サナサクちゃんねる!
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
池袋ダンジョン1層、湧き水付近の岩場の住処。
今日は紗奈がこちらに来る当日だ。
約束の時間まで、俺は岩陰に座り込み、インベントリから取り出した「戦利品」を前にして悦に浸っていた。
現在、手元にあるのは極小魔石が78個、小魔石(赤)が22個、そして2層ボスのフォレストベアからドロップした小魔石(青)が1個。
(……さて、こいつをどれだけ食えば、次のステップへ進めるかな?)
今の俺には、自分のレベルが正確にあとどれくらいの経験値で上がるのか、その詳細な数値までは見えない。
だが、これまでの感覚から推測はつく。
極小魔石1つから得られる経験値は、コボルトやベビーウルフを1体狩った時と同等。
小魔石(赤)はその2倍から3倍といったところだろう。
小魔石(青)に関しては、まだ一度も口にしたことがないため、今後の「お楽しみ」として取っておくことにした。
ゴブリンよりもコボルトから得られる魔素の方が質が高く、その1体分に相当する魔力結晶が78個もあるのだ。
これほど効率よく稼げたのは、3層のスケルトンたちのおかげと言っていい。
まさにスケルトン様々だ。
他のモンスターが一体どれくらいのペースで魔石を捕食しているのか、俺には知る由もない。
だが、このインプの小さな身体は、驚くほど効率的に魔素を吸収していく。
どれだけ詰め込んでも、まるで底なし沼のように無限に食える気がしてくるのだ。
確認している限り、ダンジョンの1層から3層に生息するモンスターは、2体以上の群れで行動していることが多く、単独で徘徊する個体は稀だ。
以前、モンスター同士が魔石を巡って小競り合いをしている場面を隠れて観察したことがあるが、彼らは決して獲物を分け合ったりはしなかった。
力のある者が奪い、早い者勝ちで食い尽くす。
そんな弱肉強食の環境では、成長を遂げるのは至難の業だろう。
『アナライズ』で群れを観察すれば、同じ種族でもレベルにはプラスマイナス1程度の個体差があることが分かる。
だが、不思議なことにフロアボスのレベルは常に一定だ。
おそらく、ボス級のモンスターは周囲の魔石を捕食する習慣がなく、ただそこに鎮座し、冒険者に倒されるために存在しているからなのだろう。
そう考えると、ダンジョン内の生態系という枠組みを無視して、魔石をボリボリと貪りながらレベルを上げ続ける俺という存在は、この世界において明らかに「異常」なのだ。
(……美味いな。やっぱり、自分自身の力になる感覚は悪くない)
俺は岩場に背を預け、極小魔石を口に放り込んだ。
ボリボリと硬質な音を立てて砕ける結晶。
口内に広がる甘い魔素の奔流。
俺はネット掲示板で「モンスターと魔石の関係」についての考察サイトを流し読みしながら、ひたすらに魔石を頬張り続けた。
気づけば、78個あった極小魔石はすべて俺の腹の中に収まっていた。
身体の奥から熱い拍動が伝わってくる。
『レベルが上がりました』
(よし、これでレベル19 だ。進化まであと1歩……!)
レベルアップの余韻に浸りながら、俺は続けて小魔石(赤)に手を伸ばす。
紗奈に渡すための換金用素材も計算済みだ。
今回の売却額は、おそらく過去最高になるだろう。
「24時間戦えますか?」と誰かに尋ねられたら、俺は自信を持って「余裕です」と答えられるほど、この数日間を狩りに捧げてきたのだから。
しかし、ふと冷静になる。
いきなり駆け出しの冒険者が、これほどの量の魔石や素材をギルドに持ち込んだら、流石に怪しまれるのではないか。
紗奈の立場を悪くするわけにはいかない。
そこは彼女に上手く立ち回ってもらい、小分けにして処分してもらうしかないだろう。
そんな思案を巡らせていると、岩場の向こうから聞き慣れた軽やかな足音が聞こえてきた。
紗奈「サク!いる!?サク―!」
「(こっちだぞ。おいで!)」
俺の声に応えるように、岩場に紗奈が姿を現した。
◇
「またまたサプラーイズ!はい、これ!」
再会一番、紗奈は抱えていた大きな布袋を俺に手渡した。
俺は袋を受け取ると、尻尾をパタパタと揺らしながら中身を覗き込む。
そこには、重みのある水筒と、丁寧にラップで包まれた大量のおにぎり、そして大好きな唐揚げが入っていた。
「(……!紗奈!ありがとう!!)」
俺はおにぎりを1つ手に取り、その温かさに頬ずりをした。
前回の配信で俺が涙を流して食べたいと言っていたのを見て、彼女なりに考えてくれたのだろう。
「それ、全部私の手作りだからね!ちゃんと味わって食べるんだよ。それと、その水筒にはお味噌汁も入ってるから。……あ、具は入ってないんだけどね。アーカイブを見て作ったの」
紗奈ぁ……。
君はなんて気が利く子なんだ。
「(……グスン……本当に、ありがとう)」
感情が溢れ出し、俺は思わず紗奈の膝元に飛び込んで抱きついた。
今の俺は誰かに見られたらただの「甘えん坊の使い魔」だ。
「よしよし、頑張ったねサク。お腹空いてたんでしょ?ゆっくり食べていいからね」
紗奈が優しく俺の頭を撫でてくれる。
その手の温もりが、気持ちよかった。
傍らでは、紗奈のテイムモンスターであるベビーウルフのグレイが、俺たちの様子を黙って見守っていた。
俺はしばらくの間、紗奈の温もりを感じていた。
……が、ふと我に返り、気恥ずかしくなってパッと身を離す。
俺は咳払いをする代わりに、シャドウインベントリから溜め込んだ素材をドサドサと岩場に並べ始めた。
魔石、牙、皮、そして武器の数々。
その山の中から、俺はある 1 つのアイテムを選び取り、紗奈の手のひらに載せた。
それは、1層のボスであるゴブリンリーダーが稀に落とすレアドロップ、『ゴブリンリーダーリング』だ。
「(紗奈、これあげる。売らずに、自分に装備してくれ。効果はきっと役に立つはずだから)」
俺が事前にネットで調べた情報によれば、この指輪には『HP+10』『耐久値+10』という補正がある。
レベル100を目指す者からすれば微々たるものかもしれないが、レベル5前後の駆け出し冒険者にとって、この10という数字は「死」の淵から生還するための決定的な差になる。
「サク、ありがとう。……レアドロップだよね、これ。本当に私がもらっちゃっていいの?」
「(ああ。紗奈が安全に攻略できるのが、俺にとって一番の安心なんだ。お守りだと思って持っててくれ)」
「……うん。大事にするね!」
紗奈は愛おしそうに指輪を眺めると、右手の薬指にそれを嵌めた。
華奢な彼女の指に、無骨な銀の指輪が光る。
俺は、その指輪が少しでも彼女をダンジョン脅威から守ってくれるよう、心の底から祈りを込めた。
◇
落ち着きを取り戻した俺たちは、岩場に肩を並べて座り、今後の活動について話し合った。
紗奈はデバイスを取り出し、興奮気味に画面を見せてくれる。
「サク、見て!アーカイブの再生数がすごい勢いで伸びてるよ。チャンネル登録者数も、ついに1万人を超えたんだから!」
画面を覗き込むと、ネット上での反響がまとめられていた。
「謎のモンスターが攻略実況」「まるで人間!?面白モンスターの冒険者チャンネル」……。
どうやら、俺のあの泣きながら米が食いたいという姿と、戦闘スキルのギャップが視聴者の心を掴んだらしい。
「(まだ 1 回しか配信してないのに、1万人か……。次も生配信がいいのかな?それとも、編集した動画を上げるべきか?)」
「うーん……そうだね。基本は生配信でライブ感を出して、後でこちらで切り抜き動画を作るのがいいと思う!サクは配信を意識しすぎず、自分のペースで攻略を進めていいから。あ、今のステータスはどうなってる?」
「(レベルが 1 9 に上がったよ。今のペースなら、あと数日……いや、もしかしたら今日中にも20になるんじゃないかな)」
「ええっ、早い!私だってまだレベル5なのに……。サク、もしかして寝ないで狩り続けてたの?」
「(はは、まあね。人間に比べてモンスターはレベルアップの効率が良いからね)」
人間は戦闘経験値の100%を自分だけで受け取れるが、テイマーや召喚士はジョブの特性上、経験値取得率が下がるが、テイムモンスターや召喚獣たちも成長出来る仕組みになっている。
まあこれはパーティを組んだり、複数人で戦闘すれば分配されるシステムと同じようなものだ。
その代わり、俺と同じように「魔石」を直接食べさせることで、経験値が入り、モンスター側のレベルを引き上げることが可能だ。
「レベル20ってことは、もうすぐ進化だよね?」
「(たぶんね。……ただ、戦闘中に進化することだけは避けたいよな。シーフインプになった時は、意識を失ったもんな。敵の目の前でそうなったら、流石に笑えない)」
「じゃあ、私がカメラマンとしてついていこうか?何かあった時に守ってあげられるし……」
「(それは駄目だ。紗奈はまだレベル5だろ?3層の推奨レベルには全然足りない。危険すぎるよ)」
「うーん……でも、 2 層までならなんとかついて行けるよ。グレイもいるし!フロアボスを討伐して3層に入る手前で、私たちが 1 層に引き返すって形ならどうかな?」
紗奈の提案に、俺は少し考える。
確かに2層までの道中なら、俺が先行して敵を排除すれば安全は確保できる。
だが、万が一の奇襲が心配だ。
……いや、俺は少し彼女に対して過保護になりすぎているのかもしれない。
俺は隣に座るグレイに目を向け、今の実力を測るために『アナライズ』を飛ばした。
名前:グレイ 種族:ベビーウルフ レベル:6
HP:32/32
MP:14/14
筋力:G (24)
耐久:G (21)
敏捷:F (82)
器用:G (28)
魔力:G (11)
運 :G (15)
■スキル
嗅覚強化、気配察知
「(……グレイのステータス、見させてもらったけど。やっぱり正直、心配だよ。 2層のフォレストウルフ相手だと、かなり厳しい戦いになる)」
「大丈夫!テイマーにはステータスを一時的に強化するスキルがあるんだから。じゃなきゃ、1層のゴブリンリーダーだって倒せなかったよ。それに、私にはもう1人、心強い仲間がいるの。……リリ、おいで!」
紗奈が左腕に嵌めていたブレスレットに手をかざすと、眩い光と共に小さな光の粒が集まっていく。
そこに現れたのは、掌サイズの妖精だった。
名前:リリ 種族:フェアリー レベル:5
HP:26/26
MP:36/36
筋力:G (10)
耐久:G (10)
敏捷:F (65)
器用:F (52)
魔力:F (71)
運 :G (39)
■スキル
ヒール、ウインドアロー
「(おお、フェアリーか!回復と魔法に長けた種族だな。これは心強い)」
「えへへ、すごいでしょ?前衛のグレイと後衛のリリがいるから、今のところはなんとかやっていけてるんだ。……まあ、流石に2層のボスはまだ厳しいんだけどね」
「(紗奈、魔石はちゃんとこいつらにあげられているのか?)」
「うーん……。自分たちで攻略できる範囲だと、なかなか魔石も集まらないし。売って装備を整える分も必要だから、いっぱい食べさせてあげるのは難しいかな」
やはり駆け出し冒険者の財布事情は厳しい。
装備の新調やメンテナンス、消耗品の購入、生活費……。
魔石をレベル上げに回す余裕がないのは当然だろう。
「(……ほら、これを使って。少しでも、これからの攻略が安全になるようにね)」
俺はインベントリから小魔石(赤)を10個取り出し、紗奈に渡した。
「えっ!ダメだよ、こんなにもらえない!サクだってレベル上げに必要でしょ!?」
「(気にするなよ。俺は24時間いつでも集められるし、 3層に行けばスケルトンたちが腐るほどいるんだ。 10個くらい、すぐに取り返せるさ)」
俺が強引に納得させると、紗奈は「ありがとう、本当にありがとう」と何度も口にしながら、グレイとリリに魔石を与えた。
2体は嬉しそうに、カリッ、カリッと小気味良い音を立てて魔石を完食する。
「うわあ!サク、 2人ともレベルが1つずつ上がったよ!」
「(それは良かった。……グレイ、リリ。紗奈のことは頼んだぞ。敵が来たら俺が全部叩き伏せるが、お前たちは何があってもいいように、彼女を全力で守ってやってくれ)」
俺が声をかけると、グレイは力強く低く吠え、リリは羽をキラキラと輝かせて頷いた。
紗奈は俺のデバイスを預かり、撮影モードの準備を始める。
「(よし、準備はいいか?池袋ダンジョン2層への「サナサクちゃんねる」初共同攻略ライブ配信、スタートだ!)」
◇
池袋ダンジョン 1 層、エントランス付近。
俺は周囲の視線を気にすることなく、デバイスのカメラに向かって飛び出した。
「(はいどうも!『サナサクちゃんねる』のサクです!視聴者の皆さんにリアルタイムで姿を見せるのは、これが初めてだよね!どう?俺、可愛いでしょ!?)」
俺は3倍増しのテンションで声を張り上げ、カメラの前で華麗に1回転してポーズを決める。
:おお、はじまったぞ
:サクちゃん!?
:こんな姿だったのか
:マジで見たことないんだけど種族は?
:なんて言ってるかわからないんだけど可愛いというのはわかった
「おぉ……すごい……あ、えっと、通訳しますね!」
:誰?
:へ?
:お、飼い主か?
:テイマーか!仲間!
カメラを構える紗奈は、オドオドとした様子で通訳を始めた。
「(お、通訳ありがとうございます。今聞こえた可愛い声の主は、サナサクの相棒……サナちゃんです!)」
:やっぱり!
:このモンスターどこでテイムしたの?
:サナ!顔見せて!!
「えっ!?ちょ、紹介されるなんて聞いてないよ!?」
紗奈がカメラの影で顔を真っ赤にして焦り出す。
「(ほら、紗奈、ちゃんと自己紹介して! )」
俺は、自分にカメラを向けろとジェスチャーする。
「え、え?? は、はは、はじめまして……。サナサクちゃんねるの、さ、さ、サナです。……よ、よろしくお願いしましゅ!!いてっ!」
:噛んだな
:ドジっ子か
:なんでモンスターのほうがしっかりしてるんだよ
:¥500|ピィ
痛そうな音がしたのでポーション代の足しにして
:草
ゴンッと音をさせてデバイスに頭をぶつける紗奈。
あちゃー、噛んじゃったよ。
……でも、それがまた可愛い。
カメラを前にするとガチガチになってしまう彼女を、俺は微笑ましく見守る。
紗奈はパッとデバイスを俺の方へ向け直した。
「(今日はサナのテイムモンスターのグレイとリリも一緒に、みんなで2層の攻略に挑戦します!……それでは、レッツ、ゴー!)」
「ゴ、ゴー!」
こうして、俺と紗奈、そして仲間たちによる、初めての共同配信攻略が幕を開けた。
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よろしくお願いいたします。




