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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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3層の住処

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

紗奈たちの姿が転移石の光の中に消えていくのを最後まで見届けた俺は、名残惜しさを振り払うようにして、3層へと続く階段を下り始めた。


2層の瑞々しい森の空気とは打って変わり、階段を下りるごとに冷たく、乾燥した「死」の匂いが鼻をつくようになる。


辿り着いた3層――そこは、かつて高度な文明が存在したことを予感させる、古びた遺跡がモチーフとなっていた。


壁には消えかかった魔導灯や、誰が灯したのかも分からない松明が揺らめき、複雑に入り組んだ通路の奥からは、カラン……カラン……という、乾いた骨同士が触れ合う音が反響している。


通路の角を曲がった先で、俺を待ち構えていたのはレベル5のスケルトン数体だった。


(……さて、挨拶代わりといこうか)


以前、下見程度に足を踏み入れた時は、その数と不気味さに多少の圧迫感を覚えたものだが、今の俺は違う。


レベル20に到達し、『シャドウスティーラー』へと進化した俺の眼には、彼らの動きはあまりにも緩慢に映った。


カタカタと顎を鳴らしながら襲いかかってくるスケルトンだったが、俺は短剣を抜き、難なく狩っていく。


その後も続々と湧くスケルトンたち。


その中でも一部のスケルトンはパーティの様なものを組んでいる。


スケルトンのパーティは、ナイトが前衛で壁となり、後衛のメイジとアーチャーが魔法や矢で援護するという、初歩的だが厄介な陣形を組んでいた。


だが、今の俺にとってそんな連携は脅威にすらならない。


「(『ファイヤーボール』!)」


俺は後衛のメイジたちに向けて、牽制の火球を放つ。


直撃させる必要はない。


爆発の光と熱で彼らの視界と陣形を乱せば十分だ。


案の定、骨の魔法使いたちが狼狽えた瞬間、俺は一瞬でナイトの懐へと滑り込んだ。


「(おらよっ!)」


関節の隙間に短剣を突き立て、抉るように回転させる。


確かな手応え。


頸椎を砕かれたスケルトンナイトは、維持していた魔力を失い、バラバラと音を立てて崩れ落ちた。


続けて、混乱が収まらないアーチャーの眉間に予備の短剣を投擲する。


弱い。


いや、正確には「俺が強くなりすぎた」のだ。


レベル20の『シャドウスティーラー』にとって、3層のスケルトンたちはもはや脅威ではなく、向こうから勝手に歩いてきてくれる「自動供給の経験値素材」に過ぎなかった。


この立ち回りが確立してからは、文字通りのバイキング状態だった。


通路を歩く。


敵を見つける。


効率的な順序で破壊する。


ドロップした極小魔石や小魔石(赤)を回収し、シャドウインベントリへ放り込む。


この繰り返しだ。


スケルトンというモンスターは、他の魔物と違って独特の「軽さ」がある。


肉や血といった生体組織を持たず、骨と魔力だけで構成されているため、急所を突けば驚くほどあっけなく霧散する。


コボルトのように獣の本能で無理やり距離を詰めてくることもなければ、ゴブリンのように姑息な罠を仕掛けてくることもない。


決められたアルゴリズムで、決められた陣形を組むだけの彼らは、俺にとって、これ以上ないほど「攻略しやすい」獲物だった。


アーチャーの放つ『狙い撃ち』の矢も、その予備動作さえ覚えてしまえば回避は容易だ。


俺は流れるような動きで遺跡を突き進み、インベントリの中に魔石の山を築き上げていった。


「(……これなら、しばらくはここを拠点にして良さそうだな)」


俺は手応えを感じながら、奥へと足を進めた。





狩りの合間を縫って、俺は3層での「住処」探しを本格的に開始した。


遺跡フロアというだけあって、生活の拠点になりそうな場所はいくつも点在している。


だが、どれも一長一短だった。


最初に候補に挙がったのは、巨大な石柱が倒れて天然の屋根のようになっている隙間だ。


視認性は悪くないが、そこは冒険者の主要な巡回ルートに近すぎた。


3層を安定して攻略できる冒険者たちは、獲物を求めて隅々まで探索する。


下手にここで寝泊まりしていれば、いつか鉢合わせになるのは目に見えていた。


次に、壁が崩落して半壊した小部屋を見つけた。


広さもあり、扉の残骸で入口を隠せば安全性も高そうだった。


だが、致命的な欠陥があった。


天井の状態だ。


近くの通路で戦闘が発生し、振動が伝わるたびに、天井から石材がパラパラと落ちてくる。


「睡眠中に崩落した石板で圧死しました」なんて、モンスターに転生した俺の死に様としては笑えない冗談だ。


その後、床が大きく抜けた先にある地下空間も調査した。


そこは薄暗く、冒険者が入り込む理由もない理想的な隠れ家に見えた。


だが、そこには先住のスケルトンたちが群れを作っていた。


追い払うのは簡単だが、ダンジョンの特性上、倒してもいずれ同じ場所にリポップしてしまう。


骨の軍団とルームシェアをする趣味はない。


俺は溜息をつきながら、別の場所を探すことにした。


探索を始めてからおよそ1時間が経過した頃。


遺跡の北側、外壁が大きく崩れ、瓦礫の山に埋もれた箇所に俺の目は釘付けになった。


瓦礫の隙間に、大人の人間が這いつくばらなければ通れないほどの狭い隙間がある。


その気で探さなければ、ただの瓦礫の山にしか見えない場所だ。


「(……ここか?)」


俺は小さな身体を活かして、その隙間を潜り抜けた。


すると、その先には思いがけないほど広々としたドーム状の空洞が広がっていた。


天井は高く、湿気も少ない。


壁に手を触れてみれば、それは脆い石材ではなく、強固な岩盤であることが分かった。ここなら崩落の心配はない。


さらには周囲を複雑な瓦礫に囲まれているため、スケルトンの巡回ルートからも完全に外れている。


「(完璧だ。ここを俺の『3層ハウス』に決定する!)」


俺は早速、シャドウインベントリの中から「家財道具」を取り出し始めた。


以前、冒険者から『失敬』したハンカチ、花柄の巾着など。


1層の岩場にいた頃は、ただの「盗んだ記憶」が染みついた雑多なものに過ぎなかったが、今や俺の生活を彩る立派なインテリアだ。


冷たい床にハンカチを敷き、巾着を枕代わりに並べてみる。


不思議なことに、1層の開けた岩陰にいた時よりも、この狭く暗い空洞の方が、ずっと心が落ち着くような気がした。





拠点の整備が終わったところで、俺は壁に背を預けてどっかりと腰を下ろした。


さて、ここからは今日一番のお楽しみの時間だ。


俺はシャドウインベントリを弄り、紗奈から受け取った「宝物」を取り出した。


手作りの大きなおにぎり。


醤油の香りが食欲をそそる唐揚げ。


そして、魔法瓶にたっぷりと入った味噌汁だ。


不思議なことに、インベントリの中は時間の流れが停止しているのか、取り出した料理はまだ温かかった。


唐揚げが入った容器の蓋を開け、水筒のキャップに味噌汁を注ぐ。


出汁の香りが狭い空洞いっぱいに広がり、俺の鼻腔をくすぐった。


俺はおにぎりを1つ手に取り、丁寧にラップを剥いていく。


「(紗奈……本当に感謝だ)」


俺は小さく手を合わせ、「いただきます」と心の中で呟いてから、おにぎりを大きく一口頬張った。


……瞬間、衝撃が脳を突き抜けた。


ふっくらと炊き上げられた米の甘みと、絶妙な塩加減。


そして中から溢れ出す、脂の乗った鮭のしょっぱさ。


噛みしめるたびに、味覚の全細胞が歓喜の悲鳴を上げているのが分かる。


あまりの美味さに白目を剥きそうになりながら、続けて唐揚げを口に放り込んだ。


衣はサクッとした食感を残しており、中からは醤油ベースのタレが染み込んだ肉汁がじゅわっと溢れ出す。


「(んぐっ……美味い……美味すぎる……)」


熱々の味噌汁を流し込めば、出汁の深みが胸の奥まで染み渡り、身体が内側からポカポカと温まっていく。


気づけば俺は、無心で食べ続けていた。


味わって食べるつもりだったのに、手が止まらない。


最後のおにぎりを飲み込み、水筒の中身を最後の一滴まで飲み干したとき、俺の目の前には空っぽの容器だけが残されていた。


「(あぁぁぁぁぁ!!!やってしまった……明日まで残しておけばよかった……!)」


後の祭りだ。


俺は自分の自制心のなさを呪いながらも、満たされた胃袋の多幸感に浸る。


ラップの残骸と空の弁当箱をインベントリに片付け、俺は次の「デザート」を取り出した。


今日1日で集めた、極小魔石と小魔石(赤)の輝く山だ。


「(……いただきます)」


ボリボリ、バリバリ……。


静かな空洞に、硬質な結晶が砕ける快音が響き渡る。


口の中に広がる魔素の濃厚な甘み。


レベルアップの熱が身体の隅々まで巡り、魔力の回路が太くなっていく感覚。


『レベルが上がりました』


脳内に響く無機質なシステム音声が、今はどんな音楽よりも心地よい。


俺は魔石を頬張りながら、空いた手でデバイスを操作し、情報収集を始めた。


SNSアプリ『Current』を開くと、俺の予想を遥かに超える光景が広がっていた。


タイムラインには「サナサクちゃんねる」の文字が溢れ、俺の進化シーンの切り抜き動画は、すでに何万回も再生されている。


「サクの正体は何か」「あのスキルは既存のジョブにあるのか」という考察スレッドが乱立し、コメント欄には英語や中国語といった他言語のメッセージまで混じり始めていた。


「(……なんか、本当にすごいことになってるな)」


俺という存在が、世界中の人間に観測されている。


その事実に少しくすぐったいような、不思議な高揚感を覚えながら、俺は紗奈にメッセージを打ち込んだ。


『3層の住処、決まったよ。安全な場所だから安心して。それと、ネットショッピングも始めてみる。……あと、おにぎりも唐揚げも味噌汁も、最高に美味しかった。本当にありがとう』


返信を待ちながら、俺はデバイスを傾けてポリポリと魔石を1つ追加で口に放り込んだ。


元人間がモンスターに転生して、ダンジョンの暗い空洞でおにぎりと魔石を食う生活。


普通なら絶望するような状況かもしれないが、不思議と悪くない気分だった。


俺はそのまま、デバイスに入っているネットショッピングアプリ『Nexmart』を起動した。


このアプリは、武器やポーションといった冒険者用の備品から、日常生活用品、さらには娯楽グッズまで、あらゆる商品を注文できる優れものだ。


注文した商品は、専用の「配送ドローン」がダンジョンの内部まで直接届けてくれる。


ただし、ドローン1機が運べる重量は30kgまで。


そして何より、配送料がえげつない。


基本料金が5000円。そこから1階層深くなるごとに500円が加算される。


3層なら配送料だけで6500円だ。


深層になればなるほど、配送ドローンの撃墜リスクが上がるため、この価格設定は当然なのだという。


今の俺の手元には1円もないが、いずれ紗奈が配信収益や素材の売却金を電子マネー『DPay』として送金してくれるはずだ。


俺は未来の自分への期待を込めて、カタログの中から「ふかふかのクッション」や「便利な調理器具」をポチポチとチェックリストに入れていった。


(……悪くない 1 日だったな。明日はもっと、奥まで行ってみるか)


最後の魔石を口に放り込んだ頃にはレベルがもう一つ上がった。


俺は満足げに尻尾をパタパタと揺らしながら、新しい住処の暗闇の中で、デバイスを触り続けた。


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