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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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黄金の終焉と転生

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

この世界にダンジョンが発生してから10数年。


当時中学生だった俺、高梨 朔は、テレビや動画、雑誌の向こう側で輝く冒険者たちに強く憧れた。


ダンジョン資源が豊富な日本において、国は冒険者への待遇を手厚くしていた。


高額な報酬、充実した保険、そして何より「レベル」という明確な強さの指標。


レベルが上がれば筋力も敏捷性も、およそ人間とは思えない域まで到達する。


なりたい職業ランキングでは常に1位を独占。


人気冒険者はインフルエンサーや芸能人としても持て囃され、大手スポーツメーカーやブランドのモデルを務めることすら珍しくない。


だが、その華やかさの裏には常に「死」が隣り合わせだった。


中学を卒業し、15歳で免許を取得して冒険者登録を済ませた俺は、それから9年の月日をダンジョンに捧げた。


24歳になった俺は、いつしか「上級冒険者」と呼ばれる立ち位置にいた。


「よし、索敵に異常なし。……行くぞ」


俺は短刀を握り直し、パーティの面々に声をかけた。


4人パーティ『フロントライン』。


リーダーで鉄壁の盾を持つタンク、相馬 武晴。


広域殲滅を得意とする魔導師、黒崎 玲司。


献身的な治療で幾度も俺たちの命を繋いできたヒーラー、水瀬 綾香。


そして、シーフ系ジョブのシャドウアサシンとして斥候と遊撃を担う俺、高梨 朔。


全員がレベル50台。中堅どころか、実力派パーティとしてその名を知られ始めていた時期だった。


俺たちは今、新宿ダンジョンの28階層を攻略していた。


「様子がおかしい。モンスターが1体も湧かないなんて変だろ」


相馬が重厚なタワーシールドを構え、眉を潜める。


俺も周囲に神経を研ぎ澄ませたが、奇妙なほどに静まり返っていた。


「探知も何もかも引っかからない。間違いなく何かが起きている」


「引き返すか……?」


黒崎が杖を握り直し、不安げに呟く。


相馬は苦渋の決断を迫られるような顔をしたが、周囲を確認しながら言った。


「いや、引き返すにしても、この異常事態を報告したい。もう少しだけ状況を確認して……」


その瞬間だった。


俺たちの会話は、暴力的なまでの「光」によって遮断された。


視界が真っ白に染まり、轟音が鼓膜を突き破る。


受け身を取る暇もなく、俺の体は紙屑のように吹き飛ばされ、硬い岩壁に激突した。


「ガハッ……!」


肺から空気が全て漏れ出し、焼けるような痛みが全身を走る。


何が起きたのか理解できないまま、俺は手探りで仲間を呼んだ。


「相馬……黒崎……綾香……っ!」


ようやく光が収まり、視界が戻ってきた時、そこには地獄が具現化していた。


体長10メートルを超える巨躯。


半透明の結晶のように輝く鱗。


その隙間から淡い黄金の魔力が脈打ち、頭部からは水晶のような角が流麗に伸びている。


この階層には絶対に存在するはずのない、なんのデータもないイレギュラー。


神々しい程の龍。


その怪物を見上げる俺の視界に、無残な光景が飛び込んできた。


黒崎が、意識を失った綾香を必死に抱えている。


そして……その足元には、相馬が愛用していた盾の破片と、それを持っていたはずの「肉片」が転がっていた。


「……っ!」


奥歯が砕けるほど噛み締める。


悲鳴を上げる余裕すらない。


あの怪物の瞳が、俺たちを「排除すべきゴミ」として認識したのが分かったからだ。


「黒崎!」


俺は振り返らずに絶叫した。


「綾香を連れて逃げろ!!」


「でも――朔はどうするんだ!」


「いいから行け! 死にたいのか!!」


俺の声に弾かれたように、黒崎が綾香を背負って走り出す。


龍の黄金の瞳が、逃げる2人へ向けられた。


「……上等だ。お前の相手は俺だろうが」


朔は腰のダガーを逆手に握り、魔力を練り上げる。


今の自分にできる、最大効率の攪乱。


「《シャドウミラージュ》!」


足元の影が爆発的に広がり、俺の姿が3体に分裂した。


3人の俺が、別々の方向へと同時に駆け出す。


龍の視線が僅かに揺れ、標的を絞りきれずに停止した。


「今だ!」


本体の俺は地面を滑るように走り、岩柱の死角へ潜り込む。


同時に、瞬時に設置した魔力のワイヤーを起動させた。


「――《ダークワイヤートラップ》!」


硬質な金属音が響き、高強度の魔鋼糸がドラゴンの巨躯を絡め取る。


だが、そんなものは抵抗にすらならなかった。


ブチィィィンッ!


紙を引きちぎるような音と共に、ワイヤーは一瞬で霧散した。


その巨躯が動いただけで、空気が震えた。


まるで、この空間そのものが怪物に怯えているようだった。


「やっぱ無理かよ……!」


思わず苦笑いが漏れる。


最初から倒せるなんて思っていない。


1秒でも長く、あいつらが脱出ゲートへ辿り着くまでの時間を稼ぐ。


そのためだけに、俺はこの命を投げ打つと決めた。


龍が大きく口を開ける。


周囲の魔素が急速に一点へと収束し、太陽のような光球が形成される。


「くそ、ブレスかよ……!」


全力で壁を蹴る。


影分身の1体が光の奔流に飲み込まれ、塵一つ残さず消滅した。


残るは、俺を含めて2体。


俺はドラゴンの側面へと跳躍した。


せめて、その瞳の1つでも潰してやれば、追撃を遅らせられるかもしれない。


腰から二対の短剣を引き抜く。


「目くらいは、持っていかせろ――!」


両手に持つ短剣を振り下ろそうとしたその瞬間。


ドラゴンの黄金の瞳が、空中にいる俺を正確に射抜いた。


「……マジかよ」


逃げ場のない空中。


龍が、その大きな顎を開く。


それは瞬き1つにも満たない、一瞬の出来事だった。


ただの人間である俺は、その一瞬で喰われる。


(ああ、終わった)


そう思った瞬間、俺の視界は闇に飲み込まれた。





……熱い。いや、冷たいのか?


感覚が麻痺していて、自分がどうなっているのか分からない。


俺は死んだのか?


いや、あの状況で生きているはずがない。


それなら今、俺の思考が動いているのはなぜだ?


俺は……そもそも……誰だった……?


記憶の断片が、霧の向こう側でぼやけている。


かろうじて冒険者だった記憶と、あの新宿ダンジョンで見た黄金の龍の姿だけが、焦げ付いたように残っていた。


困惑しながら、俺は重い体を起こそうとした。


「ギィ……ッ!?」


自分の口から出たのは、人間の言葉ではなく、魔物のような鳴き声だった。


待て、何だ今の声は。


混乱したまま、俺は自分の視界に映る「手」を見た。


「…………」


そこには、ダークグレーの肌をした、子供のように小さな手があった。


指先には、ナイフのように鋭く尖った爪。


視線を下げれば、丸々とした、ぷっくりと突き出た腹。


後ろを振り返れば、コウモリの様な羽と、細長い尻尾がパタパタと情けなく動いている。


(なんだこれええええええええ!!!!)


心の中で叫んだ。声にならない悲鳴が頭を支配する。


視界が極端に低い。


まるで世界が巨大化したかのような錯覚。


いや、違う。


俺が小さくなったんだ。


発狂しそうな衝動を抑え、俺はトテトテとぎこちない足取りで歩き出した。


重心が安定せず、すぐに転びそうになる。


しばらく進むと、洞窟の壁から水が滴り、小さな水たまりを作っている場所を見つけた。


喉が焼けるように乾いている。


水を飲もうと手を伸ばすが、この不格好な手では上手く掬うことができない。


情けなくて、はぁ……と溜息をついた。


そして、水たまりに映った「自分」の姿を、真正面から捉えた。


(えっ……インプ……?)


それは、ダンジョンの1層や2層といった低層域に生息する、ゴブリンやスライムと並べられるモンスター。


初心者冒険者が出会い、レベル上げの餌食にする、悪魔のなり損ない。


一応、悪魔系に分類されるが、その丸っこいフォルムから、地上では「ゆる可愛い」とぬいぐるみまで売られているような、ゆるキャラモンスターだ。


(嘘だろ!! これは夢だ……最悪の悪夢なんだ!!)


俺は必死に自分の頬を抓ろうとした。


夢から覚めろ、と念じながら。


だが、インプの鋭い爪が柔らかい頬に深く突き刺さり、鮮烈な痛みが走った。


「ギギィィッ!」


痛い。


めちゃくちゃに痛い。


そして、その痛みが、この現実が無慈悲な本物であることを証明していた。


刺さった傷の痛みなのか、それとも絶望からなのか、勝手に目から涙が溢れてくる。


(俺はなんなんだ。いや、俺は人間だ。名前は……ええと、あれ……なんだ?)


記憶を必死に手繰り寄せる。


新宿ダンジョンでイレギュラーの龍に殺された、上級冒険者。


仲間がいた。


俺が逃がしたはずの仲間。


誰だったか。


シルエットは思い出せるのに、顔と名前が霧に巻かれたように思い出せない。


ただ、胸の奥に燻るような「未練」と「悔しさ」だけが、今の俺を突き動かしている。


(……考えていても仕方ないよな。ここでじっとしていたら、今度は俺が冒険者に狩られる番だ)


インプとしての体は、驚くほど軽かった。


筋力は皆無に近いが、敏捷性だけは妙にある。


俺はグスッと鼻を鳴らし、インプの体でダンジョンの奥へと踏み出した。


人間だった頃の記憶は殆ど思い出せない。


冒険者として、生き延びるための技術は使えないのかもしれない。


そして、モンスターとしての、この新しい体。


「ギィ《やってやるよ》」


まずは食い扶持だ。


俺は、近くを通りかかった冒険者のカバンに目をつけた。



前世では上級冒険者として死んだはずの男の、モンスターとしての第2の人生。


その幕開けは、情けなくも、生きるための「コソ泥」から始まった。



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