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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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優しくマオくん

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

練馬区――バイト先のカラオケ店。


現在時刻は18時45分。


私は退勤前のトイレ掃除チェックをしながら、鏡の前で必死に髪の毛を整えていた。


化粧は……ギリギリまで直せるはず。


「はあ……焦る……」


心臓の鼓動がうるさい。焦燥感の原因は、時間のなさだけじゃなかった。


今日はサクの生配信があった。あの水瀬さん――冒険者協会との公式コラボだ。


どんなことを話したんだろう。


サクは変な風に疑われなかったかな。


バイト中にスマホを見ることはできないけど、あとでアーカイブを編集しながら、色々とチェックしようと思う。


だけど、その前に立ちはだかる不安があった。


「松田さん……ごめんね。どうしてもって言われちゃって、断れなくて……」


店長が申し訳なさそうに手を合わせる。


この店長は、仕事に関しては面倒くさがりだけど、それ以上に気が弱い。


同じく気が弱い私には、その気持ちが痛いほど分かってしまう。


私も結局、無理な頼みを断れなかった。


「……仕方ないですよね」


私はそれだけ絞り出すように言って、更衣室へ向かった。


19時27分の電車に乗れば、10分で着く。


そこから走って、受付を済ませ、装備を整えて、ロビーで待機。


計算はバッチリ。


本当は、こんな必死な計算なんてしたくもないのに。


店舗は駅から近いため、猛スピードで着替えを済ませる。


眼鏡を外してコンタクトを装着し、入念に化粧を直した。


「これで行くしかないよね」


鏡に映る自分を確認する。


この短時間で仕上げたにしては、及第点だと思いたい。


『今からそっちに向かうね。20時には入るから。サク、遅くなってごめんね』


サクにメッセージを送り、私は逃げるように店を後にした。





池袋ダンジョン――地上ロビー。


時刻は20時15分。


予定を過ぎている。


私は焦りながらサクにメッセージを打ち込んだ。


『ごめん、まだ成瀬さんたちが来なくて。本当にごめん』


すぐに返信が届く。


『大丈夫。初心者さんとかとお話して待ってるから』


え……どういうこと?


サクが困っている冒険者を助ける話は聞いたことがあるけど、お話?


あのサクが、自分から人間と交流を持っているなんて知らなかった。


その時だった。


「あっ、松田!ごめーん、ご飯食べてたら時間過ぎちゃってた。あはは!」


入口から、静かなロビーに響き渡るような甲高い声が聞こえてきた。


目を向けると、成瀬さんと江藤さん、そして見覚えのない男性が2人、ニヤニヤしながら歩いてくる。

え……聞いてない。


ただでさえ初対面の人と話すのが苦手なのに。


知らない男性となんて、仕事以外でまともに話せるわけがない。


4人が私の周りを取り囲む。


「あっくん、ユウシくん、こいつがバイト先で一緒の松田。冒険者やってるって言うから、今日案内してもらう予定なの!」


成瀬さんが紹介すると、男性2人は値踏みするような視線を私に向けてきた。


「なに?結愛ちゃんと仲いいの?なんで冒険者なんてやってんの?彼氏の影響?」


「こいつに彼氏なんているわけないじゃん。……え、っていうか松田、今日化粧してんの?眼鏡は?」


「い、一応……外に出るの……で。あ、あと、動くからコ、コンタクトにしました……」


震える声で答えると、男の一人が顔を近づけてきた。


「松田ちゃん、意外と可愛いじゃん!なぁ?」


「な、可愛いわ。あとで連絡先交換してよ」


馴れ馴れしく距離を詰めてくる男性たち。


嫌悪感で吐き気がする。


「……最悪。死ねよ。あっくんたち、先に受付して着替えよう。松田、そこで待ってて」


成瀬さんが冷ややかな視線を私に突き刺し、突き放すような声で言った。


そのまま4人は準備へと向かっていく。


最悪なのは、こっちのセリフだ。


私は早くこの時間が終わってほしいと、心の中で何度も何度も叫んでいた。





池袋ダンジョン――1層エントランス付近。


「魔王さん!今日の配信見てました!これからも頑張ってください!」


「ありがとう!いやいや、お互い頑張ろうね!」


配信終了からだいぶ時間は経っているが、視聴者と思われる冒険者たちが通りかかるたびに声をかけてくれる。


ちなみに、グリムたちは目立たないように影の中に潜んでもらっている。


「あ、ま、魔王さん」


今度は女性2人組の探索者に呼び止められた。


「はい、優しい魔王を目指しているサクですよ。どうしました?」


「配信、お疲れ様でした!……あの、なんでこんな上の1層にいるんですか?」


「観てくれてありがとう!これから、俺の大切なテイマーさんが来るから迎えに来たんだよ」


俺が笑顔で答えると、彼女たちは顔を見合わせた。


「あっ、サナさんですね!配信でもお声が可愛くて……是非お会いしてみたいです!」


「紗奈も喜ぶと思うよ。ただ、あの子は少しびっくりしちゃうと思うから、俺がいる時にしてあげてね」


「そうなんですね、わかりました!またお話してもいいですか?」


「もちろん。機会があったら、また話そうね」


ふと視線を上げると、エントランスに5人の人影が見えた。


あれだな。


明らかに下を向いて、全身から「行きたくない」というオーラを垂れ流している女の子がいる。


あれはスタート前から、何か嫌なことがあったな。


私は紗奈の方へとゆっくり歩き出す。


「魔王さん!!ありがとう!!!」


先程の2人組が大きな声で感謝を伝えてきた。


私は彼女たちに、穏やかな笑顔で手を振って応えた。





「まおさん?なんか、あそこで叫ばれてる人、めっちゃカッコよくない?」


「え、モデルかなんか?上級の冒険者かな」


「いやいや、上級が1層なんかにいるわけないじゃん」


「見た感じ、まだガキだろ。……おい、なんかこっち来るぞ」


成瀬さんたちは、前から歩いてくる「誰か」を見て勝手なことを言っている。


だけど、私の目は釘付けになっていた。


(まおさん……?いや、あれは……サクだ!)


ニコニコと歩いてくるその姿は、約2週間前に会った時よりもさらに背が伸びていた。


立ち居振る舞いは洗練され、見た目は人間と全く変わらない。


爽やかで、それでいてあの綺麗な瞳と同じような、神秘的な格好良さを纏ったサクがそこにいた。


私はその姿に、思わず呆然と見惚れてしまった。


「松田、こっちに歩いてくるけど知り合い?……って、そんなわけないか」


「あはは、松田だもんね」


成瀬さんたちがクスクスと笑う。


いや、知り合いどころか、私の大切なパートナーなんです。


「紗奈、遅かったね。なにかあった?でも、おかげで色んな人と交流できたよ。……で、こちらの方々は?」


サクは私の方へ笑顔で手を振りながら近づくと、いつものように優しく……、いや、話し方がスムーズになってる。


あまりにも自然すぎて流してしまった。


その瞬間、戸惑っていた成瀬さんたちの顔色が変わった。


「あっ、あの!私たち、松田……松田さんのバイト仲間の成瀬です!」


「江藤です!」


あっくんと呼ばれていた男性たちを置き去りにする勢いで、2人はサクに媚びるような笑みを向ける。


「ああ、そうなんだ。紗奈がいつも“お世話に”なっているね」


サクの口角は上がっているが、その目は一切笑っていない。


冷ややかな、獲物を定めるような視線。


「で、そちらの2人の男性は?」


「俺ら?結愛ちゃんの友達のアツキと、こっちがユウシ。江藤ちゃんと……“紗奈ちゃん”は初めましてだよね!」


「君は誰?なんかマオくんって呼ばれてたけど」


アツキという男性が、対抗心を燃やすようにサクを睨んだ。


「ああ、あだ名みたいなもんですよ。それで呼んでもらって大丈夫。……私は、紗奈のパートナーです。よろしく」


「パートナー」なんて言葉、こんな人たちの前で言ったら絶対に勘違いされる。


私の心臓が跳ね上がる。


「は?パートナーってなに?」


「パートナーはパートナーですよ。俺の命よりも大事な人。わかりますよね?」


サクはさらりと言ってのけた。


あう……もう……。


「サク……」


私が本当のことを説明しようと口を開きかけると、サクは私の言葉を遮るように微笑んだ。


「紗奈、今日は“マオ”でいいよ。その方が楽しいからね」


……何か考えがあって、この偽名を使っているんだろうか。


「4人はダンジョンは慣れてるの?」


サクの問いに、成瀬さんが先程、パートナーと聞いたばかりだからなのか、媚びるように答える。


「私と凛花は、練馬ダンジョンで1回だけなんですぅ……色々教えてくれますか?」


「俺たちは先月登録して、もうレベル3だから。そろそろ2層に行けるかなって感じ。つーか余裕っしょ。で、マオくんは?」


男たちが胸を張る。


その言葉を聞いて、サクは顎に手を当てた。


「へぇ、レベル3。……俺はまあ、そこそこって感じかな。……なら、紗奈。君がしっかり教える?それとも、レベル3の男の子2人が教えてあげたほうがいいんじゃないかな?」


皮肉の混じった提案。


私はもう、この人たちと今すぐ解散して、サクと2人きりになりたい。


「男性の方もレベルが3なら、教えてあげられることもあると思うので……」


私が消え入るような声で言うと、アツキたちの目がサクに対して鋭くなった。


自分たちの面子を保とうと必死なのが伝わってくる。


「えー、マオくんも一緒に来てよ!」


「……うん。でも、メインは4人で進めていこう。俺と紗奈は後ろから見てるから。ね?」


サクがニッコリと、どこか残酷さを秘めた笑みを浮かべると、成瀬さんたちは毒気を抜かれたように頷いた。


はあ……もう……一体どうなっちゃうの……。


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よろしくお願いいたします。

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