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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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4/12

テイマーとの出会い

あれから、一体どれだけの時間と日が過ぎたのだろうか。


俺は、池袋ダンジョンの1層をひたすらに歩き回っていた。


やることは決まっている。


通りかかる冒険者への『盗む』と、1層の探索。


そして、遭遇するゴブリンやコボルト、スライムとの戦闘の繰り返しだ。


魔石は必ずドロップするわけではない。


運が悪ければ、ただの徒労に終わることもある。


食料問題は深刻だった。


俺は腹が減ると、シャドウインベントリから魔石を 1つ 取り出し、飴のように噛み砕いて凌いだ。


これまで4つの魔石を消費した。


腹持ちの感覚からして、この身体になってからおそらく2日ほどが経過したと予測する。


それにしても、『盗む』というスキルの気まぐれさには閉口する。


命がけで冒険者の背後に忍び寄り、MPを絞り出して手に入れた「戦利品」は、どれもこれも溜息が出るようなものばかりだった。


・ハンカチ(使い古されてボロボロ)

・コンタクトレンズの割引チラシ

・『麺屋 潮風』のスタンプカード(あと3個で1杯 無料)

・豹柄のボクサーパンツ(誰が履くんだ、こんなもん!)


その他にも細々としたゴミはあったが、食料や、ましてや人間との交渉に使えるような価値のあるものは1つもなかった。


それどころか、何度か盗みに失敗し、2度ほど冒険者にバレて斬りかかられたこともある。


攻撃を受けると、せっかくの『透明化』が強制的に解除されてしまう。


そうなれば、今の俺にできることは、敏捷値を活かして全力で逃げ出し、再び影に潜んでやり過ごすことだけだ。


それでもレベルは5まで上がり、『気配遮断』という新たなスキルも習得した。


だが、それでも万能ではない。


透明化と気配遮断のコンボは、あくまで「最初の接近」にのみ効果を発揮する。


『盗む』が失敗し、相手に物理的な違和感を与えてしまえば、結局は気付かれて危険な状況に陥ることに変わりはないのだ。


「(……怖すぎるだろ)」


レベルが上がったとはいえ、このプニプニとした「紙装甲」のボディは相変わらずだ。


装備も何もつけていない、全裸のインプ。


もし新人冒険者の剣であっても、まともに一撃を喰らえば、俺の身体は魔素の煙となってあの世行きだろう。


今の俺の生命線は、姿を消す『透明化』と『気配遮断』、敵を翻弄する敏捷値、そしてそこそこの魔力値を注ぎ込んだ『ファイヤーボール』だけだ。


あとは、情けなくともこそこそと『盗む』を続けていくしかない……。


そんな泥臭い「コソ泥生活」が、今の俺の現実だった。


この1層は、初心者が圧倒的に多い。


剣士、戦士、魔法使い……そんな基本ジョブの冒険者ばかりだ。


俺が探し求めている『テイマー』や『召喚士』、あるいは魔法使いの上位職である『ドルイド』なんていう冒険者は、訪れない。


ダンジョンには、各階層のエントランスに『転移石』という便利なものがある。


1度登録すれば地上から直接その階層へ飛べるシステムだ。


それは俺の記憶にもしっかり残っている。


だからこそ、この1層は「通過点」に過ぎない。


よほどの初心者か、よほどの物好きしか歩いていないのだ。


皮肉なことに、だからこそ俺のようなモンスターが討伐されずに生き延びていられる、ということでもあるのだが。





(……腹が減ったな。また魔石でも食うか)


そう思い、シャドウインベントリを開こうとしたその時だった。


通路の奥から、複数の足音と気配を感じた。


「グレイ、周りに何もない? 索敵お願いね」


聞こえてきたのは、女性の声だった。


俺は反射的に岩陰へ滑り込み、通路の先を覗き込む。


そこには、軽やかな革装備を纏った女性冒険者と、その足元でクンクンと地面の匂いを嗅ぐ1匹 のモンスター……『ベビーウルフ』の姿があった。


(テイマーだ!! 間違いない!)


心臓が激しく鼓動する。


このチャンスを逃せば、次がいつになるか分からない。


俺は『透明化』と『気配遮断』を使い、慎重に距離を詰めた。


だが、ベビーウルフの嗅覚を甘く見ていた。


グレイと呼ばれたその狼が、不意に足を止め、俺がいる方向をじっと見つめて近づいてきたのだ。


(ヤバい、これはバレる……!)


隠れ続けるのは無理だと判断した。


もし攻撃的な魔物だと思われれば、グレイの牙が俺の喉笛を裂くだろう。


俺は賭けに出た。


姿は見せないまま、伝われと念じながら彼女に語りかけた。


「(冒険者さん……少しだけ、俺の話を聞いてほしいんだ)」


その瞬間、グレイと彼女がビクッとして身構えた。


「何!? どこから!? グレイ、敵を探して!」


「(待って! 戦う意思はないんだ! ただ……お願いがあって話しかけたんだ!)」


俺は必死に声を絞り出した。


彼女は驚きに目を見開いたまま、グレイの動きを制した。


「お願い……? グレイ、こっちに戻ってきて」


彼女の命令に従い、グレイが彼女の足元へピタリと寄り添う。


だが、その視線は鋭く俺の位置を探っている。


いつでも飛びかかれる、低い姿勢のままだ。


「(姿を見せるけど……驚かないでほしい。あと、攻撃もしないでくれ。約束だぞ?)」


「……わかったわ。約束する」


彼女の言葉を信じ、俺はゆっくりと『透明化』を解いた。


空気が揺らぎ、ダークグレーの小さな身体がその場に現れる。


「……インプ? インプが喋ったの?」


「(俺は、悪いインプじゃないんだ。信じてくれ……)」


彼女は戸惑っていたが、俺が攻撃の素振りを見せないことに気づくと、少しだけ警戒を緩めた。


「まあ、こんなに流暢に話しかけてくるモンスターなんて見たことないしね。……で、どうしたの?」


俺は、自分の中に残っている「記憶」を包み隠さず話した。


前世は人間だったこと。


新宿ダンジョンで、あの神々しい龍に襲われて命を落としたこと。


目が覚めたら、池袋のこの場所でインプになっていたこと。


人間だった頃の知識やダンジョンの常識はあるが、自分の名前やプライベートな記憶は抜け落ちていること。


そして、いつか自分の言葉を聞いてくれるテイマーが現れるのを、ずっと待っていたこと。


彼女は、俺のとりとめのない話を、黙って最後まで聞いてくれた。


足元のグレイも、ジッとこちらを見つめたまま、伏せの姿勢で聞き入っている。


「信じられない……なんて言わないよ。確かに、新宿のダンジョンでイレギュラーが発生して、犠牲者が出たことはニュースにもなったもん」


彼女は顎に手を当て、考え込むように呟いた。


「あなたが嘘をついているとしても、その事件の詳細をここまで正確に知っている理由が思い当たらないしね」


彼女の言葉に、俺は1つ だけ、どうしても聞きたかったことをぶつけた。


「(……あの、イレギュラーの発生の中で……生還者は、いたのか?)」


俺の問いに、彼女は少し悲しげに、でもはっきりと答えてくれた。


「うん。男女のペアだったはずだよ。犠牲者は同じパーティの2名で、残りの2人だけが生き残ったって聞いてる」


(犠牲になったのは、俺たちだけか……。それに、男女のペア……。それは、俺が逃がした仲間……だろうか)


その瞬間、視界が急激に滲んだ。


今ではぼやけたシルエットでしか思い出せない仲間の、生存の報。


よかった。俺が残った意味は、確かにあったんだ。


インプの小さな目から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。


「……その様子じゃ、本当のことみたいだね。インプさん、信じるわ」


俺は腕で顔を拭い、掠れた声で「ありがとう」と伝えた。


「でも、インプさんはいつからここにいるの? あの事件はもう3年前だよ?」


「(えっ……!?3年 ……!?)」


衝撃だった。


あの新宿の惨劇から、もう3年もの月日が流れていたなんて。


俺はこの女性テイマーから、さらなる情報を聞いた。


あの龍は『ルミナスドラゴン』というモンスターであること。


解析が難航したようだが、生還者が持っていたデバイスにデータが残っていたため、判明したらしい。


それ以来、ルミナスドラゴンは世界のどこにも現れていないということだった。


「インプさん、私の方でも少し調べてみようか?」


「(……ありがとう。でも、俺はもう人間には戻れないし、記憶もほとんどないんだ。だから大丈夫だよ……)」


「……それで、お願いっていうのは何?」


俺は、本題を切り出した。


ここで手に入れた魔石や素材を物々交換の材料にするから、俺に『スマートデバイス』を調達してきてほしい、と。


モンスターとして生きていくにしても、情報の海に繋がれるデバイスがあれば、生存率は跳躍的に上がるはずだ。


「わかったよ、インプさん。力になるよ。……そういえば、あなた、お名前は?」


「(名前……。わからないんだ。でも……何となく『サク』と呼んでくれ。そんな気がするんだ)」


「サク! 可愛い名前ね。いいよ、わかった! 私は松田 紗奈。この子はベビーウルフのグレイ。よろしくね、サク!」


グレイが「ハッハッハッ」と舌を出し、尻尾を振って俺を見た。


俺がそっと頭を撫でると、グレイは気持ちよさそうに目を細めた。


紗奈は4日後にデバイスを用意して戻ってくると約束してくれた。


「サクも、それに見合う物を用意しておいてね!」

と笑って、彼女はダンジョンの奥へと去っていった。





紗奈との出会いから、俺の動きは変わった。


とにかく、盗んで、討伐して、稼ぎまくる。


記憶にある相場では、極小魔石は1つおよそ800円ほどだったはずだ。


最新のスマートデバイスが10万円 ほどだとしても、必要な魔石は125個 。


全然、足りない。


紗奈には、マジックバッグ(と言っても初級用だろうが)を持ってきてくれるように頼んである。


それがいっぱいになるくらいの魔石を揃えないと、対等な物々交換にはならないだろう。


レベルは 5 。


2層へ行くことも考えたが、まずは1層で「確実な」狩りを優先することにした。


冒険者からの盗品を渡す案も浮かんだが、さすがにスタンプカードや豹柄のパンツを彼女に渡すのは失礼すぎる。


何より、そんなものに価値はない。


俺は再びダンジョンの奥へと進んだ。


ダンジョンは層ごとに広さが異なる。


1層の最奥までは行ったことがないが、俺は1時間 ほど進んだあたりで、俺は「暗殺スタイル」を確立させていた。


『透明化』と『気配遮断』で気配を消し、ゴブリンやスライム、コボルトに忍び寄る。


そして、その急所を一突き。


本来、インプは遠距離の魔法やデバフ、噛みつきや爪で戦うものだが、俺の主力は奪った『錆びた短剣』による一撃だ。


短剣は既にボロボロで、刃こぼれも酷い。


だが、首や胸の隙間を狙えば、今のところはなんとかなっている。


(……でもこの短剣も、そろそろ寿命だな。新しい武器を『盗む』か、爪攻撃の特訓をするか……)


そんなことを考えながら進んでいると、前方の広場で3匹のコボルトに囲まれている冒険者を見つけた。


「クソッ!! なんだこいつら、連携してきやがって!!」


若い冒険者だ。


装備は俺が最初に見た連中と同じ、初心者の革装備。


コボルトの動きに翻弄され、防戦一方になっている。


このまま素通りしてもいいのだが……いや、さすがに目の前で死なれるのは目覚めが悪い。


それに、助けた報酬(?)を貰えばいいだけの話だ。


俺は『透明化』と『気配遮断』を併用し、コボルトへ向けて『ファイヤーボール』を放った。


ゴウッ!! ドォォォォォンッ!!


爆炎がコボルトの1匹を直撃し、壁際まで吹き飛ばす。


絶命こそしなかったが、身体を焼かれ、瀕死なのは一目瞭然だ。


いきなりの奇襲に、冒険者も残りのコボルトも硬直した。


その隙を見逃さない。


俺は短剣を逆手に握り、2匹目のコボルトの脚の腱を鮮やかに斬り裂いた。


崩れ落ちるコボルトの胸へ、体重を乗せて短剣を突き立てる。


1匹討伐。


「ギャウンッ!?」


残る1匹のコボルトが恐怖に駆られて逃げ出そうとしたが、背中を見せた敵を逃がすほど甘くはない。


俺が放った2発目の『ファイヤーボール』が、コボルトの背中を直撃。壁に激突し、黒い霧となって霧散した。


最後に、瀕死の1匹 の喉元を短剣で突き、3匹の討伐を完了させた。


「な、何が起きてるんだよ……」


冒険者はガクガクと震えながら、鉄の剣を構えて周囲をキョロキョロと見回している。


俺はその横をすり抜けながら、彼に向かって『盗む』を念じた。


助けてあげたんだ、これくらいは手間賃として貰ってもバチは当たらないだろう。


『スキル:盗む が成功しました』

・取得アイテム:おにぎり(鮭・明太子)


(……っ! ついに、米が食える……!)


インプの小さな身体が、歓喜に震えた。


俺は地面に落ちた 2つの魔石とコボルトの牙を拾い上げ、シャドウインベントリに放り込む。


呆然と立ち尽くす冒険者に背を向け、俺はおにぎりの温もりを(といっても冷えているが)感じながら、さらに暗い通路の奥へと消えていった。

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