
「うわ……そんな数のニンゲンが俺達を観てるのか」
「ありがたい……ことなのか?ん……?サクラーとは?」
グリムとゴウキが、素直な感想を口にする。
「ありがたいことだよ。これだけの人が、俺らのことを気にして、応援してくれてるんだから。ね?あと、サクラーって視聴者たちのこと?でいいのかな?」
「……まあ、悪い気はしねえな」
「ニンゲンたちよ。……感謝する」
:いつの間にかサクラー呼びがネットで定着したよ
:グリムさんに感謝された!!
:この骸骨、本当に推せるわ……
:心がじんわり温かくなったw
「さてさて。そこで今日は、紗奈から届けてもらった物を楽しみながら、視聴者さんと交流しようと思って配信を始めたよ!限られた時間だけど、リクエストや質問を受け付けるよ!」
俺はここで、いい塩梅になった飯盒を火から下ろし、鍋に水を注いだ。
レトルト食品とフリーズドライの味噌汁を順番に用意していく。
「今日は、レトルトのハンバーグ、カレー、親子丼の具。それにフリーズドライの味噌汁を用意したよ。もちろん、炊きたてのお米も忘れてないよ!」
自信満々に飯盒を見せると、コメント欄がさらに加速した。
:モンスターの食リポきたあああ!
:食品業界の人、これ大注目だぞw
:勝手に広告塔になってるw
:キャンプ用品のメーカーも震えてそう
:俺が使ってる飯盒と全く一緒で草w
:¥500|海月
魔王さん!時間がある時に、1層から普通のモンスターたちが、普段どんなことを思ったり喋ったりしてるのか聞いてみてほしいです!
「ミツキさん?クラゲさんかな?ありがとう!それ、いいね。確かにテイマーさんや召喚士さんなら多少はわかるかもしれないけど、他のジョブの人たちは意思疎通ができないもんね。OK、今度配信の企画でやってみるよ!」
:めちゃくちゃ楽しみだわそれ!
:1層のモンスターたちが強者のサクちゃんにインタビューされるとか、可哀想すぎて笑うw
:恐怖で震えて喋れないだろw
:¥1,000|通訳テイマー
初配信の時に通訳をした者です。あの頃から随分と成長して、サクちゃんの言葉や思いがみんなに届くようになって、本当によかった。
「ああ!あの時は本当にありがとう!実はあの時、俺が操作を間違えて配信ボタンを押しちゃったんだよね。あの場にあなたがいなければ、文字通り『配信事故』で終わってたよ。本当に感謝してる!」
:やっぱり操作ミスだったんかいwww
:世間の予想通りすぎて笑う
:おっちょこちょいなモンスター、可愛いよ
:配信だけじゃなくて、動画として普段の生活風景も観てみたいです!
「そうだね。でも、このダンジョン生活って本当はすごく殺伐としててさ。24時間ずっと戦い続けてる時もあるから、映像にしても案外つまらないと思うんだよ」
「主、それは違うぞ。大将のそういう『日常』こそが、ニンゲンたちは見たいのではないか?」
ゴウキが鋭い指摘を飛ばす。
:そうそう!ゴウキさんの言う通り!
:配信用の戦闘じゃなくて、サクちゃんたちのガチの戦闘風景が観たい
:リアルな戦闘も魅力だよ!
「なるほどね……。みんながそう言うなら、動画投稿も前向きに検討するよ!」
:よし、楽しみが増えた!
:サクちゃん、うちのお父さんが冒険者協会で働いてます。前回のコラボ、ありがとうございました!
:ていうか、見れば見るほどサクちゃんって誰かに似てるんだよな……
:わかる。既視感がすごい。
……やっぱり、高梨朔を知っている人がいるのか。
まあ、媒体にも出ていたし、有名パーティのメンバーだったんだ。
これだけ注目されれば知っている人から観たら時間の問題だろうな。
そのうち何らかの情報が出たら、こちらも真実を出すしかないのかもしれない。
「お名前はわからないけど、こちらこそコラボありがとうって、お父さんに伝えてね!また何かで協力したり、面白いことができたら嬉しいな」
「主、そろそろニンゲンの『餌』が良い頃合いなのではないか?」
グリムが待ちきれない様子で身を乗り出す。
:餌って呼ぶなwww
:間違いじゃないんだけど、言い方www
「じゃあ、腹ペコ骸骨くんが言ってくれたように、いい感じになったみたいだから……そろそろ食べようかな!」
俺は人数分の皿を用意し、真っ白な湯気が立ち昇る米と、食欲をそそる香りを漂わせるおかずを、それぞれ丁寧に盛り付けていった。
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