2度目の配信、やっぱりこうなる
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
俺の合図と共に、俺と紗奈、そしてグレイとリリによる初めての共同攻略配信がスタートした。
俺たちは順調に、1層のボスフロアを目指して洞窟の中を進んでいく。
週末ということもあってか、エントランス付近から通路の至る所に冒険者の姿があった。
「(今日は人が多くて、モンスターとの戦闘がなくて暇ですね)」
カメラを構える紗奈が、俺の言葉を拾って視聴者に通訳する。
「……えっと、サクが『今日は人が多くて、モンスターとの戦闘がなくて暇ですね』って言ってます。まあ、今日は週末だしね。お休みを利用して潜ってる兼業冒険者の人が多いんじゃないかな?」
俺はカメラに向かって、少し大げさに肩をすくめて見せた。
「(俺はモンスターなので、毎日が戦場、毎日が仕事なんですけどね!24時間、元気に働けますわ!)」
俺はビシッと指を立てて、ポーズを決める。
:社畜モンスターw
:シャチモンやんけ
:モンスターの世界も世知辛いな……可哀想に
:おい、今の俺とまったく同じ生活なんだが、俺はいつからモンスターになったんだ?
:見た目は可愛いのに中身が苦労人すぎるw
コメント欄が賑やかになっていく。
視聴者とのこの距離感が、配信の醍醐味だ。
そんな中、前方に動く気配を捉えた。
「(お、見てください。あそこにゴブリンが2体いますね。では、サクッと討伐してきます)」
俺は腰に差している2本の短剣を抜き放ち、地面を蹴った。
その踏み込みは、低層モンスターの反応速度を遥かに凌駕していた。
:はやっ!!
:おい、今の加速なんだ!?
:低層に居てはいけない動きしてるだろ
「サク、速っ!!」
紗奈の前で本気の戦闘を見せるのは、これが初めてだったな。
そんなことを一瞬だけ考えながら、俺は1体目のゴブリンの懐に潜り込み、その首を鮮やかに跳ね飛ばした。
断末魔の声すら上げさせない、完璧な一撃だ。
:強くなってねぇか!?
:やばすぎw動きがキレッキレだ
:まあゴブリンだし、多少はね?
続けて地面を大きく蹴り、もう1体のゴブリンが棍棒を振り上げる前に、その眉間へと短剣を突き刺す。
ゴブリンはピクッと小さく痙攣し、そのまま黒い霧となって消滅した。
後に残ったのは、2つの極小魔石だけだ。
:動きが完全に上位のシーフ系なんだが
:これ、もしかして「モンスターから学ぶ短剣講座」とかできそう
:見た目からは想像できないエグい動きだ……
俺は転がっている魔石を拾い上げ、カメラに向かって提示した。
「(こんな感じで、いつもモンスターを狩ってます!……あ、紗奈、ちょっとそこから離れて)」
紗奈「離れて?どうしたの?」
不思議そうな顔をしながらも、紗奈は俺の指示通りに距離を取る。
「(グレイ、リリ、ちょっとこっちに来て!)」
俺が手招きすると、ベビーウルフのグレイはトテトテと歩き、フェアリーのリリは羽をキラキラさせながらふわふわと近づいてきた。
:ベビーウルフとフェアリーだ!
:この3匹が並んでるのマジで可愛すぎる
:ウルフもフェアリーもテイマーには人気のモンスターだよね
俺は2匹に小声で指示を出し、彼らがコクンと頷くのを確認してからカメラに向き直った。
「(皆さん。このようにモンスターを倒すと、素材や魔石がドロップします。この魔石は、人間にとっては換金して売却するものや、エネルギー資源として利用するもの、という認識ですよね)」
:お、なんか講義が始まったぞ
:通訳の紗奈ちゃんがいるとマジで助かるな
:ちゃんと魔石のお勉強ができて偉いねサクちゃん
わざとらしく魔石を指で弄びながら、俺は発表者のように右に左に歩きながら解説を続ける。
「(ですが、この魔石……俺たちモンスターにとっては、食料であり、空腹を満たしながら、しっかりと経験値を得ることができる成長の源なんです)」
まあ、知識のある人間なら知っていることだろうが、あえて「当事者」であるモンスターの口から語ることに意味がある。
:モンスターの口から直接聞くと、なんか実感が違うな
:質問!魔石の色や大きさによって、味って変わるの?
紗奈「サク、視聴者さんから質問が来てるよ。『魔石によって味は変わるの?』だって」
「(そうだね。俺の感覚だけど、極小魔石は例えるならブドウ。赤い小魔石は芳醇なマンゴーかな。他の色の魔石はまだ食べたことがないから分からないけど、そのうちステーキ味とか唐揚げ味とか出てくるのかな?)」
:食いしん坊モンスターめw
:これもう中身に人間が入ってる着ぐるみだろ
:なんでブドウとかマンゴーの味を知ってるんだよw
:そりゃサナちゃんが食べさせてあげてるんだろ、たぶん
「(こうして、魔石を仲間のモンスターにあげると……)」
俺はグレイとリリに向かって、極小魔石をふわりと放り投げた。
芸をするように空中でパクリと食べるグレイ。
対照的に、リリは小さな手で器用にキャッチして、嬉しそうに掲げている。
「(このように、モンスターは喜んで食べるんですね。これが彼らにとっての最高のご馳走なんです)」
:ベビーウルフもフェアリーもお利口さんだなぁ
:リリちゃんがニコニコしながら食べてるの、天使かよ
:マジでテイマーになりたくなってきた……羨ましい
俺は一度言葉を切り、手の中にある青い輝きを見つめた。
「(そして、なんと!今ここには、2層のボスから手に入れた『青い小魔石』があります。皆さんの前で、初めてこれを食べてみたいと思います。紗奈、いいか?)」
俺はシャドウインベントリから大事に保管していた小魔石(青)を取り出した。
:収納スキル持ちとか優秀すぎる
:そのスキル、マジで俺も欲しいんだが
「もちろんだよ!」
視聴者の期待が集まる中、俺は青い結晶を口に運んだ。
一体、どんな味がするんだろう。
「(……んっ。……お、おお!!)」
口に入れた瞬間、衝撃が走った。
「(なんだこれ!?口の中がパチパチ、シュワシュワしてる!美味しい!)」
:ソーダとかラムネみたいな感じか?モンスターに伝わるかは分からんが
:食リポ系モンスター、いいぞ!もっとやれ!
:俺、試しに極小魔石を齧ったんだけど、無味無臭だし石みたいに固くて噛めなかったわw
:当たり前だろw
身体の細胞ひとつひとつまで、パチパチとした刺激と清涼感が広がっていく。
今までの魔石とは比べ物にならないほど濃密なエネルギーを感じる。
これはこれで、かなり好みの味……。
――その時だった。
『レベルが上がりました』
(あっ、やばい。このタイミングで……)
『スキルを取得しました』
突然動きを止めた俺を、紗奈が困惑した表情で見つめている。
「サク……?どうしたの?」
そんな顔をしないでくれ、紗奈。
俺だって心の準備ができていなかったんだ。
:どうした?放送事故か?
:え?止まったぞ?
:サク、大丈夫か!?
『レベルが20に到達しました。進化条件達成。進化先が解放されました』
システムログが網膜に流れ込む。
「(み、皆さん、これはトラブルではありません。進化の前の……サ、サプラーイズ!アハハ……)」
苦し紛れの冗談を叩きつけるが、紗奈は「まさか……」といった表情を浮かべている。
ああ、紗奈。
その「まさか」だ。
『特殊個体:シーフインプを確認。進化先が決定しました』
意識が急速に遠のいていく。
俺は最後に「少しの間、よろしくね」と心の中で紗奈に告げると、そのまま心地よい闇へと沈んでいった。
『進化を開始します』
◇
:うお、やべぇ!本当に光り出した!
:モンスターの進化シーンを生配信で見るの、初めてだわ……
:おい、これなんていうモンスターに進化するんだ!?
:マジで分からん
:ちょっと人間に近づいた……というか、少年っぽくなった?
:シルエットは少年っぽいだけど、身体から黒いモワモワした影が出てる人間なんておらんぞw
:翼がめちゃくちゃ大きくなったな!
:これはとんでもない神回になったぞ……!
:今までの誰かの配信で、進化シーンはあったかもしれないけど、未確認のモンスターの進化シーンなんてなかったと思うぞ
「サク、起きて。サク!大丈夫!?」
紗奈の必死な声で、俺は目を覚ました。
まぶたを開けると、そこには心配そうに俺の顔を覗き込む紗奈の姿があった。
「(……ごめん、紗奈。どれくらい気を失ってた?)」
紗奈「……え?あ、サク、喋れるの!?……よかった。5分もないくらいだよ。おはよう、サク」
おはよう。
……なんだろうな。
その響きが、妙に胸に染みる。
俺はよろりと立ち上がった。
「サク、落ち着いて聞いてね。……今ね、配信の同時視聴者数が1万人を超えてるよ……」
紗奈が震える手でデバイスを指し示す。
「(うわっ、1万人!?そんな大人数に見られてたのか。……はは、すごいことになったな)」
立ち上がってみて、すぐに気づいた。
視線の高さが、今までよりも明らかに高くなっているのだ。
紗奈の身長よりはまだ低いが、それでも「成長した」という確かな実感が込み上げてくる。
まだ自分の姿を鏡で確認できてはいないが、身体を包んでいる感覚だけで変化が分かる。
ゆらゆらとした影で出来たような、幻想的な外套を羽織っている感覚。
頭にはしっかりと髪の毛が生えており、鼻から下を覆うようなフェイスマスクが生成されている。
手は、以前よりもさらに人間に近づいた。
指先を露出させたフィンガーレスのグローブを嵌めており、そこからのぞく爪は鋭いが、以前の化け物じみた長さではなく、実用的な武器として洗練されている。
「(紗奈、どうかな?自分じゃよく分からないんだけど)」
「……可愛い、っていうか、すごくカッコよくなったね!なんていうか、小学生の小さい男の子みたい。盗賊とか忍者みたいな感じに見えるよ!」
:サナちゃんの言ってること、分かるわw
:いや、でもまだ絶妙に可愛いのが残ってるな
:このシルエット、俺の胸に疼く何かが反応してるんだがw
紗奈が自分のデバイスを操作し、俺の写真を撮って見せてくれた。
画面に映っていたのは、黒を基調とした装備に身を包んだ、幼い暗殺者の姿だった。
なんだろう、これ。
早すぎた中二病に目覚めた小学生みたいになっている気がしなくもないが、俺個人としては、文句なしにカッコいいと思う。
というか、本当に人間そっくりだ。
まだ小さな角が残っているし、翼も健在だが、一見すれば「角と翼を持つ亜人の子供」にしか見えない。
羽は以前より大きく力強くなっており、これなら練習すれば空を飛べるのではないか、という期待すら抱かせてくれる。
俺は自分のステータスを確認する。
名前:サク 種族:シャドウスティーラー レベル:20
HP:107/107
MP:89/89
筋力:F(55)
耐久:F(52)
敏捷:C(200)
器用:F(89)
魔力:E(136)
運:E(107)
■スキル
透明化、盗む、気配遮断、ファイヤーボール、強奪、アナライズ、バックスタブ、エクスプロードボール、影潜り
(……敏捷値が200、ランクCに到達したな)
筋力や耐久も、ようやくGランクを抜けてFへと昇格している。
そして新スキル『影潜り』。
説明によれば、自身の身体を影の中に完全に隠すことができるらしい。
隠密特化の俺にとって、これ以上の贈り物はないだろう。
「(皆さん、驚かせてしまったでしょうか?俺の進化シーン、楽しんでいただけましたか!どうですか?カッコよくなったでしょう!)」
俺は新しい身体の軽さを確かめるように、カメラの前で軽快にステップを踏んでみせた。
:いいぞサク!めちゃくちゃカッコよくなった!
:いや、このゆるキャラ+ショタ感……刺さる人には刺さるやつだぞ
:今すぐ抱きしめたい
:おい、コメ欄に危険なやつが紛れ込んでるぞw
:前のインプ姿も良かったけど、こっちのスタイルも最高だな!
:ところで、種族は何になったんだ?
「サク、みんなが『種族は何になったの?』って聞いてるよ」
「(うーん、それはまたいつか、時が来たら話したいと思います!今は皆さんのご想像にお任せしますね)」
:想像なんてできねぇってw
:誰か、詳しい学者とかいないのか?
:レア、というか間違いなく特殊個体だよな
:さっきからコメントに英語が混ざってるんだが。世界中から注目されてるのか?
:そりゃそうだろ。こんな進化シーン、誰も見たことないんだから
:Currentのトレンドに『サナサクちゃんねる』と『特殊個体』が入ってるぞ!
:まだまだ視聴者が増え続けてるんだが……
「(さてさて、長らくお待たせしました。それでは攻略を再開したいと思います。新しい身体なので、少し動きを試しながらの探索になることをご了承ください。安全第一でいきます!)」
俺はカメラに向かって、ぺこりと頭を下げた。
:当たり前だろ!無理すんなよ!
:対応が人間すぎて草。着ぐるみの中身はおっさんだろw
:ゆっくりやってくれ!俺たちは見守ってるぞ!
「(では、2層に向けて……出発!GO!)」
◇
1層、ボスフロアへと続く巨大な扉の前。
ここまでの道中、相変わらず冒険者が多かったこともあり、大きな戦闘の見せ場は少なかった。
だが、遭遇した数体のゴブリンやスライムを相手に、俺は新しい身体の動きをテストした。
敏捷200の動きは今までとは別次元だった。
ドロップした素材は『シャドウインベントリ』へと放り込み、手に入れた魔石はその場でグレイとリリに食わせる。
そして、今。
目の前の広場には、1層の主であるゴブリンリーダーが、4体の配下を引き連れて俺たちを待ち構えていた。
「(皆さん。前回の配信では、このリーダーと煽り煽られの醜い争いをしてしまいましたね)」
:あのお口の悪さは最高だったw
:ゴブリンリーダーたちが可哀想になるくらいボコボコに言ってたもんな
「(ですが、今日は一味違います。俺は早く2層へ行きたいんです。なので……サクッと終わらせることにします)」
俺は一歩前へ踏み出した。
ゴブリンリーダーが、新しく現れた俺の姿を視認し、その下卑た口を開く。
「ギャギャギャ(……なんだお前、何をしに……)」
「(『エクスプロードボール』)」
俺の掌の上に、太陽のような輝きを持つ火球が作り出された。
それがメラメラと膨らんだかと思うと、リーダーが言葉を言い終わるよりも早く、音を置き去りにするかのようなスピードで射出された。
対峙する5体のモンスターの中心へと、吸い込まれるように。
――ドォォォォォンッ!!!
激しい爆光が洞窟内を白く染め上げ、鼓膜を震わせる轟音が響き渡った。
:火属性の中位スキル!?
:エグすぎる……何だ今の威力
:ここ1層だぞ!?5層までのモンスターでもあんなの耐えられないだろ
:サクッと終わらせるとは言ってたけど、まさか文字通り一撃とは……
爆炎が収まったとき、そこには焦げた地面が残っているだけだった。
モンスターの姿は影も形もなく、ただゴブリンリーダーが持っていた短剣と、4つの極小魔石が虚しく転がっている。
「……一撃で、全部倒しちゃった……」
カメラを回していた紗奈が、呆然とした声で呟く。
俺は短剣を拾い上げてインベントリに放り込むと、何事もなかったかのようにカメラに向かってピースサインを作った。
「(皆さん、お待たせしました!これで無事に2層へ行けますね。じゃあ、サクサク進んでいきましょう!)」
:誰も待ってねぇよw展開が早すぎる!
:秒殺じゃん。ボスが可哀想すぎるだろ
:最後の台詞を言い切る前に消滅したボスに涙が止まらないw
視聴者からのツッコミコメントが流れる中、俺たちは奥にある石造りの階段を下りていった。
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