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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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期待の準備、不安な準備

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

「……サクさんとお話をさせていただきまして、大変申し訳ありませんが、今後の調整のために直接のご連絡先を教えていただけないでしょうか……」


デバイスの画面に表示された水瀬綾香さんからのメッセージを、私は何度目か分からないくらい読み返していた。


サクのやつ……。


つい先日、池袋ダンジョンの1層で会った時には「アポは紗奈にお願いする」なんて格好いいことを言っていたくせに。


結局、水瀬さんは直接彼に連絡を取ろうとしている。


いえ、彼女を責めるのは筋違いだ。


サクがあまりにも規格外な存在だから、協会としても直接繋がっておきたいのは当然の判断なのだろう。


わかっていて、こういうことをしているのかな。


元恋人……だったかもしれない人への、無意識の執着。


私は、画面を睨みつけながら、指先で返信のキーを叩きかけて止める。


お返しに、返答を少しだけ遅らせてやった。


自分でも呆れるくらい子供じみた仕返しだ。


でも、今の私にはこれくらいの小さな抵抗しかできない。


「これくらいは、神様も許してくれるよね……」


独り言が、誰もいない自室に寂しく響く。


その少し後、サクからメッセージが届いた。


「もしかしたら、協会とコラボするかもしれない。協力するって言ったしね。向こうはこっちの戦闘から情報を得られるし、俺らは協会公認って、世の中に印象をつけられる。今後のことを考えたら、Win-Winでスタートしたいよね」


冷静で合理的な判断だった。


これに関しては、私だって納得するしかない。


サクがこれからもダンジョンで自由に、そして誰からも邪魔されずに生きていくためには、協会の後ろ盾は絶対に必要なものだ。


もしくは、誰も文句の言えないくらい強くなる……。


私も一緒に行く、と胸を張って言いたい。


けれど、今の私が行ったところで、サクの足手まといになるだけだ。


自分の中で、仕事の合間を縫って冒険者としてやれるだけのことはやっているつもりだった。


レベルも上げ、グレイやリリを成長させてきた。


それでも、サクの隣を歩くには、あまりにも歩幅が違いすぎる。


サクがメキメキと強くなっていく中で、自分だけが取り残されているような、暗い泥の中に沈んでいくような感覚が消えない。


Currentのアカウントには、配信が停止しているにもかかわらず、取材やコラボの問い合わせDMが、続々と届いている。


私が今、唯一できること。


それは、サクが配信を再開した時に、彼が迷わずに次のステップへ進めるよう、この情報を整理して纏めておくことだけだ。


「それまでに、ちゃんと調べておかなきゃ……。それに、1週間に1つは、絶対にレベルを上げるんだ」


鏡の中の自分に言い聞かせる。


やれることはやっておこう。


情けなく、彼に助けてもらうばかりの自分から卒業するために。





「水瀬、明日はしっかり頼むぞ! 期待しているからな!」


冒険者協会、豊島区探索管理課。


関口課長から、強い……あるいは重圧を感じさせる勢いでポンポンと肩を叩かれた。


協会は、有力な冒険者や人気配信者と公式に仕事をすることは決して珍しくない。


将来の冒険者を目指す子供たちのために、現場の仕事を紹介する教育系動画を公式アカウントで出すこともある。


いわゆる、お仕事紹介だ。


逆に配信者が協会の役割を紹介し、お互いに「公認」の立場を強調し合う。


まさにWin-Winの関係。


けれど、今回の『サナサクちゃんねる』とのコラボは、協会の歴史の中でも前代未聞の事態だった。


過去にテイマーや召喚者が主役の配信はあった。


けれど、モンスター単体が配信の主体となり、人間のように振る舞い、しかもそれが世界中の視聴者を熱狂させている。


そんなチャンネルに、私のような、現場を離れて久しいド素人が出演する。


いくら担当者だとはいえ、荷が重すぎて胃がキリキリと痛む。


それでも、サク……いえ、朔と話せる。


その目的があるからこそ、私は自分を奮い立たせる。


冒険者は3年前に引退したが、あの頃使っていた装備一式は、一度も手放さずに保管してある。


引退したからといって、冒険者登録を抹消するわけではない。


自分の中で、戦うことを辞めると決めただけ。


久しぶりに、『最前線の聖女』としての装具に身を包み、ダンジョンへと足を踏み入れる。


あの事故のトラウマが、完全に消えたわけではない。


黄金に輝く巨大な龍の影。


死の匂い。


けれど、隣にあの『高梨朔』かもしれない相手がいてくれる。


それだけで、足の震えが止まるような気がした。


一応、玲司と姉さんには、まだ公表しないでほしいと念を押しつつ、今回の件を伝えた。


「必ず観る」と、二人は短い言葉の中に強い熱を込めて言ってくれた。


もし、あの二人がサクを認めるなら。


明日、サクの口から真実が、あるいは真実に繋がる言葉が語られるのなら。


私は、彼に恩返しができるように、精一杯動くつもりだ。


どうしよう。


また今夜も、期待と不安で眠れないかもしれない。


「はぁ……朔……」


独り言に、祈りを込める。





私は家で、DMを送ってくれた会社や配信者の身元を、1つ1つ丁寧に調べていた。


怪しい詐欺まがいの誘いはないか。


サクを悪意を持って利用しようとする動きはないか。


その時、机の上でスマートフォンが激しく振動した。


画面に表示された名前は『成瀬結愛』。


心臓が嫌な音を立てる。


出るしかない。


出なければ、明日以降の風当たりがさらに強くなるのは分かっていた。


「……もしもし、松田?」


「……はい、もしもし」


「明日さ、みんなで池袋で遊んでからダンジョン行くことになったから。20時にロビー集合ね。遅れないでよ」


「えっ……でも、明日は20時までシフトが入っていて……」


私が必死に断る理由を探すと、受話器の向こうで成瀬さんが鼻で笑う気配がした。


「ああ、それなら大丈夫。店長がさ、20時からの出勤を19時に前倒しして、その分早く上がらせてくれるって。店長にお願いしておいてあげたから、来れるでしょ?」


店長に……。


私が言いなりになるからといって、勝手にシフトまで調整して外堀を埋める。


悔しさと、逃げ場のない閉塞感に目眩がした。


「はい……わかりました。でも、準備とか……」


「そんなの、今日のうちにやって、明日そのまま持ってくればいいじゃん。何言ってるの? じゃあ、よろしくね」


一方的にそれだけ告げると、通話はブツリと切れた。


準備……。


もしサクに会うかもしれないなら、少しでも綺麗に見えるように、せめて薄化粧くらいはしたかった。


けれど、仕事終わりにそのまま連れて行かれるのでは、そんな余裕さえないだろう。


遅れたら、どんな罵声を浴びせられるか分からない。


「はぁ……」


私は重い溜息を吐き出し、一応サクにメッセージを送った。


「明日、20時にダンジョンへ行くことになったよ」


すぐに返信が来た。


「わかった。1層にいるね」


その簡潔な一言に込められた、圧倒的な肯定と包容力。


申し訳なさと、甘えたいという情けない安心感がぐちゃぐちゃに混ざり合い、視界が滲んだ。


泣き言を言っている暇はない。


私は鉛のように重い身体を動かし、明日、地獄のような同行の準備に取り掛かった。


そこに、彼がいてくれることだけを唯一の救いにして。

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よろしくお願いいたします。

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