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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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ちょっくらいただきますよ

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

洞窟の湿った冷気が、薄いダークグレーの肌を撫でる。


目の前には、1人の冒険者が背を向けて立っていた。


俺は岩陰に身を潜め、ぷっくりと出た腹を地面に擦りつけながら、じっとその背中を観察する。



革の鎧を身に纏い、腰にはショートソードを下げている。


その立ち居振る舞いにはどこか隙が多く、熟練の冒険者というよりは、つい最近この道に入ったばかりの「新人」という印象を受ける。


なぜ自分がそんな分析を瞬時に行えるのか、今の俺には分からない。


ただ、体は小さくなっても、頭のどこかに刻み込まれた「知識」が、目の前の相手をそう評価していた。


(……インプ。俺は、インプなんだよな)


自分の姿を改めて思い出す。


ダークグレーの肌、丸っこい腹、そして細長い尻尾。


インプというモンスターがどんなスキルを持っているか、それも朧げな記憶の中にあった。


確か、こそこそと冒険者の持ち物を掠め取る「コソ泥」のようなスキルがあったはずだ。


(ステータス、見れるのかな……?)


そう念じてみると、視界の端に半透明のウィンドウが浮かび上がった。


名前:なし 種族:インプ レベル:1

HP:12/12

MP:20/20

筋力:G (6)

耐久:G (3)

敏捷:E (120)

器用:G (32)

魔力:F (50)

運 :F (50)

■スキル

透明化、盗む


「……やっぱりこれか。敏捷だけが救いだな。というかインプってこんなに速かったか?」


心の中で呟く。


スキルに意識を向けると、詳細が浮かび上がってきた。


『透明化』:短時間、自身の姿を透明化させる。消費MP2。


『盗む』:対象から所持しているアイテムを盗む。成功率は器用値と運による。消費MP1。


ステータスは、文字通り「最下層」と言っていい。

特に「器用」がGなのが痛い。


今の俺に、まともに盗みなんて成功させられるのだろうか。


だが、このままじっとしていても腹は減るし、いつかは冒険者に狩られるだけの存在になってしまう。


(やるしかない……!)


俺は呼吸を整え、スキルを起動した。


『透明化』を使用。


自分の体が、まるで水に溶けるように周囲の景色と同化していくのが分かる。


そしてしっかり、MPが2消費された。


俺は慎重に、音を立てないように冒険者の背後へと近づいた。


ペタ、ペタ、と自分の足音が岩壁に反響しているように感じる。


あまりの緊張に、心臓が爆発しそうだ。


そして、冒険者の背後にピタリと張り付く。


その使い込まれたカバンを見据え、俺は『盗む』を念じた。


『スキル:盗む が失敗しました』


その瞬間、冒険者が「ん?」と声を漏らし、勢いよく後ろを振り返った。


(ヤバい……!!)


俺はとっさにその場でしゃがみ込む。


果たして透明化している最中にしゃがむことに意味があるのか、自分でも分からない。


だが、冒険者は首を傾げながらしばらく周囲を見回した後、再び前を向いて歩き出した。


 (バレて……ないのか?)


安堵の溜息を漏らす。


さすがに一発目から成功するほど、世の中は甘くないらしい。


失敗すれば今のように違和感を持たれ、最悪の場合は居場所を特定されて斬り殺される。


文字通り、命がけのギャンブルだ。


(一か八か……もう1回!)


俺はもう一度、『盗む』を使用する。


『スキル:盗む が成功しました』


手の中に、確かな感触を感じた。


俺は急いでその場を離れ、岩陰に転がり込むようにして隠れた。


手元を確認すると、そこには細長い紙があった。


自分の名前すら思い出せないというのに、ダンジョンの知識や、現代社会の「当たり面なもの」は、記憶の隅に残っているらしい。


そう、今俺が手に持っているのは。


(…………レシートかよ)


クソッ! 命がけで手に入れた初めての戦利品が、コンビニのレシート。


品目には「メロンパン」と「緑茶」の文字。


俺が欲しいのは中身なんだよ!


(だめだ、一旦引こう)


俺はその後も、安全な場所でMPの回復を待ちながら、通りかかる冒険者たちから盗みを続けた。


器用さが足りないせいか、失敗も多かったが、それでもいくつかの戦利品が手元に残った。


・レシート

・本『こそこそせずに自分を出してみよう!』

・蜂蜜のど飴

・Club Ocean 咲乃姫香の名刺

・みかん 2つ

・手作り巾着(花柄)


(……みかんとのど飴は、まあいい。食べられるからな。巾着も、盗んだものをまとめるのには使える。だが……)


俺は、地面に転がる自己啓発本と、キャバクラの名刺を睨みつけた。


(自分を出せるなら、もうとっくに出してるんだよなぁぁぁぁぁ!!)


今の俺の、この「インプ」という状況を全力で煽ってくるようなタイトルの本を、岩壁に投げつけたくなる衝動をグッと我慢する。


とりあえず、盗んだものを花柄の巾着に詰め込み、それを大事に抱えてトテトテと歩き出した。


しばらく歩くと、ダンジョンの出入口のような場所に出た。


そこには、何やら大きな声で独り言を話している冒険者がいた。


俺は反射的に岩陰に隠れ、その声を聞いた。





「はい、ということで始まりました! ケンちゃんのケンちゃんねる! 今日は豊島区にあります、池袋ダンジョンに来ております!」


(池袋ダンジョン……!? ここは、池袋だったのか……)


池袋ダンジョンという名前は記憶にあった。


なぜ、あの「新宿」で息絶えたはずの自分が、ここでインプとして生まれ変わったのか。


そんなことを考えていると、自称・ケンちゃんという冒険者は、カメラを従えて奥へと進んでいく。


彼の周囲には、小型ドローンが羽音を立てて飛んでいた。


あのドローンは、スマートデバイスと連携された冒険者専用の撮影機材だ。


ネットの閲覧、配信機能、連絡、自動マッピング、そして救難信号。


この機能に加え、ダンジョン内配達ドローンもあり、頼んだデバイスの位置まで配送してくれるサービスもある。


重量制限や、ボスフロアには届けられないなどの制限もあるが、現代の冒険者にとって、それは装備と同様に、大事な道具と言っても過言ではない。


(ケンちゃん……何か、良いもの持ってないかな)


俺は彼をターゲットに定め、こっそりと後をつけた。


ちょうどドローンの死角に入り、再び『透明化』を実行する。


「いやぁ、俺も池袋は久しぶりなんですよぉ! 最近は高円寺や中野に潜ってるんですが、駆け出しの配信勢なんで、なかなか上手くいかなくて……」


ケンちゃんがリスナーに向けてペラペラと喋っている隙を突き、俺は『盗む』を試みた。


『スキル:盗む が失敗しました』


「あれ……? おかしいな……」


ケンちゃんが足を止める。


彼の腕にあるデバイスには、リスナーからのコメントが次々と流れていた。


名無し:なんだよ、どうしたの?


「いや、今、誰かにカバンを触られたような気がしたんだよね……」


:やめろよ、今家に1人なんだわ

:心霊生配信とか最高やん

:ここには無数のクソ雑魚モンスターの霊がいますねぇ

:草


「ははは、まあ気のせいだって! 何も映ってなかったでしょ?」


ケンちゃんが笑いながら再び歩き出す。


俺は冷や汗を拭い、もう一度『盗む』を使用する。


『スキル:盗む が成功しました』


手の中に、ずっしりとした重みを感じる。


俺は急いで距離を取り、物陰で戦利品を確認した。


・取得アイテム:手作り弁当


(……っ! 食べ物だ!!)


食べ物が手に入る喜びを爆発させたい気持ちを抑え、俺は手作り弁当を大事に抱えた。


そのまま、先ほど見つけた湧き水の流れる、あの水たまりへと急いだ。


(弁当に、みかん。……最高じゃないか)


水たまりの縁に座り、いそいそとお弁当の蓋を開ける。


中には、白米と卵焼き、少しの野菜にこんがりと揚がった唐揚げが3つ入っていた。


箸なんて洒落たものはないし、爪が少し邪魔だが、俺は唐揚げを1つ手掴みで頬張った。


にんにくと生姜が効いた、醤油ベースの味付け。


鶏肉の旨味が口の中に広がり、得も言われぬ幸福感が俺を包み込む。


俺はあまりの美味さに、口の中にある唐揚げに、さらに米を追加してやろうとした。


「ゲギャ(なんだお前)」


その時、聞き捨てならない醜い声が響いた。


顔を上げると、そこには緑色の肌をした小鬼――ゴブリンが1匹、錆びた短剣を手にしてこちらを見ていた。


同じモンスターだからか、不思議と奴の言葉が理解できる。


(……なんだお前って言われてもな。飯を食ってるインプとしか答えられないんだが)


「よこせ! それをよこせ!」


ゴブリンは対話の余地なしと判断したのか、突如として襲いかかってきた。


錆びた短剣を闇雲に振り回し、俺の食事を奪おうとする。


「おまっ! やめろって!! あっ……!」


もみ合った拍子に、俺の手からお弁当が滑り落ちた。


ひっくり返ったお弁当箱。


せっかくの白米も、残りの唐揚げも、地面の泥に塗れて無惨な姿になる。


(……まだ、唐揚げ 1個 しか食べてないのに……)


ゴブリンは「ゲギャギャ!」と醜い笑い声を上げながら、地面に散らばったぐちゃぐちゃの弁当の中身を、汚い手で掴んで口に運び始めた。


(……許せん)

ふつふつと、心の底から怒りが込み上げてくる。


前世の記憶はないが、この「理不尽」に対する怒りだけは、魂が憶えているようだった。


「ギィ(……透明化)」


俺の姿が、景色に溶ける。


いきなり目の前から敵が消えたことに驚いたゴブリンは、口に米を詰め込んだままキョロキョロと周囲を警戒し始めた。


俺は音を立てず、ゴブリンの真後ろへと回り込む。


「ギィ(『盗む』)」


『スキル:盗む が成功しました』

・取得アイテム:錆びた短剣


ゴブリンの手から、武器が消えた。


「ギャッギャ!?(武器が、俺の短剣が!?)」とパニックになり、空中で手をバタつかせるゴブリン。


奪った短剣を握りしめると、俺の透明化がその武器にも適用され、見えなくなった。


俺は、狂ったように騒ぐゴブリンの首筋を冷ややかに見据えた。


「ギィッ!(死ね!)」


見えない短剣を、全力でゴブリンの首筋に突き刺した。


「グギャ……」という短い断末魔。


首筋から鮮やかな緑色の血飛沫が噴き出し、ゴブリンは膝から崩れ落ちた。


やがてゴブリンの死体は黒い霧となって霧散し、その場には『ゴブリンの爪』と、1つの小さな紫色に光る石が残された。


(魔石か……)


モンスターである俺に使い道があるかは分からないが、念のためもらった巾着の中に放り込んだ。


いつか、何かの役に立つかもしれない。


俺は、泥に塗れた唐揚げの残骸を悲しげに見つめた後、小さく鼻を鳴らした。


第2の人生(?)における、初めての実戦。


その勝因は、俺の知識でも技術でもなく。


「お弁当を台無しにされた怒り」という、極めて個人的な理由だった。




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