魔王の宣言
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
池袋ダンジョン、15層。
「さて、先程の質問だけど……なんで今まで配信しなかったのかって話だよね。正直に言うよ。俺、前回の配信の後、このダンジョンの中で襲われそうになったんだ」
チャット欄の速度がさらに加速する。
:やっぱりそうじゃん
:話題のモンスターだからな、狙われるわ
:クソみたいな奴らがいるもんだ
:でもモンスターだし、ダンジョンなら戦闘は仕方ないだろ
:でもサクはテイムモンスターだぞ?不法行為だろ
「俺だってモンスターだ。ダンジョンの中でニンゲンと遭遇すれば、戦闘になるのは必然だってことは分かっているし、ある程度は覚悟もしている。だから俺は、今まで隠れたり逃げたりし続けてきたんだ。……ニンゲンと戦いたくなかったからね」
:サク……
:ええ子や……泣ける
:でもこのイケメン姿で言われると、なんかギャップで脳がバグるわ
「ね、水瀬さん。これに関しては、協会の見解としても仕方のないことだよね?」
俺が隣を歩く綾香に話を振ると、彼女は少しだけ悲しげな、けれど毅然とした表情でカメラに応えた。
「はい。現状のルールでは、ダンジョン内でのモンスターとの遭遇は戦闘と見なされます。サクさんのような知性を持つ個体は極めて稀ですから、彼のこれまでの配慮は、協会としても非常に重く、ありがたいものだと受け止めています」
:まあ、モンスター倒さないなら何しにダンジョン来てるんだって話になるしな
:観察とか?
:そんな奴こそ稀だろ
:研究職くらいしかいねーよな普通
「でもね」
俺は声を一段低くした。
金色の瞳が、魔力の高まりと共に怪しく輝く。
「俺を捕まえに来た奴らが、こう言ったんだ。『あのテイマーの女も攫っちまうか?一度で二度美味しいってこういうことだよな』ってさ」
一瞬、チャット欄が凍りついたように止まり、直後に怒涛のバッシングが吹き荒れる。
:それは完全に犯罪だろ!!
:クソ野郎すぎるわ、胸糞悪い
:協会、マジでなんとかしろよこれ
:あのテイマーちゃんに手を出そうとしたのか!?許せん!!
:サクちゃんが怒るのも当然だわ……
「ね、そんなことを言われたらさ。俺にとって大切な存在である紗奈に、もしものことがあったらと考えたら……怖くて、配信なんてできなくなるよ。ね、水瀬さん」
「はい。それが行われるならば、れっきとした犯罪に当たります。その場にテイマーの方がいなかったとはいえ、実際にそのような発言があり、実行に移されようとしていたのであれば、警察とも連携し、協会として厳正な処置を執るべき事案です」
:当たり前だよな!!
:サクちゃんが慎重になるのも無理ないわ
:可哀想に……ずっと一人で耐えてたのか
:協会さん、マジで頼むぞ!!
「水瀬さん、ありがとう。これは啓発の意味も込めて、協会の人に証言してもらったんだ。……それともう一つ、みんなに伝えておくことがある」
:お、なんだなんだ
:まだあるのか
:お巡りさん、頼むで
「あの時、俺はまだレベルも低くて、自分のことで精一杯で、紗奈を守りきれるか不安だった。だから配信もできなかった。……だけど、今は違う。こうして信頼できる仲間もできた。自分自身の力も蓄えてきた。今の俺なら、もう守れる」
:うんうん、強くなったもんなサク……
:今のレベル、マジでどれくらいなんだろう。オーガ瞬殺だったしな
「だから、どうしても俺を襲いたいって言うなら、相手はしてあげる。……だけど」
俺はレンズの向こう側にいる、悪意を持つ者たちを射抜くように睨みつけた。
「紗奈に何かしたら、生まれてきたことを後悔させてやる」
背後で、巨大な死神の大鎌がギチリと鳴ったような気がした。
:……ヒッ
:今の表情、マジで怖かった……
:モンスターがそれを言うと、シャレにならん威圧感があるな
:でも、気持ちはわかる。自分を襲うのは許せても、大事な人を狙う奴は許せないよな
「サクさん……」
綾香が少しだけ怯えたように俺を呼ぶ。
「はは、ごめんね。今の俺、ちょっと怖かったかな?みんな、ごめんね。でもさ、俺だってすごく、すごく怖かったんだよ。だから、俺の中で一つルールを決めたんだ」
:まあ、大事な人が狙われれば誰だって怒るよ
:サクとテイマーちゃんだけが我慢しなきゃいけない理由なんてないもんな
:納得したわ。むしろ今までよく我慢したよ
「俺は、ニンゲンと共存したいと思っている。だからこうして配信もするし、困っている人がいれば助けるし、協会にも協力する。……だけど、こちらが手を差し出しているのに、それを切り落として襲ってくるような奴には、容赦なく牙を剥くよ。……ニンゲン同士だって、そうでしょ?」
:言ってることは正論すぎてぐうの音も出ない
:確かにな。襲ってくる奴が悪い。
:そりゃそうだ。自衛権は誰にだってある
「水瀬さん、協会の方の前でこんな過激なことを言うのは申し訳ないんだけど……一応モンスター対ニンゲンなので。……不適切な発言、許してちょんまげ!」
俺がおどけてピースサインを作ると、綾香は困ったように、けれど優しく微笑んだ。
「……これに関しては、協会に戻り次第、正式に対策を協議したいと思います。それと、サクさんを襲うという行為は、モンスター対人間という構図である以上、通常の戦闘と変わりはありませんから、法的な制限がない以上、私たちからサクさんの自衛行為を止めることはできません」
綾香はそこで一度言葉を切り、真剣な眼差しでカメラを見つめた。
「……ただし、個人的な意見を述べさせていただけるなら。……これほどまでに思慮深く、優しく、私たちを楽しませてくれるモンスターを、どうか傷つけないでほしい。人助けを行い、共存を望むモンスターを、私は他に知りません。彼が未来を望むのであれば、私は、一人の人間として、彼を全力で応援したいと思います」
:よく言った聖女様!!
:さすがだ、惚れ直したぞ!!
:頼むぞ協会、サクちゃんを守ってやってくれ!
:……いや、そうは言ってもモンスターと共存なんて無理だろ普通。
:↑お前、話聞いてたか?モンスター全体じゃなくて『サク』個人とだって言ってんだろ。
:日本語理解できないなら配信観ないで勉強してなよ
「ありがとう、水瀬さん。……聖女と悪魔なんて、正反対の属性なのに、ここまで応援してもらえるなんて本当に嬉しいよ。よし!それじゃあ、ちょっとお話が長くなっちゃったけど、ここで俺の自慢の仲間を紹介させてもらうよ。これからは彼らが、俺と一緒に紗奈の周りを警護してくれるんだ」
俺は、自分の後ろに控えていた軍勢を指し示した。
「グリム隊、配置について。ゴウキ、よろしく!」
:なんだ!?
:え!?何が始まるんだ!?
カメラがパンすると、そこにはグリムの『シャドウサモン』によって召喚された前衛部隊が映し出された。
:はあ!?高位アンデッド!?
:デュラハンにデスナイトだと……!?
:スケルトンジェネラルまでいるじゃん、やべえええ!!
:それに、あのさっきの鬼人も……。このパーティ、戦闘力どうなってんだよ。
俺はグリムからデバイスを預かり、さらに後方に控えるスケルトン種たちを映す。
:待て、このスケルトン軍団……、カースドリッチか!?
:軍隊じゃねえか!!
:誰がこんな軍勢に喧嘩売るんだよ……自殺志願者かよ。
:いや、怖い。怖いけど……実際、トレインで助けられた人もいるんだよな……。
「みんな、この骸骨の魔導師が俺の仲間、グリムだよ。よろしくね」
俺が紹介すると、グリムは仰々しく礼をし、カメラに向かってひらひらと骨の手を振った。
:なんか……ちょっと可愛いかも。
:いや、普通に怖いだろ!!
:このスケルトンも特殊個体なんじゃないの?見たことないわ
:池袋、マジで魔境すぎる……。
俺は再びグリムにデバイスを渡す。
「さて!今見てもらったメンバーが、俺の仲間であり、紗奈を守る最強の護衛隊だ。これからもっと強力な仲間が増える予定だから、楽しみにしててね!」
:あ、だから『魔王』って呼ばれてるのか。
:池袋の魔王、爆誕の瞬間だな……。
:信じていいんだよな?サク。
:¥500|えれな
サクちゃん、信じていいの?
「大将!えれなっていうニンゲンが、信じていいのかって聞いてるぞ!」
ゴウキの声に、俺はカメラに顔を近づけ、一番優しい笑顔を作った。
「うん。えれなちゃん。約束するよ。俺たちから、ニンゲンを傷つけるようなことは絶対にしない。みんなと仲良く、楽しくやっていきたいからね。スパチャありがとう、えれなちゃん!」
その間にも、カメラの死角では前衛の3体が襲い来る魔物を粛々と処理し続けている。
:めちゃくちゃ剣戟の音が聞こえてるけど、画角には平和な二人しか映ってねえwww
:マジで鉄壁の護衛じゃねえか、これ。
ここで、綾香も意を決したように口を開いた。
「これは協会職員としてではなく、水瀬綾香としての個人的な言葉です。……私は実際にテイマーさんともお会いしました。彼女の覚悟、そしてサクさんとの絆もこの目で見ました。……だから私は、彼らを信じたいと思います」
「ありがとう、水瀬さん。なんかこう……聖女様にここまで言ってもらえると、悪いことできないね。あはは!」
:なぁ、今さらだけど、サクってどこかで見たことある気がするんだよな。
:どっかのモデルとか?
:てかさっきから後方の魔法スキルがビュンビュン通過してるの映ってるぞwww
:会話の裏でガッツリ戦闘してるのがシュールすぎる。
:¥50000|舞香ch
私も信じるよ。
「さてさて!なんか難しい、悲しいお話ばかりになっちゃったけど、ここからはみんなの質問に答えたり、せっかくの機会だから協会の職員さんに色々と答えてもらうコーナーにするよ!」
:いや、戦闘中にやることじゃないのよwww
:サクは盛り上げてるけど、後ろでモンスターがバキバキ砕ける音が聞こえてて草
「大将!また赤いので『私も信じるよ』ってコメントが来てるぞ!」
「お、舞香チャンネルさん!ありがとう!みんなに信じてもらえるように、俺たち頑張るよ!」
「……姉さん!?」
隣で綾香が、驚愕のあまり声を裏返らせた。
「え……お姉さん……?」
俺が聞き返すと、チャット欄がかつてないほどの激流となった。
:水瀬……舞香!?
:てか、今の舞香chって、あの『氷の女王』の水瀬舞香の公式チャンネルじゃんかよ!!
:やべえええええええ!!!
:おい、これマジで大ニュースだぞ!?
:聖女だけじゃなく、氷の女王まで公認したのか……!?
「あはは……。質問コーナー……どうしようかな」
「……姉さんが、本当、ごめん……」
真っ赤になって項垂れる綾香。
けれど、その頬には微かな安堵の笑みが浮かんでいた。
俺は世界中が見守るカメラに向かって、高らかに笑い声を上げた。
「よし!舞香さんもありがとう!それじゃあみんな、質問どしどし送ってね!……ただし、俺の好みのタイプとかは内緒だよ!」
背後で崩れ落ちるオーガの断末魔をBGMに、俺たちは奥へと進んだ。
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