第3回、配信終了
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
池袋ダンジョン、15層。
ボスフロアへと続く回廊。
ここまでの道のり、俺たちは視聴者の質問に答えてきた。
その間も、グリムが統率する不死者の精鋭たちが、周囲から襲ってくる魔物を、完璧に処理し続けている。
デバイスカメラを安定した撮影を行いながら、現場の指揮を執るグリム。
そして、その後ろで俺に代わって雑にコメントを読み上げるゴウキ。
一見して異様なその光景も、視聴者にとっては新鮮なエンターテインメントとして受け入れられているようだ。
特に、ゴウキの飾らない、魔物らしい直情的な回答が、予想以上の人気を博していた。
:人間と戦闘してる時、どんな気持ちなの?
飛んできた質問に対し、ゴウキは鼻を鳴らして答える。
「お前は、自分の寝床に勝手に入ってきた馬鹿をどう思う?俺は問答無用で殴る。まあ、命のやり取りとしての殴り合いは楽しいからな。それだけだ」
:人間ならどんな女性がタイプですか?
「お前はスライムを見て『どれが可愛いですか』って聞かれたら、どう答えるべきか悩むだろ。それと同じだ。種族が違えば、美醜の基準も違う。強いて言うなら、俺より強いメスなら興味はあるな」
:やっぱり聖女みたいな人がタイプ?
「いや、あれは見ていて楽しいが、感情が激しくてうるさい。俺の耳がいくつあっても足りん」
「ちょっと……!それ、どういう意味ですか……!失礼しました、視聴者の皆様」
綾香が頬を膨らませて抗議し、すぐさま画面に向かって取り繕うように頭を下げると、チャット欄は爆笑の渦に包まれた。
モンスターが人間をどう見ているのか、どんな生活をしているのか。
未知の領域に対する好奇心は尽きることなく、質問の嵐は止まらない。
:これ、ある意味最高の教育チャンネルだろ
:モンスター学の権威も顔負けの濃さ
:サクの話を聞いてると、モンスターとの共存もいつか出来そうな気がしてくるな
「大将!『モンスターとの共存は出来そう』って言ってるやつがいるぞ!」
「……いや、基本的には無理だと思っておいてほしいな」
俺はカメラを真っ直ぐに見据え、おどけた空気を一変させて、静かに感情を込めて告げた。
「テイマーや召喚士のように、モンスターの波長を読み、対話ができる特殊なニンゲンならまだ可能性はある。でも、99%のモンスターにとって人間は外敵であり、糧だ。ここで安易に共存できるなんて言って、不用意に近づいて事故を起こしてほしくない」
「そうですね。冒険者協会としても、サクさんのような存在が現れたことは希望です。ですが、通常のダンジョン環境において、一般の冒険者が魔物に不用意に近づくことは、即座に死に直結します。サクさんたちは、奇跡に近い稀有な例なのです」
綾香が真摯な表情で付け加える。その言葉の重みに、視聴者たちも襟を正したような反応を見せた。
「まあ、俺たちがその『稀な例』をどんどん見つけて、協力や共存ができる仲間を増やしていくからね!……あ、もしダンジョンの中で俺たちを見かけたら、気軽に声をかけてよ!今からサインの練習、しておかなくちゃね!」
:そりゃそうだわな。魔王の忠告は守らんと
:夢見て近づいて食われたら笑えんもんな
:テイマーさんたちが羨ましくなるよ
:優しい魔王さん!早く仲間を増やして!
:おい、同接80万人突破してるぞ……!!
:Currentのトレンドも『優しい魔王』が1位だ
「あ、そうだ!みんな、冒険者協会の公式チャンネルも登録してね!水瀬さんたちのような人たちが裏で支えてくれているから、みんなが安全に冒険を楽しめているんだ。……お仕事紹介のコラボだから、宣伝も忘れないようにしないとね」
:宣伝もこなす魔王www
:草
:さすが魔王、仕事が出来る
「これを観ている子供たちの中には、ダンジョンやモンスターは好きだけど、戦うのは怖いって子もいるよね。それなら、冒険者ではなく、協会で働くっていう道もある。自分の強みを活かす方法は一つじゃないんだ」
:さすまお、子供たちの将来まで考えてる
:仕事が出来る魔王、格好良すぎだろ
「ありがとうございます、サクさん。お子様たちも、私たちのチャンネルにある職員の日常を紹介する動画を、ぜひ一度ご覧になってみてください」
綾香も笑顔で応じる。
互いの立場を尊重し、未来を提示する。
コラボレーションとしての体裁は、これで十二分に整ったと言えるだろう。
◇
15層、ボスフロア。
重厚な石造りの扉を押し開けた先、広大な広間の中心に、かつてのゴウキと同じ姿を持つ『鬼人』が、巨大な剣を携えて待ち構えていた。
「みなさん、お待たせ!15層の主、ボスモンスターの鬼人だよ!筋力と耐久力に特化した、ゴウキと同じのモンスターだね。……ここは俺がソロで討伐するから、じっくり観ていてね」
「あ、サクさん。念のため、バフをかけますね」
綾香が杖を掲げ、詠唱を紡ぐ。
俺の全身を包み込むのは、筋力と耐久力を引き上げる光のヴェール。
肌に触れるその魔力の波動に、切なくなるほど懐かしい温かさが宿っていた。
「綾香さん、助かる。ありがとう!……じゃあ、行ってくるね。ゴウキ、解説頼んだぞ!」
俺はそれだけ言い残すと、姿を霧のように消失させた。
スキル『完全透明化』。
「……ああ、ダメだ。俺でもなんも見えねえ。匂いも気配も、魔力の残滓すら完璧に消しやがった。大将の隠密はすげえ」
:マジで画面から消えた
:上級の探知スキルを持ってしても見抜けないのか?
:魔力値が高ければワンチャンあるけど、サクの数値はたぶん異常だしな
:姿が見えない上にあの敏捷性だろ。対応出来るわけないわ
:サクちゃんがんばれ
鬼人が困惑したように周囲を睨みつける中、俺は正面からではなく、音もなくその背後へと回り込んだ。
大鎌の刃が、闇を裂く。
袈裟斬り。
分厚い筋肉ごと、鬼人の背中を深く引き裂く。
「ガァァァッ!!」
絶叫と共に鬼人がのけ反るが、俺は深追いせず、瞬時に間合いを置いた。
鬼人の全身が、激しい青い光に包まれる。
「観てるやつら、今の光は『見切り』だ。ちなみにもう一つ『気合い』ってスキルもあるんだがな、あれがなければさっきの一撃で膝を突いていただろうな」
:ちゃんと解説してくれる鬼人、有能すぎ
:こいつの話し方、クセになるんだがww
あ、そういえば……。
配信中に『完全透明化』を使い続けるのは、視聴者にとっては「何が起きているか分からない」つまらない映像になってしまう。
俺は苦笑しつつスキルを解除したが、むしろその「姿を見せて戦う」余裕こそが、強者の美学として映ったようだ。
鬼人が四股を踏むように力強く脚を上げ、一気に床を叩きつけた。
ヤバい……!!
俺は漆黒の翼を顕現させ、爆発的な加速で上空へと逃れる。
直後、鬼人が踏みつけた地面が円形に爆裂し、凄まじい衝撃波が広間を舐めた。
間一髪、直撃を免れる。
「今のは『烈震脚』って技だ。自分に詰めてくるやつは大抵あれで丸ごと吹っ飛ばされるんだが……大将は上手く躱したな」
「サクさんは、いつもあんな風に危なっかしい戦い方をしているんですか?」
「いや、あれは遊んでるだけだ。これを観ているやつらを楽しませるために、わざとわかりやすいようにやっているんだろ」
:15層のボスを相手に舐めプww
:さすまお
:視聴者第一の配信者の鑑すぎるだろ
:よいこの皆さんは絶対に真似しないでください
:彼は特殊な訓練を受けています
「おう、命が大事だって大将も口癖のように言ってるからな。真似すんなよ」
俺は空中で体勢を整えながら、両手に『エクスプロードボール』を生成した。
二つの紅蓮の塊を連続して発射する。
ゴォォォッと空気を焼く音を立て、吸い込まれるように鬼人の胸部へと着弾した。
激しい爆炎がフロアに吹き荒れる。
煙が晴れた先、そこには膝を突き、肩で荒い息をつく鬼人の姿があった。
そして全身を紫色の不気味なオーラが覆っている。
「よく耐えたな。あれは『戦鬼解放』っていうスキルだ。HPが減れば減るほど、全能力が跳ね上がる。ここからが鬼人の真骨頂だぞ」
:解説助かる!
:どれくらい強くなるんだ?
:あの感じ、もう限界突破してるだろ
あれは面倒な状態だ。
レベル差があったとしても、あの状態で放たれる、捨て身の筋力バフがかかった一撃は重い。
まともに受ければ、俺の防御力でもただでは済まないだろう。
ならば、正面から付き合う必要はない。
――『幻惑』。
スキルを発動させると、鬼人の足元の影から不気味な闇が伸び、その巨躯を漆黒に飲み込んでいく。
闇が晴れたとき、巨躯を誇ったはずの鬼人は、頭を抱えて蹲り、小刻みに震えていた。
付与された異常状態は『恐慌』。
:うっわ……可哀想になってきた
:ボスがあんなに怯えるとか、どうなってんだよ
:恐慌入ったか。もうおしまいだな
さて、幕引きといこう。
俺は震える鬼人にゆっくりと歩み寄り、その背後にピタリと立った。
大鎌を天高く掲げ、一気に振り下ろす。
重厚な刃が、鬼人の首を完璧に跳ね飛ばした。
:オウフ……
:まさに死神
:いや、これぞ魔王だよ
:ショッキングすぎる幕切れだ……
床を転がる首と胴体は、魔素となって瞬時に霧散していく。
跡に残されたのは、ドロップアイテムである『戦鬼の大剣』と、輝く青色の『中魔石』。
「みなさん!見てくれたかな?これで15層、無事に攻略完了だよ!どうだったかな?水瀬さんも、感想をお願いします!」
:簡単そうに見えるけど、実際は絶望的なレベル差だぞこれ
:推奨レベル45の上級ボスだぞ……それを配信映えするように調整しちゃうとか
「……言葉になりませんでした。単なるステータスの暴力ではない、洗練された高い戦闘技術。まるで、幾千の死線を潜り抜けてきた歴戦の冒険者のような、通常のモンスターにはあり得ない動きでした。……格好良かったです、本当に」
:おっ……
:聖女×魔王、尊すぎる
:生で今のを見て惚れないやつがいるか?
「お褒めいただきありがとうございます!こんな美人さんに褒めてもらえたら、モンスターだってテンション上がるよね!」
俺はおちゃらけながら、その場で軽やかに小躍りしてみせた。
:かわよww
:イケメンがふざけて小躍りするとかいうシュールな光景
:政府は早くモンスターと人間の婚姻を認めるべき
「さて!今回の配信はここらへんで終わろうと思うよ!いつか、冒険者協会のチャンネルにもゲストで出られたらいいな。……偉い人、検討お願いしますよ!」
「はい、ぜひ。私からも強く推しておきますね」
「それでは、今日の配信を終わります。次回の予定はCurrentで伝えるから、チェックを忘れないでね。本日のゲスト、水瀬綾香さん!今日は本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました」
「それじゃあ、次回の動画でまた会おう!バイバーイ!」
俺と綾香が揃ってカメラに手を振る。
グリムが操作するデバイスの、赤いランプが消灯した。
「(よし、主。配信、無事に終了したぞ)」
「お疲れ、グリム。おけおけ、それじゃあ16層のエントランスまで移動して休憩にしようか」
俺たちは足早に、階段を下りていった。
画面の向こうで渦巻く熱狂を知る由もないままに。
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